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11.心の闇

 護りたい。オレは仲間を守るんだ。それをこんな奴に邪魔させる訳にはいかねえ。


 ならどうする?


 決まっている、奴を殺せ。


 勇者が何だってんだ、オレだって勇者だ。魔族の勇者であり、人の勇者。

 あんなパチモン帝国のポッと出インチキ勇者、殺してやる……!


 勇者マサヨシが銃口をオレへと向ける。


 瞬間、叫びが上がる。


「お願い! アリスを撃たないで!!」


 少女の悲鳴、それと共に目の前に現れる姿。

 麦色の金髪を揺らし、オレとマサヨシの間に立ち塞がる。


 キャロ……!? どうしてココに……! 隠れてたんじゃ無かったのか!?


「お願いです。この子を殺さないで……」


 彼女は緑の瞳に涙を浮かべて懇願し、それを見てオレは立ち上がる。


「わんわん!(やめろキャロ! 危ないから下がっててくれ!!)」


 だが思いとは裏腹に、マサヨシはガトリングの右腕を下ろす。


「えー? 何この子! 超可愛いじゃん!! あ、もしかして俺のカッコ良さに一目惚れしちゃった? いやー、参ったなぁ。やれやれだ」


 マサヨシが汚い声で喚き、馴れ馴れしくキャロへと近付く。そして彼女の肩へと手を伸ばす。


 この野郎!! 汚ねえ手でキャロに触れるんじゃねえ! 勇者を騙った殺人鬼が!!


 オレは駆け出し、勇者へと襲い掛かる。


 だがオレの身体能力による攻撃に意味など無く、奴の蹴りを正面から受け地を転がる。


「アリス!!」


 キャロが叫び、走ろうとするがマサヨシがそれを許さない。


 くそ、クソが……! ふざけやがって……! ターミネイト帝国の勇者? 転生者? 元日本人?


 何だよそれ!! こんなに命を軽く扱うゲス野郎がオレと同じ日本人? そんなもん納得出来るかよ!!


「アリス!!」


 オレに駆け寄るキャロとは違う声。この声は……、エリス? どうして彼女まで……。


「待ってねアリス、今回復させるからね〜」


 エリスが長い髪を揺らし、オレに手をかざすと治癒魔法の優しい光が広がっていく。


「そーゆー事するなっての」


 声と共にエリスの体が吹き飛ばされる。マサヨシのガトリングによる打撃。


 この野郎……! エリスをぶん殴りやがったのか……!?


「わんわん!!(ふざけんな! 勇者が女の子に手ぇ上げんのかよ!!)」


 叫ぶオレを気にも止めず、吹き飛ばされたエリスへと、マサヨシが近付いていく。


「わんわんわんわん、うるさいなぁ。あれ? こっちの子も美少女じゃん! もしかしてコレがハーレムって奴? やっべー、俺またやっちゃったなー」


 勇者がニタニタと気味の悪い笑みを浮かべてエリスを抱き寄せる。


 この野郎……!!


「あなたなんてぇ、お断りです〜」


 エリスが憎々しげにマサヨシを見て言い放つ。


「わんわん!!(やめろエリス! そいつを挑発するんじゃない! 刺激しちゃダメだ!!)」


 轟く銃声。


「うるさいんだよ!! 俺の邪魔をするな犬っころ!!」


 勇者の叫びと共に放たれた銃弾がオレの体を撃ち抜いていく。


「アリス!!」


 キャロとエリス、メテオ達の声が重なる。


「お願いです! 私の事は好きにして良いから! アリスに酷いことしないで!!」


 キャロ……!? 何言ってやがる。そんなもん認めねえ、認めねえぞ!!


