14・婚活相手が分からない。に。
「そのようなご提案でしたら貴族街にてあちらこちらのお店を見て回るというのはどうでしょうか」
キアラの提案に、アルヴァトロは僅かに眉を顰めた……気がした。王妃殿下の部屋付き侍女で王妃殿下の常に浮かべられている微笑みの中で、怒りや悲しみ。喜びや楽しみなどを感じ取ることを無意識に行うキアラだから、その一瞬の表情の差に気づいたのかもしれない。
アルヴァトロが何か言う前にキアラは言う。
「別のことでも大丈夫です。ただ何も考えていませんでしたので咄嗟にそれが思い浮かんだものですから。アルヴァトロさんはどのようなことをしたいのですか」
今度こそアルヴァトロは表情を驚きに変えた。
「なぜ……私を責めることなくそのように仰ったのか伺ってもよろしいですか」
それから静かにそんなことを問いかける。キアラは少し首を傾げて。
「一瞬だけ眉を顰められたのであまりウィンドウショッピングはお好きでは無いのか、と」
当然のことのように口にしたキアラをアルヴァトロはマジマジと見てしまう。
「私が表情を変えたことが分かった、と」
「ええ。侍女の職務上、仕える方の動向に気付く癖が付いているのでしょう」
無意識に表情の機微を確認してしまうのは最早職業病だろう。
「私の知る限り侍女仕事をしている方でも私の表情の違いに気付く方は居ませんでしたが」
アルヴァトロがそう言っても気づいたから気づいた、としか言えずキアラも困惑してしまう。少し互いの様子を窺うようにチラチラと互いの表情を見てから。アルヴァトロは気持ちを切り替えるように一つ息を吐き出した。
「失礼しました。あなたがそのように気を配って下さったことに感謝します。ですが私から言い出したことですので、キアラ嬢の提案通りウィンドウショッピングに出かけましょう」
スッと肘を折り曲げ差し出すアルヴァトロにキアラは戸惑う。先ず、急に気持ちを切り替えたようにそんなことを言われて戸惑い、婚約者が居たとはいえ、何年も婚約者らしいことをされてこなかったことから、本来貴族同士の男女ではこのようにエスコートをされることすら、すっかり忘れていたためにエスコートを受けることに戸惑った。
つまり二重の意味で戸惑ったキアラは少しばかり悩む。この腕に手を置く、或いは腕を組むのが正しいエスコートではあるけれども婚約者でも恋人でもない関係でそれをしても良いのだろうか、と。
「どう、されました?」
アルヴァトロもキアラの困惑を感じ取ったように戸惑いつつ声をかける。
「いえ。名ばかりの婚約者からこのようにエスコートを受けて出かけることも無かったので、エスコートを受けることを忘れておりました。また、思い出したものの正式な婚約者でも恋人でも無いのにエスコートをお受けしてもよろしいものか、と」
キアラの正直な気持ちにアルヴァトロはまたも目を見開き。……それからコホンと咳払いをしてから再度自分の腕を差し出しつつ告げる。
「曲がりなりにも貴族出身ですし、キアラ嬢も貴族出身でしょう。互いに培われてきた土台というものがありますよね。この場合、エスコートを受けることが淑女としての正しい姿か、と。私とキアラ嬢は婚約をしていないですが、その可能性も視野に入れた関係性でしょう。それがシスティアーナ様が仰っておられた婚活というものだと思われます」
アルヴァトロに指摘されてキアラもなるほど、と頷く。確かにターナ様の仰る婚活というのは、結婚を前提とした関係性を築くための男女の出会いの場というもの。ターナ様は貴族も平民も関係なくそのような出会いを求める男女を紹介することが仕事だとのこと。
キアラとアルヴァトロもそのようにして紹介されたのだから、エスコートを受けるのは確かに正しい姿のように思う。
そうしてキアラはアルヴァトロのエスコートを受けて貴族街へと出掛けた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




