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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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19/19

死ぬ気の死ぬ気の死ぬ気



ーーガチンッガチンッガチンッ!



「死ぬ死ぬ死ぬ!?」


【腕が来とるぞ!】



打ち鳴らされる歯音と共にさっきまでいた場所が抉られていく。振り下ろされた鞭のようにしなる腕を避けることができずに刀と腕で受け止めてしまった。


何とか倒れることはなかったが腕はメシッと嫌な音を立ててひどく折れ曲がり、肩の骨も砕けた気がする。



・・・あー、もう痛すぎて何がなんだか分かんない。



「ーーっち! ヨル、力貸せ!」


【む?】



刃を握って血を流し、黒い霧をまとわせる。

心臓がドクンっと跳ねて身体が熱を持ち全力で歯を食いしばった。


霧を刃のように引き絞り、細く線を意識する。



そのまま跳ねて回るように刀を振り抜く、それだけで教室の中に軌跡が走り、鬼と教室を細切れにした。


だが深手を負わせられない、皮膚が硬いのかこっちの出力が低いのか分からないが狂餓鬼は血を流しながら腕を振り上げて押しつぶそうとしてくる。

それは何とか躱したが、もう一本の腕をもろに食らった。



「ーーごっぱ!?」



グチャリ



内臓が潰れる音を聞きながら背後の壁を突き破って転がる。

体中の穴から血が噴き出して、視界が閉ざされるなか黒霧だけが俺を生かそうと必死に体のなかに入ってきた。



「げぽっ、ひゅー、ひゅー、げほっ、げほけほ、、、。」


【まずいな、このまま霧を減らし続ければ治せなくなるぞ。】



震える膝を叩いて何とか足に力を込め満身創痍ながらも立ち上がる。

吐瀉物のように血を吐きながらズギズギと痛む頭にふらつきながらも何とか前を睨んだ。


狂餓鬼は壁を邪魔そうに壊しながらこちらに向かってくる。



ーーガチンッ



「っ!!」



バギギギッ!


避ける余裕もなく閉じられた歯の間に挟まれ、何とか足と刀で受けて砕かれないように歯を食いしばり続けた。



「ーー双槍龍撃!」



すると狂餓鬼の背後から咆哮が聞こえ、狂餓鬼に向かって槍が放たれた。完全に不意を突いたと思われる一撃に狂餓鬼はすぐに反応して腕で槍を受けとめた。


ダメージは負わせられたが、先ほどよりも硬いのか気にせず動いて赤兎は狂餓鬼に掴まれてしまう。


ミシミシッと握りしめられて赤兎は「こふっ」と軽く血を吐いた。俺は刀を投げて狂餓鬼の腕を斬り飛ばして赤兎を助ける。

その隙を狂餓鬼は下から振り上げるような拳で捉え、俺は無す術なく天井に打ち付けられた。



・・・これ無理じゃね?



グシャっとゴミのように床に落とされ血溜まりに浸かる。

動く力が沸かない、勝てるビジョンが全く見えない。


ほんと、あの紙に書いてあったの化け物だったんだなぁ。



【諦めるでない!まだあれを試しておらんだろう!】


「・・・勘弁、してくれよ。」



もはや壊れて再生して傷ついて治して意識がぐちゃぐちゃしている。吐いてるのももはやゲロなのか血なのかの判別もできない。



ーーガチンッ!



「ーーっ!!」



集中力が切れた時と同時に歯が迫る。

脳の司令に身体がついていかず、迫る痛みを覚悟して目を瞑った。



「破条 伍式 宵薙淘汰!」



ーーズバァンッ!



暗い中、叫びと共に白い光と槍が振り下ろされ、迫りくる口を爆ぜさせる。


力が抜けて膝をついてしまった俺の前に同じくボロボロな赤兎が槍を構えながら着地した。



「・・・大丈夫っす、あと5分、そのくらいは持たせてみせるっす。」


「ーーっ、お前、何を!」



ヒュンヒュンッと風を切るように槍を振り回し、迫ってくる腕を槍の穂先にまとわせた光で弾く。


割れたサングラスの下から覗くその赤い瞳は未だに狂餓鬼を見据えている。



「・・・勝てっこ、ねぇぞ。」


「そっすね、でも日道連の術師は怪異から人を守るのが仕事っす。いくら強いと言っても兄貴を殺させたりしないっす。」



真っ直ぐ睨んで構えるがその腕をはかすかに震えている。ただその地についた足だけは揺るぎなく深く構えていた。



・・・は、覚悟が違うな、生き残るために戦ってる俺と人を助けるために戦う赤兎じゃ背負ってるものが違いすぎる。だからこいつはまだ諦めずに前を睨み続けられるんだ。



(・・・兄貴を殺させない、か、、、。こいつにとって俺は夜暮姫の契約者であって守るべき人でもあるのか、、、。)



俺は一度目を強く瞑って力強く見開いた。



ダンッ!



