悪役令嬢だったのかもしれない。
悪役令嬢かもしれない。何故かシャーリー視点が書きたくなりました。
巻き込まれが停滞してるので、つい馬鹿な主人公を書きたくなって。
ざまぁあんまりしてないので、ちょっとイライラしたらすみません。
ジークリッテは、私の書いている女主人公の中では、二番目に精神的に強い女性です。
ちなみに精神的最強は、生まれ変わっても。の主人公で、肉体的最強は愛している人には嫌われ……の主人公ですかね(笑)
あたしの名前はシャーリー。
この世界では誰もわからないだろうけど、乙女ゲームの愛されヒロインやってます。
そう言っても、この世界の人には理解出来ないと思う。
この世界──魔法があり、モンスターがいる、中世風ファンタジーとでも言えばいいのかな?
あたしにとっては、異世界なこの世界。
そう異世界。あたしには前世というべき記憶があったから。
地球という名の前世の世界の事は置いといて、あたしはこの新たな世界へ愛されヒロインとして生まれ変わった。
異世界は異世界でも、あたしはこの新たな世界を前世で経験していた。
『乙女ゲーム』というゲームの世界として。
最初は気付かなかった。
何か既視感的なのがあるなぁ、ぐらいで普通の女の子していたあたしだったけど、ある日魔法に長けている事が判明して人生が変わる。
平民だったのに貴族と接点が出来て、ついに運命の出会いを果たしたんだよね。
この国の俺様何様王子様なリオネルと出会ってしまった。
「格好いい」
思わず素で呟いたあたしに、リオネルが絡んできて、つい口答えしたら気に入られた。
「変わった女だな」
その笑顔と台詞に聞き覚えが──と思った瞬間、あたしはこの世界が前世の乙女ゲームに良く似た世界だと気付き、しかもあたしがヒロインだと悟り、混乱した。
混乱して逃げ出したあたしに、さらにリオネルは興味を惹かれたらしく、度々接触してきた。
その頃には、あたしにはこの乙女ゲームに似た世界を楽しむ余裕が出てきた。
だってそうでしょう?
前世では見なかったような高スペックなイケメンが、あたしの一挙一動で照れたり、拗ねたり、甘えてきたり?
あの乙女ゲームをやり込んでいたあたしには──まぁ、人気作品だったし、やり込んでいた人は多いだろうけど、今ここにいるのはあたしだけだ。ある意味、チートってやつよね。
戦闘もある乙女ゲームだったけど、攻略相手からの好感度で魔法の強さとか、庇ってもらえるとかあるから、ちょー楽々。
確実に最高のルート──逆ハーレムENDへ進んでいく毎日。
ま、あたしの目的はその先にあるんだけど、気がかりが一つある。
それは、悪役令嬢であるジークリッテの存在だ。
ゲームではもっとあたしへ絡んできて、色々嫌がらせをしてきた筈なのに、実際は何もない。
せいぜい小学生男子みたいな悪戯が二回ぐらい。
あと、ジークリッテの取り巻きもいない。
ゲームの登場人物で、あたしはこっそり嫌み三連星って呼んでたんだけど、その三人組の姿は影も形もない。
王子様の婚約者だと偉ぶるから、ゲームでは嫌われてて、その三人組ぐらいしか友人がいなかったジークリッテの、その友人というか取り巻きがいない。
つまりはこの世界のジークリッテは一人で過ごしてるんだけど、嫌われている訳じゃなく、高嶺の花というか憧れられているみたいな雰囲気だ。
主人公はあたしなのに。
まぁ、ゲームに似た世界なだけで、微妙に違うのは仕方がないかと一人で納得して、あたしはエンディングを心待ちにしていた。
ゲームの展開通りに会えた『あの方』は、画面越しより格好良くてキラキラしてて、あたしはもう骨抜きだ。
刺されそうになるのは怖いけど、
『あの方』を手に入れるためなら我慢出来る。
逆ハーレム解散なのは残念だけど、本命は『あの方』だから、それまで楽しませてもらえればいいって感じだ。
起きてないイベントはいくつかあるけど、それはゲームみたいな移動とか出来ないから仕方ないよね。
ゲームでは地図のアイコンタッチとかで一瞬の移動だったけど、現実なこの世界では馬車や徒歩で移動だから、どうしても時間がかかる。
そのせいで拾えなかったイベントもあるんだと思う、たぶん。
本命の『あの方』関連のイベントはコンプしてるから問題ないし、あまり気にはならない。
一応、ジークリッテと友達というか、接点を持とうとしたんだけど、艶やかな笑顔でいつもさらりとスルーされた。
もしかしたら、この世界ではジークリッテは悪役令嬢じゃないのかもしれない。
そんな毎日を過ごしていたあたしだったが、ついにリオネルがあの一言をあたしへ囁いた。
「俺はシャーリーを愛している。ジークリッテとは、婚約破棄をする」
止める……ふりをしたあたしを振り払い、リオネルは逆転ハーレムメンバーを連れて消えていった。
お前だけにはいい格好させない、シャーリーはお前のものじゃない、私だって諦めません、みたいな心地好い口喧嘩を聞きながら、あたしはひっそりと微笑む。
これで全ての舞台は整った。
●
リオネルはあたしに断罪の場所を教えてくれなかったけど、もちろんあたしは知っていた。
聞き耳を立てて、タイミングを計って飛び込んだのだけど……。
「待って! ジークリッテは悪くないの! あたしが、リオネルを好きになってしまったから……」
見苦しく喚いてる筈のジークリッテが、えー、と言わんばかりの顔であたしを見ている? な、なんで?
