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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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8/19

鎖搦め



「おかえりなさい!」


「ただいま!」



寄り道することなくすぐに帰宅した俺はすでに明かりのついた温かみのある我が部屋でとびきりの美人に迎えられた。

すり減った精神が癒されていくのを感じる、俺の謎のテンションの高さに驚いている琴音さんがめちゃくちゃ可愛い。


そんな琴音さんは謎にハイテンションな俺に引いたりせず、ニコッと笑って出迎えてくれた。



・・・あれかな、もう結婚するしかないんじゃない?



【弱みに付け込むとは、余程のクズじゃな。】


「いや待てよ、弱いのはどちらかと言うと俺だ。だからOK。」


【・・・理屈がわからん。】



うん俺もわからないから安心して。


とりあえずそんな冗談は置いておいて、何かしら家事をやろうかととりあえずお風呂場に向かう。

するとお風呂場はすでにピカピカで、部屋中軽く見渡したが非の打ち所がないほど完璧に掃除されていた。



「・・・琴音様?」


「はい!どうしました?」



琴音さんはルンルンで夕飯の準備を続けている。

てか何でそんなテンション高いの?めちゃくちゃ可愛いんだけど。



「全部掃除してくれたの?」


「はい!特にやることもなかったので片付けさせていただきました!・・・も、もしかしていけませんでした?」


「いやそんなことはないよ! でも琴音さんゆっくりしててもよかったんだよ?別に俺も手伝うし。」


「・・・でも、時間があると落ち着きませんし、動いていたほうが楽しいです。」



あ、そうなんだ。

そこまでいい笑顔でそんな事を言われてしまえば何も言えない。


別に彼女の生活費は俺じゃなくて灰円が払ってるし俺の方が居候みたいなんだけど、、、まぁいっか!


開き直って琴音さんの夕飯の用意を手伝う。

家のキッチンだし俺も詳しいから邪魔にはならないだろ。


そう思って手伝い出すと、琴音さんは一度驚いたあとまたご機嫌になった。

何が楽しいのか知らんが本人が満足げだしいいか、、、。


とりあえず用意してあった野菜を切ってからパックの鶏肉を取り出そうと手に持ったところで俺は首を傾げる。



「・・・あれ? 鶏肉なんて冷蔵庫にあったっけ?」


「あ、いえありませんでしたので少し買いに行かせていただきました。」



ーーぶっ! マジで?大丈夫だったのかな、絡まれたりしなかった?



「・・・ただお金は灰円様のですし使って良いのか悩みましたが、いずれ返せばよろしい、、、ですかね?」


「あぁいいよ気にしなくて、湯水の如く使ってくれ。」



だって代わりに怪異対応させられるんだからな。

それくらいは報酬として受け取っていいだろ。


まだ何もしてないけどね!


軽い下拵えだけして洗い物がでたら洗ったりしていたらいい匂いが漂ってきて夕飯が完成する。



テーブルに並べられて夕飯の時間になった。



「すげ、超本格的な親子丼じゃん。」


「卵は半熟にしてしまいましたけど大丈夫でした?」



丼の蓋を開けて箸でご飯を持ち上げると豊かな香りと湯気が立ち上る。一口食べるとしっかりとした出汁の味と鶏肉の甘みが広がった。



「うっま!」


【うむ!馳走じゃな!】



ホントは硬めのほうが好きなんだけどそんな事言ってられないくらい美味しい。もはや好みとか変わっちまいそうだ。


勢いは止まらずあっという間に食べ終えた。



「【ご馳走様】」


「ふふ、お粗末様です。そこまでおいしそうに食べてもらえるのは嬉しいですね。」



実際美味しいからね。

感動で涙が出そうだったもん。



・・・それからは、やることもないしチャチャッと風呂を済ませる。ちなみに今回も先に入ってもらったよ、でも二度同じ轍を踏む俺じゃない、対策はバッチリさ!



【それが儂の黒霧によるモザイクとはな、主ってやはりうつけじゃろう?】



仕方ないだろ!慣れるまでの涙ぐましい足掻きなんだよ!健全な青少年を舐めんじゃねぇ!!