「・・・兄貴?」


「悪い、少し血が昇ってた。巻き込んだのは俺だ、責任は取る。」



鼻血を拭いながら赤兎に並んで刀を構える。

すると赤兎は目を見開いたあと嬉しそうに笑った。


そうだ、そもそも狂餓鬼に挑んだのは俺の意思だ。こいつはただ善意で付き合ってくれてるだけ、俺のために命をかけさせるわけにはいかない。



【今更じゃないか?】


「うるせえよ。」



これで殺されでもしたら寝覚めが悪いって話。



・・・さて、でもこれからどうするか。



覚悟は決まっても状況は何一つ好転してない。

俺と赤兎はお互い満身創痍だしな。



「・・・兄貴、俺のこと信用してもらえますか?」



すると赤兎は前を見ながらそう言った。

すでに狂餓鬼は動き始め、壁を打ち破ってここまで来るだろう。



ーードゴオンッ!



「ーーっ、頼むぞ!」


「うっす! 対魔槍術 拾七式 九天斧槍!」



槍を上段に構え、斜めに振り下ろしてピタッと静止。

それと同時に斧のような戦斧が現れ、回りながら狂餓鬼に飛来する。



【ぐぅおおおおおおおお!!】



すべての腕を吹き飛ばし、顔面にも斧がめり込む。

狂餓鬼は血を流しながら苦しそうに吠えた。



「いまっす!」



赤兎は息も絶え絶えに槍を杖のようにしながら膝をつく。

俺は赤兎が作ってくれた隙を無駄にしないように姿勢を低くしながら前に飛び込む。


そして相手の懐に飛び込み、心臓に向かって刃を突き立てた。



・・・だが、その刃が到達する前に狂餓鬼は無理やり体を捻って横に転がり、俺と赤兎から距離を取る。



「くそっ! 漫画みたいに必ず隙をつけるわけねえか!」



せっかく作ってくれた隙、しかしそれは活かすことができずまた真正面から狂餓鬼と向き合ってしまう。


だが狂餓鬼の動きはどこか鈍く、先ほどのような威圧感が薄れてる。


俺は前を見据えて、強く唇を噛む。



「試すか、行くぞヨル『影搦め』!」



走り出しながら叫ぶ声に応じて俺の影から黒い霧が鎖を形成しながら狂餓鬼に巻き付いていく。

狂餓鬼は呻きながら鎖を壊そうと抵抗するが、先ほどの攻撃で弱っているのか、抜け出すことはできない。


俺は今度こそできた隙を突くために刃を突き立て、思いっきり相手の腹に向かって突き込んだ。



【ぐおお!?】


「ヨル!喰らい尽くせ!」



叫びと共に突き刺した刃から霧が溢れ、狂餓鬼を喰らおうと纏わりつく。


狂餓鬼は苦しそうにうめき、黒霧は覆い尽くそうと必死に霧を伸ばしている。



しかし狂餓鬼の抵抗も激しく、鎖は「ガチンッ」と言う歯音が聞こえた瞬間食い千切られ、狂餓鬼から何度も拳を打ち付けられる。

全身から霧を伸ばし、吹き飛びそうになるのをこらえながら床と固定するように体を固定した。。


意識はすでに何度か吹っ飛んでる。それでも歯を食いしばって耐え続けた。



【ぐおおおおおおおおお!!】

「うおおおおおおおおお!!」



お互いの叫びが辺りにこだまする。

今までのダメージを与えて弱らせるのとは違い、文字通り正面衝突の喰い合いだ。



これで負ければ俺は消える。



んなの、まだ受け入れる気はねぇな!!



