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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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18/19

VS狂餓鬼



ーーピチョン、ピチョン



「オロロロロロロッ!!」


【うわぁ!? まだ入り口ではないか!何を吐いとる!?】


「いやこの雰囲気マジ無理。」



深夜、明方高校実習棟廊下



灰円から渡された鍵を使って俺達は楽々と校舎に侵入し、明かりのない真っ暗な廊下を非常灯の明かりだけを頼りに吐きました(?)。


いきなり地面に手をついて腹の中に収まっていた食料を消費するとは、、、狂餓鬼に会う前に飢餓状態に陥るんじゃないか?



「先輩大丈夫っすか!? すぐ掃除道具持ってきます!!」



一緒に来てくれた赤兎は俺が吐くなり慌てたように掃除道具を取りに行ってくれる。この暗い廊下を物怖じしないで進むとは、流石は専門、、、オロロロッ



【・・・ホントに飢えそうじゃの? 大丈夫じゃー、怖くないぞー。】



ヨルが優しく背中に手を添えて擦ってくれると徐々に落ち着いてくる。そして落ち着いてくると酸っぱい匂いが鼻について不快な気持ちになった。



「・・・ヨル、これ食べれない?」


【・・・・・・・・・貴様の胃袋に戻してやろうか?】



はっはー、冗談じゃないですかー。そんな怖い顔で睨まないでくださ、、、本当にごめんなさい。


でもおかげで暗闇に対する恐怖心は薄れた。

赤兎が持ってきてくれた掃除道具を使って吐瀉物を片付け、暗い廊下をヨルに手を取ってもらいながら歩く。



「それで、調理実習室ってどこっすか?」


「ん?お前知らないの?」


「まだ授業で使ったことないっす。」



言われてみたらまだ赤兎が転校してきてから使うきかいはなかったな。てかそもそも部活でも入ってないとあまり使わない教室だしね。


教室は2階にあるので外の風の音だけが聞こえる廊下から階段に差し掛かると、踊り場のところに人影が見え、、、た、、、



【だから気絶するでないわ!!】



ーードコッ!



「ぐっは!?」



心臓のところをヨルに叩かれてなんとか気絶しないで済んだ。


その踊り場には笑いながらこちらに手を振るハナが立っている。



「お前何してんの?」


「いろいろ準備しといてあげてたんですよー。異界に穴を開けるには少し用意しとく物があるんです。」



へえー、そうなんだ。それは分かったけどあんな怖い登場の仕方をしたのは何でかな?


俺の責めるような視線に気づいてハナはニパッと笑った。



「お茶目ってやつですよ。」


「・・・はっはー、ヨル、刀用意。」


【うむ。】


「冗談が通じないですねー。」



あ? 危うく気絶しそうだったんだが?

