10.勇者
森の中を駆け抜ける。里の方角を見ると火の手が上がっている。
くそ、キャロは無事なのか? エリスはもう里に着いてる頃か? メテオ達がいるしウォーエルフの人々も強い。そう簡単にはやられないだろう。
だがオレの心に焦りが広がっていく。
「案ずるな、戦えない者には最も安全な保護をするのが我らだ」
そうかよ。けど幻惑の結界とやらを破る程の相手だろ? 敵も強えんじゃねーのか。
「黙って走るが良い」
あぁ、わかってるよ!!
その言葉を受け、魔力を練り上げる。速さだ。必要なのは疾き獣。
旋風を纏って駆ける。疾風が獣の姿を形取る。
名前をつけろ、より明確なイメージを練り上げろ。
咆哮と共に竜巻が周囲を包む。
風牙獣、風斬大神。
「わん!(乗りやがれ!)」
長老を突風で巻き上げて担ぎ込む。
いける、完全復活だ。機械どもには負けねえ!
相変わらず本体は太ったままだが……。まあそんな二、三日で痩せないよね。
◆
里でウォーエルフ達の怒声が轟く。
マシーンの大群が火炎を放つ。人型と獣型、入り乱れてエルフと交戦している。
だがウォーエルフたちはやはり強い。実力は拮抗、いや、エルフがやや優勢と言ったところか。
それでもアイツら機械の方が数が多い、多すぎる。多勢に無勢。
更にアイツらは学習し、強くなる。そうなる前に、全部叩き潰す。
オレは叫びと共に無数の竜巻を発生させる。
風の刃を伴った旋風が機械どもを切り刻んでいく。
「勇者が戻ってきたぞ!!」
「長老も一緒だ!」
「皆の者奮起せよ!!」
ふん、昨日はリンチした癖に調子の良いことを。まあ良い。
風牙獣の爪が機械どもを一閃の元に斬り倒して行く。
「敵戦力、分析」
「分析完了、アップデート」
させるかよ!!
大地に魔力を流し込む。
行くぞお前ら、言うこと聞きやがれ!
眷属創造、ガーゴイル!!
大地から岩が創造され、土を掘り上げる。
地面から岩で出来た手が伸び、マシーンどもの脚を掴む。
機械を地中に引きずり込み、ガーゴイルが地上へと姿を現わす……。
……岩で出来た人型がマシーンへと群がって行く。
……失敗したな、これじゃスケルトンだ。
「何だこいつらは!?」
「いきなり現れたぞ!?」
「敵か!?」
味方だ……。まあガーゴイル達には機械だけを襲うよう命令しとくから、アドリブで判断してくれ。
岩スケルトンに足止めさせる間もオレは止まらない。
纏う風を解き放ち、周囲の敵を薙ぎ払う。
飛ばした風の刃が剣となる。
スケルトンども、その剣を使え!
これで数の利は多少抑えられた。
それと分析された戦い方を続けるほどバカでは無い。
機械には水だ。想像しろ。
魔法の水だ、触れただけで機械をぶっ壊す水。
それを纏え。今のオレなら水だって自在に扱える、と信じろ!!
攻撃範囲は広い方が良い。使える手足の多い獣。カッコいい方が強くイメージ出来る。
パチモンの機械とは格の違うセンスを、見せつけてやれ。
纏う青が球体の流水となり、周囲へと飛沫を上げて破散する。
水妖獣、九水狐泡沫……!!
流れる水の毛並みを震わせる。
九尾を広げ、駆け抜ける。
尾の一本一本が機械たちに触れ、通り抜ける。
マシーンどもはバグり、ショートする。爆発でもしてやがれ!
その意思の如く、機械で出来た人も獣も爆散していく。
学習させる暇なんて与えねえ、一瞬で全部破壊する。
「その姿、アリスか……?」
上空から声が聞こえ、空を見上げる。
メテオ、無事だったか。また飛べる様になれたんだな。
「あぁ、マッドハートの、お陰でな」
気まずそうな返事。オレはハピアとの繋がりを断つことに反対した。
二つ返事で了承したアイツらとしては、力が戻っても両手放しで喜べないか。
メテオ、気にする、な……?
何だアイツ……? 炎と雷を纏った姿。人型を取った状態で手足は竜、尻尾も生えている。
半竜化、か?
