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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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16/19

過去



収縮する瞬間に思わずまぶたを閉じていた。

押し潰されるような衝撃を覚悟したが、特に何の痛みも音も無く首を傾げる。


瞼の外から明るい光が感じられ、ゆっくりと目を開けた。



「・・・ここは?」



俺達はエレベーター横に作られた自販機とベンチが並ぶ休憩所のような場所に座っていた。



【異界ができた場所、僕の生まれた場所だね。】



前には後ろで手を組んだ迷い子が立つ。


彼はニコッと笑みを浮かべ、異界と同じお坊ちゃんの様な服装のまま、黒かった目は普通の人と同じ目になっていた。



「誰お前?」


【・・・酷くない? 怪異の元は人だからね。人の姿になるくらいわけないよ。】



迷い子はそう言って笑いながら肩をすくめた。


試しに頭を掴んでギリギリ力を込めると迷い子は痛そうにジタバタする。



【痛いんだけど!? 何の確認だよこれ!】


「ほんとに実体あるのかなーって、あとちょっとした憂さ晴らし。」


【異界捨てたんだから勘弁してよ!】



いやその重要性俺にはよくわからないから。


痛みに震えて涙目になる迷い子を眺めていると溜飲が下がったので解放してあげた。



【・・・主、言っとくがここは元の現界じゃからな? あまり騒ぐと目立つぞ。】



言われて後ろの窓から外を見ると行き交う車に外を歩く人々、そこでようやく俺は元の世界に戻ってこれたことを自覚する。


この休憩スペースが人通りの少ない場所だから良かったけどフロアの真ん中とかに解放されてたら目立って仕方なかったな。



・・・さて、とりあえず現実に目を向けるかな。



「・・・すー」


「【【・・・。】】」



異界の中で掴んでいた腕を抱えるようにしながら琴音さんは寝息を立てていた。


・・・相当体力を消費したんだろう。


まぁ休んでるのは構わないけど、問題は腕に当たる感触かな? さっきまでは意識しないように会話に集中してたけど落ち着くと否応なく意識してしまう。



【・・・ガキじゃの。】



うっせぇ。



相変わらずのヨルの呆れたセリフを無視して、少し待つと琴音さんは軽く身じろぎをして目を覚ます。

目を擦って「ふぁ?」と息を漏らしたあと、彼女はそっとこちらを見上げた。



「・・・おはよう?」


【午後じゃがな。】



それ以外になんて言えばいいか分からないからね。

「とても良い心地でしたよ」とでも言えば良かったか?うん、好感度BIGダウンだね。



「・・・あっ、す、すみません。」



意識が冴えてきたのか琴音さんは徐々に顔を赤らめていき腕を離して距離を取った。


その様子に俺は少しホッとする。



・・・良かった、あの異界での出来事に少し塞ぎ込んでしまうかと思ったが杞憂だったか。



もちろん今は目を覚ましただけで忘れてるだけかもしれないが、ここで落ち込まれるよりはマシだ。


全く、、、とんだ日曜だよ。



「琴音さん、起きたなら動けるか?」



俺はできるだけ不安を与えないように笑みを意識しながら声をかけると、、、



「・・・は、はぃ。」



どこか消え入りそうな細い声が返ってきた。


俺はその反応に冷や汗を流す。


や、やっぱあのセリフキモかったか?

確かに俺も恥ずかしくて今すぐダッシュして逃げたいくらいだけどそれをしたら完全に奇行だし立ち直れなくなりそう。


俺は湧いてくる羞恥心を何とか我慢しながらとりあえずスマホを取り出して今の時間を確認する。


時刻は17時を示していた。



「・・・さすがにもう遅いし帰るか。ま、他の買い物は急ぎでもないしまた今度にでもしよう。」



そう提案すると琴音さんとヨルは頷く。

そして俺は残った一人?を見下ろした。



「・・・お前はどうするんだ?」


【え、拾ってくれるの?】



迷い子はからかうように笑いながらそう返してきた。

俺は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも特に否定はしない。


そんな俺の反応に迷い子は驚いたあと苦笑する。



【ずいぶん優しいね。でも平気だよ、そもそも迷い子は居場所、、、というか帰る場所を作れないんだ。仮に出来てもそこにたどり着くことはないしね。】



その言葉に俺は目を見開く。


まさか怪異自身にも自分の力というか性質は適用されるのか。


ならこいつはずっとこれからも存在する限り迷い続けるしかないってこと?



