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推敲前の物アップしちゃったので投稿し直しです!m(._.)m

 ガラスに覆われた水の中。


 水槽……? いや、それほど良い物ではない。フラスコの様な球状の檻。悍ましい数の管が全身に巻き付き、体を動かす事すら出来ない。


 その内側から見える光景。


 こちらを眺め、満足そうに微笑む女。魔族だろうか、背中からは蝙蝠の翼を生やし、淫靡な表情を浮かべている。


 そしてその傍らに佇む大男。全身を機械で覆った男。バイザーで覆われた、赤く光る単眼が此方を見ている。


「魔力の搾取、順調ですよぉ〜。王様(お、う、さ、ま)


 女が男へと擦り寄り、耳元で囁く。


 王と呼ばれた男は微動だにせず感情を表さない。


 ただ一言。無感情に、無機質に呟く。


「このまま計画を進めよ」



 空は快晴。朝を迎え、食事を済ませたオレ達はウォーエルフの里を出発し、ターミネイト帝国を目指す。


 木偶獣を引き連れ、聖獣化して森を駆け抜ける。

 長時間の移動だ。短期的な速さよりも、使い慣れた魔法の方が効率よく進める。


 だが一つだけ疑問がある。


「わん(エリス、何故オレに乗っている)」


 そう、ウォーエルフの里の一員である彼女がオレ達について来ている。


「だってぇ〜、アリス達の力になりたかったから〜」


 オレの体にしがみ付きながらエリスが話す。

 気持ちはありがたい。だがこれは危険な旅なんだ。戦いになれば命だってーー。


「アリスが守ってくれないの〜?」


 いや守れるよ。多分守れるけど。


「じゃあ決まりね〜」


 いや、でもーー。


「まあまあアリス、私なんか何も出来ないのについて来てるんだし」


 キャロが木偶獣に乗りながら声をかけてくる。すっかり乗りこなしたキャロは余裕の体勢だ。


 いや、キャロは一人で置いてった方が危ないって話だったじゃん。エリスはウォーエルフとか言う戦闘民族に囲まれてた方が安全だろ。


「アリスよ、仕方あるまい。エルフ族は高慢なのだ。決めた事は覆さん」


 どんだけワガママなんだよ!! だいたい旅立ちが今日なのもおかしい!

 ホントだったらシャドウを追う為に、すぐにでも飛び出したかったところだぞ!


「ちゅんちゅん(まさか二日もノンビリするとはね〜)」


 クーがオレのやや先を飛んで鳴く。


 そうだ、勇者を倒した後。長老に怪我人の治癒を依頼されたオレは、律儀にもシャドウの言葉通り、負傷者たちに回復魔法をかけて回った。


 そして回復するや否や、祝勝会と称して夜通し騒いだ。

 それに付き合わされたオレ達は、翌日の午前中はずっとダウン。


 更にその日の午後、元気になったウォーエルフ達が「進化した勇者の力を見せるが良い!!」とかほざき始めてその日はずっと戦っていた。


「ちゅん(けど全員倒せて良かったじゃない)」

「そうだな、初日の無様を返上出来たではないか」

「アリス完全復活だね!」

「アリスの魔法凄かったよぉ〜」


 むぅ、そんなに褒められると怒る気力が無くなってしまう。


 確かに進化した事でオレは強くなった。


 結界による防御も、初日は貫かれたが最早オレの障壁は完璧な物と化し、全くの攻撃も通さなかった。


 更には各属性の獣化の精度も増し、獣化した獣を別個に扱える程にオレは強くなった。


 実質、聖獣を複数呼び出せる様な物だな。


「ふふ、我もあの里に伝わる剣を貰ってしまったしな。期待されているな」


 木偶獣に跨るメテオが白銀に輝く剣を掲げる。


 え? 何それ聞いてない。何見せびらかしてんの? 自慢か、自慢なのか?


「ちゅん(アンタがウォーエルフ達と戦ってる時、メテオと長老が賭けてたのよ。どっちが勝つかに)」


 おい!! 何勝手に人を賭けの対象にしてんだ! なんでオレの頑張りでお前がパワーアップしてんだよ!


「メテオはアリスの勝ちに賭けてたんだから、そんなに怒らないで」


 いや、キャロ。そんな事言っても……。


「ふふ、かつて伝説の勇者がエルフ族に託した秘剣だそうだ。我には爪があるが……、こんな物を貰ったら使ってみたくて仕方ない」


 おいおいおいおい! おい!! 伝説の勇者の剣ってそれオレ用だろ! 寄越しやがれ!!


 オレはメテオが乗る木偶獣へと魔力を流し、操作して盛大に揺さぶる。


 強制ロデオだ! 落ちやがれ!