そして空を飛ぶ為か、稲妻色の翼を羽撃かせている。
「そう驚くな、クーと合体しただけだ」
『キャロは若いエルフ達と一緒に避難してるから安心しなさい!』
クーの声が響き、キャロの無事を聞いて安心する。
ハピアがいないのに合体出来たのか?
「あぁ、昨日二人で練習した甲斐があったな」
『私らの力も完全には戻らなかったからね、こうでもしないと戦力にならないでしょ?』
二人ともサボってた訳じゃ無かったのか。いや、当然か。ハピアを救うための力を欲したんだ。努力だってするだろう。
「わんわん!(せっかくオレが覚醒したのに、もっとカッコ良いことしてんじゃねーよ!)」
そう言いながら駆け抜ける。
九尾狐の水獣化、ガーゴイル(スケルトン)、風の剣。
これ以上の魔法の制御は厳しいか。
だが戦力は十分だ! このまま押し切る!
強者であるウォーエルフの民、新たな力を手にしたメテオとクー。
負ける気がしねえ!!
「やれやれ。大人しくやられれば楽なのに」
声と共に無数の銃声が鳴り響く。
連射? いや、誰だ……!?
背後でドサリと、地面で音が鳴る。
音の方向へと振り返る。
「すまぬ……、油断した様だ……」
メテオが血塗れで大地へと倒れ伏し、呻きを上げている。
「わん!(メテオ!!)」
駆け寄り、治癒魔法を施す。だが魔法が発動しない。
ダメだ。制御し切れねえ、意識が保たねえ。
水獣化を解除して回復魔法に意識を回す。
スケルトンを解除したらマシーンに押し込まれるかも知れねえ、今は全体を優先だ。
「アリス、回復は良い。今は敵を見ろ」
『戦うのよ、私たち死ぬほどの怪我じゃないから!』
メテオ達は止めるが、オレは治癒を続ける。
「回復とかやめてくれよ、どーせ勝てないのに無駄だなぁ」
気怠そうな声がする。メテオを撃った奴か?
そこに立つのは若い男。だがその腕には銃が、ガトリング砲を構えている。
いや、違う。コイツ……! 右腕がガトリングだ……。
「お主、何者だ……!」
「よくぞ聞いてくれた! 俺はターミネイト帝国に召喚されし勇者、機嶋正義! お前らを抹殺する為に参上!」
ポーズを取る勇者マサヨシ。何だこいつは……? いや勇者なのはわかってる。召喚だと? そーゆーのもいるのか。異世界転移者か? 名前ばりばり日本人だもんな。
「喰らえ! 俺の必殺チート! サーチ&デストロイ!!」
ガトリングが轟音を鳴らし、銃弾を放つ。
くそが、結界だ! マサヨシを覆う様に結界を張る、これなら何処を狙おうと防げる。更にあいつの移動阻害ができる。
だが結界を張った直後、メテオが苦痛の叫びをあげる。
振り返ると治癒をした筈のメテオが、再び血塗れで倒れている。
「いやー、また俺何かやっちゃったかなー」
ふざけんじゃねえ!!
奴へと駆け出す。白虎の姿を形取り、聖獣化を果たす。
「狐になったり虎になったり、忙しい犬だなー」
再び銃声。そして全身を激痛が襲い、転倒。オレの身体が地を這いずる。
くそ! 何だ!? 何をしやがったこいつ!
「不思議そうだなー、やっぱ俺のチートスキル索敵と必中能力を持つ『サーチ&デストロイ』強すぎかー?」
痛みに耐えかね、オレの魔法が解ける。同時起動してた魔法が一気に消え、全身に疲労感が込み上げる。
索敵、必中……? こいつのせいで幻惑結界が探知され、必中能力で防御も意味無しってか!?
クソが、チートスキルだと? ふざけやがって、そんなもんオレは貰ってねーぞ!!
「おいおい銃撃つだけで勝てちゃうとか、弱すぎですか? 何もしてないのに勝手にやられてるよー」
こいつ、舐めやがって……!
マサヨシを睨みつける、だがそれは意味をなさない。オレの言葉すらわかんねえのか。
こんな訳のわからん奴にオレは負けるのかよ……!
「やれやれ。これじゃ俺のSランクへの糧にもならないな」
そう言ってマサヨシが、銃を掲げた。




