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天狗の落とし文  作者: 宇都宮文理
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『筆禍』-②

第二章の後半ですよ


 気がつけば薄ぼんやりとした暗さの部屋にいた。

 いたというか、椅子に縛られている。

「すわ、ここは黄泉比良坂か」

 意識がまだ不鮮明な中、自分に言い聞かせるように声を上げた。

 モヤモヤしたものが頭の中を覆い、今ひとつはっきりしない不明瞭な痺れが体全体を支配している。



 何か言おうとしたが舌がもつれ、よだれがだらだらと垂れ流しになっている。これでは舌を噛んでしまうかもしれない。

「これは困ったねぇ。本当に困った」

 霞む視界の中にやたら背の高い神経質そうな黒いスーツに身を固めた男と、私以上にモジャモジャとした髪の男が立っていた。



「ぐぅ、誰?」

「それはこっちの台詞だよ。羽山さんの生徒なんだろ?あれだけ機密保持には気をつけてくれと言ったのに、本当に困ったなあ」

 背の高い男がぼやく。

「まぁまぁとりあえず彼女には何を見たのか頭がはっきりしないうちに全部吐いてもらいましょう。そのあと口封じすればいい」

 物騒な話になってきた。

「確かに処遇は機密保持のため口を封じる以外に道はない。しかし何時ものように『サバト報告書』に入れるわけにもいかないだろう。未成年だし突然居なくなったら我々でも隠しきれるかわからない」

「『失われた足跡』を使って深層意識からも我々の記憶を除去しなければ」

「それで日常生活に戻って羽山さんと接触したとき記憶がどうなりますかね?そもそも日常生活に戻れるかどうか」

「そこら辺は賭けになるだろうね。しかし手段がほかにない。栃木には海がないからね、人食い鮫も流石に中禅寺湖には居ない」

頭がボンヤリして思考がまとまらないが何やら酷く不味い状況に陥ってしまったらしい。

「図書館警察?」やっと絞り出した単語がこれだった。

「どこまで知っているんだね君は」ノッポが険しい目でこちらを睨めつける。

「秘密の醸造所……『書痴』図書館警察の施設……『筆禍』秘密の……」

意識がまた暗い縁へと沈んでいくようなイメージが、瞼の裏に浮かんだ。

「この娘はやっかいですね。こうなったら一度『移動図書監』に連行して徹底的にブレイン・ウォッシュしましょう」モジャモジャが何か言ったのはわかるが、どうにも思考が追いつかない。

「後は羽山さんに相談だな……」

 世界が暗転する。





 ゴウンゴウンという低い地鳴りが聞こえ、今度ははっきりと意識が覚醒した。

「今度は完全に目覚めたようですね」先ほどのモジャモジャが目の前に居た。

「まぁゆっくりしていきたまえ。君の事は調べさせてもらった」ノッポとモジャモジャが交互に声をかけてくる。



「ここは?今は何時なの?」

「君が我らが図書館警察の名誉警紙総監であるところの天矢場さんの孫娘であるという事はわかった。羽山さんも最初に言ってくれればこんな大事にならずにすんだものを」

 ノッポがため息をつく。

「ここは秘密の組織図書館警察の移動空中監房『移動図書監』だよ、もう少し君の身元が判明するのが遅かったら『サルバドールの朝』以来のガローテ刑にかけていたかもしれませんね」モジャモジャが物騒な事を言う。