「・・・平気か?」


【なんの問題もないよ、生まれた時からだし気にしたこともないからさ。】



そう言って振り返った背中に少し罪悪感を感じる。別に巻き込まれたのはこっちだし異界を閉じさせたことに後悔はしてない。それでもどこか後ろ髪引かれるような感覚はある。



【・・・ふむ、では一つ助言、というか根無し草の脱却手段として言えることは契約者を見つけると良いぞ?】



去ろうとしていた迷い子はヨルの言葉に首を傾げながら振り返る。



【・・・えぇ、それ関係あるの?】


【あるぞ、契約を結んだ場合は基本人間優位じゃからな。お前の怪異としての特質は薄れるはずじゃ。】


【うーん、一応記憶にはとどめておくよ。】



迷い子はそう言い残して今度こそ姿を消す。


俺は袖のなくなった埃っぽいジャケットを脱いで片手に持った。だって爆発を食らってますからね、若干焦げ臭いし目立つ目立つ。


帰り道は特に会話もなく無言。

ヨルも疲れたのか影に潜んで何も喋らなかった。




ーーー




「つっかれたぁ。・・・悪いな、散々な休日になっちまって。」


「大変でしたけど楽しかったこともありましたから。よければまたどこかに連れて行ってください。」



流石に今日はバテたので帰り道でお弁当を買ってきて夕飯を済ませることにする。

琴音さんは何か作ろうかと提案してくれたが、彼女だって疲れてないわけないので今回は遠慮させてもらった。


そのまま食べ終わって順番にお風呂に入り、寝る準備をしたところで予想外の展開が訪れる、、、。



「・・・え? と、隣で寝たい?」


「(コクコク。)」



俺は即座に心の中のヨルに助けを求める。



(ヨル、緊急事態だ。俺はどうすればいい?)


【寝てやればよかろう、以上。】



ブツッ



え、会議終わり? てかそんな通話切るみたいに遮断できんの?


俺はすぐに切り捨てられたことに絶望しながら、ベットの上で頭を抱えそうになるのを我慢しながら悩む。

てかどうして急にこんな提案をしてきたんだ?元々ベットの隣に横付けで布団敷いてるし隣っちゃ隣なんだけど、、、。



「い、いけません、かね。」



どこか苦しそうに影を落とす彼女の顔を見て、俺は諦めたようにため息をついた。



「・・・流石に同じベットはあれだから机を片付けてそこに布団をしこう。俺は座椅子に寝るからそれなら隣になるだろ?」



俺は机を端に避けて座椅子に毛布と枕を持ってくる。

琴音さんが布団を敷いて寝転がったところで電気を暗くしいつでも寝られるようにした。


無言で天井を見ながらチラリと横を見るとこちらを向いて寝転ぶ琴音さんと目が合う。



「・・・寝られませんね。」



ふふっと微笑みながらそう言われて俺は視線を逸らす。・・・うん寝られないよ、多分君とは別の意味でね。



「そういう時は羊を数えるといいらしぞ。目を瞑って数えてれば寝られるらしい。」


「・・・羊、ですか? もしかしてダジャレ?」



SheepとSleepだからね、ってやかましいわ。

え、羊数えるのってそういう事?ただのダジャレだったの?