「えぇー、どーしよっかなー。別にこんな奴どーでも良いんだけどな。可愛い嫁の頼みだし、聞いてあげなくも無いけどなー」


 クソが……、許さねえ、コイツは殺す。


 絶対に殺す。


 キャロはオレが守る。エリスだってオレが守る。


 こんな奴には渡さねえ。


 殺す、死ぬより酷い目に合わせて殺す。


 守る、オレの命に代えても彼女達を守る。


「いやー、やっぱ国の命令だし殺しちゃおう。その犬、勇者みたいだし。勇者は二人もいらないよね!」


 ガトリングを構える勇者。オレはその人外を見つめ咆哮する。


 覚悟は出来た。オレは力を欲する。


 大切な人を守る力を。憎い敵を殺す力を。


 オレの全身を光が包む。


 黒く禍々しい光、そして同時に輝く聖なる光。


 身体が変質していく感覚。


 邪悪な闇は強大に、聖なる光は荘厳に。


 魔力が漲る。魂が震える。それでいて心は穏やかに。


 オレの精神が統一され、迷いが消える。


 オレは守り、救う力を選ぶ。


「あ? 何これ、魔物の進化? へぇー珍しい物見ちゃったな。まあ関係無いんだけどね」


 無数の銃声が鳴り響く。閃く銃弾の嵐。


「サーチ&デストローイ!!」


 忌々しい男の笑顔を睨み付ける。


 銃弾は何者をも傷付けなかった。奴の攻撃は全て弾いた。マサヨシの顔が驚愕に染まり、叫びをあげる。


「何だよ……!? 何だよそれ!!」


 奴だけでは無い。キャロもエリスも同様に驚愕の表情を浮かべている。


 オレの新たな力、神聖獣化。


 この力は全てを護る誓いの進化。銃弾もスキルも関係無え。そうなる様に力を欲した。


「くそ! 良いのか!? 俺に近付いたら女を殺すぞ!! 大人しく俺にやられろよ!」


 マサヨシがガトリングをエリスへと向ける。


 無駄だ。例え離れていても、今のオレは二人を護る事が出来る。


 オレはゆっくりと、奴に向け歩みを進める。


 瞬間、黒い影が勇者へと駆ける。


「何だよお前!? 来るな! 来るなあぁぁ!!」


 マサヨシが喚き、再びガトリングによる連射を始める。


 だがその弾丸は放たれると同時。オレの力によって弾かれ、地へと落ちていく。


「ワオォン!!(てめえはココで俺に殺されるんだよ!!)」


 黒い影が吠え、マサヨシに噛み付き、キャロ達から引き剥がす。


 何だ、アレは……!? 獣? 禍々しき闇の獣。

 かつて闇に堕ちたバロウの姿に似ている……。だが、それ以上の力をあいつは放っている。


「ガアゥ!!(凶黒獣化、感謝しやがれ! てめえを殺す為の力だ!!)」


 凶黒獣化……だと……!? あれは誰だ? いや、オレ自身が一番よくわかっている。


 あいつは、オレだ。


 オレの心の闇が生み出した怪物。


 怪物がマサヨシの体に噛み付き、振り回し、引き千切っていく。


「あぁぁ……、頼む、やめてくれ……。許してくれ……。召喚した王に言われてやったんだ、お願いだ! 見逃してくれぇ!!」


 かつて勇者を名乗った人外が泣き喚く。


 だが叫べば叫ぶほどにオレの、怪物の怒りが増し、あいつを包む闇が増幅していく。


 そして闇の瘴気がマサヨシの体を腐敗させ、ボロボロと崩れさせていく。


 闇はそれだけで収まらず、周囲へと邪気を広げていく。


 まずい……! あんなもんに触れたらどうなる……!?


 考えるより先に体が動く。

 オレは急ぎキャロとエリスへと駆け寄り、二人を結界で守護する。


「ガアォ(お前は命乞いした人間を見逃したのかよ!? お前はそんな事しない筈だ! だからお前は俺が殺す。

 人を傷付けるお前は、俺が、この場で! 処刑してやる!!)」


 黒獣が一際強く咆哮し、周囲へ広がる強大化した闇を圧縮し、マサヨシへと放つ。


 そして、奴が闇を放った場所には塵一つ残されていなかった。

 勇者が息絶えると同時、里全体から聞こえていた機械の駆動音が消え去った。


 リーダーを失って機能停止したのか……?


 遠くの方でウォーエルフが勝鬨の雄叫びを上げている。


 キャロとエリス、二人は震えていた。


 目の前の、恐怖を具現化した様な存在に対して。


 メテオとクーは、沈黙していた。


 二つに分かたれたオレ達の姿を見て。


 オレは、恐れていた。


 非道な男とはいえ、躊躇いなく人殺しをした、もう一つの自身を省みて。


 そして黒獣は、勝利の咆哮を、これでもかと上げ続けた。

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