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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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9/19

移ろい



「・・・んぁ?」



目を覚ますと、ホコリが舞う建設途中の一室で血溜まりの中に寝転んでいた。

どういう状況か分からなかったので上体を起こして周囲を確認しようとすると、ズキッと体が痛んだので諦める。



【・・・起きたのなら起きんか。】



すると横から声をかけられてそちらに頭だけ向けるとぺたんと地面に座ったヨルがいた。


どうしたん?やけに可愛らしく座ってるね。



【主よ、主は半不死身であって不死身ではない。今の落下は下手したら命を落としていたぞ?】


「・・・まじで?」


【当たり前じゃ、全身ぐちゃぐちゃだったのだぞ。くっついておったからよかったが飛び散っていたら終わりじゃった。】



あ、そんなギリギリだったんだ。

よかったー、死ななくて。


対して未練がないとはいえ死にたくはないからね。


俺はチラリとヨルを見て気になることを聞いた。



「なぁ、ちなみに俺が死んだらお前はどうなるんだ?」


【・・・前も言ったじゃろ。儂も死ぬ。】



俺は真っ直ぐ見つめて伝えられた言葉をにへらと笑って流した。



「ま、真偽はともかく今は納得しといてやるよ。」


【・・・。】



俺は赤く塗れた地面に手をついて体を起こす。

痛む腕を振りながらさらに遠くなってしまった空の光を見上げた。



「鎖搦めは喰ったんだろ? もう脱出できるのか?」


【うむ、もうこの建物を縛る存在はおらん。つるされた人々も解放されたはずだ。】



・・・?解放されたってどういうこと?


つまりあの鎖から解き放たれたのかな。いやそれってまずくない?結構上の階だったし落ちたら普通に死ぬよ?



【この建物は異界化していたのじゃ、いや、怪異の縄張りは基本異界化しとるのじゃが、そこが閉じられれば中にいた異物はその場に残される。】


「え、だからそのままじゃん。」


【むぅ、なんと言えば良いかの。異界というのは消える時集約されて消えるのじゃ。儂らのように人か怪異か、あやふやな存在ならともかく普通の人であるならば一箇所に集められて目を覚ますはずじゃ。】



・・・へぇ? じゃあもしかしたらすでに外で目を覚ましているのかもしれないね。どこで目を覚ましたから知らないけど解放されたんだったらこんな場所にいたくないだろ。


でもそれならわざわざ探したり解放させたりしなくてもよさそうだ。


俺は手を膝について立ち上がった。



「んじゃいい加減帰ろうぜ。琴音さんも待ってるだろうし何より疲れた。」


【・・・主はそれで良いのか?】



ヨルは何処か不安げな目を向けてくる。

俺はそんな様子のヨルに吹き出しそうになった。


なんでそんなに申し訳なさそうなんだよ。

鬼じゃないのか?



「いいだろ別に、見捨てられたわけでもないしな。それよりあの人数を助けたとか俺すごくね? 今日は枕高くして寝れそうだよ。」



俺はルンルンで鉄扉に向かっていく。

もう日も落ちちゃったしね。


・・・あれ?と言うか琴音さんに連絡してなくない? あっはー、冷や汗出てきた。


俺が焦りから早歩きになって取っ手をガチャガチャ回すが鍵が開かない。おかしいなと思って鍵を見るとポッキリ折れていた、、、どうすんのこれ。


首を傾げていると、横から小さな手が伸びて鉄扉を吹き飛ばした。放った黒霧を腕に戻しながら、ヨルは先に外に出る。



【・・・わからん、主は全くわからん。心を読めても理解ができなんだ。】


「そうか?悠とか胡桃先輩には分かり易すぎるってよく言われるけどね。」



何言ってんだと肩をすくめながらヨルの後を追う。街頭に照らされた夜道を欠伸しながら歩いていると、前を歩いていたヨルが振り向いた。



【悪くはないがな、掴みどころはないが、どこか馴染みやい。】


「・・・褒めてんのかそれ?」


【一応な。】



一応なんだ。

てかそんな事より割と急いだほうがいい気がする。


よくわからないヨルより不安定な琴音さんが気になった俺はすぐに帰路についたのだった。




ーーー




「わぁ、鎖搦めをあんな短時間で対処できるんだー。」



隣のビルの屋上、そこから見下ろす2人の人影があった。


1人は金髪ショートの小動物っぽいあざとい系の少女。着崩したブレザーの制服を着てニコニコ笑っている。


彼女の弾むような声音に隣の男性、、、



「な?面白そうだろ。」



灰円はタバコを吹かしながら面白そうな笑みを浮かべた。



「鎖搦めをどうにかするには先ず、外から存在を縛っている鎖を切断してー、土地から吸い取ってる霊力の供給を止めてー、2日ほど清めの儀を行ってから呪払いが得意な術師が弱らせてから破位で祓う、、、でしたっけ?」