心の中でヨルと言い合いながら俺は適当にコントローラーを取り出してゲームをつけた。


ま、疲れてるし癒され目的の牧場ゲームだけどね。

朝起きて牛と鶏の世話をしながら野菜をとって稼いで釣りして朝起きて牛と鶏の世話をしながら野菜をとって稼いで釣りして朝起きて牛と鶏の世話をしながら野菜をとって稼いで釣りして、、、



・・・おっと、頭おかしくなってきたぞ?



すると、ポスッと俺の隣に琴音さんが座った。

彼女は無言で画面を見つめている。



ーーカチャカチャカチャ



・・・気まずいんだけどぉ?



「テレビに戻そうか?」


「え、大丈夫ですよ。ただ何をしてるのか気になりましたので。」



何って、朝起きて牛と鶏の(以下略)


そういうのが言いたいわけじゃないだろうな。

彼女は名家のお嬢様(にしてはやけに家事ができるのが不思議)みたいだし、こういうテレビゲームとかには触れたことがないのかもね。


ちなみに牧場ゲームはストーリー性が結構作り込まれたりして面白いのも多い。今回は中古で安く買い叩かれてたマイナーゲームでそこまでだけどやってると結構ハマってくるんだよな。



「・・・やってみるか?」


「へ!? い、いえ大丈夫ですよ!ただ興味があっただけですしやり方も分からないですから!」


「別につまらなかったらやめればいいよ。難しいゲームじゃないからやりやすいと思う。」



俺はデータを新しく作り直してコントローラーを手渡す。琴音さんは最初、戸惑いながら画面の説明文と手元を交互に見ながらの拙い操作だったが、元の要領がいいからか、慣れてきたら普通に動かせるようになっていた。



「わっ、見てください。このカブ最高品質らしいですよ!」


「おぉ運がいいな。売ると高額だけど持っておくと後で交換とかできるから金に困ってなければ取っといてもいいぞ。」


「・・・なるほど、悩みどころですね。」



そう言って頭を悩ませる琴音さんの前にココアを置いておく。「ありがとうございます」と一言言って琴音さんはまた画面に戻った。


これはハマったかな?


俺は微笑ましい気持ちになりながら洗面所で歯を磨いて寝支度を整えた。

すると、琴音さんも慌ててセーブして寝支度を整え始める。



「別にやっててもいいんだぞ?」


「だ、だめですよ!暮崎さんは明日も早いのですし、私が遊んで寝不足など迷惑はかけられません。」



そう言って琴音さんは今日届いた布団を俺のベットの横に敷いて電気を消す。



・・・うん、布団の置き場がないから必然的に隣になっちゃうのは仕方ないとしてやっぱり健康(心)に悪いな。



豆電球の薄い明かりに照らされる中、ボーっと天井を眺めながら寝転がる。

天井にはヨルが張り付いていて普通に飛び起きそうになった。



・・・。



【なんじゃそんなに見つめて。】


次おなじ事やったら潰すぞ。



ヨルは存在を薄くしてるのか琴音さんに姿は見えていないらしい。まぁ見えてたら普通にビビるしね。


俺は心の中だけに集中しながらヨルと会話する。



(なぁ、眠くないんだけど?)


【昨日寝れたのは主の体力が著しく低下しておったからじゃ。本来儂らは食事さえ取れば不眠不休で活動し続けることができる。睡眠を取る時はエネルギー不足の時だけじゃ。】


(え、じゃあ俺もう眠れないの?)


【そんなことはないが主は元気が有り余っておるのに寝れるのか? 今は精神的に疲れてはおっても体力は対して減っておらんじゃろう。】



言われてみるとそれなりに大荷物を運ばせられたのに全く疲れた気がしない。くたびれてたけど全部精神的にだったのか。



【さてどうする?寝られぬのであれば夜の街にでも繰り出すか? 夜は怪異が活動的になり見つけやすいぞ。】


(なんで自分から怖い思いしにいかないといけないんだよ。)



心の中でそう返すとヨルは【ふむ】と顎に手を当てた。



【じゃが別にあの男が提示した以外にも怪異はおるぞ? あの表に記された怪異は一体祓えば確かに一目置かれる。だが中々に強力な連中ばかりじゃ。】


(・・・え、そうなの?)