冗談で済めば警察はいらな、、、刀持ってる俺も大概だな。



「では私は先に外出てますねー。あとは手筈通りに。」



ハナはそれだけ言い捨てて外に歩いていった。

本当にあいつが踊り場にいたのって驚かすため? マジで根回しの擬態って本物に準じてたんだな。


その後は特に何の問題もなく調理実習室にたどり着き、ドアを開けて電気をつけた。



「・・・普通だな。」


【別に何もしとらんからの。そりゃ普通じゃよ。】



いやでもほらさ、空気が重いとか雰囲気があるとかあるじゃん。実際いることは確かなんだし少しくらい雰囲気があっても、、、



【狂餓鬼は此処におるわけじゃない。ここはただの出入口じゃ。ここにおらんのならおらんのじゃよ。】



・・・なるほどね、なのに俺はこれからその扉を空けなくちゃいけないのか、、、。


憂鬱になりそうなのを我慢しながら部屋の電気を消して赤兎に指示を送る。

彼は背中に背負っていたカバンから穂先が布で巻かれた折りたたみの槍を解放し、教室の端によった。


俺はまずは1つ目のコンロに火をつけ、間を空けて2つ目のコンロに火をつける。



「・・・なあヨル、やっぱりおかしくないか? こんな喚び出し方、知らなければ誰も試そうなんて思うわけもないし、偶然でも難しいだろ。」


【うむ、普通に考えれば不可能じゃ。例えば狂餓鬼の喚び方をしっており、その者が直接噂を広めん限りな、、、。】



俺は火をつける手を思わず止めて固まる。



「・・・つまり喚び出し方を探って広めた奴がいるってことか?」



俺の問いにヨルは顔を上げて俺と見つめ合う。

その瞳には不安に揺れる俺の間抜けな顔が写っていた。



「誰が、、、?」


【わからん、心当たりがありすぎるのじゃ。根回し、嘘騙り、それだけじゃない、人にだって探る方法はあるのじゃ、疑い始めたらキリがない。・・・主にだけ言うが灰円や日道連の可能性だってあるのじゃよ。】



・・・疑心暗鬼に陥れば心が壊れる。


疑いは孤立を生み、答えへの道を閉ざす。

と言うかヨルは最初から狂餓鬼の名前が出たときにずっと疑念が生まれてたのか。いろいろ心労かけちまってたな。



【くかか、そこを気にするのは主の美徳じゃな。ほれ、手が止まっておるぞ? 危険だし進めるのじゃ。】



ヨルは軽やかに笑いながら儀式を進めるのを促す。俺も火のつけっぱなしは怖いし次のコンロに向かった。



【・・・主はあまり考えなくてよい。もしかしたら別の全く関係のない悪意が絡んでおる可能性もある。違和感があれば教えるのじゃ。】


「ははっ、助かるよ。」



何だかんだ俺の中でヨルの存在は相当大きくなっている。もはや悠と並ぶくらい俺の中で存在が大きいかもね。



そしてついに最後のコンロの前に立った。



つまみに手をかけ、赤兎に視線を送る。赤兎は視線に対して頷きを返し、準備が整っていると伝えてくれた。


俺は一度息を吐き、覚悟を決めてつまみをひねる。


対角に全ての火がつき、暗い部屋を明るく照らした。



「・・・。」



俺はゆっくりと下がりながら全力で警戒する。

しばらく何も起きず、何か間違ったのかと焦り始めた瞬間、一度大きな火柱が全てのコンロから上がって火が消える。



暗く、目が慣れないなか何とか目を凝らすと、真ん中のコンロの上に細い肢体に皮膚が張り付く顔の半分以上が口の化け物が立っていた。



・・・こいつが、狂餓鬼!



全身から冷や汗が噴き出し、焦りから手に出現させた刀を落としそうになる。

必死に震えを抑えて、相手を睨んでいると、その瞬間グラリと身体がふらついた。



「ーーぐ、、、あ、、、!? うぅ、、、ぐあぁぁぁ、、、」



やけに熱い手のひらを見るとそこに歯型のような痣が現れていた。光が強くなると痛いくらいの空腹に襲われる。


目が血走り、よだれが垂れる。既に立っていられず、蹲るようになりながら何とか足に力を込めようとした。


しかし逆にバランスを崩して転んでしまう。



「ーーぐ、あああああぁ!!」



真ん中の狂餓鬼は笑うように歯を打ち鳴らす。

対面の端にいた赤兎も俺と同じようにふらついていた。


余裕は既に消え失せ、赤兎を認識できない。


いや、むしろその存在を大きく感じ、強く鼻腔を刺激した。


その瞬間何故か身体はふらつきながらも立ち上がることができ、刀を握る手に異常なほど力を入れながら一歩、また一歩と赤兎に向かう。



【・・・我慢するのじゃ。】



耳にいつもの頼りなる声が聞こえた瞬間、手の平に現れた痣の部分をバツンッ!と食い千切られる。



「ーーっ!!!」



激痛と飢餓に頭がおかしくなりそうだったが、痣が消え、傷が霧で治ると俺の思考はびっくりするほどクリアになる。



ーー瞬間、突きこまれた槍を既で何とか躱した。



頭を狙った致命の一撃を避けながら何とか赤兎から距離を取る。赤兎はお腹を押さえながら片手で槍を構えていた。



「ーーっ! とりあえず第一段階は成功か!?」


【あぁ、次は赤兎の正気を取り戻す。が、その前に、、、】



ヨルに釣られて視線を向けると、先には不快そうに胡座をかいて大口を空けた狂餓鬼がいる。

狂餓鬼は勢いよく口を閉じて歯を打ち鳴らした。



ーーカアンッ!