「相性のいい継承術がなければそれが正規手段だな。」


「・・・それを無視してゴリ押しの喰い合いですかー。勝てる夜暮姫もヤバいですけど、鎖搦めの攻撃に耐えきって隙を作ったあの男の人も異常です。」


「なー、どっか狂ってるよなあいつ。俺の最近できたお気に入り。」



本当に面白そうな目を向けている灰円に少女はあきれたようにため息をついた。



「それで? 私にあの2人を見せた理由は何ですか、灰円先生?」


「それとなーくあの2人をフォローしてもらいたくてな。多分だけどそろそろ道天山の連中が仕掛けてくる。夜暮姫は怪異に詳しくても術師にはそこまで興味はないだろうからな。」



灰円がそう言うと少女は「確かにねー。」と顎に手を当てて億劫そうに顔を歪める。

それを見て灰円は報酬とばかりにカフェのコーヒー無料券を手渡した。



「やっすいなー、いいけどね。ちなみに接触は?」


「好きにしろ、道天山の連中にバレなければ構わねぇ。」


「えー、むっずかしいなー。」



少女は困ったように両手を頬に当てて、どうしようか悩み出す。その様子に今度は灰円が呆れた。



「お前さんなら余裕でしょうが、『影渡り』の狛那様?」



そう呼ばれた少女は不快げに眉をしかめてジロリと灰円を睨みつけた。



「その名前、私あまり好きじゃないって言ったよねー? ハナって呼べ。」


「こっわ、てかそれ可愛いか?」


「私がかわいいから万事OKじゃない?」



言いながらハナは頬に指を当ててあざとく微笑む。

灰円は興味無さげに「そーだなー。」と流して足をタンッと踏み鳴らした。


すると煙が立ち込め2人を包みこんで2人は姿を消す。煙は風に流れてすぐにその場には誰もいなくなった。


湊達を渦巻く環境は恐ろしい速度で変わっていく。

本人たちの知らないままに、、、




ーーー




「た、ただいまー。」



家に帰ってそーっとドアを開ける。

外から明かりがついていたことは分かっていたので寝てはいなそうだけど大分放ったらかしにしてしまった。



居間のドアを開けてそーっと覗くと、、、



「すーっ。」



テーブルに突っ伏して寝てる琴音さんがいた。

俺はその様子にホッと息を漏らす。


よ、よかったー。これで寂しそうに座ってる琴音さんがいたら罪悪感で吐きそうだったからね。


でもテーブルに置かれた美味しそうなご飯がサランラップされて冷たくなっているのを見ると心が痛い。

とりあえずパジャマに着替えてはいるからお風呂には入ったみたいだね。



「・・・これ、琴音さんも食べてなくない?」


【3人分用意されて3人分余っておるからの。食べておらんじゃろうな。】



グサッ、おっと?なんか刺さったぞ。


風邪ひきそうなので毛布を持ってきて彼女に被せる。

移動させると起きちゃいそうだし、疲れてるなら休ませておいてあげたい。


飯でも食わせてもらおうかと料理を持ってチンしようとしたら、クイッとヨルに袖を引かれた。



【主よ、琴音の事を考えすぎて忘れておるようじゃが先に湯浴み済ませたほうが良いぞ。】



言われて今の状態を確認すると、足の部分の服はなく、足は裸足で汚れている。服は血まみれのボロボロで満身創痍の様相をしていた。



「・・・俺こんな状態で帰ってきたの?」


【うむ、他の人に見られなくてよかったのぉ。】



確かに通報待ったナシだったね。

俺はすぐにお風呂に入って部屋着に着替える。


予備の制服を取り出してこれから2着を着回さないとなーと考えながら一つ忘れていたことがあった。



「・・・え、靴はさすがに予備ねぇぞ。」



明方の靴は学校指定の物があるため学校が案内を出している靴屋で買わないとならない。

もう靴屋は閉まってるしどうするかな、片足で行くか?片足サンダルで行ってみるか?