受け入れ難い仮説に戸惑っていると、琴音さんは一度クスリと笑ったあと小さいがよく通る声で話し始める。



「暮崎さん、私、忘れていたことを思い出しました。」


「・・・忘れていたこと?」


「いえ、正確には忘れようとしていたことですね。」



俺は腕を枕にしながらあくびを漏らして上から頭だけ出してるヨルを全力で睨んだ。



「・・・白蝶家は生贄の一族なのです。」



今の時代、聞くことのない不穏な響きに俺は眉をしかめる。理解不能な現象は次々に解き明かされていく現代で、人を捧げるなんて前時代的な考えがのこっていたことに驚く。



「家に生まれた次女は世継ぎを残す為の長女や家を継ぐ長男の代わりに『白姫様』のもとに遣わされるのです。」



俺は補足説明を求めて天井から頭だけ生やして俺を驚かせたゴミクズに視線を送った。



【ちょっとしたお茶目なのじゃがなぁ。】



お茶目で頭を生やす奴がいてたまるか。



【白姫と言うのは言わずもがな白蛾鬼じゃな、よく信仰や恐れられておるものにそういった別名がつくことは多い。そして奴は長いことあの土地に座して力を溜め込んでおったようでな? 力が強い存在を縛るにはそれだけの対価が必要じゃ。人一人程度なら安上がりな方じゃよ。】



安くねえよ、命をなんだと思ってやがる。

でもまあ人の命一つで噴火や地震が抑えられるって確約が得られるなら安いって考えも生まれるか。



「・・・生まれた時から私の与えられた居場所は地下の一室だけでした。最初からそうだったので特に疑問を抱くことはなく、人生とはそういったものなのだと納得していました。」



俺は脳裏に異界で見た冷たい地下の一室を思い出す。

牢屋というほど劣悪ではないが、窮屈な一室。あそこに琴音さんは居たのか、、、。



「人との関わりは給仕に来てくれる使用人の方だけ、それも会話はしないように厳命されていたようです。」


「・・・琴音さんって言葉はどうやって覚えたの?」


「乳母さんがいましたから、言葉はその方から。」



マジで家族の繋がりが薄すぎる。

家族ってなんだっけ?



「私の命の終わりは決まってました。本とかで得られるものはあっても私の中では物語のなかの幻想、得られるものでも望むものでもない、そう、思って、、、いたのですが、、、」



そこで琴音さんの言葉が歯切れ悪くなる。

どこか辛いような悲しいような声音に変わった。



「・・・ある日、新しく来た一人の使用人の方によって私の日常は壊されたのです。」



その言葉で俺は少し聞いていた話を思い出す。


そもそも彼女の料理スキルや家事は使用人に教わったと言っていた。使用人達は接触は最小限にされていたと言うのにおかしいとは前から思っていたのだ。



「その方はめんどくさがりなのか、すべてを諦めて諦観していた私を見るなり『初めまして、金払いがいいから雇われたけど家事とかあまり好きじゃなくてね。色々教えるから頑張ろっか。』て言われたのです。」



何だそいつ、めちゃくちゃ使用人としてダメじゃね?

どうやって当主とかの面接突破したの?


彼女は笑いながらクスクスと口に手を当てて笑っている。



「今まで人形に触れるかのように接してこられた私にとって、その人はあまりに恐怖の存在でした。」


「あ、恐怖なのね。まあでもそりゃあ急にガラの悪い絡まれ方したら恐怖か。」



なおかつ琴音さんは文字通り箱入り娘だったぽいっしね。それは恐怖だわ。



「でもそこから私の窮屈な日常は変わりました。初めて怪我して初めて怒って、初めて泣いて初めて笑い続けました。」



彼女は目を瞑り、楽しい過去を思い出すように微笑む。



「・・・でもそのおかげで私は、生贄になんかなりたくないって思ってしまったのです。」



生きることの楽しさ、人生が色づいたら失うのが怖くなる。そう思うのは当然のことだ、、、でも、、、



「・・・変わらなかったのか?」


「いえ、暮崎さんの知っている通り、最悪な方向に変わりました。」



俺は地獄のような惨状だった屋敷を思い出す。

死体はなかったが、血に塗れ、痛々しい跡が残る屋敷を、、、。



(でも生贄になったから琴音さんは白蛾鬼に憑かれたんじゃないのか? ならあんな惨劇が起こるのはおかしくない?)