「ーーぐっ!?」



その音を聞いた途端にまた飢えを感じ始める。

喉が渇き、膝をつく、そして真上から迫る穂先をなんとか転がるようにして躱した。


俺はなんとか自分のポケットを弄り、よくスーパーで売られている炒った大豆(福豆)を取り出して口に放り込んだ。



・・・事前対策その1だね。



魔を射るという由来から豆まきでつかわれてきた市販の大豆。洗礼されてれば本当にダメージも与えられるみたいだけど流石にそんな時間はなかったので普通に買ったやつだけどね。


それでも魔除けの効果はあるみたいで食べれば一時的に呪いへの抵抗が得られるらしい。


実際、食べてからはお腹は空いてるけど意識が朦朧とするほどではなくなった。



「口、パッサパサなんだけど!?」


【その程度我慢せい! ほれ、突きが来るぞ!】



机から飛び上がった赤兎は片手で突きを放ってくる。

その速度は恐ろしく、一突きで2回分の突きが飛んできた。


俺はそれを腕と腹で受けてしまい、血を垂らしながらよろめく。



・・・こいつ、普通に強くね!?



次に槍を薙刀のように横薙ぎで振り抜かれる。刀で受けようと防御を固めたが、その槍は待ち受けていた左側からでなく右側から振るわれた。



「ーーぐっ!?」



日道連、対魔槍術 鏡写し


事前に情報もらってたのにすっかり忘れてたよ!!



【主、上じゃ!】



吹き飛ばされ、よろめいていると上から大きな口が開かれて迫る。


ズドンッ!と大きな衝撃と共に床を食い破って下の教室へと落とされた。


湊を喰って閉じられた口は爆発するように軌跡が走り、バラバラに斬り裂かれる。



「ゲホッ、ゲホッ、、、。普通に、、、きちぃ、、、。」



血を吐きながら、なんとか立ち上がる。

この前より圧倒的にやり辛いし赤兎の実力もたけえ。



・・・まずい、このままじゃ喰い負ける。



【主、まだいけるか?】


「当たり前だ、まだ動けるからな。」



目の前に赤兎が降り立つ、目を血走らせてヨダレを垂らす姿はゾンビみたいだが能力は高い。


ほんと、やり辛いな。



「・・・でも距離は取れたぞ。」



1度目の呪いは強制力が高すぎて抵抗なんて考えることすらできなかった。だがこれさえ解ければ2回目からの呪いはそこまできつくない。


今なら狂餓鬼の妨害が一切ない状態で解呪できる。



「さ、事前対策その2だ!」



腰のベルトに隠し持っていた赤黒い縄を取り出す。



『なにこれ?』


『血の染み込んだ縄だ。』


『気色悪いんだけど?』


『・・・一般人の血だけならむしろ怪異に対してプラスに働いちまうが、これには血と柊の樹液が混じっててな。血の匂いに引き寄せられた鬼を毒で縛りつけ、その動きを止められるはずだ。』



灰円と交わした会話を思い出しながら俺は縄を取り出して迫る槍を何とか躱し、滑り込むように机の下をくぐると、振り抜かれた槍が机に突き刺さった。


その机を蹴りつけて相手のバランスを崩して近づき、相手の背中に手をついて飛び越えたあと、縄を引っ掛けた。

そのままグイッと引っ張り赤兎は身動きが取れなくなる。



「ヨル!」


【うむ!】



俺の呼びかけに応え、ヨルは霧で赤兎を包み込んだ。

動けなくなった赤兎はそのまま飲み込まれ、少し待つと霧が晴れる。



「・・・っは! う、うまくいったすか!?」


「ぷはぁーーー、あっぶなかったぁ!!」



正気に戻れた赤兎は記憶がなかったのか困惑しているが、事前に可能性として教えられていたのですぐに状況を理解した。


俺はまず第二段階を乗り越えたことに安堵する。



【おい、まだ終わっとらんぞ!!】



ヨルの叱責に俺達は同時にその場から飛び退く。

上から振るわれた黒い細腕は、見た目とは想像のできないほどの剛力で床を軋ませる。



ーーガチンッ!