「ここはね、宇都宮の上空三万メートルを飛んでいるんだよ、低軌道衛星とまではいかないがコンコルドよりも更に上空だね。つまり独力で逃げ出すのは無理ですね」

そういえば椅子に座っている事に今更ながら気づいたが、もう拘束はされていなかった。「あなた達はつまり図書館警察で、私はその秘密の拠点に連れて行かれたと?」

 ノッポが顎を撫でながらいう。

「そういうことだね、こちらとしても少なからず縁のある人間に手荒なまねをしたくないから脳味噌をちょちょいと洗浄した後帰してあげよう。今晩の晩飯には間に合うはずさ」

「いやだ!脳味噌弄られるのは嫌だ!」

「困りますよ、そういう我が儘は。そもそも貴方が我々の秘密に触れなければこんなことにはならなかったんです」モジャモジャがモジャモジャの頭をかき上げる。

 私は私で自分のモジャモジャ頭を掻き毟りわめき散らす。



「あ、そうだ『書痴』をあなた達が売りさばいて資金源にしているのは知っていたけど、もしかして『筆禍』とか言う焼酎も図書館警察の領分で?」ついでなので聞いてみる。

「天矢場のお嬢さん。一応我々は秘密の組織なんだよ?この状況でよく聞くね」

「そうですよ『筆禍』も羽山さんが見つけてきた蘭から分離された菌で醸し出された我々の新商品です」「答えるのかよ」「あっ、すいません……」「そういうところだよ君?」

 なんか内輪揉めしている。



「このことは他言無用する故『筆禍』を何本かわけていただけないでしょうか?」

「天矢場のお嬢さん。この状況でよく言うね?」

「では天矢場さんに定期的にお届けしている『書痴』に混ぜて何本か『筆禍』をお届けしましょう」「あげるのかよ」「あっ、すいません……」「そういうところだよ君?」

「頂けるというのなら僥倖。クレクレタコラ」

「この際酒の話はどうでもいい、脳味噌キツ目に洗浄してさっさと帰ってもらおう。どうにも苦手だこのお嬢さんは」

 帰してもらえるのはありがたいが脳洗浄されるのはごめんだ。

「ところで羽山先生は皆さんとどういったご関係で?」

 苦し紛れに話をそらす。



「ああ、羽山さんは図書館警察の生産部門に協力してもらっているんですよ。もともとあの学校の施設は民間人でも自由に使えるようにという事で設計されているので、我々図書館警察も学校の地下空間に県の予算で作った醸造所を設置して『書痴』を作っていたり、最近ではご存じの通り単式蒸留機を導入して『筆禍』も作っていたりします。この資金の流れは簡単に説明すると……」

「喋りすぎだよ君、そういうところだって言っているだろ?」ノッポがモジャモジャを叱る。

「でも記憶消しちゃうならいいじゃないですか」そうだモジャモジャもっと言ってやれ!

「余計な情報は与えないんだ」「そういうなら仕方ない……」モジャモジャもっと粘れや!

 またしても自分のモジャモジャ頭をかき上げて絶叫したい気持ちを抑える。

 このモジャモジャ駄目だ、自分でなんとかしないと。

 モジャモジャ頭にシンパシーを感じていただけにガッカリだよ!

 と、口に出るのを押さえ込んだが冷静に考えると、図書館警察が祖父ならぬ単に孫というだけの私にそこまで譲歩する理由も義理も見つからないので仕方ない。

 何事も自分の力で成さなければならない。この世は荒野だ、独力で生き抜かなければなるまい。

 若い身空でそんな事を考えている気分は、ブーヘンヴァルトの住人になったかのような絶望感である。



「ダンテの地獄編ですらこことの生活に比べれば大したことはない」と元囚人が語っていたように「この門をくぐるもの、これより一切の望みを捨てよ」と宣言されているようなものだった。

 アウシュビッツ=ビルケナウ収容所にはわずか八冊から十冊しかないが、収容者の心の支えになった図書館があったという。秘密の図書館である。今祖父はその図書館の十一冊目の本を探しに出かけている。

こんな時に限って助けを求められる相手が海外というのはどういうことだ?

