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夜暮れに語る怪異奇譚  作者: たんぽぽ3号


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15/19

出口



面倒くさがりながらヨルの元へ向かうと、そこには何故かボッコボコに顔面を殴られた迷い子とヨルがいた。



・・・お互い小さいし子供の喧嘩かな?



【ぶべぇーー、ごめんなざい、、、。】


【泣き真似などするな気色悪い。貴様、存在してる年月でいえば古株じゃろう。】


【・・・おばちゃんに言われたくな



ーーバコンッ



禁句を言ってしまった迷い子の頭にヨルは拳骨を落とす。


小さい子供が痛そうに頭を押さえながらヨルを睨んだ。



【馬鹿になったらどうすんだよ!】


【長く生きとるくせに世渡りの仕方もわからぬ阿呆なら馬鹿になっても変わらんだろう。】



鋭い眼光で握り締めた拳をちらつかせるヨルに迷い子はビクッと震える。

と言うか、さっきまでと喋り方も雰囲気も違うくない?



「・・・どういう状況?」


【あっ、お兄ちゃん、僕の幻覚どうだった? すごかったでしょー、グルグルのグニャグニャで。】



おもちゃでも見せびらかすようにキラキラした目でこちらを見てくる迷い子に困惑してヨルに助けを求める。



【・・・これが此奴の本性じゃよ。子供と変わらん、無邪気でいたずら好きで人の善意につけ込む怪異じゃ。】


【あっはー、だって今更手を差し伸べられたって遅いもん。僕は助からなかった人たちの思いの怨念、何をいまさらって気持ちになっちゃうんだよね。】



・・・。



にこやかに笑ってそう言った迷い子の顔の横を鋭い蹴りが通り過ぎた。



【ーーひっ!?】


「・・・お前が置き去りにされた悲しさから生まれた怪異だってのはわかったが、だからなんなんだ? 確かに悲しくて辛いだろう、でもそれはお前らの話で俺たちは何もしてない。なのにただ、心配して手の差し伸べたあいつを逆恨みでこんなクソみたいなところに閉じ込めたと思うと心の底から腹が立つ。」



意識するだけで現れる刀をゆっくりと持ち上げ相手の首元に添える。

迷い子は子供の姿でガタガタ震え、真っ黒な目に涙をためて流した。



・・・傍目から見たら刀で子供を脅してるヤバいやつだな。



【主、落ち着かんか。此奴を脅しても何も解決せんぞ。】


「・・・っち、気分悪い。」



俺は刀を引くと、刀は霧になって霧散する。

仕方ないので俺はその場に座り込み、胡座を組んで座り込む。


不快そうな視線はそのままに、詰めるように目を細めて頬杖をついた。




「・・・いい加減ここから出せ。あと琴音さんはどこだ。」


【え、えっと、出方はよくわからない、かな? あの女の人は近くにいるけど、、、。】



出方がよく分からない?

いやいや、異界はお前ら怪異の縄張りだろ?普通に出してくれよ。



【・・・いや、それは違うぞ主。確かに儂らが生まれた場所に異界は生じる。しかし異界と怪異は別物なのじゃ。】


「・・・何言ってんの?」



あまりに意味がわからない回答に思わず困惑の声を漏らしてしまった。

ヨルもよく分からない事を言っていることを理解しているからか腕を組んで難しい顔をした。



【・・・なんと言えばいいのかのぉ。儂らが生まれた場所に異界は作られるが、異界の主がいなくなっても異界は閉じんのじゃ。家主のいなくなった民家が勝手に消えぬようにな。】


「何の意味があって?」


【知らぬわ、初めからそのようなのだから儂にわかるわけあるまい。人のように研究するわけでもないしな。】



なんか話が難しくなってきた。



「でも好きに力使ってたろ?」


【主だって自分の部屋のものは好きに使うじゃろ? 儂らも異界内部では自分の思うように動かすことができる。】


【異界があるのとないのじゃ自由度が段違いだからね。余程力が強ければ異界を捨てても存在できるけど僕のように力が弱い怪異は異界がないと満足に狩りもできないんだ。】



へぇー、じゃあない方がいいな。ぶっ壊していい?


