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 昼前の森の中、間の抜けた声が静寂を破る。


「黒い犬ってぇ、アリスみたいなぁ〜?」


 いやいやエリス。その可能性を考えてオレたちは絶句した訳だが、本当にそんな事あるのか? シャドウは全速力でハピアのところへ急いでたんだぞ? 寄り道なんてしないだろう。


「パンデミック・キングダム。地理的にはウォーエルフの里からターミネイト帝国の直線上だな」


 メテオが地図を眺めながら呟く。


 シャドウがいる可能性……、出てきちゃったな。


「ごめん。アリスに似てたかは、よく覚えてないんだ」


 レオンが申し訳なさそうに頭を下げる。

 おっとココで情報不足だ。やはりシャドウの可能性は無いだろう。黒い犬なんて珍しく無いしな。


「一緒にいた旅の王様が派手すぎて、そっちしかあんまり覚えてなくて……」


「えっと、派手ってどんな風に?」


 ここでキャロの援護射撃だぁー……。ねぇ止めよ? オレたち急いでるじゃん? 無理して他人事に首突っ込まなくて良いじゃん。


 王様なんてどこの国の人だって同じだよ。旅好きで派手好きなのが世界のトレンドなんだよ。


「王様であることを凄い強調する、偉そうな白髪の兄ちゃんだよ。あの人が銃でアンデッドを倒して、オレたちを逃してくれたんだ」


 へぇー、メッチャ良い人がいるんだなぁ。偉そうな白髪の兄ちゃんかぁ。銃でゾンビを倒すなんてスタイリッシュだなぁ。


「あの王様。シン・リュミエール様がオレたちを助けてくれたんだ!!」


 レオンが拳を震わせて叫ぶ。

 うん知ってた。流れ的にそれしか無いと思ってた。


 …………さて。どーするか。オレの脳内に選択肢が浮かぶ。


 一、そんなもん知るか。オレはハピアを救いに一直線だ。


 二、やれやれ。旅は道連れ世の情け、これも何かの縁だ。パンデミック・キングダムを救う手伝いをしよう!


 三、パンデミックに寄りつつシャドウがいたら回収、そのままハピアを救いに行く。


 こんなもんか。オレとしては是非一つ目の選択肢を選びたい。シミュレーションしてみるか。


〜〜〜ハピアを救いに一直線の場合。


「わんわん(ハピア! 救いに来たぜ!!)」


 うおおおお!! 誘拐犯なんて、進化したオレの敵じゃないぜ!! 神聖獣化!


「アリス! 私は貴方を信じていましたわ! 貴方は世界最強の勇者ですわ!!」


 ひしっ!! おいおいハピア、もっと褒めて良いぜ。礼なら毎日のブラッシングで充分さ。


「だがアリスは途中の国一つを見捨てたぞ」


 メテオ!? 今言わなくても良いことを!


「あら……、貴方って薄情ですのね……。まあコチラの黒いわんちゃんはどなた!?」


「俺か? オレはアリスの心の闇さ。すまないハピア、人助けしてて来るのが遅れちまった」


 シャドウ!? 何故ここに!


「俺の国をシャドウが救ってくれたんだぜ」

「ふははは、王である俺様の協力をするとは殊勝なお犬様だ。貴族の位をくれてやろう!」

「ちゅんちゅん(やっぱ男はワイルドな方がイケてるわよね)」


 な!? 皆何を言ってるんだ!


「他人だからって無関心なアリスは嫌い」

『アリスちゃんには他人に優しくって教えたんだけどねぇ』

「あはは〜、アリスってば駄目な子〜」


 え! だってハピアを救う為に旅に出たんだから他人なんて……。


「コチラの黒い方がクールでカッコイイですわ! 非人道的なアリスには、他の方に飼ってもらいましょう」


 え、嘘でしょ? ハピア! 待ってくれ! 行かないでくれハピアー!!


「ふむ。人と魔物の友情か……。アリスにはそれは無かったらしいな。さらばだ」


〜〜〜


 …………。1は無しだ。ありえない。


 でも二もなぁ……。完全にハピア後回しにするって事でしょ……?


〜〜〜パンデミック王国を救いに行った場合。


「そんな……、ハピア……。間に合わなかったのか……?」


「アリス……、私は貴方を信じてましたのに。どうして……、どうしてすぐに来てくださいませんでしたの……?」


〜〜〜


 無し無し無し無し!! もう間を取って3番だ! それしか無い!!


