11・婚活相手とデート?に。
四阿で向かい合って座る二人。
キアラは何を話そうか少し考える。差し障りの無いことだと好きな食べ物とか? 好きな花とか?
「キアラ嬢」
「はい」
キアラが考える間にアルヴァトロが声をかけてきたので返事をする。
「あなたは侍女でしたね」
「はい」
「どなたかに付いていらっしゃるのですか」
「王妃殿下の部屋付きです」
この辺りは話しても大丈夫だが、王妃殿下の日常や職務内容に好む物などを尋ねられたら、答えられない部分であるためお断りしよう、と警戒しながらアルヴァトロの出方を見るキアラ。
「部屋付きということは給金はかなり良いのでしたか」
いきなりお金の話になりキアラはなんと答えればいいのか迷いつつ、一般の侍女(誰かに付いていない或いは騎士団付きの侍女)よりは、もらえる給金は良いと頷く。
「では、ご自分のために使えるお金がある」
……本当に先程からお金の話ばかりで、キアラは訝る。初対面なのにこんなにもお金の話をしてくることはおかしいのではないか、と。失礼なことではないのか。それとも結婚を前提にした付き合いになるから必要とでもいうことなのだろうか。
アルヴァトロの真意が見えぬまま、会話の意図を知るために自分のために使えるお金はあります、と答えた。
「それは例えば、流行モノを手にしないと気が済まない、とか。着飾るためには多少の労苦は惜しまない、とか」
……本当に会話の意図が読めなくてキアラは口篭りながら考える。流行しているモノが何か、というのは侍女の仕事としても女性としても知っておきたい知識だけれど、手にしないと気が済まないと思ったことはない。
着飾ることが嫌いなわけではないし、そのために労苦があるならば惜しまないかもしれないが、何をもって労苦というのか不明だから、惜しまないほどの労苦がキアラの基準で言っていいものかどうかも分からず黙り込む。
どう答えようか答え倦ねているけれどもアルヴァトロは黙ったまま。言葉を繋ぐ必要がありそうだ、とキアラは口を開く。
「知識として流行モノは知っておく必要があります。特に部屋付きの侍女という職務柄。そういう意味では手に入るモノは手に入れておいた方が良いと判断することも有るかもしれないです」
「ふむ。あくまでも職務上において必要だ、と」
アルヴァトロの緑の目が静かにキアラを見る。その目も発する声も何故かキアラを観察しているようでやっぱり居心地が悪い。
「いえ、職務だけではなく私個人としても必要ならば購入することも有りましょう。特に私は菓子に目がありませんので流行の菓子は自分への褒美に購入します」
それでも、アルヴァトロが気にしていることでキアラが話しても大丈夫そうなことを尋ねられているので、それに答えることで変化が起こるというのであれば、とキアラは答えた。
「菓子、ですか」
少しだけ意外なことを聞いた、とでもいうように首を傾けてアルヴァトロの緑の目が揺れる。風に吹かれてオレンジ色の髪もサラリと揺れた。そんなわけはないはずなのに、その色味のせいか柑橘系の香りが届いたような気もする。
「はい。甘い菓子も甘さが控えられた菓子も流行していると聞くや、次の給金を頂いたら購入しましょう、と決めております」
ちょっと熱意を込めて語って、途端に恥ずかしくなって俯く。けれど揶揄われることもなかったのでキアラは安心して視線をアルヴァトロから庭園へと向けた。アルヴァトロからの質問が無くなったことで沈黙が四阿内を満たす。
私も何か尋ねてみるべきかしら、とキアラは思案しながらも庭園から視線を逸らさないでいた。
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