13・婚活相手が分からない。いち。
十二日目。騎士団に近い門の前。
キアラは一応少しでも雀斑が薄くなるように化粧を施していた。前世持ちと呼ばれる人たちの記憶を元にした化粧品は下地のクリームにファンデーションにチークにアイブローとか口紅とか様々にあるので自分の肌に近い色味の下地クリームとファンデーションで雀斑を薄くしてみている。
それでも、幼馴染だったマルトルには雀斑が知られていたから薄くしていることも意味が無かったようで。初めて化粧をしたキアラを見て失笑されたことを今になって思い出した。……人が気にして努力して綺麗になろうと頑張った結果を失笑するような男と結婚しなくて良かったのかも、しれない。
侍女のお仕着せはさすがに無いけれど(尚、本日は休みでは無かったけれど上司である侍女長に伝えたら他の人と調整出来れば休みにして良い、と言われ。結果的に二日前にあった休日と本日休みの同僚との交代が整ったので)ここ数年、自分のためのオシャレなどしていなかったキアラは少々流行遅れのワンピースを着ていた。
数年前、襟付きのワンピースが流行っていたが今の流行りはウエストを太めのリボンで締める型が流行している。
侍女としてその辺の情報は仕入れていたけれど、休日に王城の外を出ることもなく、大体は部屋の掃除と読書や手紙の返信や侍女仕事の振り返りなどをしていて休日が終わっていたので、貴族街にて服を買うとかアクセサリーを買うとか髪飾りを買うとか化粧品を買うとか、そういったことはこの数年皆無だったため、急な異性との逢瀬にアタフタして着て行く服を検討したものの、結果は型遅れのワンピースしか無かった、という残念なものになっていた。
ちょっと王妃殿下の部屋付き侍女としては、流行遅れの型であるワンピースというのは拙くないだろうか……とキアラはちょっと凹んだ。
近いうちに流行モノの服や髪飾りを買いに行くことにしよう。
そんなことを考えているうちに、耳触りの良い低い声が彼女の名前を呼んだ。
「キアラ嬢」
「あ、アルヴァトロさん。こんにちは」
ごきげんよう、とか気取った挨拶よりもこちらの挨拶の方がキアラとしてはしっくり来るので、笑顔で挨拶をする。
アルヴァトロはちょっと驚いたような表情と綺麗な緑の目を丸くしてキアラを見た。騎士服では無かったけれど、長身の彼に似合う白い襟の大きなシャツは清潔感に溢れ、黒の細身のスラックスはアルヴァトロの筋肉質な足によく合っている。シャツのボタンを一つだけ開けて首元のチェーン型シルバーネックレスがチラリと見えて、アルヴァトロはオシャレな人なのかもしれない、とキアラは思う。
「よくお似合いですね」
自分に似合う服を知っていて着こなせているのは凄いな、と感心したキアラは素直にアルヴァトロに告げたが、アルヴァトロはまた驚いたような表情をしてからちょっと考えるように首を傾けて。
「ありがとうございます。キアラ嬢も似合っていますね」
と褒め返してきた。型遅れとはいえ、自分に似合うワンピースとして買ったものなのでそう言われるのは嬉しい。
「ありがとうございます。ここ数年新しい服を買っていなかったので型遅れのワンピースですけれど、自分でも買う時に自分に似合うのか吟味して買ったワンピースなので、褒めてもらえて嬉しいです」
ちょっと照れ笑いを浮かべつつキアラは礼を述べてアルヴァトロに尋ねた。
「それで本日はどうしましょうか」
「キアラ嬢の行きたいところに行きましょう」
速攻でそんな返事。キアラはそう返されるとは思っていなかったので、行きたい所……と考える。ちょっと情報を仕入れるだけで実際に目にしていなかった流行している物を見る、ウィンドウショッピングをしてみるか、と思いついた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