てか捨てるとかできるんだ。

俺はチラリとヨルに視線を送った。俺はヨルが異界とか使ってるの見たことがない。知ってるのは霧と刀だけだ。



【あぁ、儂はだいぶ前に異界を捨てておるからな。一度捨てた異界は二度と手に入れられん。まぁ前例がないだけでできるかもしれぬがな。ちなみに壊れたりしても戻ることはない。】


【姫様みたいに力が強ければ異界なんてただの檻だもんね。僕にとっては実家みたいだけど。】



ヨルの説明が不足してるところを迷い子が補足してくれる。別に怪異の生態を知りたいわけじゃないけどこれから関わっていくんだし知っていることに損はない。



「んじゃなに、出るには壊せばいいのか?」


【簡単に言うが難しいぞ? 異界の主がおらねば潰すのは容易じゃが、このように存在してる時点では酷く労力が必要じゃ。】



俺とヨルは二人して正座させられている迷い子を見る。迷い子は冷や汗をダラダラ流し始めた。



【・・・い、異界は壊してもいいから存在は助けてくれたりしない?】


「とりあえず琴音さんのところに案内しようか?」



脅された迷い子は半べそかきながら俺達を扇動して前を歩く。完全にいじめにしか見えないけどこいつの年齢は俺よりはるかに上っぽいしこの中で一番弱いのは俺だ。遠慮しなくていいだろ。




・・・・・。

・・・・。

・・・。




二階ほどエスカレーターで上のフロアに行くと、急に空気が重くなり、嫌な感覚が全身によぎった。

でもどこか知ってるような、、、?



【・・・え、ど、どういう事? ここ僕の異界なのに操れない?】



他の階とは違い、フロアはどこか薄暗い。

迷い子が困惑して何か手をかざしたりしたが、特に異変が起きることはなかった。



「・・・どゆこと?」


【・・・よくわからぬ、儂もこのようなことは初めてじゃ。】



とりあえず想定外の事態が起こってることだけは理解して注意深く進む。

すると半円形の黒いドームが目に入った。



「なんだ、あれ?」



暗いためただの黒い球にしか見えなかったがよく目を凝らすと半透明で中に琴音さんが蹲っているのがみえた。


俺はすぐに走り出して、半球状のドームに向かって手を伸ばす。



【待て主!】



ーーバチぃ!



そして弾かれる音と共に片腕が吹き飛ばされた。



「ーーっ!?」



激痛に歯を食いしばりなんとか耐える。腕は霧ですぐに治された、次は霧をまとわせてもう一度、、、!



【だから待たんか!】



すると手を上から押さえられてヨルに止められてしまう。



【落ち着け、怖い顔をしておるぞ。・・・この黒い球は拒絶の色合いが強い。無理矢理こじ開けようとしてもこちらが傷つくだけで壊せわせぬ。】


「ーーならどうしろと!」


【だから慌てるな、頭に血を上らせてゴリ押ししても解決せん。怪異を破るのに必要なのは知識とコツじゃ。力でのゴリ押しは余程強い霊力がない限り無茶だと理解するのじゃ。】



ヨルに諭されて俺は落ち着くように一度息を吐いた。

そして睨みつけるようにドームを見たあと迷い子の首根っこを掴む。



【・・・へ?】


「へ?じゃねえよ。何だこれは説明しろ。」


【いやわからないよ!僕もこんなことは初めてなんだ! 今までたくさんの人を迷わせてきたけどこんな変なことが起こったことはないよ!】



・・・どういう事だ? 琴音さんの何かが怪異の異界に変に作用したってことか?