俺が困惑しているとヨルはコクリと頷く。

その様子から冗談でもなく本気で言っているようだ。



【嘘つく理由もなかろう。】



まぁね。

つまり灰円は一体で実績になりうる怪異を上げてきたわけだ。

それだけ早くに俺に価値をつけたいのか?もしかして俺の想像よりも遥かに危険な立ち位置なのかもしれない。


だからって何かしようとかは思わないけどね。



【・・・呑気じゃのー。まぁよい、どうせ引き寄せ合う。】



・・・へ? そうなの?


最悪な情報なんだけど。

再び落ちた気分をどうしようか悩みながらなんとか寝付けないか目を閉じたりしてみたが全く寝れない。


でも寝たいなぁ。



(なぁヨル、黒霧で視界隠せない?)


【んなもの目隠しでもせぬか。】


(元々寝つきがいいタイプだからアイマスクとか持ってないんだよ。)



ヨルは【仕方ないのぉ】と黒霧を展開して俺の視界を覆ってくれた。

ぶっちゃけ眠くはないが、目を瞑って休めば少しでも気が紛れるだろ。


俺はそのまま目を閉じて、長い夜を過ごしたのだった。




ーーー



次の日、いつもの日常は急展開を迎えた、、、。



「・・・ここどこぉ。」


【誘い込まれたのぉ。】



俺とヨルは薄暗い鉄筋と鉄骨が剥き出しになっている建設途中のビルの中にいた。

俺は膝を抱えてシクシクし、ヨルは腕を組んで辺りを見回す。



【『鎖搦め』じゃな。友や、恋人、家族に仕事と人は幾つもの縁に縛られている。その縁に苦痛を感じ、身動きが取れなくなった者の念が集った怪異じゃ。】



へぇ、どうでもいっ!


俺は早速遭ってしまった災難に絶望しながら壁に頭を当ててズルズル倒れてく、結構頭痛いですね。



何でこんなことなってしまったのかと言うと、、、



まぁ何のことはない。

朝起きて美味しい朝食を食べて普通に学校で生活して悠と一緒に帰っている途中だった。


悠が途中でDVDを返しに行くと言って別れてから俺も帰ろうとした。

そしたら【ジャラッ】と鎖が擦れるような音がし、前から建設途中だったビルをつい見上げると、【ぎごえだ?】と不気味な声が耳に届いて鎖が体に巻き付きビルに引き摺り込まれたって感じ。



そして今に至る。



「変な音が聞こえたなーって思って見上げただけじゃん。それなのにこの仕打ちは酷くない?」


【認知と言うのは怪異にとって酷く重要なのじゃ。そして認知した相手を逃がしたりはしない。】



・・・したくてしたわけじゃないんだけどぉー?



ただ寝てても仕方ないと言うのは白蛾鬼の時に味わったので仕方なく起き上がる。

どうしようか考えて鉄の扉を見ると鎖で固められて開かなくなっていた。



「・・・出口はあれ一つか。」


【それっぽい出口は、じゃな。】



ヨルがよくわからないことを言って顎でくいっと向こうを指し示すと、カーテンの仕切りで外にはでれないが、鉄骨を渡って隣の部屋や屋上には行けるようになっている。


つまり命綱なしで鉄骨渡りをしろってことか。



「・・・はぁ、落ちても死なない?」


【死ぬほど痛いがおそらく死なん、バラバラにならなければな。】



それって最悪じゃない?


俺は諦めたように軋むベニヤ板を歩きながら鉄骨に登り、そっと平均台を渡るように前へと進む。



【・・・ふむ、主、怖い怖いよく言うておるが案外度胸はあるの?】


「幽霊に絡まれるより100倍増しだからな。」


【物理的なほうが怖くないか?】


「それは人それぞれだろ。」



だってもう命がけの鬼ごっこを経験してんだぞ?

