第1話 目が覚めると……
「こ……こは?」
瞼の裏からでも、よく通る光。
レオンはゆっくりと目をあける。
(灰色の壁、いや、天井か。思うように動けない)
だんだん視界と意識がはっきりしてきて、両腕、両足に拘束具が取り付けられ、椅子に縛り付けられていることにレオンは気付いた。
「なんだ、これ?」
そのとき部屋の扉が勢いよく開き、巨大な男が入ってきた。
見た目は薄汚いの一言。
髪はボサボサで、顎に生えた髭はそられていなかった。
「おお、起きたか、どうだ調子は?」
「……最悪の気分だ。なんで俺は拘束されてる?」
力を入れたりしても、拘束具はビクともしない。
「力任せに解こうとしても、無理、無理。それ、クズ王子が拷問用に特注したものだからな」
レオンは男に質問を投げかけた。
「……それで何の用だ? 俺はあの男にトドメをさせたのか? なんでこんなところに縛り付けられているんだ? それに、オマエは誰だ?」
「いっきに質問するなよ。ええと、まずは俺の名前か。俺はエド。キリアの兵士だ」
「キ、キリア?」
エドと呼ばれた男の話だと、戦争しているギフテル帝国の支配下にある小国らしい。
「で、次はオマエの、そっくりさんについてな。アイツは、このキリアの王子・カイだ。そんであの村を攻めたとき、オマエに殺されたよ」
エドはそう言っているが、レオンはそこら辺の記憶が曖昧だった。
その王子の首に剣を当てたとこまではレオンもはっきりしている。
「で、最後だが、オマエにはキリアの王になってほしい。そのために俺があの村から運んできて、暴れないように縛った。ちなみにオマエに拒否権はないぜ」
「……意味がわからない。なんで俺がこの国の王になれ、って話になる?」
「まあ、おいおい話してやるから」
そう言って、エドは拘束具をとった。
話からレオンの目の前にいるエドは村人全員の仇だった。
レオンは上手に動かせない身体に力を入れて、攻撃しようとしたが。
「な、んで、動かない!?」
攻撃する姿勢を保ったまま、いまだに拘束具がついているのではと思ってしまうほど身動き一つとれない。
さらに力を込めようとすると、気絶しかねないほどの激痛が全身を襲う。
「そうだった。オマエが寝ている間に『契約の書』をつかわせてもらった。これにサインすると行動に制限つくから」
『契約の書』、相手の血をしみこませた特殊な液体を、その紙の上にたらすことで紙に書かれた内容を相手は守らないといけなくなるアイテム、とエドは語る。
レオンに走った激痛は書かれた内容を守らなかった場合の罰だ、とエドは説明する
続いてエドは3本の指を立てた。
「オマエが守らないといけないことは3つだ。1つはエド、つまり俺を攻撃しちゃダメだ。2つ目はキリアの王・カイになることを拒否してはならない。最後に、オマエが俺のこれから出す指示に従わないのも禁止な。2つ目の条件をのんでくれれば、この契約は破棄すッから」
(なるほど拒否権がないとはそういうことか……)
とレオンも納得する。
殺気のこもった視線をエドに向けるレオン。
「で、拘束をといて、どこに連れていくつもりだ?」
「一応、捕虜みたいなものなんだが強気だなオマエ……。いいからついてこい」
当然、この指示にも従わないといけない。
拒否しようとするとレオンは激痛に襲われる。
抵抗を諦めたレオンはエドの後ろをついていくと、すごく広い場所に出た。
壁は傷み、外から差し込む光が埃に反射し宙を漂っているのが見て取れる。
エドが説明を始める。
「キリアの城の中だ」
「城? 汚いな」
「こう見えても、まだマシなほうだぜ」
エドとレオンは城の外に出た。
そこには城なんかより比べ物にならないほど、荒れ果てていた。
家屋と呼べる物はなく、地面の上で倒れ伏している者たち。ハエにたかられている者もいた。
極力声を出さないようにしていたが、レオンは驚愕のあまり、
「な、なんなんだ、ここは!?」