でも彼女の白蛾鬼はヨルが喰らったはずだしもうただの一般人のはずじゃ、、、。



【・・・もしかしたら琴音の潜在心理が関係しておるのかもしれん。あの娘には何もない、それが他者を拒絶し、行く道を定められない彼女の進む道を閉ざしておる。】



そこで俺は目を見開いた。



・・・そうか、彼女は俺たちとの生活では常に笑顔で気丈に振る舞っていた。それでも心の中では孤独と寒さに耐えていたのだろう。そんなのたった数日で癒えるものじゃない。


きっとまだ迷ってる、先が見えてない、だからこそこの『迷い子』たる異界に合致してしまったのかもしれない、、、。



「・・・何が勘違いだ、腹が立つ。何も彼女を救えてないじゃねえかよ俺は。」


【責めるな、主はよくやっておる。ただそれ以上にあの娘の傷が深いという話じゃ。】



無力感に苛まれ、悔しさに歯を食いしばる。

そりゃあすぐに居場所になれるとは思っていないし驕ってもない、でもここまで拒絶されると来るものがあるな。



「・・・でもどうすればいい?」


【それは、、、】



ヨルもいい案が浮かばないのか苦い顔をしている。

横にいる迷い子もアタフタするだけだし解決策はなさそうだ。



ーーズズッ



『、、、ここ、どこ、、、どこに、、、行けば、、、わからない、、、わからない、、、ずっと、、、暗い、、、。』



微かに耳に届いた声に俺とヨルは顔を見合わせる。

すぐに前に飛び出してドームに近づいた。



「琴音さん!琴音さん、きこえるか!!」


【琴音!】



向こうの声が聞こえたのならこっちの声も届くかもしれない。そう思って2人して端に寄って声をかけたが、なかの琴音さんは頭を押さえてうずくまるだけだ。



「くそっ! 聞こえないのか!?」


【完全に閉ざされてるわけではないのか、ならあときっかけがあれば、、、!】



きっかけ、、、言われて俺はポケットに入れていたスマホを取り出した。

俺と彼女の繋がりなんてほとんどない、今あるのはこれだけだ。



すぐに登録しておいた番号をタップして通話をかける。



たのむ、出てくれ!



半透明のドームの向こうで、転がっていたスマホの画面に明かりが灯った。まずはつながったことに安堵して、あとはスマホを手に取ってくれることを願う。


すると、琴音さんは身動ぎして、辛く苦しそうな顔を上げながらスマホに目を向けた。

そして頭を押さえながら弱々しくもスマホに向かって手を伸ばす。



『、、、湊、、、さん?』


「琴音さん!よかった、動けるか!?」



琴音さんは耳にスマホを当てながら辺りを見渡す。しかしこちらの姿は見えないのか焦ったように涙を浮かべている。



『湊さん! ど、どこですか、、、! 真っ暗で何も、、、!』


「落ち着け、近くにいる!直ぐ側にいるから!」



必死に呼びかけるが彼女はその場から動くことができない。先程真っ暗と言っていたしなかは暗闇なのか?



『何も、、、何も見えません、、、。どこに、、、いけば、、、。』



彼女の悲痛な言葉に俺は歯を食いしばって拳を振りかぶった。



【主! 何をする気じゃ!】


「ぶっ壊す!!」



ーーズオオオッ!!



今まで経験したことのない量の黒い霧が自分の身体から放たれる。怒りを燃料に漏れ出た霧をすべて腕に集中させた。


ミシミシッと軋むような音をさせながら腕から血が舞う。それを無視して獣のような咆哮を上げながらドームの壁に叩きつける!



ーーズガアアアン!!



爆発したかのように大きな音を立てながらドームを俺の拳が貫通した。

割ることはできず、腕一本分の小さな穴しか空かなかったが構わない。



「ーーっ! 琴音!ここだ、ここにいる!」


「湊、、、さん?」



穴が空いたからか彼女の声が俺の耳に届く。

俺は閉じようとするドームの壁の痛みに耐えながら必死に叫んだ。



「ーーっ、まだ見えなくたっていい!先が見えないのは怖くて、酷く不安だと思う! でも、俺には道を照らすことは出来なくても、手を引くくらいは出来る! 道なんていくらでもある、出口なんていくらでも作れるんだ! だからそれまでは、、、俺がお前の手を引いてやる!」



痛みに意識を失いそうになりながら必死に叫ぶ。

届くかは分からない、あとは彼女が立ち上がることを信じるしかない!