嫌でもちっぽけな勇気くらい身につくよ。


できるだけ広いところを歩きながら鉄骨を渡ると足場のある場所があったので何とか仮設足場までたどり着く。その場で上を見て遠くに見える赤い空に辟易しながらはしごを登った。



ーージャラ



「ん?」



何処かで聞いた鎖の音が背後から聞こえて振り向く。

そこには、、、



ーージャラ、ジャラ、ジャラジャラジャラジャラジャラ



「ひっ!?」



俺は若干高めの短い悲鳴を上げる。

そこには縛られた何人もの人がいた。同じ高校生にスーツを着た男性、主婦に少女と分け隔てなく。



【囚われておるのか?ふむ、鎖搦めは人を喰うような怪異ではないのじゃが、、、。】


「そんな事よりこれどうすんの!?」



慌てた俺が何とか足場と鉄骨を渡って吊るされている人達に近づく。

一番近かったスーツの男性の鎖を手に持ったが、ギッチギチに縛り上げられていて外れる気がしなかった。



「うぐぐっ、、、! おい、俺って力強くなってんじゃないのか!?」


【なっておるがこれは普通の鎖じゃなくて怪異の鎖じゃ。鎖搦めは『抜け出せない』が根底にある怪異、それを破るのは至難の業じゃ。】



な、なるほど? つまり力でこの人たちを解放するのは難しいってことか。

とりあえず力で解放するのは諦めて少し距離をとって方法を考える。

すると、再び背後からジャラッと鎖が擦れる音がした、、、。



ん?背後?背後ってさっきまで俺がいたとこで誰もいないはず。



振り向くとそこには、腕と足から無数の鎖を生やし、顔を無数の釘で覆われた異形の存在がいた。



「ひぎゃあああ!」


【ちなみに恐怖は怪異に力を与えるのじゃ。】



そんな事言われても怖いものは怖いよねぇ!?


相手は鎖を鉄骨に絡めながら移動し、こちらに向かって鎖を振るった。

囚われている人から少し距離を取っていたことが幸いし、何とか鎖を避けて、一段下の鉄骨に飛び降りる。


ガインッと足に走る衝撃を我慢しながら細い足場を走って逃げる。



「どうすんの!?」


【頑張るのじゃ。】



ヨルがそう言うと、黒い霧が俺の手元に集まり一本の刀を作り上げた。俺はそれを無言で見つめ、「え、戦えと?」と疑問のつぶやきを漏らす。



【言っとくが儂は戦えんぞ? 儂の力が一番強くなるのは深夜じゃ、逢魔ヶ刻ではない。それに強くなれても今の力を失っている状況ではアヤツに勝てんじゃろうな。】


「じゃあ終わりか。」


【諦めが早すぎんか? もう少し抗ってみぃ。】



俺はベニヤ板の敷かれた広い場所に転げだして刀を構える。構え方はめちゃくちゃだがそこは素人なんで目を瞑って欲しい。


こちらを刺し貫こうと伸ばされる鎖を体を捻ってかわす。伸ばされる数が多く、ピンッと張られた鎖はこちらの行動範囲を狭めてくる。



しかも、、、!



「追尾してくんのか!」



鎖に意志が宿ったかのようにこちらを追いかけてくる。何とか逃げながら鎖をつかみ、足場にし、鉄骨に飛び移りながら距離を取った。



「ヨル! この鉄骨切れるか!?」


【霧を込めれば可能じゃ。ただ、儂の霊力もそれほど回復しとらん。鉄骨を切断できるほどの霧を込めることができるのは5回程度じゃ。】



充分だよ!


俺は鉄骨を歪ませる勢いで力を込めながら距離の空いた鉄骨に飛び移る。

届け!と願いながら何とか鉄骨にしがみつくことに成功。思いっきり体を打ちつけて気絶しそうだったが、何とかギリギリで踏みとどまれた。



【主、度胸すごいな!?】


「おっけー!何となくこの体の身体能力は掴めてきた!」



ヨルを無視して俺は助走をつけて斜め上の鉄骨に跳ぶ。片手で掴んで何とか体を跳ね上げ、鉄骨を刀で切り落とす。そしてそのままその鉄骨は鎖搦めの頭に!!



【ぐぉおおおお!】



ガゴンッ!



