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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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6/19

これからの日常



それからしばらくバスに揺られると駅前にたどり着く。


ターミナルを降りて、待ち合わせ場所に指定した赤と黒の螺旋に巻かれた謎の時計オブジェを見つけたのでそちらに向かう。

ここは他にも待ち合わせしている人が多いのでちゃんと探さないとすれ違いやすいんだよなぁ。


すると先輩から「まだ?」とメッセージがきていたので辺りに目を凝らすと、いつものスーパーで指定されている黒いズボンとワイシャツ、その上にカーディガンを羽織った胡桃先輩を見つけた。



俺は琴音さんを連れてそっと近づく。ちなみにヨルは歩きたくないと言って俺の影に潜ったよ。



「ういっす先輩、わざわざありがとうございます。」


「お、よーやく来てくれたね。何人に声をかけられたか聞きたい?」


「興味ないからいいです。」



バッサリと断ると胡桃先輩はジロリと俺の服装を確認する。俺は適当な黒のシャツにジャージのズボンとあまりに適当な格好をしていた。



「・・・はぁ、やっぱり気合い入れなくてよかった。」


「え、何か言いました?」


「んーん、べっつにー。ところで用って何? あと後ろの方はどなた?」



どこか話を逸らすように切り替えられてこちらの要件を尋ねられる。


・・・あれ?なんか目が怖い?


理由がわからない謎の圧に戸惑いながら、そう言えば琴音さんを連れて行くことを言いわすれていたことを思い出す。


俺は圧に負けて後ろでビクビクしていた琴音さんを前に出した。



「実は訳ありでしてね? 何も聞かずにこの人の買い物に付き合ってほしいんですけど、、、。」


「えー? ちょっとは話してくれないと傷つくんだけど、、、。そんなに信用ない?」


「なかったら先輩に頼らないです。」



そう言い放って胸を張る俺に先輩はデコピンを食らわせて来た。別に痛くないけど一応おでこを押さえておこう。



「そう簡単に言い聞かせられると思ったら間違いだから。私は君が変なことに関わってたら止めるからね。」



次に先輩はあまりに真剣な目で俺の目を見つめてくる。その目に見つめられると隠し事を全部吐き出してしまいたくなってしまう。


でも言うわけにはいかない、下手に話して巻き込んでしまえば俺は罪悪感で死にそうになるからな。


でも確かに説明不足なのもその通り。

なんて言おうか悩んでいると、先輩は一つため息をついた。



「・・・はぁ。そんなに言いづらいってことは家庭の事情?」


「え、あぁ、まぁそんな感じですかね。」



俺が悩んでいるのを見て先輩はそう解釈した。


いや、答えを得られそうないと思って無理やり納得してくれたのかな?


すると先輩は琴音さんに向き直って軽くほほ笑んで手を差し出した。



「初めまして、私は胡桃 緋廻。この子のバイトの先輩かな。」


「・・・は、初めまして。白蝶 琴音です、い、今は訳あって暮崎さんにお世話になっています。」



そう返して手を握りかえした琴音さんは何故か離されない手に首を傾げる。

俺は笑顔のまま固まった先輩を見て「あっ」と声を漏らした。



「・・・・・・・お世話になってる? え、それって、、、」


「ち、違いますからね!? ただこっちにいる間に色々面倒を見てあげてるってだけで!!」


「そ、そう、よかった。きゅ、急にこんな美人と同棲してるなんて言われたら私、びっくりして倒れそうだもん。」



そうだよね、俺もびっくりしてる。


まさか急にこんな美人と同棲するとか思わなかったもん。


あまりに的確な先輩の心配を聞かなかったことにして、俺はなんとか言葉をひねり出す。



「まだ都会に出てきたばっかで何が必要とか分かってないんですよ! だから生活必需品でいいものとか教えて上げてください!」


「・・・わかったけど、必死すぎない?」



あまりに必死に言い募る俺に先輩は引いたように後退る。てかさっきは話せないとか言ったくせに後付けの理由なんて話したって疑われるだけだわな。だって話がまとまらなかったんだもん、仕方ないよね。