血迷った事を考え始めているとピンポーンとインターホンがなる。

こんな夜に来るのは悠か? とりあえず部屋の中を見られるわけにはいかないので悠でも帰ってもらおうかとドアスコープを覗くと、、、誰も写っていなかった。



「・・・・・・・・・こわ。」



いつもだったら絶対無視するが、俺は恐る恐るドアを開けた。

するとそこには、一足の学校指定の靴が置いてあった。


持ち上げて眺めると靴のサイズはピッタリで、、、てかこれ俺のじゃん。


確かに鎖で巻き取られた時に足ごと斬り落としただけだから見つけようと思えば見つけられたと思うけど一体誰が?めちゃくちゃ怖いよ。


俺は考えることをやめて真顔で靴を並べて置いておいた。お風呂に入って汚れた足で歩いて汚くなった廊下を掃除する。


すると、「ふぁ?」と眠気眼をこすりながら体を起こす琴音さんと目が合った。



「悪い、起こしたか。」



言われた彼女は少しボーっとしたあと、はっと目を覚ました。



「ご、ごめんなさい!すぐにご飯温めますね!」


「いやいや!いいって自分でやるから、琴音さんはそのまま座っててよ。」



すぐに立ち上がろうとした琴音さんを止めて、俺は料理を持ってチンした。それを3人の前に置いて手を合わせた。



「悪いね、こんな時間まで待たせちゃって。」


「いえ、私も寝ちゃっててごめんなさい。」



グサッ、一つも謝る理由がない琴音さんに謝られてまた何か刺された気がした。


なんだろう、いつも通りの美味しい食事のはずなのにあまり味がしない気がする。


俺は気まずそうにチラッと琴音さんを見た。



「べ、別に、先に食べててもよかったんだよ?」


「そんな、せっかく一緒にいるのに別々で食べるのは、、、少しさみしいです。」



グサッ



【その刺さる様な表現やめてくれんか。儂も貫かれるような感覚がして不快じゃ。】



あ、そうなの、ごめんね?

気をつけるわ。



「そう言えばどちらにいらしてたのですか?確か高校はもう少し早くに終わりますよね、、、。あっ!あの決して責めてるとかではなく気になっただけで、、、。」



確かに高校が終わる時間は彼女に伝えてある。

なのにこんなに遅い時間になったのだから何してたかは気になるだろう。

そして本当に責める気がなくて純粋に気になっただけっぽい表情がさらに心に刺さる。



・・・ただなんて説明しよう。



怪異に襲われてましたなんて伝えれば彼女に余計な心配をかけてしまう。特に彼女は怪異によってすべてを狂わされた被害者だ。

だけど嘘を付くのもなぁ、、、。


俺がなんて説明しようか頭を悩ませていると、琴音さんは少し悲しそうに笑う。



「あの、別に大丈夫ですよ? 話せないこともありますでしょうし、隠し事をして欲しくないなんて事も言いませんから。」



ザクッ!



【効果音の問題ではないわ!】



心に斬り付けられたような痛みを感じた俺は仕方なく琴音さんに何があったかを伝えた。心配は掛けてしまうだろうけどこの純粋な彼女に嘘はできるだけつきたくない。


だけどやっぱり心配をかけてしまったようで、あたふたと泣きそうになっている。



「・・・本当に大丈夫でした?」


「大丈夫だって、ほら、見るからに元気そうでしょ?」



俺は手を閉じたり開いたりして元気だよーと伝えた。

それでもやっぱり不安は晴らせないが、でも彼女は優しそうに微笑んだ。



「・・・そうですね。元気ならよかったです。」



いろいろ何か言いたいことを押し殺したような笑顔、俺は心苦しさに耐えられなくてある提案をした。



「琴音さん、今度の日曜日どこか遊びに行こうか。まだ買い揃えたほうがいいものだってあるし息抜きもしたいでしょ?」


「そんな、悪いですよ。折角のお休みですし気を使わなくても、、、。」


「いや、もともと買いたい物があってさ、一人で行くのも何か心細いし付き合ってくれると助かるんだけど。」



琴音さんは遠慮がちな性格だし、最初の言い方だと断られる。だから買い物に付き合うじゃなくて付き合ってもらいたいって頼む形のほうが効果的だろう。


俺の言い方が功を奏したのか琴音さんは少し悩んだあとに頷いた。



「分かりました、ではよろしくお願いしますね。」



そう言って優しく微笑む。

ただ嬉しそうでどこか申し訳なさそうな雰囲気も感じるな。



「ふふ、また暮崎さんの優しさに甘えてしまってますね。」



・・・あ、完全にバレてるわこれ。



どこか気恥ずかしくなった俺はすぐにご飯を食べ終えて片付け始める。

琴音さんは微笑みながら一緒に並んで食器を洗うのを手伝ってくれた。


やべぇ、命を削った(文字通り)戦いをしたあとだからめちゃくちゃ癒される。灰円はメンタルケアで置いてってくれたのかな?



【おい、儂もおるじゃろ。】


「・・・料理できんの?」


【まどろっこしい事せずともそのまま食えばよかろう。】



二度と会話に入ってこないでほしい。

てかそもそも人間と鬼じゃ価値観が違うに決まってる。俺は生肉なんて食いたくないぞ。


でもヨルのおかげでふわふわしていた心が平常に戻ったので、疲れと合わせて今回はよく眠れた。

ここまで頑張らないと気持ちよく睡眠が取れないなんて最悪だけど、その睡眠は人生で一番充足感のある睡眠であった、、、。



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