クリティカルヒットして、鎖搦めはよろめく。俺は追撃するために刀に霧を込めて飛び込む。

しかし振るった刀はやすやすと避けられ、空振った俺はそのまま前の鉄骨に刀をめり込ませてしまった。



「やべっ!?」



ムチのように振られた鎖が腹部にヒットして跳ね飛ばされる。骨が折れたように全身が痛み、そのまま暗闇の底に向かって放り出された。


しかし、その途中で黒い霧がトランポリンのように俺を跳ねさせて何とか硬いカーテンにぶつかって鉄骨に転がる。



「ゲホッ!ゲホゲホッ!」



痛みに耐えながら何とか前を向くと迫り来る鎖が目に入った。

数本の鎖を刀で弾いて何とか凌ぐが、一本の鎖が足に巻き付いてしまう。



その瞬間、俺の脳内に吊るされた人たちの姿がよぎった。

 


抜け出せない、抜け出せなければ俺は彼らの一員になってしまう。

俺は足を睨みながら冷や汗を垂らして必死に歯を食いしばって刀を振り上げた。

そしてそのまま足に向かって振り下ろす!!



ザクッ!



「ーーーっつあ!!」



斬り落とした足はそのまま鎖に持っていかれる。俺のなくなった足の場所にはすぐに黒い霧が集まって欠損した足を再生させた。



「はぁ、はぁ、はぁっ!」


【・・・主、痛みはあるはずじゃろ。よくもまぁそこまで思い切れる。】



やりたくないに決まってるけどね!


でも鎖で縛られたらもう抜け出せなくなる。再生してもらえるし痛みは一瞬だけだ。少しの間耐えるだけなら何とか我慢できる。


再び迫り来る鎖に追いつかれないよう走り出す。



「くそっ、ジリ貧じゃね!?」


【じゃの、このまま逃げ続けてもいずれは捕らえられる。それに、、、】



ーーミシッ! バギバギバゴッ!



「ーーは?」



俺を追いかけながら鉄骨に沿った鎖に力が込められ、俺の周りの鉄骨を曲げていく。不安定な足場にバランスを崩され、その場に立ち止まってしまった。そこを追い詰めるように迫る鎖が目に入る。



「・・・ヨル、もっと力貸せないか?」


【可能じゃが、それには対価が必要じゃの。主の血をよこせ、そうすれば儂の霊力も高まる。】



俺はすぐに自分の腕に刀を添えて刃を引いた。

酷く血が滲み、溢れ出した血と激痛に涙が流れる。


漏れ出た血は刀に吸われ、できた裂傷もすぐに霧でふさがれた。



「ーー頼むぞ!」


【うむ!】



鎖は俺に到達すると同時に全身を絡め取っていく。ガチッと玉のようになった鎖の束を見て怪異は勝ち誇ったような雰囲気を出した。


その背後、黒い霧を纏いながら現れた俺は刀を振りかぶる。



「込めるぞ!!】



黒い霧を刀にまとわせながら振るわれた刃はいとも容易く鎖搦めの胴体を両断した。



・・・倒したか?



俺の疑問に答えるように鎖搦めは吠えながら左手の鎖で体を支え、右手を振るってくる。


全然倒せてないねえ!!



【怪異は体を両断されたくらいじゃ死なん!】


「じゃあどうすんの!?」


【喰らう!】



そうなんだ、頑張ってね。


俺は頭の中に口が大きくなるヨルを想像してドン引きしながら肩に担ぐ。



【なにする気じゃ!?】


「・・・え、投げてあげようかなって。」


【ちゃうわ!霧で包めば喰える!弱らしてくれ!】



なんだ、そうならそうと早く言ってよ。



少し痛めつけられすぎたからか頭に血が昇ってハイになってきている俺は平然と刀を構えて鎖搦めに向かって飛び降りる。振るわれた鎖を刀と腕で受けて肉にめり込ませながら滑るように肉薄。そして下から斬り上げ深手を負わせた。



さてと、、、



着地を考えていなかった俺はそのままビルの真下に向かって自然落下を始める。



【おい!?】


「いいから喰っといて〜、もう疲れたしそこまで頑張ればいけるっしょ〜?」



俺は痛む腕を押さえながらそのまま暗闇へと消えた。

あとにはヨルとふらつく鎖搦めだけが残る。



【があぁぁ】


【・・・悪いが主を助けたいのでな、すぐに終わらせるぞ。】



ヨルが両手を合わせると、黒い霧が体から溢れその中にヨルは消えていく。

その霧は鎖搦めを包み込み、圧縮されるように小さくなりながら霧散した。



そして霧が集まり、再びヨルが現れる。



【・・・主ー!】



ヨルはぴょんっと飛び降りて湊を追いかけて暗闇に消えたのだった。



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