9
何者かに掴まれる感覚。敵……!? 眠っていた体に襲い来る衝撃、そして浮遊感。
冷たい感触が全身を包む。
何だ!? 水? なんで! 溺れる!!
くそ、犬かきだ!
おおぅ、沈む。あとメッチャ疲れる。
「わぶっ(何事だ!?)」
思わず叫ぶ。くそっ、水飲んじまった!
「貴様、ここで何をしている」
威厳のある静かな声が聞こえる。
あぁ!? 長老か? お前がオレを泉に落としたのか!?
お前が落としたのは白い犬か? それとも黒い犬か!? 正直に答えろ、お前も水に突っ込んでやる!
「何故貴様がエリスと一緒にいると聞いているのだ」
友達だからだよ! なんでそんなこと、お前に言われなきゃなんねーんだよ!
てゆーか寝起きになんて事しやがる! 死んだらどーすんだよ!!
「友達だと……!?」
長老の頬がピクリと動き、顔色の凄まじさが増す。
あ? 何だよ、文句あんのか?
「長老様! アリスを虐めないでください〜」
エリス、起きたのか。口癖なのかわからんけど喋り方何とかしろ、本当に心配してくれてるのかわかんないから!
「エリス。お前は口出しするな」
何だよ、長老の命令は絶対ってか?
くそ、ようやく岸に辿り着いた。寝起きで運動させられて息も絶え絶えだ。
強制ダイエットスイミングかよ。
「来い、駄犬よ」
長老が短く呟き、オレの首根っこを掴む。おい何しやがる、離しやがれ。
「黙って来るが良い」
朝から何なんだよ……。
泉から里までの道中、長老が口を開く。
「エリスは、あの子は忌み子だ」
は? どうした急に。何だイミゴって、聞き覚えねーぞ。
「彼女はハーフエルフ、両親の持つどちらの種族からも嫌われる存在という事だ」
そうなのか? 何だよ、虐待でもしてるってのかよ。ぶっ飛ばすぞ、なんで今そんな話を。
「黙って最後まで聞け、悪い癖だそうだな。貴様の仲間、クーとか言う鳥に聞いたぞ」
クーの奴うぅぅ、余計なこと言いやがってぇぇぇ……!!
わかりましたよ! 黙って聞きゃ良いんだろ? 聞けば。
「母親は姿を消し、エルフだった父は同族に討たれた。そして奴隷となった彼女は何者かに救われ、ココに辿り着いた。
今は我々の家族同然に接している」
奴隷……。そっか、世界観的にそーゆーのあるか……。
そりゃそんな過去は話さないよな。
「エリスの母は魔族、我らからすれば敵だ、そして敵に誑かされたエリスの父は許し難い。だが生まれてきた子に罪は無い」
ハーフを嫌うとか悪しき風習だろくだらねえ、とか思ってたけど……。けっこう重いな……。けどエリスの事を虐めるとかじゃないのか。
「わんわん(お前、お前らウォーエルフって案外良い奴なんだな)」
「言っているだろう、我らウォーエルフの民は他のエルフとは違う。あんな歳ばっか重ねた堅物の偏屈な弱者と比べるな」
底意地の悪さは似たようなもんだろうけどな。
で、エリスの境遇をオレに聞かせてどうしたいんだよ。
「貴様、エリスの友達なんだろう。可哀想とは思わんのか」
へ……? あぁ、うん。辛いことがあったんだなぁ。けど今はお前らといれて幸せじゃないのか?
「馬鹿犬め……」
全く……。何だったんだ?
そう小さく呟いたきり、長老は喋らなくなった。そこからしばらく無言で歩き、崖下の岩壁に着いて口を開く。
「着いたぞ」
長老がオレを放り投げる。何をする、ここは何処だ。里に帰るんじゃ無かったのか?
「その洞窟に入れ」
長老が指差す方向を見る。
何だ? こんな所に何の用だよ。
「良いから黙って言うことを聞け」
何だよ急に……。
長老の顔を見つめる。端正に整った仏頂面は表情を変えない。
……わかったよ。入りゃ良いんだろ入りゃ。
暗い洞窟の中へと進むと、長老が魔法で灯りを灯し、オレの周囲に漂わせる。
ここに何があるってんだよ?
後ろから闇討ちでもする気か? 変なことしたらぶっ殺してやる。
いや、エリスを匿ったコイツがそんな事しないか。
暗い道を進む。
エリスもろともグルだったってか?
じゃあ最初からオレを助けなきゃ良いだけか。
視界が光と闇、二つに覆われる。
関係無いさ、敵は皆倒す。
殺す、殺す、敵は全て殺す。ハピアを攫った帝国も、オレに仇なす魔族のハートも。
救う、護る、オレは友を守る。ハピアも、キャロも。
「混ざっているな」
長老の声が、洞窟に響く。
何を言っている? 何をいってやがる。
「魔族の勇者、人間の勇者
人の心、魔物の心
聖なる力、闇の力
二つが貴様の中で混ざり合っている
目を覚ませ」
瞬間、視界が光に包まれる。
今のは……、何だ……!?
オレの息が荒くなり、全身から汗が噴き出す。
周囲を見ると洞窟なんて無かったかの様に明るい森の中に、オレと長老が佇んでいる。
「お前は雑念が多すぎる。意識を統一しろ」
それを伝える為に変なことしやがったのか?
そいつはまた、わかりづらいアドバイスありがとうな。
突如長老が振り返る。
何だよ、今度はどうしたってんだ。
「帰るぞ、勇者よ」
勇者じゃねえっつの。いきなり慌ててどうした?
「幻惑の結界が何者かに破られた。敵襲だ、貴様にも協力して貰うぞ」
そう言って長老が駆け出す。
速え……!
くそ、何だってんだよ! 追うようにオレも走る。
敵襲? 誰が、もしかしてオレたちを襲ったマシーンどもか? 幻惑結界とやらはそんな簡単に破られる物だったのか?
「あの人形たちか、可能性は高いだろうな。簡単に破られる物では無いが、重要なのは破られたという事実だ」
息を乱す事なく長老が答える。
くそ! オレらがここに逃げ込んだせいかよ! メテオは、キャロは、クーは、皆無事なのか!?
「雑念を消せ、今はとにかく走るのだ」
わかってるよ! クソが、大して強くなってねえけど。今度こそあんな機械ども全部ぶっ壊してやるよ!!
風を巻き起こし、オレたちはスピードを加速させた。