【・・・上手く儀式が終わればな。不測の事態に陥れば、簡単に現状など壊れる。】



つまりあの状態は不測の事態が起こったからなのか。

ま、そうでもなきゃ長年続いた名家が急に没落するわけないわな。



「・・・やはり父は彼女の存在を許してはくれませんでした。彼女はある日を境に私の元に来なくなりました。」



・・・嫌な想像ばかりが湧いてくる。


いや、いくらなんでも追い出されたとかそんな話だろ。変にマイナスな方向に考えたって仕方がない。琴音さんはどうなったのか知らないだろうからな。



「でも彼女は色々なものを残してくれました。よく家事を手伝わせていただいた時に今まで壊れやすい人形に触れるかのようだった使用人達も父達にバレないように優しく接してくれるようになったのです。」


「・・・へぇ、恐怖心が薄れたのかな。」


「私にとって絶対に開けられないと思っていた扉はいつの間にか、驚くほど軽くなっていたのです。」



閉じられていた扉。

恐らく鍵は最初からかかっていなかったのかもしれない。でも彼女にとってその狭い世界から出ることはとてつもない勇気が必要だったはずだ。


なのにその扉は簡単に開け放たれた。



「・・・なんで急にそんな話を?」



俺は気になっていた事を聞いてみる。

すると琴音さんはキョトンとしたあと不思議そうに笑った。



「・・・なんででしょうね。あの暗い空間にいて昔の生活を思い出していました。息苦しくて、出口が見えなくて、誰にも、、、見つけてもらえなくて、、、。」



琴音さんは震えを我慢するように肩を抱く。

手を伸ばしそうになるのを我慢しながら震える彼女に対してかける言葉を探したが、特に何も思いつかない。



「でも、あのときスマホから暮崎さんの声が聞こえて、夜那さんを思い出しました。」



・・・夜那さん?


扉を空けてくれたっていう例の使用人かな?



「・・・暖かくて引っ張り上げてくれる優しい手。もう二度と触れることはできないと思っていました。」



彼女は宝物を愛でるかのように優しく手を取られた右手を擦る。俺はあまりの気恥ずかしさに視線を彷徨わせた。



・・・少し複雑だけどな。



俺はその人じゃない、重ねられても代わりにはなれないから。そこまでのことをした記憶もないしね。



「そ、そう言えば私、暮崎さんに謝りたいことがありました。」


「え?謝りたいこと?」



彼女からわがままを言われたり迷惑をかけられたことなんて一切ない。あるとすれば心をドッキドキさせてくることだけどそれは俺の問題だしなぁ。


心当たりのない俺は首をかしげ、何を謝りたいのか答えを待つ。横を見ると彼女は口を両手で隠す。



「え、えっと、焦っていたとは言え、つい、暮崎さんの事を名前で、、、。」



・・・・・・・・・え、そんなこと?



確かに言われて思い出すと迷い子の異界で名前を叫ばれた気がする。むしろ覚えていたことのほうが驚きだね。



「別に名前呼びくらい気にしないよ。むしろ堅苦しいし普段から名前で呼びあってもいいんじゃない? 俺も普段から名前で呼んで、、、るし、、、。」



そこまで言いながら俺はあることを思い出した。



『ーーっ! 琴音!ここだ、ここにいる!』



あっれー?そう言えば俺、ドサクサに紛れて呼び捨てで叫んでない?


再び自分の失敗を思い出して顔を覆う。慌て過ぎじゃないか?俺。



「いいんだ、呼び方くらい気にしないようにしよう。」



間違いってのは忘れるに限るからね。

てか別に名前の呼び方なんてなんでもいいでしょ、うんうん。



「・・・・・・・・・では。」


「うん?」


「湊さん、今日はありがとうございました。おやすみなさい。」



最後に琴音さんはそう言って可愛くはにかんだあと向こう側を向いてしまった。


突然可愛く名前で呼ばれた俺は動揺激しく思わず顔の熱を感じてしまう。



・・・違う!その夜那さんって人と重ねてるだけだ!勘違いすんな勘違いすんな勘違いすんな勘違いすんな勘違いすんな勘違いすんな!!



心臓が跳ねるようにドッキドキで寝れるのか心配になりながら必死に目を瞑る。



【・・・う、鬱陶しいのじゃ。】



どこか上で苦しそうな声が聞こえるのを無視して何とか心臓を落ち着かせるとようやく眠気がやってきて眠りにつく、だって迷い子対処して疲れたからね。



頑張ったんだから気持ちよく寝てよかろう。



また灰円から貰える報酬のことを考えながら、意識はゆっくりと闇に落ちていった。




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