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ここは大災害があって復興なうってこと?
ちょっと待って、女神様、ひどくない?
あ、でも私が生まれたのは4246年。
ということは今は4254年のはずだから、もう150年以上経ってるのか。
じゃあそれなりに復興してるはずだよね。
「今、我が国はどういう状態なの?」
「やっと他国からの支援なく、慎ましく暮らせる民が増えてきた、という状態にございます。今回姫様がこちらにいらしたのは、以前のような豊かな暮らしを取り戻すため、特産となりうるものを探すための視察の一環です。そのためお付きのものとして記憶に秀でる私や魔法省では中堅どころのジェスさんが付き従っております。」
え、8歳の私が駆り出されるって他の王子様やお姫様は何をしてるんだろう…。
それに慎ましく…ということは、もしや憧れの贅沢王宮暮らしもできないってこと?
「姫様、昼食でございます。」
ノックの後、マーサがお盆を持って入室してきた。
お盆に乗っているのはまた草粥だ。
実はこれ、あんまりおいしくないのだ…
「ねぇマーサ。私、もう元気なんだけど、これ以外の食べ物ってないのかしら。」
「姫様、白米というのは地域では最上級の贅沢でして…。この地域のものはポルトと呼ばれる塩味のいも類を原料にした麺類と海藻を食しています。」
唖然とするマーサに代わり、ビビが答える。
「え、お肉は?」
「畜産ですか?もう少し内陸の方へ行くとある程度盛んなのですが…その分、波で打ち上げられた魚や貝を拾っているようですが、落ちているものを姫様に食べさせるのは…」
「漁には出ないの?」
「姫様も被害にあわれた通り、この時期は波が高く、津波もあるため漁に出れないのです…。」
「じゃあ卵は…」
「この辺りでは増やす方向で使用されているので、高級品ですね…明日ご用意できないか手配します。城に戻ればもう少し色々な食事がありますので気を落とさずに…」
終わった…私のお姫様になって美食三昧プラン、終わった…
もう少し色々って。「少し」ってことはきっと大したものは無いのだろう。
みんな、栄養失調を起こさないのが不思議なぐらいだ。
とはいえ、たんぱく質が無いと力が出ない。
お姫様な私でこんな状態ということは、民草はもっとひどいはず。
なんとか食にたんぱく質を取り入れられるようにならないだろうか。
「豆類は育てられていないのかしら?大豆があるといいんだけど…」
「は?豆ですか?豆なら様々な種類が育てられていますが…」
であれば…
「今日は草粥をいただくわ。あとで、すりつぶした大豆に水を足して、どろどろになるまで煮てくれるかしら?あとは、海水も煮て、ほとんど水分がなくなってどろどろになったら布を使って固形物と液体で分けてくれる?」
どちらも、この地で用意できそうなものだろう。
「はぁ。わかりました。」
マーサがキツネにつままれた顔をして退室する。やはりこちらには豆腐は無さそうだ。
「姫様、今の知識はどこから…?」
ビビは訝し気な表情でこちらを見ている。彼女からすると、記憶喪失のはずのお姫様が突然謎の物体のつくり方を指示している状態なのだから違和感しかないだろう。今後も協力してもらうため、彼女には事実の一端を話すことにした。
「実は、記憶は失ってしまったのだけど、死の淵で全身真っ白な女性…そう、恐らくロミア様だったのでしょうね…プレゼントをいただいたの。他の人からは見えない書物の形をしているので、あなたの前で出すこともあるかもしれないわ。」
これで違和感ないはずだ。
ビビは目を輝かせてこちらを見ている。
「姫様も使徒になられたのですね!」
「え?使徒?」
「はい、女神様より魔法とは異なる知識や技能を授かった人間のことを、皆使徒と呼んでおります。私の記憶もロミア様よりこの国を支えよとのお言葉とともに、4歳の時に賜った能力です。」
おお、なんか役職が付いた。
「ちなみに、使徒というものに義務や仕事はあるのかしら?」
でも義務で縛られてしまったら本末転倒だ。もし面倒な手続きとかがあるなら内緒にしておかねば。
「そうですね。ロミア様にお会いしてから可及的速やかに近隣の神殿に申し出て、認定を受ける必要があります。ロミア様から特殊な使命を受けたものはその通りに、特に使命なく神託や能力を授かったものは、庶民であればそのまま各地の神殿にて神官となるべく教育をうけます。ご身分がある方はロメリアにある貴族学院の神学部で学ばれることが推奨されていますが、神官の資格があるものから教育を受ける場合、家庭教師でも構わない、とされています。私は神官資格を持っていますので、姫様の場合は私からの指導をこのまま受け続けるか、貴族学院に行かれるかお選びいただけますよ。」
なんと。じゃあ学園編が始まる…?
「ただ、貴族学院は13歳から15歳で行かれる方が多いので、それを考えると姫様には5年、判断の猶予がございますよ。」
あら、まだ先なのね。
「その年以外の人もいるの?」
「はい。貴族学院自体は、入学試験さえ受かれば、10歳からの入学が認められています。13歳から15歳で爵位を持たれている方、または継ぐ予定がある方、王族に試験はありません。科によっては平民も入学可能ですが狭き門です。爵位を継ぐ予定のない貴族出身の方は平民よりは優遇されますが試験があります。神学科は特殊なので、15歳以上の方でも、貴族やその子弟の使徒の場合は入学を認められています。」
なるほど。とりあえず、飛び級入学するにしても2年ほどの猶予があるわけだ。
「それでは、神殿に行きましょうか。諸々手配しますので、いったん席を外しますね。」
「え、すぐに行くの?」
「ええ。ここから最寄りの神殿は馬車で3時間ほどですので。ちなみに姫様、使命についてはロミア様はおっしゃられてましたか?」
そうだ、その話もあったのだ。でも、ここを偽ってもなあと思い、正直に話す。
「この身体で生きることを命じられただけで、何かを成せとは聞かなかったわ。」
「それは重畳。ではしばらくお待ちくださいませ。」
あ、そういえば豆腐どうなったんだろう…片道3時間なら、今晩は食べれないだろうか。
そもそも乾燥大豆ってどうやって粉々にするんだろう。
まあいいや、マーサに続きの作り方も指示しておこう。