再び打ち鳴らされた歯の音と同時に身体がふらつく。

その隙に振り払われた腕をモロにくらい、廊下に飛ばされた。


追撃しようと振り上げられた腕が下ろされる前に福豆を食べて飢餓を薄れさせた赤兎が突きを放つ。


先ほどの飢えで意識がなかったときと違い、研ぎ澄まされた一突きは簡単に狂餓鬼の頭を貫く。



・・・が



「・・・ま、無理っすよね。」



ーーガチンッ!



今度は赤兎の動きが止められる。

赤兎は俺と違って喰らった傷を治せるわけではないので俺はすぐに動いて刀を振るい相手の両足を斬り飛ばす。


狂餓鬼はそのまま倒れそうになったが、一瞬で再生させた足で踏みとどまった。



「ーー治るの早すぎだろ!!」


【儂らも言えぬがな。】



そうだねごめんね!

いくら攻撃してもポーションとかで回復されるRPGの敵の気持ちがわかったよ!



【ぐおおおおお!】



ーーガチンッ!



また飢餓に襲われるかと思ったが、今度は真上に口が現れ、真下に落ちてきた。


さっきも一度受けたが、歯に潰されないようにわざと自分から飛び上がって刀を振り回す。それだけで何とかこの食いつきは回避できる。


その度にヨダレでベトベトになるのは勘弁してもらいたいけどな。


心の中で愚痴りながら俺は口撃を凌いでいた赤兎のフォローをしようと走り出す、狂餓鬼と赤兎の間に割って入って応対する。



この狭い教室のなかで何とか刀を操り狂餓鬼を近づかせない。



「さ、やるぞヨル。」


【うむ。】



狂餓鬼、と言うより鬼にいくら攻撃しても再生されてしまう。

ならどうやってダメージを与えればいいのか、その答えはすでに得ている。



「・・・今だ!」



俺の合図と同時に俺の体から黒霧が吹き出して教室中を闇が覆う。

狂餓鬼は見えないなか、前に蹴りを入れてきたので何とか俺はそれを掴んで耐える。



ーーぐっ!? ほ、骨が折れた。



アバラの骨が折れ、内臓に突き刺さったのか息がしづらく保ちづらい。それでも必死に足に力を込めて耐え続けた。



・・・さ、お膳立ては充分、、、だろ?



闇とはまた違う黒霧に包まれて狂餓鬼はこちらを見失う。目の前の鬼は掴んでいた気配を頼りに攻撃を仕掛けてきた。



「対魔槍術 破位弐式 双槍龍撃!」



放たれた一撃は二対の龍を纏わせ光と共に狂餓鬼に殺到する。


背中から狂餓鬼の腕と首を吹き飛ばし、狂餓鬼はそのまま倒れ込んだ。



・・・倒した、か?



【ぐおおおおお!!】



腕をついて狂餓鬼は勢いよく体を起こし、腕を乱雑に振り回す。赤兎はモロに食らって壁に打ち付けられ、俺は何とか暗闇のなか避けきった。



「全然元気じゃねえか!」


【見てみぃ、再生はしとらんじゃろ。・・・じゃが、予想より元気じゃのぉ。】



先ほどまでまだ余裕がありそうだった狂餓鬼から殺意が撒き散らされ、まるで獣のような唸り声を上げる。


すると細い体からバキバキと2本の腕が背中から生やされた。



「・・・第二形態?」


【ふむ、これは知らんのぉ。】



吹き飛ばされた腕と首の一部は再生していないが、先ほどよりも体躯は大きくなり、明らかに邪悪さは増した。



「そう簡単にはいかないよな。」



俺は引きつった笑みを浮かべながら、刀を構えるのだった。


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