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木偶の獣を駆る者たち。燃える様な真紅の髪を携え、抜き身の剣を掲げる者。雷を迸らせて羽撃く鳥の魔物。
そして凶悪な面構えを携える青く輝く白虎。
それらが陣取る向かい側、木にもたれて疲労困憊の様子の少女。その前で少女を守るかの様に武器を構え、震える少年。
おおぅ……、コレはか弱い子供を襲う魔の軍勢に見えても仕方が無いな。
「それ以上近寄るなよ……! お前ら全員、俺が殺してやる!!」
異議あり! 人を見かけで判断するのは良くないと思います!
「あ、いや……、我は、その……」
メテオ! 言葉が通じないオレの代わりに言ってやってくれ!
「お前がボスか!? 子供だからって舐めるなよ! 妹は俺が守るんだ!」
もう良いよ! 少年の主張はわかったから! ほらメテオ早く言えよ!
「や……、いや、我は……」
早くしないと子供たちとの関係が修復不可能なとこまで来ちゃうだろーが!!
メテオの方へと振り返る。
だが何かあいつの様子がおかしい。普段饒舌に進行役を買って出るあいつが……。
何故か汗だくで青ざめた顔をしている……。
「我、我々は……」
途端。メテオは乗る木偶獣から崩れ落ち、地へと転がる。
それを見たオレたちは駆け寄る。
メテオ!! どうした!? もしかして子供と見せかけて敵の罠か! 呪いか何かを喰らったのか!?
「ぅぅ、我は……、うっーー」
瞬間。メテオが苦痛に歪んだ表情でオレへと覆い被さり、口を開ける。
どうした、気分が悪いのか!? ……おい、メテオ? 何だその顔は。美人が台無しだぞ? おい嘘だろ? 頼むからやめろ! 思いとどまれ!
「わおぉーん!!(やめろおおぉぉ!!)」
オレの全身へと、メテオの口から生まれるダークマターが降り注いだ。
◆
「姉ちゃん達魔物じゃなかったのか、脅かすなよ! あ、俺レオンってんだ。こっちは妹のエイダ、よろしくな!」
レオンと名乗った少年が先ほどの表情とは打って変わってにこやかな笑みを浮かべて話す。
「そうだよ。私たちは冒険者、みたいな感じなのかな?」
「この子たち悪い魔物さんじゃないよ〜」
少年達とオレ達の間に入ってくれるキャロとエリス。二人がいてくれて助かった。
オレもクーも普通の人と会話する事は出来ない。こーゆー事はメテオを頼りにしてたんだが……。
「ちゅんちゅん(まさかメテオが、人間と話すの苦手とはねー)」
水場で体を洗うオレをクーが遠巻きに呟く。
「すまぬ……、すまぬ……」
メテオが心底申し訳無さそうに、オレの体を水で流しているが……。
「わんわん!(許さねーよ!? 何て物ぶっかけてくれるんだよ!! もっとちゃんと洗え! 竜臭いんだよ!!)」
くそ! オレの可愛い純白の毛並みに何て事しやがる! てゆーかハピアにもキャロにも普通に接してたろ!!
「ハピアは人とは思えん強さだったし、最初敵だったから……。キャロも初めて会話したのはお主と合体してた時だった……」
エルフの奴らは何だよ!! 長老とは賭け事するくらい仲良くなってたじゃねーか!
「エルフは……、人とは違う……」
納得出来るかよ!! だいたい人が苦手とか初耳だわ! なんで先に言わねーんだよ!
「聞かれなかったから……」
むきぃー!! ふっざっけんなあぁぁ!!
「そのくらいにしてあげなよ〜、メテオも反省してるよ〜?」
いやエリス! ダメだ、こーゆーのは気付いた時に言わないとうやむやになって同じ事繰り返すぞ!
「アリスの言う通りだ……。我は過去に人に捨てられた事を、今でも恐怖している。人と接するのが怖いのだ……」
人に捨てられた。最初に会った時もそんな事言ってたな。だからってオレにした仕打ちは許さないが。
「ほらアリス、謝ってる人は許してあげないと! ね?」
キャロが優しい笑顔でオレを咎める。
オレは水場から出て彼女へ近付き、前足を伸ばす。
スッと後退るキャロ。しばしの沈黙。
そうか……、まだ臭うか……。
ちくしょおおお!!
