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乗り心地の悪い馬車にガタゴト揺られること3時間。

転移魔法とかないのかとダメもとで聞いたところ、空間や時間はロミア様しか扱えないとのこと。

がっかり。

お尻もだいぶ痛くなったがまあ仕方がない。


「到着しました!」


そういわれて外に出ると、村といってよいのか一瞬迷う、あまり実りの良くなさそうな田畑と若干の掘っ建て小屋の中に、石造りの小さな建物がぽつんと立っていた。

中に入ると70代ぐらいの質素な服のおじいちゃんが出迎えてくれた。


「このような田舎の神殿にどのようなご用でしょうか?」


「こちらはファルメディウス家第三王女のアリスティアさま。昨日使徒になられたので、祝福と認定を受けに来ました。」


「それは!!!王家から使徒が…!なんということだ…。」


神官のおじいちゃんは泣き出してしまった。

え?どうするのこの空気。


「生きている間にこのようなことがあるとは…もういつ死んでも後悔はありません…」


あ、喜んでるのね。

とりあえず微笑みを浮かべておく。


「それではさっそく、祝福の儀を。儀式用の水晶をお願いします。」


「もちろんです、かしこまりました!」


おじいちゃんが慌てて走り出す。

危ないから落ち着いて!



奥の間に案内され、手のひら大の水晶に手をかざすと、水晶が光りだした。


「おお、本当に…!これでファルメディアは救われます…!」


おじいちゃん、また泣いてる。


水晶がしばらくふんわり光った後、急に針のように細い光が天井から水晶に向かって勢いよく落ちてきて、部屋中が真っ白な光に包まれた。


光の奔流が収まり、自分の手を見ると、左手の甲に1cm角ぐらいの蔦のような文様が浮かんでいた。


ビビが私の手をのぞき込む。


「姫様、これで祝福と認定の儀式は終わりです。その印が認定の証となります。」


ビビの手をよく見ると、ビビは右手の小指の付け根に私と同じ蔦の文様が入っている。

そうか、これでもう帰れるのか!

思いのほかあっさりしていた儀式に喜んでいたら、ビビがおじいちゃんと話を進めていた。


「本日はここに泊まらせていただいても?」


「ええ、もちろんです!粗末なものしか用意できないので恐縮ですが…」


「かまいません。よろしくお願いします。」


おじいちゃんは恐縮そうにしている。


ああ、やっぱり今日は豆腐は食べれなかったか…



昼ご飯を食べて割とすぐに出発したので、今は午後4時ごろ。

この世界はお盆型なのに国によっては四季がはっきりしているらしい。

ファルメディアは四季がはっきりしている国のひとつだ。

多様性のために女神さまが工夫したんだろうか…

1年は地球と同じ12か月だが、毎月がぴったり30日で、1年が360日になっている。

今は6月で、ここルーディアはファルメディア北部、日本で言うと北海道ぐらいの位置にあるらしい。日没は午後7時ごろのようだ。

とはいえ、急に宿泊者がいるとなると、準備もあるだろう。

夕方と呼ばれる時間帯までにはもう時間が無いので大変なのではないだろうか。

先にお知らせをしてから来たほうが良かったかな、と後悔していた。


先ほどからどこかに出かけていたおじいちゃんは、ほんの少し身ぎれいな男性を連れて戻ってきた。


「姫様。こちらこのアルテ村村長のドガさんです」


「お目にかかれて光栄でございます。」


「楽にして良いわ。突然でごめんなさいね。」


中年のおじさんにそんな頭を下げられても困る。


「はっ。ありがとうございます。」


「せっかくなので村を案内してもらえるかしら。ビビ、ついてきて。」


「かしこまりました。」

「はい、姫様。」


というわけで、ついでに村の視察もしてしまうことにした。

外から見ると貧相な田畑とちょっとした家しかないように見えたが、間近で見るとしっかり野菜が育てられている。

多いのはキャベツだろうか?

あとはトマトとトウモロコシ。

そういえば北海道産の野菜はおいしかったな~と思い返しながら田畑を見て回る。


「この村は若干家畜も育てておりまして。」


つぎに見えてきたのは牛舎だ。

数頭の牛がつながれている。メス:オス:子牛が8:2:4ぐらいな感じだ。

もしかしてこれは乳製品が食べられる…?


「申し訳ありません、こちらの牛は子育て中でして。まだ潰してお肉としてお召し上がりいただくことはできません。」


すまなさそうな顔をするドガさん。


「いいのよ。無理はしないで。その分、乳製品は楽しみにしているわ。」


「は?乳製品というのは…」


ドガさんもビビもこちらを見ている。

え、もしかして、こっちの世界って乳製品作ってないの…?


「牛の乳は飲まないのかしら…?」


恐る恐る聞いてみる。


「えっ、牛の乳は飲めるんですか?」


「ええ、多分おいしいと思うわよ。念のため一度沸騰しないように弱火で加熱したほうが良いとは思うけど。」


しぼりたてならきっとおいしいはず…!子どもの頃見たアニメでは、山羊の乳を直飲みしている少年少女がうらやましかったものだ。


「…子牛のものですから、人間がとってしまうと足りなくなりませんか?」


あーっと、その辺はどうなんだろう?でもしっかり食べさせてどんどん絞れば量が多くなるはず…

母乳育児をしていた友達が「最初は出なかったけど飲ませてるうちに量が増えたし、作り置きして冷凍しようと搾乳してたら子どもが飲み切れないだけ出るようになった」って言ってたから牛も同じなんじゃないだろうか…


「おそらく絞っていれば、子に飲ませる以上の量が出るようになると思うわ。人間と同じで出産後、一定期間のみだとは思うけど、また妊娠させて子を産ますことでまたお乳が出るようになるんじゃないかしら。」


自信はないがそう答えておく。

ドガさんはしばらく悩んだ後、決心した顔でこちらを見た。


「では、やってみます。作業のためここで失礼しても?」


「ええ、構わないわ。」



よし、これで牛乳が飲める!


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