「ふふ、アリスよ。その程度では我を落とす事は出来んぞ」


 メテオが勝ち誇った笑みを浮かべ、オレの眷属に魔力を流して制御を始める。


 こいつ……!


「わんわん!(オレの魔法、上から操作して奪ってんじゃねーよ! てゆーか操作出来んなら全部自分でやれ!)」


「馬鹿を言うでない。マッドハートのお陰で多少の魔力は戻ったが、それでもまだ弱いのだ。

 魔力総量に余裕のあるアリスが頑張るのは当然の事よ」


 うぜぇ……! こいつ置いてってやろうか。そんな負の感情が心に広がっていく。


 このままコイツといたら、オレまで黒くなりそうだ。


「そーいえばアリス。いつの間にエリスちゃんと仲良くなったの?」


 オレとメテオのやり取りを見守っていたキャロが口を開く。


「わん(ん? いや、里での最初の夜にちょっとな)」


 まさかエリスがオレと同じ転生者だったとはな。あの夜、突然目が覚めたのも何かの導きだったのかも知れない。


「アリスったら凄いロマンチックな魔法使って〜、私のこと口説いてきたの〜」


 あぁ、あの時の魔法は我ながら凄かった。同じ転生者としてつい見栄を張ってしまったな。


「へぇ……。アリス、何したの?」


「水魔法で私の人形作ったり〜、近くの植物を成長させて花をプレゼントしてくれたり〜」


 エリスが語りながら聖獣化したオレへと頬擦りをする。


 そう、水魔法の出来栄えは過去最高だったな。あの練習があったからこそ、水獣化の魔法に成功したとも言える。


「ちゅん(へぇ、花ね……)」


「ほう、アリスも中々隅に置けない奴なのだな」


 はは、そんなんじゃ無いさ。ただ故郷が同じ人間にあってテンションが上がってたんだ。


「アリスはエリスちゃんみたいな子が好みだったんだねー」


 おいおいキャロ、何を言ってーー。


 そう言いながらキャロを見ると、彼女の周囲に赤黒い闇のオーラが発生している、様に見えるほど恐ろしい表情をしている。


 えっと……、キャロさん……?


「うふふ〜、私とアリスは出会った時から恋に落ちたの〜」


 エリス、誤解を招く様な事は……。


「へぇー、へぇー。そっかー、アリスはエリスちゃんと恋に落ちたんだ! 不思議だねー、アリスは私と一生一緒って約束したのにねー」


 いや、違うってばキャロ。エリスとはそんなんじゃ無いから! てゆーかキャロも別にそーゆー感じじゃ無いでしょ? 飼い主とペットな関係でしょ?


「ちゅん……(アンタって、中身人間だったとは思えないほど馬鹿なのね……)」


 クー、何を言うんだ! オレは何もおかしな事はしていない! これは壮大な誤解なんだ!


「そーいえばアリス、昨日の夜もその前もエリスちゃんと一緒に寝てたよね」


 え、いや! 寝てただけだよ!? オレ犬なんだから何も出来ないって! ホントにただ寝てただけ!


「あはは〜、アリスってば私にしがみ付いて離れなかったから〜」


 もおおおお! ちょっとエリス黙っててよ! キャロが誤解する様なこと言わないで!


「む、アリスよ」


 突如メテオが真面目な声を出す。


 何だよ!? 今オレは大変なんだよ!


「血の匂いがする」


 そうかよ! オレは今にもキャロに殺されそうだ!


 …………え?


「メテオどうしたの?」


 キャロがメテオへと振り返る。


 良かった……、話題が逸れた。いや良くない。血の匂いって何だ? 近くで事件か何かあるのか?


「人の血の匂いだ。襲われてるのでは無いか?」


 襲われてる? 何に? てゆーかそんな暇オレ達には……。一刻も早くハピアを助けないとならないのに……。


「大変! 助けないと!」


 キャロ……。あぁもう! 助けるよ、オレはキャロのこういうところが好きなんだ。

 どうせ二日もノンビリしてたんだ。単独で全力で駆けるシャドウには追い付けないだろう。


 なら。


「わん!(飛ばすから掴まってろ! とっとと助けてハピアの方に向かうからな!)」


 オレ達はメテオが指し示す方向へと足を早める。


 悲鳴も戦闘音も聞こえない。だが血の匂いは確実に近付いている。


「ちゅん(怪我でもしてるのかしらね)」


 すぐにわかるさ。もう着くぞ!


 木々を抜けた先。少しばかり拓けた水場に、彼らはいた。


「子供……か……?」


 メテオが呟き、同時に少年の叫びが上がる。


「何だお前ら! 魔物!? くそっ! 妹は、エイダは俺が守る! 近寄るんじゃない!!」


 まだ幼い少年が、木の棒という初期装備を構え咆哮した。

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