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酸っぱいぶどう

さて、何の話だったかな。そうそう、なぜ私がこれほど成功できたのか、だったか。ふむ。まあ一言で言えば、チャンスを逃さなかったといったところかね。一見自分にとって無益と思える物でも、その実可能性というのは広がっているものさ。少し昔の話をしようか。




当時の私は少し荒んでいてね。決まった家なんかは持ってなかった。食事も他の所へ盗みに入ったり、弱そうな奴を脅したり、そんなもんさ。もっともあの時代だ。私と同じような奴もごろごろいただろうがね。




その日はいい天気の日でね。歩いていると、広いぶどう園を見つけた。ざっと見渡してみたが、ちょうど誰もいない。これはしめた。一つぶどうパーティと洒落込むか。そう思ってね、頂戴することにしたのさ。




ちなみに君は、ぶどうがどうなっているかしっているかい。なんだ知らないのか。あれはね、こう上の方に実がなるのさ。蔓っていうのかな。簡単に言えば高いところにある。ある種壮観とも言えるかもね。




よし、取ってやろう。私はそう思って、上のぶどうに飛びついたんだ。もちろん、できる限り大きな口をあけて。だけど悲しいかな。実までは届かなかった。自分で言うのもなんだが、それなりに身体能力には自信があった方でね、まさか取れないとは思ってなかった。だから、今のはたまたま。もう一度やれば取れる。そう思って跳んだんだ。何度もね。





そこから先はお察しの通り。私は届かなかったんだ。多分そこの園は、私のようなのが来ることが分かっていたんだろうな。なるべく高いところに実がなるように作っていたんだよ。だから私は届かなかった。私だけじゃない。他の奴らだって無理だったろうさ。





やがて私は疲れてしまってね。挙句帰ることにした。もっとも腹の虫がおさまらなかったから、一つ悪態をついたんだ。それが私の生活を大きく変えるとも知らずにね。なんて言ったと思う。難しいか。こう言ったのさ。




「あんなぶどう、酸っぱいに決まってるさ。」





それからどうしたって。その言葉を言った後、私はピンときたのさ。待てよ。酸っぱいぶどう、甘くないぶどう。これは使えるかもしれない。なぜだか分からないが、頭をよぎったんだ。





そこから先、私は色々試してみた。いわゆる調理法ってやつを一通りね。そうしていくうち、一つの結論に辿り着いた。もう何だかわかるだろう。そう、ぶどう酒だよ。やはり頼れるものはいつだって酒だ。





もちろん、すぐに上手くいくはずもない。散々失敗したし、他の連中にも揶揄われた。そんな物で酒を作ってどうするんだ、ってね。確かにそうかもしれない。だが、そう言われれば言われるほど燃えてくるってものさ。だからこそ、私は成功できたのかもしれない。




やがて、お目当てのぶどう酒が完成した。それまでの甘口じゃあない、キリッと辛いぶどう酒がね。売り出してみれば、右も左もそれに夢中さ。あの時私を馬鹿にしていた連中だって、今となってはそれ抜きじゃパーティーも出来やしない。





どうだい。私の話はこのくらいだが、良い記事になりそうかな。そうか、それは良かった。ん、最後に聞きたいことがあるのかい。何かな。






どうやって高いところにあるぶどうを取ったのか、だって。何だ、そんなことか。そんなもの、ハシゴを使えばいいだけだ。分かりきったことじゃあないか、まったく。






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