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『焔』  作者: 時ノ瀬 闇雲
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007 高校生活の始まり006

「――という訳なので、部活動や委員会活動については参加しづらく、出来れば遠慮したいのです」

「とは言ってもな、大鐘。委員会はいいにしても部活に関してはそうもいかんぞ。ウチは部活動は強制だからな」

「そう、ですか」

 職員室。現在昼休み。芳晴は家庭環境を理由に部活動等には参加しづらい状況にあることを説明するため、担任教師の元を訪れていた。しかし芳晴の予想していた通り、返答は渋いものであった。

 芳晴の通う高校の学校規則にはきちんと明記されている。「学校活動における心身の成長を促し、協調性と親和性、そして自発性を育むものとして部活動は原則行うこと。」と。

「お前の言いたいことは理解できなくはない。まあ、同情の余地はあるがな」

 ちなみに、芳晴の境遇――片親であり、その親が不在。加えて親族の引き取り手もなく、一人暮らしであること――について、学校側は多少伝えてはあった。だが深いところで理解されているわけではなかったらしい。だからこうして改めてその事情の説明と要望を伝えに来たのだ。

「だからと言って、大鐘だけを特別扱いをするわけにはいかないぞ。他にも数人、部活には参加できないと申し出てきたものもいたが、様々ある事情をすべて聞いていたら、そもそもこの決まり事を作る意味がなくなる。部活に参加したくないという奴もちらほら居たがそんな奴は論外だがな」

「……」

「部活させる以上はこっちでもちゃんと記録を取っているし、残念ながら、部活動の活動如何では少なからず内申にも響く」

「ですが、部活する時間があったとて、大会や発表会等に参加する時間的余裕はありません」

「それはさっきお前から事情を聴いて把握はしたつもりだ」

 教師は持っていたペンをこめかみにトントンと叩いて唸った。無茶な事を言っているのは百も承知だが、芳晴とて譲れないこともある。

 部活をするということに関してはやぶさかではない。しかしいざ大会となって参加できないとなれば、そもそもその大会を目的としている場合、確実のその部活内で不和を生むことになる。そうなればその厄介ごとの処理は、当事者である芳晴本人が負うことになる。

 そんな面倒なことは断じて避けなければならなかった。後の予測できる面倒事は前もって全力で潰しておきたい。

 どんな部活に入るにせよ、不和を生むことを目的とする者はいない筈である。

 その辺りのことは、教師も大方のところ察しているようで、だからことこうして芳晴の提案に対して頭を抱えている。

 そうして少しの間考えていた教師はふと何かを思いついたように芳晴を見た。

「そうだ、お前が部活を作ったらどうだ?」

「部活を作る? 自分は部活を遠慮したいと言ってるんですけど……」

「まあ聞け。具体的には、部の放課後以外の時間での活動に対する制限、って理解でいいか?」

「……え? ええ、まあ、そういうことになりますかね?」

「休日や、放課後でも遅くまで活動ができない、だから部活には参加出来ない。そうだな?」

「はい」

「今ウチの高校は残念ながら休日や遅くまでやってるところが殆どで、お前の言う条件には当てはまらない」

 そこまで言われて、芳晴ははたと気付く。

「――だったら、そういう部活を作ってしまえ、と?」

「そういうことだ。だが部活動立ち上げ条件がある。『公序良俗に反することでない』『目的を持った活動』『4人以上の部員』『担当顧問』『活動を行う場所』だ。後ろの2つはいいとして、前3つはそっちでちゃんと決めないといけない。――どうだ?」

 教師が若干どや顔気味で芳晴の顔をうかがう。芳晴は少し考えて、そういうことなら、とその提案を呑んだ。

「しかし部の加入については4月以内って決まりの中でやってもらうことになるし、あと実質3週間もないから、そこは急いでな。お前から質問は?」

「――部活目的が被る、または類似する部活動であった場合、それは許可されますか?」

「されない。だったらその部活に入れ、となるからな」

「であれば、部活一覧と立ち上げに関する申請書があればもらってもいいですか?」

「分かった、放課後までには用意しておく」

「お願いします。では失礼します」

 芳晴は一礼すると、早々に職員室を後にした。


「あー、その顔は駄目だったぽいな」

「あー、駄目だったよ。部活は強制、それに変わりはないってさ」

「しかしお前も大変だね」

 教室に戻ってくるなり話しかけてきたのは赤羽桐谷あかばねきりやだ。

 最前列の廊下側の端。そこが桐谷の席であり、芳晴の席はそのすぐ後ろだった。現在はまだ出席番号順で並んでいるため、出席番号の一番と二番の前後席というだけに過ぎない。

「……大変、ねぇ」

「ん、どうした」

「俺は別に今の生活を大変だとか思ったことはないよ。大変だったのは最初だけで、後は慣れの問題だ」

 前後席というだけはあり、話す機会は多い。入学式から三日たち、自己紹介のあれこれはお互いにあらかた済ませていた。今回芳晴が、職員室で何の話をしてきたかを事前に話しておくぐらいには、仲良くなっていた。

「そんなもんかね。どうした、さっきからしかめっ面でよ」

「入れる部活がなければ作れと言われて、それについて考えている」

「はっはっはっ、なんだそれ、無茶苦茶だな」

 桐谷は声をあげて笑い、芳晴の背中をバシバシと叩いた。

「お、おい、やめ、痛いって」

「おお、すまんすまん。でもその調子じゃ、いい案は何も思いついてないみたいだな」

「仕方ないだろ、さっきの今なんだから。そうそうすぐに思いつくかっての。はぁ、どうしてこうなった。実にめんどくせぇ。あとからあれこれ言われるよりかは面倒ではない、のか?」

「おまえさ、面倒くさい性格してんな」

「面倒くさいとかいうなよ~」

 面倒なことを回避しようと四苦八苦している姿を見た感想が「面倒くさい」と、言われたくはない。

「悪い悪い、おっと先生が来た」

 教室の扉が開き教師が入ってくると、各々に談笑していた生徒達は蜘蛛の子を散らすように自分の席に戻っていった。

 桐谷は話を切り上げて前を向く。

 しかし、空には徐々に暗雲が立ち込め、春一番の嵐が近づきつつあった。

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