「はぁ、分かったよ。とりあえず話は聞かないでいてあげる。白蝶さんは何を買いたいの?」


「えっと、暮らすのに必要なものをとりあえず、、、。」


「んー、それなりの雑貨は湊くんでも揃えられるだろうから私を頼ったのは女性の必需品かな? よし、なら必要なものでも探してみよっか。」



すっごい洞察力でこちらが頼ってきた理由に当たりをつけた先輩は先に歩いて近くのファッションビルに案内してくれる。

確かに色々あって何でも揃えられそう。


俺は説得できたのか怪しいが、何とか目的を果たせそうで、ホッとしたのだった。




ーーー




「とりあえずこんなものかな?」


「ありがとう緋廻さん。私こういう場所初めてだから新鮮だった。」


「いえいえー、流石に商品を持って店の外に出ようとしたのには驚いたけどね。」



ほんとにね。



あれから数時間、俺達はファッションビル内を散策し、色々と必要そうな物品を買い集めた。

その中にはパジャマとか着やすい服とかあって本当に助かる。


今の現代、別に着物を着た人がいてもそういうファッションなのかな?って納得してもらえるけど、他に着られる服がないのは不便すぎるからね。


それで今はたくさんの紙袋を持って駅に向かっていた。


いやー、和服の美少女と美人大学生の間に挟まるジャージの俺。目立って目立って仕方ないね(泣)。



・・・何か影の中から笑われてるような雰囲気がしたので踏みつけておいた。



ちなみに2人は買い物してるうちに仲良くなったのか、今ではお互い名前で呼び合うほどになっている。いやー、あんなにガッチガチに固まってた琴音さんと仲良くなれるとは、、、さすがのコミュ力だよね。



そんな事を思っているとあっという間に駅に着いた。



「じゃ、私やることがあるから帰るね。」



胡桃先輩は近くのパーキングに車を止めているらしく、ここにはわざわざ付いてきてくれたらしい。

俺は申し訳ないなと思い、何か返せないかと考えたが何も思いつかなかった。


胡桃先輩は俺のそんな心境を読み取ったのかニヤッと笑う。



「ふふっ、貸しにしといてあげる。後で返してね。」



・・・ほんと敵わないなー。


小走りで「じゃあねー」と手を振りながら走り去っていく先輩に手を振り返しながら後で何かケーキかなんか買っとこう、と考えながら琴音さんに振り返った。



「じゃ、俺たちも帰るか。」


「はい!」



明日は学校だしね。

早く帰ってだらけないと俺の残存体力がミリになっちゃう。


琴音さんは買い物を楽しめたからなのかウキウキしている。



・・・ちなみに俺はドチャクソに疲れたよ。



何故かって?何か変なものが定期的に視界に写るんだよ!!


首がやけに長いのとか胴体に穴が空いてるのとか色々とな!その度に必死に見ないふりして恐怖を押し殺すのめちゃくちゃ疲れるんだよ!


特に最後にみた入れ墨バッチバチの穴が空きまくった怪異なんて特に、、、!



【それは普通のヤンキーとやらじゃな。】



・・・あ、さいですか。


そこはかとなく疲れた俺は何とか帰りのバスでも座れたのでぐったりとする。すると、琴音さんが心配そうにのぞき込んできた。



「・・・あの、大丈夫ですか? すみません、無理させてしまいましたね。」


「いや、こっちの問題だから気にしなくていいよ。」



俺が一人で精神的に苦しんでるだけだからね。

てかこれ平気かな?普通に日常生活に支障が出る気がする。


これからのことを考えて憂鬱になっているとバスはすぐにアパート近くまで着いた。

2人で降りて荷物から解放されるためにすぐに家に帰る。



「・・・あー、疲れた。」



俺は疲れてそのままソファに一旦倒れこんだ。

虚ろな目でダラっと生気のない目を虚空に向けている間に、琴音さんは「ふん」とやる気をみなぎらせ着物を紐でたすき掛けし、そっと台所に向かう。



【・・・おーい、生きておるか?】



目の前で屈んで見下ろしてくるのやめない? このソファ座椅子タイプだから、、、ね?


そんな風な考えも筒抜けなので、ヨルはにやりと笑った。



【嬉しいか?】


「・・・お前、実年齢ババーーぶほっ!」



すぐに思いついた反論は踏んづけられて遮られる。

何で疲れて帰ってきてこんな目にあってんのかな?


そんな風にヨルといちゃついていると「出来ましたよ!」と声をかけられた。



「んぁ?」



力なく上体をあげるといい香りが鼻腔をくすぐる。

机の上には彩り豊かな和食が並べられていた。


・・・あれ?俺そんなにだらけてた?


目をパチクリさせながら箸を置かれたテーブルの前に座る。



「・・・へ? え、いつの間に作ったの?」


「少し前からですね。暮崎さんは疲れてそうでしたので簡単なものですが用意させていただきました。」



そう言われて前に置かれた料理は塩麹で味付けした鶏と野菜を炒めた炒め物にお浸し、味噌汁にホカホカのご飯と一人暮らしの男子にとって豪華すぎる、、、いや待て、ほんとにいつ作った?