振り向き、水場で項垂れるメテオへとダッシュし、猛攻撃を仕掛ける。
「何をする!? 謝っているではないか!」
うるせええぇ!! 何で石鹸の一つも持ってきてねーんだよ!! 水で洗い流す浄化魔法にも限度があるわ!
「やめろ白アリス! 我に噛み付くな!」
変な名前で呼ぶんじゃねええ!! じゃあアレか? シャドウの方は黒アリスか? オレ達の名前の前後に白黒付けたら虫みたいになるだろうが!!
瞬間、少女の咳き込む声。同時にレオンが慌てる声がして振り向く。
そーいや女の子の方、エイダって言ったか。あの子元気無さそうだったけど、大丈夫なのか?
「その子、どうしたの?」
キャロが心配そうにエイダの手を握る。彼女は顔から汗を噴き出し、辛そうに呼吸をする。
「わかんねえけど、何かの病気だよ。俺達の国に蔓延して、逃げて来たんだ」
病気? 子供二人で逃げてきた?
「良かったら私たちに、詳しく聞かせてもらえるかな?」
「うん。二ヶ月くらい前、急にこの病気が流行り出してさ。最初は皆、何て事なかったんだ。
けど全然治んないのに症状は悪化してく一方でさ。それで、死んじゃった人も出たんだ」
え、それってヤバくない? キャロ、少しその子から離れた方が……。
だがキャロは少女の手を握り続ける。その顔は心から少女を心配している様だ。
そんな顔見せられたら何も言えないな……。キャロといると、つくづくオレの自分勝手さを思い知らされるな。
「死んだ人が出てからが地獄だったよ。死んだ筈の人たちが……」
そう言って少年が心苦しそうに、沈黙する。
何だよ、気になるから途中で止めんなよ。最後まで言えって。
「それで、どうなったの?」
「あ、ごめんなさい。それで、信じてくれないかも知れないけど……。
死んだ人達が皆、起き上がったんだ……。それでアイツらが他の生きてる人たちを襲って、襲われて死んだ人も起き上がって……。
もう俺達の国は、パンデミック・キングダムはおしまいだよ!!」
少年が叫び、頭を抱える。それをキャロとエリスが慰める。
すげえ名前の国出てきやがった。建国した瞬間から滅びそうな名前だ。けっこうな悲劇を聞かされた気がするが、国名聞いた瞬間に他の思考全てが吹き飛んだ。
「起き上がる死者……。アンデッドの一種か、ゾンビかグールか。死んだ筈の遺体に瘴気が取り付き、魔物化したもの」
お? 何だメテオ、元気になってきたな。そして冷静だな。そんな暇あるなら手を動かせ、手を。
けどアンデッドってそんな簡単に増えちゃうもんなの? 病気で死んだ人がみんな魔物になってたら大変すぎるだろ。
「通常ならばそんな事は起こらない。負の魔力が溜まりやすい場所、忘れ去られた墓地や戦場跡なんかに生まれるな。
もしくは不死王リッチロードと呼ばれる存在の仕業か……」
不死王かぁ。また王か……。
「よっぽど嫌な空気の国だったんだね〜」
あっ、おいエリス。あまりそういう事はーー。
「そんな事ない!! 俺達の国はアンデッドが生まれる様なところじゃない! 皆今まで幸せに暮らしてたんだ!! それが、急に……」
それ見ろ。せっかく心を開きかけたレオンが心を閉ざしてしまう。
仕方ないな……、オレが魔法で花でも見せて癒してやろう。
そう思いトコトコと少年に近付いていく。
「近寄るなお前! ゲロ臭いんだよ!!」
叫ばれる言葉。それは刃となり、オレの心へと突き立てられる。
その衝撃を受け、オレの体が地へと倒れ伏す。
くそぅ……、メテオのせいで……。メテオがあんな事さえしなければ……。
「ふむ。では残された可能性は一つ、不死王か。だがそれもおかしな話だ」
そう言ってメテオが言葉を切る。
何だよ? 勿体ぶらずに言いやがれ。さっきまで人間が苦手〜、とか言ってた癖に知識ひけらかせる様になって、急に饒舌になりやがって。
