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アリスティア、目覚める




「…………さま、…めさま、姫様!!!!」




飛び起きると、薄汚れたの服装の侍女や召使たちと医師が私の顔をのぞき込んでいる。


「よかった、気付かれたんですね!」


「ほら、薬湯を飲んで。咽ないように、ゆっくりだよ。」


小さな私の手に素焼きで作られたようなカップが渡される。

その辺の雑草をすりつぶしたような青汁を飲ませられ、ゆっくりとまた横たえられる。


「お気づきになられて良かったです…」


年かさの侍女が目頭をぬぐっている。


「…ここは」


お腹の中が妙に重い気がして、吐き気がする。全身べしょべしょで目が痛い。

青臭い薬草汁でかすれた声を聞き、召使が反応する。


「ルーディアの海辺です。慰安視察にいらしている最中に津波に巻き込まれたのです。もうだめかと思ったのですが、幸い水魔法に長けたジェスが御側に控えていたので引き戻すことができました。」


津波、と聞いて死ぬ直前に波にのまれた恐怖を思い出す。もう海には近づくまい…と硬く心に誓った。


「まずは、丘の上にある別荘まで逃げましょう。また波が来てしまった場合、ここにいる全員を引き上げるのは私でも無理です。」


おそらく、この男がジェスと呼ばれた男だろう。

いかにも魔法使いらしいローブを羽織った40代ぐらいの男性だ。

ところどころ白髪が混じった茶髪にこげ茶のたれ目で、体つきもがっしりしている。

整った顔立ちでいい感じにシブイおじさまだ。

私は担架に乗せられ、召使たちに担がれ海際を後にした。


====


丘の上の別荘について、まずはお風呂に入れられ、自分の全身を見る。

長い金髪に青い目、つるぺたな身体。

まあ、8歳といえば小学3年生ぐらいだからスポブラもいらないだろう。

とはいえ、ちょっと痩せすぎなような気もする。

まあ、しっかり食べて成長すれば将来的にはナイスバディかキレイ系スレンダーかどちらかになるだろう。


背中の肉も持ってくれば胸!

胸は作れる!


髪は濡れてる状態ではわからなかったが、侍女が火魔法で作った温風(こんな使い方もできるのか!と感動した。そういえば風魔法が無いと思ったんだ。)であんなに長かった髪を30秒ぐらいで乾かし、緩やかウェーブだったと判明。

この見た目なら、身分も相まってきっとイケメンをゲットできるだろう。

今はいかにもお嬢様が来てそうな室内着に身を包み、やっと人心地つけた感じだ。

食事は後で部屋まで運んでくれるそう。

ここで女神様(ロミア様というらしい)がくれた、5分間の質問タイムでわかったことをメモしておこう。


まず、私が転生したのは大陸の東端にあるファルメディアという縦長の国のお姫様で、アリスティア=フィーメ=ファルメディウス、親しい人からはアリスと呼ばれていること。


そこそこ頭が良い子だったが、記憶は引き継げないので、新たに勉強し直す必要があるということ。


言葉については不便だろうから自国語は日本語に聞こえるようにサービスしてくれるとのこと。


魔法があり、木火土金水白黒、あとは極レアで時という属性に分かれていて、普通は1-3個ぐらい適性を持つが、私は木火土金水白の広く浅い適性があるとのこと。


魔法は精霊との交友度で上達速度がかわり、きっちり精霊を敬い練習すれば深めることができるので、訓練次第で世紀の魔術師!魔術チート!みたいのも目指せるだけの潜在能力はあるということ。


もっと聞きたいことはあったが、5分でこれだけの情報を引き出せたのは上々だ。


とりあえず、おぼれたショックで記憶喪失になったことにしようと思っている。



あとは、持ち込める3つのものは、


植生や動物が似ているとのことなので分厚い動植物の図鑑で1つ。


医学がいまいち進んでないようなので、素人さんでもわかる程度の医学書。


もし開発チートをしたくなった時に役立つように、身の回りのものの分解・修理の仕方を書いた本。(自転車から家電まで載っているけど、そもそも電気は通ってい無さそうだから使えるんだろうか…)