魔法でも使ったのかというほど完成度の高い料理に驚きながらそっと箸を手に取る。横を見ると同じように座ったヨルが嬉しそうに食べ始めていた。



「いただきます。」



まずはあっさりしたお浸しを一口食べてみる。シャッキシャキの食感が残った野菜を味わい、次に丁度いい味付けの鶏肉を食べる。ご飯の進む味付けに喜びながら箸を進め、味噌汁を飲んでからホッと一息ついた。



「ど、どうですか?」



そんな俺の様子を心配そうに見ていた琴音さんに俺は一つ頷く。



「うん、めちゃくちゃ美味いね。こんなにガッツリ胃袋をつかまれると抜け出せなくなりそうなくらい。」


「・・・ほっ、よかったです。お手伝いさんにしか食べていただいたことがなかったので自信がなかったので。」



なるほど? まぁ使用人ならそりゃ美味しいって言うよね。

と言うかお嬢様ってそんな完璧に料理教わるんだ。てっきりもっと軽いものかと思ってたよ。


ドンドン箸が進んですぐに食べ終わる。

全員食べ終わる頃に食器をキッチンに持っていったが、料理に使ったであろう器具や食器は全て洗い終わっていて今食べた食器しか洗うものがない。俺は食器を受け取って片付ける。

これも琴音さんがやろうとしてきていたのでさすがに全て任せるのは忍びないので自分でやらせてもらった。



さてと、そこでまた空き時間。そして一番問題のある時間が来た。



「・・・風呂、沸いたから先に入ってくれ。」


「え、後でいいですよ。私はそこまで疲れていませんし、、、。」


「・・・頼む、入ってくれ。」


「何故そこまで切実なのですか!? そ、そこまで言うのでしたら入りますけど。」



言われた琴音さんは用意していたお風呂セットを持って脱衣所に向かう。


俺は一人(影の奴はしらん。)残された居間の真ん中で座禅を組み心を落ち着けた。



・・・いやさ、先に入れるわけないよね。



そして聞こえてきた衣擦れの音を全力で聞かないように即座にテレビを付けた。そして目を瞑ったが逆に耳に神経が集中してしまい浴場の方に意識が、、、健全な思春期の高校生をなんだと思ってんの!?


あまりに意識の甘い灰円を必死に恨みながら何とか素数を数えて我慢する。

すると目の前にニョキっとヨルが生えてきた。



「・・・何してんの?」


【いや何、儂と主は感覚も一緒でな。主が興奮しておると儂も落ち着けないのじゃ。もう少し落ち着かんか。】


「無茶言うな殺すぞ。」


【・・・余裕なさすぎぬか。】



ヨルは【子供じゃのぉ。】と呟いて脱衣所に向かおうとする。俺はその肩を必死に掴んで引き止めた。



「お前何してんの!?」


【むぁ? なにとは、落ち着かんし風呂に入って落ち着いてこようかとな。儂は同性じゃし問題なかろう。】


「そ、それは俺に被害とかないよな?」


【・・・主が望めば感覚共有くらいはできるぞ?】


「よし、やっぱり入るな。」



駄目に決まってんだろ、絶対に邪念が湧く。

俺は目の前にヨルを座らせて無言で見つめ合った。ちなみにヨルは呆れた半目。



【・・・はぁ、それほどならここで儂が】


「絶対にその先を言うなよ?言ったら絶対に許さないからな?」



俺が語気を強めて言うとヨルはヤレヤレと肩をすくめた。俺はそのまま必死にテレビの画面にのみ意識を集中する。


すると、ガチャっと音がして脱衣所の扉が開かれた。



「お待たせしました、空きましたよ。」



扉から現れた琴音さんは着物ではなく胡桃先輩に見繕ってもらったフェミニンなパジャマを身にまとっていた。

うっすら上気した頬と、近づいてきた時に香る香りが、、、!!!


ーーバキィ!



「えぇ!? 何で急に自分を殴ったのですか!?」


【・・・構うな、戦っておるのだよ。己の獣と。】



ヨルの変わらぬ半目を受けながら俺はヨロヨロと立ち上り脱衣所に向かった。脱衣所の外にキッチリと畳まれた着物に意識は向けず、脱衣所に入ってまた別の問題に遭遇する。



・・・あれ? めっちゃいい匂いする。



ちなみにシャンプーとかも胡桃先輩に選んで女性用買っているので俺とは匂いが違う。それに脱衣籠に入れられた、、、あとの方がやばかったな!?


俺は逃げるように浴場に入ってお湯の温度を上げて全力で体を洗う。心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却!!


なんでこんな試練を与えられてるんだろうか!!




・・・・・。

・・・・。

・・・。



ーープシュー



何とか全てに耐え抜いてお風呂を上がって居間に戻る。そして土下座して琴音さんに洗濯をお願いした。俺じゃ理性が保ちそうにないんで、、、えぇ、、、。


琴音さんは普通に「いいですよ。」と承諾して洗濯機の使い方を教わり明日の朝に終わるようにタイマーをセットしてくれ、干してくれると言う。本当に申し訳ないね。


そしてようやく寝る準備が整った。


最初はベットを譲ろうとしたのだがそこは琴音さんが絶対に譲ってくれず、琴音さんは座椅子タイプのソファに毛布を被って寝ると言っていた。


明日には布団が届くし少しだけ耐えてもらうしかない。


俺は疲れていたこともあって電気を消すと、すぐに眠気が襲ってくる。

おかげで昼間見た怪異のことを思い出す隙もなく、ゆっくりと寝ることができたのだった。







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