目を瞑って長い、長い痛みに耐えていると、そっと優しい温もりを感じた。



俺は目を見開いて前を見ると黒いドームには徐々にヒビが入り、ガラスが割れるような音を立てながら霧散する。


その向こうには泣きそうな顔を浮かべる琴音さんが立っていた。俺は近くに感じられた彼女に思わず安堵の息を漏らした。



「・・・よかっ、た。無事、だったか。」


「ーーっ!どうして、こんなにボロボロになって、、、! わ、私に、貴方に、助けてもらえるほどの、価値なんて!」 



涙を浮かべながら途切れ途切れに彼女は言葉を紡ぐ。

彼女の心の底にある確かな弱音。俺はそれを聞いて脂汗を流しながらもぎこちない笑みを浮かべた。



・・・価値、か。



「んなもん、美味しいご飯を作ってくれて、笑顔で迎えてくれて、一緒にいてくれる、だけで充分、だ。」


「・・・そのようなこと、誰でも!」


「俺も、長いこと、一人でな、母さんは、子供の頃に、事故でいない。父さんは、皮切りに、仕事に、没頭した。おかげで、長いこと、一人で暮らしてた、、、。別に、悠もいたし、寂しくはなかったが、それでも、誰かがいてくれる、ってのは、安心、出来るんだよ。」



今まで悠以外には漏らしたことのない俺の奥底にある弱音。おそらく彼女の境遇に比べれば遥かに弱いだろうがそれでも伝えようと思った。


喉が枯れたように声が出し辛い。叫びすぎて喉やったかもしれないな。



「・・・いいんだ、価値ってのは生きていれば勝手につけられる。でも自分への価値は自分でも付けられるんだ、自分を、低く見積もって、他人の価値観に負けちまえば、押し潰される。負けんなよ、お前の価値は俺にとって、替えがきくような物じゃ、ないんだからさ。」



何とか彼女の考えを少しでも変えられないかと話し続けたが、いい加減ネタが尽きてきた。

あと何言おうかな?



「・・・・・。」


「・・・?」



次に何を言おうか考えていたら一度手がキュッと握られ、沈黙が下りた。

不思議に思って顔を上げると目の前の琴音さんは顔を赤くさせて俺の手を握っている。


俺はなぜ何も言われないのか自分の言動を見直してみる。一言ずつ思い出していくと俺の顔も熱くなってきた。



・・・俺なに言ってんの!? なんかめちゃくちゃ恥ずかしいこと叫んでねぇ!?



さっきまでは痛みで涙を浮かべていたが、今度は羞恥で涙を浮かべそうになる。あまりの恥ずかしさにこの手を振り払って穴に入りたい衝動を必死に抑えながら助けを後ろに求めると、ヨルは腹を抱えながら床に突っ伏していた。



(てめぇ!! なに人の必死の説得を笑ってんだ!)


【い、いや、まるで告白みたいじゃと思うてな。最初は聞き入っていたのだが、徐々に歯痒い言葉になっていくことがおもしろ、、、ぷふっ!】



ヨルの追い打ちに俺の恥ずかしさは頂点に達する。

空いた片手で顔を覆って思わず顔を隠しながら何とか口を開いた。



「わ、忘れてくれ、なんかすげえ恥ずかしいこと言った気がする。よ、要はもう少し自信持ってくれよって話だ。」


「・・・は、はい、わ、分かりました。」



素直に理解を示されてチラッと顔を見るとどこか熱に浮かれたような表情をしている。


弱みに付け込む気はないのにほんとに何言ってんだよ俺は。



ーーググゥ



すると、ドームが消えて辺りの景色が歪んでいく。

どういうことだと迷い子を見ると彼はニコッと笑った。



【やーっと僕の言うことを聞いてくれるようになったよ。・・・約束どおり、この異界は閉じる。だから見逃してよね。】



それを最後に景色はキュッと収縮して、閉ざされるのだった。



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