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二人の英雄

今回は異世界最後の会話回です。

 城の中で一番高い位置にある見晴台から見える景色は、崩壊と言うには余りにも美しすぎて、綺麗と言うには余りにも残酷なモノだった。

 地面はひび割れ、草木は倒れた緑を撒き散らし花は花びらを飛ばし土は舞い上がり滝は崩れ水飛沫を上げ、様々な色が飛び交いこの世界を染め上げる。


「ねえ、双葉」


「ん? 何だ?」


「魔王、倒してしまったね」


「ああ」


 世界が再構築する為に一度崩壊する中、双葉はいつもの調子で返事をくれた。ちょっと驚いたけど、僕自身もいつもの調子で喋っていた。どうしてだろう。


「なあベール」


「ん? 何」


「色々あったな」


「……そうだね」


 本当に……色々とあった五年間だった。


「初めての会ったとき、君は不思議な人だった。空から落ちてきたから天使だと思ったら僕達と同じただの人間で、初めて魔法を見たというのに、直ぐ完璧に真似して、かと思ったら魔法の基礎を全く知らなくて。だから僕は基礎を教えて君からはコツを教えてもらった」


「魔法はイメージが大事だと気づいたときそりゃ俺は使えると思ったよ。だって俺は妄想力豊かだからな」


「妄想力って言うのは双葉らしい。想像力だったら頭良い人って感じだから」


「おおい! 人を頭悪いみたいに言うな!」


「そう? 魔剣士育成学校でいつもの赤点ギリギリだったのは誰だったけ?」


「う……あれはたまたまだ! そう! 全部たまたま山が外れただけだ! それに実技はほぼ全て一位だったぞ!」


「実技と言えば、修練の時に良くサボって市場に行っている割には良かったよね。おかげで寮で同室の僕はなんども呼びに行かさ」


「わぁーまてまてまて! 学校の話はそれまでだ! そうだ! 色々あったと言えば一番は冒険者になったときだ!」


「冒険者かぁ、確かにその時が一番色々とあったね」


「そうだな。一番はなんと言っても自分だけの剣を手に入れた事」


「確かに、それまで双葉は何本も折ったんだもんね。借り物も含めて」


「あれは粗悪品を貸した店が悪い。実際あの後潰れたし」


「悪徳商人だったのはビックリしちゃった。それにしても双葉は剣を手に入れたのが一番嬉しかったんだね」


「あたぼうよ! なんて言ったって俺の初めての愛剣なんだから! 見ろよこの大自然と言わんばかりの緑色を!」   


「そんなこと言ったら僕の剣だって流星群が見えそうな星空色だよ」


「そこに月があればいつでも月見酒が呑めたんだけどな。ん? 俺はって事はベールは違うのか?」


「そうだね。僕にとっての一番は双葉、君と一緒にいる事だよ」


「俺と?」


「うん。もし君と出会わなかったら僕は村で一生を終えていたかもしれない。でも君と出会ったからこの世界の色んなものを知ったし、見れた。沢山の人と出会って、景色を見て、街を見て、時には誰かとパーティーを組んで冒険して。全て君と出会わなければ知らなかったと思う。世界って、こんなにもひろかったんだって。だからね、村にいたときは毎日が楽しかったけど、今は()()()()()()なんだ!」


「……それを言ったら俺もお前と一緒にいる事が一番だよ。これまでも、これからもな」


「これから……か」  


 その言葉を聞いた時、既に半分以上が崩壊している世界が霞んで見えた。


「これまでの事は全て無かったことになるのかな……皆、忘れちゃうのかな」


 胸の奥からこみ上げて来たものが霞んだ景色に思い出を映す。


「沢山……本当に沢山……あったんだよ」


 瞳からこみ上げたものが流れる度に思い出が移り変わる。映って、映って、何度も、何度も、何度も、何度も、映って、映って、それでもまだ流れる。


「僕は……僕は生きてきたんだよ! この世界で! あの場所で! なのにどうして! どうして僕達だけはこの先生きられないんだよ!」


 悔しくてたまらない。悲しくてたまらない! どうして僕達だけ生きられない! どうして僕達だけは残らない! どうして僕たちだけは!! 


 その時、目の前に一枚のハンカチが差し出されていることに気づいた。いつの間にか石畳に膝とを手ついて下を向いていた自分がいた。


 この緑のハンカチは双葉の……でも一部が紅い。涙を拭くとわかる。文字が書いてあった。双葉の方を見ると僕と同じく泣いていた。でも、僕が見るとわかると笑った。


「ならさ、残そうぜ。最後に俺たちがいた事を」


 ……ああ…………やっぱり双葉は強いや。


「うん……そうしよう……僕たちの生きた証」


 立ち上がり僕もポケットからボロボロのハンカチを取り出して、傷だらけの体で血をインク代わりに書く。何て書こうか迷ったけど、いつの間にか書き終えていた。

 その文字を見たら誰かに、いや世界の皆に見てほしいと思った。だから、届くように風に乗せてハンカチを飛ばす。


 ハンカチは僕たちの血と共に飛んでいき、先程の色が飛び交う空に赤を足して虹色にした。この色が世界の殆どを染めていた。そろそろここも染まるだろう。


「ベール。戦う前にも言ったが、世界が崩壊したら俺は元の世界に戻るだけだ。だがお前はそのまま消える」


 手が差し伸べられていた。


「だったら消えないように君の世界まで僕のことをちゃんとエスコートしてよね。ちゃんとだよ」


 双葉の手を握る。


「任せとけ!」


「不安だなぁ。君の任せとけはいつも問題ばかり起こすんだから」


「ああ、お前に不法侵入と言う問題を起こさせてやる」


「そりゃ大変だ」


 僕たちはいつもの調子で笑い、いつものように会話をする。


 しばらくたって世界が再構築されたとき、崩壊する前の平和な日々を当たり前のように人々は過ごす。そこに世界を救った二人の英雄を知るものはいなかった。でも、僕たちが知らない間に二枚のハンカチは偶然にも僕たちが出会った村に落ち、ピクニックをしていた少女の前に落ちた。それを拾う


「これは、ハンカチ? 何か書いてある」














『俺たちは生きているぞ!! by季慈露 双葉!!』


『僕たちの思い出はここに  byベートルフ・クライン』















次回はお買い物回です。

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