ここは、婚約破棄なんて嫌よ! って叫んでなきゃいけないのに。
呆然するあたしを、逆ハーレム要因なイケメン達が口々に諌めてくるけど、あたしはただただジークリッテを見つめる。
もう睨んでたかもしれない。
ナイフはどうしたの? なんで、斬りかかって来ないの?
あたしの目力が効いたのか、ジークリッテが首を傾げて口を開く。
「あの、私は帰ってもいいですか?」
まさかの帰宅宣言!?
「え!? どうして、ですか!? なにか、あたしに言いたい事は?」
さぁ、罵って、ナイフを出しなさい!
察しなさいよ、ぐらいの気持ちでジークリッテを見つめていたら、何故かあたしの目の前で膝をつき、土下座の体勢に……。
「申し訳ありませんでした! どうぞ、俺様王子様とお幸せに」
完璧な謝罪プラス俺様王子様を押し付けてきた?
「ど、土下座?」
思わず口に出してしまい、ジークリッテ以外から色々と不思議がられ、あたしはわたわたと言い訳を口にしながら、土下座したままのジークリッテを見やる。
「もう絶対に貴女方には関わりません。遠くから幸せと健勝をお祈りしております」
さらに追い打ちみたいに丁寧な挨拶をされてしまい、
「あ、ありがとうございます?」
と、反射的に返してしまった。
ええええ? と内心で大慌てをしているあたしに、俺様王子様以外が、嫉妬混じりに話しかけてきてるけど、あたしはそれどころじゃない。
本当に、どうなってるんだろう。
俺様王子様は、ジークリッテに切って捨てられて、何かショックを受けてたりするけど、それも気にならない。
「なんで、隠しキャラ、来ないのよ……っ」
ジークリッテに刺されそうになってないから?
逆ハーレム要因なイケメン達が慰めてくるけど、あたしが欲しかったのは、『あの方』なのに!
「おい、誰の事だよ、シャーリー! お前は、俺が好きなんだよな?」
リオネルが女々しさを発揮して肩を揺すってくる。
揺れる視界の中、ジークリッテが颯爽と立ち去ろうとし、爽やか腹黒騎士が追っていくのが見える。
うわぁ、さっきまであたしが好きだって言ってたのに……。
自分を棚にあげて呆れていると、ジークリッテから淑女らしからぬ言葉が聞こえ、思わず見つめる。
リオネルも聞こえたらしく、あたしを揺すっていた手も止まる。
そして、ついに現れた『あの方』に、あたしが内心で歓喜の声を上げていると、隣で予定通りリオネルが叫ぶ。
「ユアン陛下!?」
よし。まさにゲーム通りな展開に、あたしは心の中でガッツポーズをする。
あとは、これであたしが話しかけて……、
「隣の国の王様だったんですね」
と、ニコッと人懐こく笑いかければ──。
『あぁ、君はあの時の可愛いヤンチャな子猫ちゃんか』
『もう会えないと思ってた』
『離れた後も君の事ばかり考えて──』
等々。
もう、砂糖吐きそうなぐらい、甘々な台詞と、優しい笑顔で甘やかしてくれるんだよね。
さぁ、いつでもどうぞ、とあたしはユアン陛下を見つめ、みんなが誉めてくれる笑顔を浮かべる。
──でも、ユアン陛下は、あたしを見ていない?
ユアン陛下が見ているのは、ジークリッテ?
どうして?
どうして?
どうして?
どうして?
どうして?
おかしいよね?
あそこにいるのは、あたしの筈なのに!
そんなドロドロした思いでジークリッテを睨んでいたけど、ユアン陛下は気にすることなくジークリッテを抱き上げ……。
そのまま、濃厚なキスを──。
シャーリーが穢れます、とか途中までしか見せてもらえなかったけど……。
ジークリッテは、あのまま連れて行かれてしまったらしい。
リオネルとジークリッテの婚約破棄はなかった事にならず、そのまま隣国の王とジークリッテの婚約が決まったそうだ。
あたしは切り替えが早いから、ユアン陛下は諦めて、元々のルートだった俺様王子様なリオネルと──そのつもりだったのに。
何でだろう、最近のリオネルは、以前ほどあたしに構ってこない。
他の逆ハーレム要因も、少しよそよそしくなった気がする。
それもこれも、みんなジークリッテが悪いんだ。
だって、みんなが変わったのは、あの一件からだ。
きっと、ジークリッテがユアン陛下に頼んで、何かやってもらったんだ。
そうとわかったら、負ける訳にはいかない。
だって、あたしは……
愛されヒロイン(主人公)なんだから。
悪役令嬢なんかには、負けないから。
ユアン陛下だって、あたしの事を知れば、あたしに惚れるかもしれない。
けど、悪役令嬢じゃないふりして、やっぱり悪役令嬢だなんて、本当に卑怯。
ま、最後に勝つのは、愛されヒロイン(主人公)なあたしだから。
自分で書いてて、痛い方だなぁと思うシャーリーさんです。
この後、自業自得かもしれない、に続くんだろうなぁ、と思いつつ。
今回は、投稿もスマホで練習してみました。