という、3冊の本にした。

知識さえあれば、あとは応用でチートをできるんじゃないかという判断だ。

経営とか経済とか、あとは意外に為政者の政策が載っている世界史の教科書とか、そっち系も悩みはしたのだが、自分の身の回りのことから始めるためのチョイスだ。


割とファンタジーものも好きで読み漁っていたので、そうじゃない人よりは役立つものを選べたと思う。

転生ものでありがちな料理チートにも興味はあったので、レシピ本という選択肢もあったが、王女という立場から直接料理はさせてもらえないんじゃないかと判断。

それに一人暮らしでそこそこ料理はしていたので、1品や2品なら現状の知識で行けるのではないかという判断だ。

おおよそメモが終わり、ベッドに戻ったところでノックが聞こえ、先ほどもいた年かさの侍女が入室してきた。


「姫様、お加減はいかがでしょうか。ご夕食をお持ちしました。」


病人扱いなのか、ゆるい草粥が運ばれてきた。

異世界初料理が草粥ってなんだか予想外。


「ありがとう。ところで、あなた、お名前は?」


お姫様なんだから敬語はいらないだろう。そう思い敬語を入れず話しかける。


「姫様…?このマーサをお忘れというのですか?お戯れを…」


そうか。このおばさんはマーサというのね。


「ごめんなさい。みんな、姫様と呼んで敬ってくれているのはわかるんだけど、実は自分の名前も思い出せなくて…」


マーサが愕然とし震えだす。別に驚かせたいわけじゃなかったけど、でも驚くよね。


「姫様…!なんとおいたわしい…!」


ついには泣き出し、そして慌てて叫びながら部屋から走り出した。


「神殿に使いを!あとは、ビビ!ちょっと来なさい!」


え、神殿に使い?何をするんだろう。

あとビビって誰??お医者さん?

のんびり草粥を平らげていると、ちょうど食べ終わるころに30代前半ぐらいでメガネをかけた、こげ茶のおさげがかわいらしい立ち襟で濃い緑の足首まであるワンピースを着た女性を連れてきた。


「姫様、記憶喪失とお聞きしました」

「ええ、あなたは?」


後ろではマーサが「おいたわしい…」と言いながら目元をぬぐっている。


「私はビビと申します。姫様の家庭教師をしておりました。いつも座ってお話ししておりましたので、そちらの椅子をお借りしても良いでしょうか。」

「ええ。どうぞ。」


ビビはゆったりといすに腰掛ける。

マーサはドアのそばに控えていたので、マーサにも席を勧めたのだが、「侍女たるもの、いつ何時でも動けるよう立って控えているのが常識です」と断られてしまった。

ついでに、草粥の入っていた器を下げに行ったようだ。



「どうしてあなたが呼ばれたのかしら。私と一番親しくしていたの?」


ビビに問いかける。


「いえ、私は先ほども申し上げた通り姫様の家庭教師です。ただ、一度見たこと、聞いたことは忘れない、という特技がありますので、姫様にわからないことが出た際に一番正確に応えられるとマーサさんが判断したのだと思います。」


マーサを伺うと、マーサも理由を話す。


「最初はビビに記憶喪失の治療について聞こうとしたのです。しかし神殿よりロミア様が顕現され、姫様が記憶を取り戻すことは無いので求めるだけの知識を与えよ、と託宣を下されまして…」


おお、女神様グッジョブ!


「そう。じゃあまず私のことについて、知っていることをすべて教えてもらっても?」


「かしこまりました。」


そういって、ビビは滔々と語りだす。


「姫様のお名前はアリスティア=フィーメ=ファルメディウス様。ローメルンド大陸の東端にあるファルメディアの第3王女であらせられます。大陸歴4246年6月16日生まれ、現在8歳です。

同じお母さま、ロマリエ王妃陛下から生まれた姉姫様が5歳年上のマリアージェ様。10歳上の兄王子がマーシュ様。マーシュ様は王太子であらせられます。

第2妃ドーランジュ様から生まれた8歳上の姉姫様がリーラディア様で、4歳上の兄王子がマリク様です。

お父様はアレクス=フィル=ファルディウス、この国の現国王陛下でございます。」


「えーと、私は皆さまのことを何と呼んでいたのかしら?」


みんな、名前、長い。

とりあえず愛称だけ教えてもらおう。


「両陛下のことは身内のみの場でしたらお父様、お母様と。公では国王陛下、王妃陛下とお呼びしておりました。あとは、マリア様とマーシュ様についてはお姉様、お兄様、そして第2妃様はドーラ様、お子様たちはリーラ様、マリク様とお呼びしてらっしゃいました。」


えーと、血がつながってたらお兄様お姉様呼びでOKで、異母姉兄は名前で呼んでたってことね。


「ちなみに、ドーラ様とリーラ様、マリク様と仲は良かったのかしら。」


ここは聞いておかねばならない。


「ほどほど、という感じでございましたね。一緒に遊ぶほど仲が良かったわけではありませんが、廊下でお会いすればご挨拶してらっしゃいましたし、晩餐の際には和やかに会話をしてらっしゃいましたよ。」


よし、異母姉兄からいじめがあった、ということはなさそう。家族が仲いいのが一番よね。

まだ家族の話しかしていないのにお腹一杯になってきた。

物理的にもお腹一杯だったため、だんだんくちくなってくる。

そういえばこの身体はまだ8歳なんだった…


そっとマーサが入ってきてビビの肩をたたく。


「今日はいろいろとお疲れでしたでしょう。姫様はそろそろご就寝ください。ビビ、重要なことは紙にまとめて姫様に差し上げて。」

「かしこまりました。」


「それでは姫様、ごゆっくりお休みくださいませ。」


そういって二人は退室していった。


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