「アリスよ。それで我らはどうするのだ?」


「わん!!(三番だ!!)」


 メテオの問い掛けにオレは叫ぶ。


「ちゅん……(いや、三番って何よ……)」


「いきなり叫んで……、どうしたと言うのだ」


 しまった。完全に自分の世界に入っていた……。

 仕方ないのだ、人間は最悪の選択肢を想像してしまう生き物。だがそれこそが弱い人間が生き延びる為の知恵だ。という事にして納得しよう。


「わんわん(シャドウ達の後を追う事にしよう。どーせ通り道なんだろ?)」


「そーみたいだねぇ〜」

「この子達の国を救ってあげるの? 絶対反対すると思ったのに」


 キャロ! 何を言うんだ! オレはいつだって人助け大好きだ! ははは、困ってる人を見過ごせないタチでね。


「俺たちの国を救ってくれるのか!? まだ生きてる人たちもいるんだ! アリスが回復してくれるのか!?」


 え、あぁ。うーん……。まぁ、時間がかからないなら……、前向きに善処しようかな……。


「ではレオン達はどうする?」


「俺たちも一緒に行くよ!」


 いや、いい。そんなにやる気を出すな。遠慮させて貰う。お荷物はいらん。ウォーエルフの里にでも行って匿ってもらえ。


 エリス、長老に連絡してくれ。


「は〜い」


 エリスが間の抜けた返事をすると服のポケットからスマホを取り出す。


 その現代的な動作とエルフの容姿のミスマッチがとてつもなく気になるが仕方ない、この世界には魔法で動くスマホが普及しているのだから。


 さて、それじゃコッチも用意するか。先ほどの体を洗ってた水場へと魔力を流す。


 来いよ水の眷属。えーっと……、水狼、で良いか。


 身体を水で構成された獣が姿を現わし、その背にレオン兄妹の二人を乗せる。


「うわっ!? 何だコイツ!?」


 レオン、喉が渇いたらソイツの体の水でも舐めててくれ。


「これもアリスの魔法なのか!?」


「喉が渇いたらその子の水を飲んでってアリスがーー」


「この水ってさっきアリスが体洗ってた水じゃんか! メテオの吐いた奴が混じった水なんか飲めないよ!!」


 うるさい、黙れ。オレはお前みたいな生意気な男子が嫌いだ。余計なイベント増やしやがって。


 水狼、ゴー!


 オレが命令すると水の眷属が一目散にウォーエルフの里へと猛ダッシュしていく。


「うん、うん。長老さま〜。私は大丈夫だよ〜、じゃあ子供達が着いたらよろしくね〜」


 エリス、そっちの話はついたか。ちょっと変わってくれ。


「ん〜? 良いよ〜」


 エリスがオレへとスマホの画面を向ける。装飾の施された透明なガラス板に憎々しい長老の顔が映っている。


「わんわん!!(おいジジイ!! お前メテオと賭けしてたろ! しかも勇者の剣とかめっちゃオレ向きのアイテムじゃねーか! なんでオレに渡さなかったんだよ!)」


 溜まっていた不満をエルフの長へとブチまける。八つ当たりも多少入ってはいるが、これは正当な怒りだ。


「いくら勇者とはいえ、犬の貴様では剣など扱えぬではないか」


 ぐっ、こいつ……! 普通に正論で返して来やがった。それでもオレは引かない。

 大事な勇者の剣を渡さないだけなら、まだ許せる。だがコイツは賭けで譲ったのだ、メテオに。


「わん!(使えるわ! なんか、ほら、アレだ。口に咥えたりして、なんか良い感じに敵をバッサバッサ斬ってやるわ!)」


「用が無いなら切るぞ」


あ、こら、待て。オレの不満はまだーー。


「アレは伝説の剣なのだ。

 手にした物は例え、どんな愚鈍な物であろうと剣の達人になれる。そして真の所有者が手にした時、その力は覚醒する。

 貴様に渡すより、あの弱体化した人型の火竜の方が戦力が増強するであろう」


 うお、結構まともな理由があったのか。

 てゆーかヤメろ。もう喋るな。ジジイにはオレの顔がアップで映って見えないだろうが、後ろでメテオが悲惨な事になっている。弱い言われて落ち込んでいる。


「ではさらばだ。健闘を祈るぞ、勇者よ」


 あっ、はい。ありがとうございます。


「そっかぁ〜。メテオさんが弱いから長老様が気遣ってくれたんだね〜」


 うん、そうみたいだね。それとエリス、そーゆーのは口に出さない方が良いよ。


「えへへ〜、ごめんなさ〜い」


 気になってたんだけどエリスって転生者だよね? そこそこ中身大人だと思うんだけど前世いくつだったの?


「私〜? 私小学生の頃に事故で〜」


 えっ、あっ、そうなんだ……。なんかゴメンね……。


 道理で中身幼いなぁ、とか思った訳だ。そんな事を考えながらメテオを見つめる。


「ほら! メテオ元気出して? 大丈夫だよ! その剣があれば凄い活躍できるよ!」


「ちゅんちゅん!(そうよ! 私も一緒なんだから元気出しなさい!)」


「それは……、我の力では無い……」


 メテオが、とてもメンドクサイ奴になっている……。

 短い期間にダメージを与えすぎたな。考えてみればマッドハートに「弱い」言われた時から数日しか経っていないもんな……。


「わん(メテオが立ち直るまで、もう少し休むか……)」


「そうだね〜。お昼食べたらパンデミック・キングダム行こうね〜」


 その言葉に頷き、天を仰いで祈る。


 ハピア……、もう少し時間が掛かりそうだけど、待っててくれよ?


 そう願いを込めたが、返事は来なかった……。

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