「キリアはギフテル帝国とカルバの国境に位置してる。戦線に位置しているせいか、村が焼かれたりして逃げてきた奴らが大勢いるんだ」
「つまり、この人たちは難民か……。だが、俺が殺した王はこの人たちのために何かしてないのか?」
エドはため息をつきながら言った。
まるで、オマエも分かっているだろう、とでも言いたげに。
「あの王子はそんなこと、しちゃくれない。面倒くさいことは丸投げして城のなかで豪遊、つまり遊んで暮らしていたんだ」
「だったら、オマエが王の代わりをやればいいじゃないか?」
「俺には務まらないな、なんせ……」
エドが何か言いかけたとき、その頭に石があたった。
しかし何事もなかったかのように、石が投げつけられたほうを見ると。
ガリガリに痩せた少年が次の石を投げようとしていた。
すぐさま、それを見た母親らしき人が少年に謝らせた。
「申し訳ありません、申し訳ありません、うちの息子が。罰なら私がうけるので、どうかこの子だけは……」
普通の謝罪とは違う。
母親のそれは命乞いに近かった。
「さっさとガキをつれて失せろ」
エドはそう言って、母親や少年に見向きもせず先を進んだ。
少年と母親が見えなくなると、レオンのほうに振り替える。
石の当たった額は軽く出血している。
どことなく悲哀に満ちた顔だった。
「俺はあの王子に仕えていたせいで、色々な仕事を押し付けられたあげく失敗するこ
とが多くてな。ここの人たちから、けっこう恨まれているんだ」
「でも、それだったら俺がやっても変わらないだろ。そのカイっていう王子と同じ顔だから」
「さっきも言ったが、あの王子はこの国のことは丸投げしていたから、国民はアイツの顔さえ知らない。それにオマエほど条件に合った人間は他にいない」
「?」
「あの王子はギフテル帝国の王の息子でな、俺は王様に顔知られているから、表立って王はできねえんだ」
「……なるほど」
エドは、調子のよさそうな声から一変して、真面目な声で。
「それで、決心はついたか?」
エドは何があってもレオンに王になってもらいたいらしい。
だけど一つ重要なことがあった。
「そのまえに一ついいか?」
エドは無言で頷いたので、カイは質問を続けた。
「オマエは、あの盗賊が村に攻めてくるのを止められなかったのか?」
「ああ」
「なんでだッ!?」
「……今のオマエと同じだ。『契約の書』による制約があった。あのクズ王子が部下のほとんどに使ったんだ。命令に絶対遵守するだけだったが」
この『契約の書』の効力は、レオン自身が身をもって経験した。
怒りは収まらなかったが、納得はできる。
「ならもうひとつ、村に女の子を連れたクマを見なかったか?」
「ああ、いたな」
「アイツらに何かしたのかァッ!?」
エドの胸倉に掴みかかるレオンに、エドは首を横に振りながら否定した。
「そう興奮すんなって、安心しろ。クマは、女の子と森の中に逃げてったぜ。もしかして知り合いか?」
「親友と妹だ」
「俺が心配すんのも、お門違いだとは思うんだが、アイツらは大丈夫なのか?」
「……うまくいけば保護してもらえる」
「そうか」
確かにキリアが引き起こしておいて、エレイン達の心配をするなんて可笑しな話だが、目の前の男は本気で言っている。
それだけはなんとなくレオンにも伝わった。
「……」
レオンは今後のことを考え、しばらく口を閉じる。
(今は、エレインも心配だが『契約の書』のせいで逃げることすらできるか怪しいな。それに、闇雲にキリアを出るのは危険……か。エレインを見つける前に俺が死んでは元も子もないな。……アア、クソッ!)
レオンが黙っていると、エドが確かめるように。
「やってくれるか?」
「……」
「まあ、良い答えを期待している」
答えが出ずにいるレオンにエドはそれ以上頼んでこなかった。
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