相手がこちらを押しつぶそうと力を込めた瞬間に俺は脱力してバランスを崩させる。刺していた刀を滑らせるように肩まで斬り上げ、狂餓鬼の下から抜け出し頭にヨルを構えて突き込んだ。



ーーバキィイイイイイインッ!!



「ーーっ!?」



その瞬間、頭に掠れたような記憶が流れる。


何時代か分からない集落のように民家が集まる景色に倒れ伏す人々、、、


水桶に頭を突っ込んでいるような人にぞんざいに地面に転がる人など様々。民家のなかでも事切れたように、何かに耐えるかのように蹲っている人達の骸が転がっていた。



『なん、、、で、、、あんなに、、、与え、、、たのに、、、。』



ーーズギンッ!



「ぐぁああっ!?」


【湊!?】



俺は割れるような痛みに思わず刀を手放して蹲ってしまう。



・・・何か、入ってくる。



光景はまた少し前に戻り、さっきまでの痩せ細って倒れていた人々が視界の主に集まって元気に恵みを受け取る姿が写る。


皆が楽しそうで、喜んで、次々に感謝を贈る。


安堵と微笑み、暖かく満たされた感覚が心臓に伝わり涙が溢れ、またその受け取っていた人たちが民家のなかで苦しそうに亡くなっている姿が映り、張り裂けそうな痛みが襲った。



「・・・これは、狂餓鬼の?」


【・・・何を言うとる?】



この光景は俺にしか見えていないのか刺さったヨルの方から困惑したような声が伝わってくる。

何故かその間狂餓鬼は動かず、動きを止めていた。


全員が全員、不確かな動きに困惑して動けない。



・・・でもチャンスだ。



「ヨル!」


【ーーっ!】



固まっていたヨルに声を掛けて再び霧が解放される。すると先ほどまでの抵抗が嘘のように霧はあっさりと狂餓鬼を包み込んだ、、、。



【ーーは?】



ヨルはあまりにも手応えなく包み込めたことに困惑する。そのまま霧は体積を小さくしながら溶けるように消えた。



・・・あとには拍子抜けな最後に戸惑う俺たちだけが残された。





ーーー




「おー、まさか時間内に祓えたんですねー。これは表彰もの、、、どうしたのです?何かありました?」



異界から抜け出した俺達は外で待機してくれていたハナと合流した。

彼女はボロボロながらも無事に出てきた俺たちを見て嬉しそうな笑顔を見せたあと、どこか納得してなさそうな俺達の様子に首を傾げる。



「・・・いや、よくわからん。」


【儂が聞きたいわ。】



苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら理由を考えたが思いつかない。心当たりがあるとしたらあの刹那に見えた映像だけど、あれは何だったんだ?



「・・・まぁ~でも祓えたなら良かったです。キチンと2分前、私が突入する前に終わったので安心しました。」


「かなりギリギリだったけどな。普通に気を抜いたら死ぬとこだったよ。」


「でもこういうのって時間ギリギリで達成するのがテンプレじゃないんですかー?」


「知らねぇよ、タイムキーパーとかいねえから。」



むしろ時間とかすっかり忘れてたから、、、。


本当に狂餓鬼が動きを止めなかったら喰らい負けてた気がする。



【・・・舐めるでない、あのまま続けてれば儂が喰らえておったわ。・・・ハナの突入には間に合わんかったかもしれんがな。】



まぁ別にハナの突入は万が一狂餓鬼を祓えなかったときの尻拭いだから仮に突入になったとしても問題ない。


俺は軽く咽るように咳をすると手にベットリと血がついていたのでズボンで拭う。一応身体は再生されたから死ぬことはないみたいだけど余った血が逆流したのかな?



「・・・はぁ、クソ疲れた。・・・灰円は?」


「んー? あの人途中までいましたけど予定があるってどっか行きました。」


「・・・・・そうか。」



軽く流れる夜風が冷たくて震えながらやけに澄んだ空を睨む。


今回の件で自分から怪異に関わって色々と痛感させられた。俺がいることの因果、惹きつけるとヨルは言っていた。その時に俺は近くにいる人を守れるのか?それともここから離れて一人で生活するべきか?