 とはいえ、通年して日本に滞在している事の方が少ない人物でもあった。

 これは『ヨブ記』の如き神の試練ならん。艱難辛苦の果てに試練をくぐり抜けた先にはきっとご褒美がまっているに違いない。

 そういや「願わくば。我に七難八苦を与えよ」と言って最後にやっぱり駄目だった人も居たなとか脳内妄想をこじらせ現実逃避する事、現実時間にして約一秒。

「まぁ兎に角こっちへ来てもらって、脳味噌ちょっとくちゅくちゅするだけだから」ノッポとモジャモジャがにじり寄ってくる。



「南無三」と叫び二人を突き飛ばして部屋を飛び出す。

 幸いにして部屋の扉は開いていた。

 兎に角走る、走る。

 出口の当てなどなかったし仮に出られたとしても上空三万メートルでは窒息する。

 我が天狗の秘術を持ってしても逃げ出す事は不可能のように思えた。

「移動図書監」の中は秘密の監房と言うに相応しく、何やら謎めいていた。

 ゴチック様式のアーチや現代建築のようなピロティーのあるフロアなどが無秩序に並んでいた。

 こんな状況でなければゆっくりと見て回りたいと思えるような不思議な空間である。

 無数の図書があちらこちらの棚に雑然と載せられており、汗牛充棟といった面持ちで並んでいる。

 幸か不幸か誰ともあわずにここまで逃げてこられた。

 しかしながらここまでといってもここがどこなのか分からない。

 いい加減息も切れてきたので本棚の隙間に身を隠し息を整える。

 ノッポとモジャモジャはまだ追ってきていないようだった。

 しかし落ち着いてみると、まるでエッシャーのだまし絵に迷い込んだようである。

 やたらめったら好き勝手な方向に階段や廊下が延びて何をするのか分からない部屋につながっている。追っ手の心配もとりあえずはいったん回避できたようなので、息を整えそろりそろりとあたりを散策する。

 計画が破棄された後も成長する無秩序に広がる都市のようにどこがどことつながっているのか予測不明な建物である。

 上空三万メートルに浮かんでいるという事は、飛行船のようなものなのだろうか?

 なんとか操縦を乗っ取り、少しでも脱出可能な高度まで下げられないものかと思案する。

換気口のようなところに這い入っていったり、片っ端から部屋を開けていくが誰にも会わず逆に不安になる。



 この真っ白な空間の中では時間の感覚も分からない。

 それ程経っていないようにも思えるしだいぶ長い事時間が経過したようにも思える。

 携帯電話は鞄の中にあったので手元になかったが、ふと母の勤める異端教祖株式会社からもらった謎アイテムであるところの光格子腕時計がある事を思い出した。

 何でこんな重要なアイテムの存在を忘れていたんだろう。

 時間は十九時を過ぎたところであった。

 普段は日本の悪魔から西洋の地獄の王に贈られたという、祖父から貰った朱塗りの懐中時計を使用しているのだがこちらも鞄の中だった。

 何でも時間を合わせると好きな時代にいけるため地獄の大魔王に命じられ七悪魔が旅をしたと言うらしいが真偽の程は定かではない。

 とりあえずノッポの夕食までにはと言ったのは本当の事だったらしい。そして想像していたよりずっと時間が経つのは遅かったようだ。



 時間の感覚が狂う。

 光格子時計は三百億年動かしていてやっと一秒誤差が生じるかという超精密な時計なので、地上にある光格子時計との時差をはかる事により、アインシュタインの一般相対性理論から時計同士の高度差を測る事が出来る。

 地上の光格子時計は埼玉県和光市の理研と、宇都宮の我が家にあった。

 その海抜三万六百メートル八十七センチ五ミリ。

 宇都宮の我が家からの高度がそれだった。

 高高度落下傘降下記録が2014年に打ち立てられた41419メートルである。

 そこから比べたらチョモランマ一個分よりずっと低い。とはいえ成層圏だ。

 生身で外に出る事は出来ない。窒息してしまうではないか。

 そうこう考えているうちにはたと気づいたのだが、連れられてきてからずっと聞こえていたゴウンゴウンという音が少し大きくなっていた。

 動力部に近いのだろうか?迷ったときは音の鳴る方へと何かで読んだ記憶がある。何もなく野辺を彷徨うよりはましだろう。

 とりあえず格言に従い音の鳴る方へ移動してみる事にした。

奇ッ怪な様々な時代の様式で飾り付けられた部屋を移動し、文字通り這いずり回って音の鳴る方へ向かう。

 だんだん音が大きくなり、腹の底に響くようになった頃ついた先は「動力室」と大仰に書かれた部屋だった。

 扉を開けて中を覗くと広いパノプティコン様式の部屋で、囚人の収容所に当たる部分には本棚がギッシリと詰められており、その間を何やら不思議な配管が意味不明に伸びていた。