「うっ……、すまぬ……。その、不死王の仕業だとするなら手口がおかしいのだ。時間をかけて病死とか、生まれたアンデッドに人々を襲わせるとか」
あ? それの何がおかしいんだよ。結果的に人を殺しまくってアンデッドとやらを量産してんじゃねーか。
「不死王と呼ばれる名の通り、奴は王だ。王の強大な力を持ってすれば、国を一瞬で吹き飛ばす事も可能だろう。
それからアンデッドを生み出した方が手っ取り早く事が済む。という事だ」
あぁ……、そーいや以前オレが倒した王、シン・リュミエール。あいつも国を消し飛ばす! とか何とか言ってたな……。
この世界の王様物騒だな、統治する気ゼロかよ。
「もう一つ可能性があるなら……。その少女が罹っている病の方か……」
病気が原因で不死の動く死体に……? 何だろう、凄く聞き覚えがある。
生物兵器というかハザードと言うか……。
裏に悪の科学者でも控えていそうだ。
「そうだ病気! アリスならこの病気治せるかも!」
突然キャロが手を叩き笑顔を浮かべる。
え、オレ? いや、怪我とかなら治せるけど……。病気はどうなの……?
「本当か!? その犬がエイダの病気治してくれるのか!?」
少年が顔を輝かせてオレを見る。
え、いやいや! まだ治せると決まって無いから! そんなに喜ばれると失敗した時つらいから!
「ふむ。進化したアリスならやれるかも知れんな。やってやるが良い」
命令すんなよ! やるけどさ! ……失敗しても怒るなよ?
少女に近付き、手に触れる。
苦痛に悶える顔が、オレを見て僅かに微笑みを見せる。
大丈夫だ、今オレが治してやる。そう意思を込めて魔力を流す。
いつもと同じ治癒魔法。だがイメージを変えていく。
病原体を倒す聖なる力……。抗生物質みたいだな……。
あれだ、エイダの体を強くしよう。免疫力を高めて、病原体をやっつけるみたいな。
病を倒す、病を倒す、病を倒す。少女を治す、治す、治す。
オレの手から放たれる淡い緑の光が少女を包む。やがてそれが収束し、消えていく。
「治ったのか!?」
レオンが叫ぶ。エイダの体から汗が引き、先ほどの苦痛に呻く表情が緩和されている。
瞬間。少女がクシャミをし、唾液がオレへと飛散する。
ぎゃあああ!! 感染ったあぁぁ!! てゆーかやっぱりダメだったあぁ!!
急ぎ水場へと飛び込もうとする、だがそれをメテオに抱き抱えられて制止させられる。
離せメテオ! 今のは完全に感染したぞ! 早く洗い流さないと!!
「落ち着けアリスよ。あれほど近くにいる少年はピンピンとしている。そう簡単に感染などしない」
あ、あぁ、そうだったな……。すまない、失敗のショックで焦っちまった。
オレは少年を見る。てっきりメチャクチャ怒られると思ったが、少年は項垂れ落ち込むばかりだった。
それはそれで申し訳なさで胸がいっぱいだな……。
「ありがとう、わんちゃん。えっと……、アリスちゃんだったかな?」
多少は体力が回復し、喋れる余裕が出来たのか、少女が口を開く。
あぁ、どういたしまして。ゴメンな、完全に治してやれなくて。
「アリスでも治せんとなると……。病気では無いのかも知れんな」
いやー、症状的に病気だろー。絶対パンデミックな何かじゃん。ゾンビ映画な展開でしょ。
「少年、レオンよ。お主たちはどうやって国から逃げたのだ。アンデッドたちが蔓延る国を子供二人で逃げ出せたのか?」
あ、それ気になってた。オレも今聞こうとしてた。
「ちゅんちゅん(アンタは黙ってなさい)」
何だよ、ホントだぞ? ホントに聞こうとしてたんだからな。
レオンが口を開く。
「黒い犬と、王様の兄ちゃんに助けて貰ったんだ」
え……? 思い当たる人物を想像し、オレたちは絶句した。