頭の中には嫌な不安と想像が渦巻く。そんな俺の背をバシンッ!と勢いよく叩かれた。



【一人で何ができると言う? 驕りすぎじゃ小童が。周りに居るのは専門家たちじゃろ。頼ればよいのじゃ愚か者。】



ヨルに励ましなのか説教なのか分からない言葉をかけられて俺は苦笑する。隠し事出来ないのは嫌なこともあるが助かることもあるんだな。



「・・・だな、悪かったよ。」


【よし、ではとっとと帰るぞ。腹も減ったし帰って飯でも食おうではないか。】


「ははっ、作り置きしといてくれてるかね?」


【しとるじゃろ、琴音じゃぞ?】



確かに気を使いすぎの琴音さんだしな。

でもこれで無かったら悲しいから期待は少しで帰ろうね。


とりあえずもう夜も遅いし、一度今は解散とし、また明日の昼休みに話すことを約束して解散したのだった。




ーーー




「・・・ふーー。」


「・・・珍しく物思いにふけっていますね、灰円。」



校舎の屋上の縁でタバコを吹かしながら解散する湊たちを見下ろしていた灰円は声をかけられて振り返る。



「・・・空毬須(からまりす)、お前が外に出るとかどう言う風の吹き回しだ?」


「あら、別に私は人形ではありませんよ。簾から出れないと思っていたのですか?」


「・・・んなことねえけど。」



真っ白な着物に大きな市女笠。

市女笠から白く薄い布が垂れていて顔や姿はあまり窺えないが、その芯のある立ち姿から高貴な教育を受けていると思われる。


・・・話し方はなんか変だけどな。



「あの方が夜暮姫の契約者、、、。人らしくなく、異常な香りがします。・・・何故消さないので?」


「利用価値があるからだ。実際に『鬼』を祓って見せた、それだけで相当価値があんだろ。」


「えぇ、『喰らって』見せましたね。鬼が怪異を喰らう、、、。その意味はよく理解していますよ。」



市女笠の内側からどこか笑うような雰囲気を感じるが、それを灰円は不機嫌そうに睨みつけた。


睨まれた当人は手を組み合わせ、小さく息を漏らす。



「私はおすすめしません。高位な怪異には高位な存在が寄りつく、、、。このまま傍観していれば手が付けられない怪異が現れますよ。」


「へぇ、俺とお前でもか?」



灰円はどこか試すような笑みを浮かべるが、向こうの表情は窺えない。でもどことなくあきれたような雰囲気を感じさせた。



「・・・怪異は人の負の欲望から生まれた存在。どれだけ多くの人が犯罪に走る人や追い込まれた人を助けようと奔走しても結局は助けられないことの方が遥かに多い。それほど大きな悪意にたった2人の人間が勝てるとでも?」


「ずいぶん消極的だな。浄階の人間の言葉とは思えねえ、下のやつらに聞かれたら士気が下がるぞ。」


「今ここには私と貴方しかいませんよ。同じ日道連最高位の位を頂いた貴方に言ったところで問題はありません。」



淡々と言い捨てる空毬須に灰円は短く「そうか。」とだけ答えた。

その目は細く、下でワチャワチャしてる4人に注がれている。



「・・・呆れますね。変に情を注げば捨てれなくなりますよ。貴方の目的はあの『喰らう』という特質だけでしょうに。まだ諦めきれなくて、、、?」


「・・・うるせえよ。」



空毬須の言葉を煩わしそうに灰円は立ち上がった。

そして下にいた湊たちから視線を外して今度は実習室に目を向けた。



「なぁ、お前の視点から聞きたいんだが、何で狂餓鬼は喰い合いの途中で抵抗を止めたんだと思う?」


「・・・お互いに喰い合い、残りの存在値の拮抗が夜暮姫に偏ったから、と仮説は立てられます。」


「そうは思わないと?」


「窮鼠猫を噛む、追い詰められて抵抗しなくなるとは思えません。」



どうやら空毬須と灰円の思っていることは同じようで、灰円は空毬須の返答を受けて「うーん」と悩ましく唸る。



「・・・何かあるな、夜暮姫か、、、それか、湊に。」


「あの青年に理由があると?」


「ないとは言い切れねぇ、てだけだ。もうちょい身辺を洗わせてもらうかね。」



灰円はそれだけ言って屋上から飛び降りた。

その場に残された空毬須は白い布の奥で淑やかに袖で口元を隠す。



「・・・興味、ありますね。」



それだけ言い残し、彼女もまた姿を消したのだった。



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