 中央監視塔に当たる部分には動力源とおぼしきタワー状のなにか熱を発する巨大な施設がデンと立っている。

「これが中枢かぁ……」なんとなく感慨に浸りボンヤリ眺めていたが人の気配がしたのでパイプラインの陰に隠れる。

 作業員らしき男が出てきて何やら点検している。

「なんかエネルギー転換炉の温度が安定しないなあ。高度下がっちゃうよ!君たちもっとキリキリ働きなさいよ」

 塔の中に向かって何か叫んでいる。

 男が立ち去るのを見て、そろそろと近寄り窓から中を伺うと、図書館警察に捕まえられたと思わしき人々が、よく漫画で見る奴隷がぐるぐる回しているアノ何が目的か分からない謎の回す装置を使って動力源の中枢の炉に火をくべているようだった。

 温度が下がると高度が落ちるらしい。つまりこの施設全体を冷やしてやれば高度が落ちるという事か。

隙を見て塔に登りエネルギー転換炉なるものを見る。

 ガラスの向こうでゴウゴウと『神曲』の地獄の如き勢いで炎が燃えさかっていた。

 これでタービンを回し飛行しているのだろう。

 冷やすのには妙案があった。

 光格子腕時計である。

 正確な時を刻むため中で動く原子の動きを極限まで低くする必要がある。

 というか止めてしまわなければならない。

 そのため原子の動きを凍結させるため狭線幅レーザー法と呼ばれる方法で絶対零度近辺まで冷やすのだ。

 光格子腕時計ではレーザーの光の干渉で出来る光りの格子に原子を閉じ込める事からその名がついたのだが、魔法波長と呼ばれる波長のレーザー以外では原子が空間的に変化してしまう。



 長々と説明したが光格子腕時計はものすごい冷えるのだ。絶対零度である。液体ヘリウムが超流動を起こす温度である。

 エネルギー転換炉に光格子腕時計を置きパカッと蓋を開けると間欠泉のように白い煙が吹き上げ一気に気温が下がる。

「寒い!コキュートス!」ダンテが到達したという地獄の最下層が脳裏によぎり、祖父のインバネスがない事を恨んだ。

 コート一枚でどうこうできる代物でもないかもしれないが、冷却する目的は果たせたものの逆に暖をとりたいという二律背反に陥った。

 シュウシュウいいながらエネルギー転換炉が凍り付く。

 下の階では都市蟻地獄論的なエネルギー搾取を受けている俘虜達が一斉に「寒い、寒い!」と叫びながら蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ去っていく。

 ゴウンゴウンという低い音がだんだん小さくなりガクンと移動図書監全体が揺れる。

「何事だ!」「持ち場へ戻れ!」「ひゃっこい!」など様々な叫びが阿鼻叫喚となって響き渡る。

 寒いのに八大熱地獄の無間地獄の叫びとはこれ如何に?


「まくなぎの

阿鼻叫喚を

ふりかぶる」


 と西東三鬼みたいな事を考えつついる間も確実に周囲は冷やされていく。

 自然にたれる鼻水が見る間に凍っていく。

 このままでは死んでしまうではないか!

 死んでこそ浮かぶ瀬もあれと言うが、トドのように釜川に打ち上げられるのも実にミットモナイので逃げる。



 監房内でも異常を察知したらしくアラートが鳴り響く。「犯人は逃走中の不穏分子によるものと推察される。モジャモジャガールを引っ捕らえよ」とアナウンスが流れる。

 ここまで来て捕まってはたまらない。監房内の不思議構造に気をとられて、今まで思いつかなかったのが不思議だったが天狗の秘術でパノプティコンの天井付近に一時退避する。



 しかし下は真っ白だった。何も見えない、自分の未来も見えない。泣きそう。

「あーっいたーっ!」「一体何をしたーっ!」だいぶ慌てているがノッポとモジャモジャの声である。この凄まじい白煙の中よく見えるなと思ったら、パノプティコンの本棚の最上階に刺股を持ってギャーギャー喚いていた。

「なんか浮いてるぞ」「すわ妖術か!」「こっちゃこーい!」もう滅茶苦茶である。

 チャーを捕まえようとするルントウのごとく刺股を振り回しながらこちらに身を乗り出してくるが捕まえられてたまるものか。

 そうこうしている間にも移動図書監の高度は確実に下がっているようでなんとなく「不都号」とかいう飛行船を思い出す。

 もう周囲一帯は真っ白い靄に覆われ、だんだん自分の居るところまで冷気が迫ってきた。

 ここまで来ては移動図書監も最早コントロールできないであろう。

 さぶい、さぶいと言いながら出口を求めてふわふわ浮遊ししていく。

 光格子腕時計は惜しかったがこうなってはもう回収のしようがない。

 とにもかくにも逃げるしかないではないか。

 極寒地獄の中どうにかこうにか出口を探し出し、這々の体で動力室から逃げ出す。

 アラートはなおも鳴り続ける「動力部に異常あり。高度を維持できない。総員脱出の用意を」今までどこに居たのかと驚愕せんばかりの人員が廊下にあふれ出ていた。

 図書館警察の職員だけではなく、捕らえられていた囚人も混ざっているようである。

「そいつをとっ捕まえよ!」刺股を持った一団が私を発見して叫ぶ。叫ぶが肉の壁のせいでこちらにやってこられない。



 これは好機なりと、群衆に紛れ脱出口らしき方向へと向かう。ここまで来るともう私の事など目に入らない連中ばかりである。

 逃げる中で初めて窓を見つけた。どうやら建物の中心部から外壁側に移動していたようである。押し合いへし合いしている中から外を見やると、いつか空中散歩で見た宇都宮タワーが見えた。

 どうやら宇都宮タワーがこの移動図書監の発着基地であるらしい。風に流されつつもパイロットの腕がよかったのかどうにかこうにか宇都宮タワーの頂上に降下できそうである。



 串刺しになったら大事であるので頑張っていただきたい。責任は私にはないはずである。

 脱出口が開くと鮨詰めになっていた図書館警察職員達や俘虜がわあっと出口に殺到し、地獄の押し寿司状態に。

 どうにかこうにか外へまろび出ると、天狗の浮遊術を使い一目散に家へ向かい飛び去る。

 ふと、後ろを振り向くと我先にと逃げようとする宇都宮タワーからこぼれ落ちそうな群衆の阿鼻叫喚のなんとも壮絶な光景であった。

 宇都宮の郷土史に残されるべき光景であろう。いや、しかしながら図書館警察はあくまで秘密の組織、決して情報が表沙汰になる事はないだろう。

 名誉警紙総監などというご大層な立場に奉られている祖父の事を考えると心が痛まないでもなかったが、自分の身が一番かわいいものである。

 そんな年頃の乙女なのであるからしょうがない。



 次の日、登校すると何事もなかったかのような顔で羽山先生が鞄と光格子腕時計を渡してくれた。

「お前、お爺さんによろしくな。あと分かっているだろうけれど他言無用だからな」

 あれだけの騒ぎで何もないのが逆に恐ろしかったが、お咎めなしのようである。

 それから定期的に来る祖父への付け届けも変わる事なく続き、あんまりにもやらかすと逆に何事もなくなるものだと戦慄した。

 そして付け届けの中には必ず「筆禍」が加えられており、私は日光山先生との約束を果たす事が出来たという事も付け加えておこうと思う。

 しかし、こんな騒ぎは二度とはごめんである。

 ほくほく顔の日光山先生の顔を眺めながら、それが周囲の一致した意見である事は間違いないだろうと推察するのであった。


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