8
暗闇に閉ざされた意識が覚醒する。
夢……?
あぁ、ウォーエルフとか言うマッチョマンにリンチされて倒れたのか。あいつら手加減とか全く無かったな、殺す気かよ。
それなら、今生きてないし機械に襲われた時に見捨ててるか……。
周りを見る。そう広くない部屋の中、キャロ達が寝ている。彼女たちの穏やかな寝顔。オレは、皆を守る為に強くならなければ……。
立ち上がろうとするオレの全身を、激痛が襲う。
エルフどもに殴られた傷か……、構うもんか。治癒魔法を自身に施しながら歩き始める。
部屋の外へ出て空を眺める。一面の星空が広がり、静寂がオレを包む。
…………最悪な夢だったな。先ほどオレが見ていた夢を思い出して嫌な感情が胸に広がっていく。
オレの殺意、ハートへの憎悪、ハピアの生死に対する不安。それらが夢になって現れた。オレの瞳に宿る魔眼が齎らした予知夢なのか? ダメだ、あんな未来は絶対に認めない……!
ため息が口から漏れる。
だめだ、気分でも変えよう。散歩でもするか……。
月明かりの下、エルフの里を進む。
集落、懐かしいな。キャロの住んでた村もこんな感じだったか。優しかった村人たち、だが豹変した彼ら……。
アレも、今考えるとおかしな話だ……。そんなにも、キャロたちが持つ赤い宝石が大事だったのか……? 今度お婆ちゃんが起きたら聞いてみるか……。
考えながら歩みを進めていくと、何か物音が聞こえる。水が跳ねる様な、そんな音。
敵か……? いや、隠れ里ってくらいだ。そう簡単に敵は来れないか。けど気になるな。
音を頼りに足を進める。
結構遠い、だが近付くにつれて水音が大きくなっていく。
木々を超え、森の様な獣道の先。
やがて森が開けて泉が現れる。そして泉の前に立つ少女。
エルフの女の子か? 長い金髪に青い瞳の美少女。やはりエルフは総じて美系なんだな。
まあここの奴らはメンタル的にマッチョだが。
「誰ぇ……?」
少女がオレへと振り返る。気付かれたか。まあ危険は無さそうだし、姿を見せても問題無いか。
「わん(お客様の勇者様だ)」
「あ、今日来たわんちゃ〜ん」
若いな、外見年齢は今のキャロより上くらいか。まあ長命のエルフじゃ中身百才オーバーもありえるが……。この見た目でお婆ちゃんは詐欺過ぎるだろ。
「まだ生まれて16年だよ〜?」
何だ、言葉がわかるのか? そして見た目通りの年齢か。
「エルフだからね〜、動物の言葉はそれなりに〜」
そうか、こんな夜遅く出歩くと危ないぞ。オレを襲った敵が来るかも知れない。
「この里は長老たちの強い幻惑魔法に包まれてるから大丈夫〜」
少女が微笑む。何とも言えない可愛さ、いや綺麗さか?
エルフにしては背も高くない。胸もエルフなら小さいだろうが普通。巨乳エロフの存在を信じてみたいが……。
「わん(幻惑魔法で里全体を覆うとかマジヤバイな)」
それのお陰で敵に見つからず、オレたちを匿えたのか。あの長老って偉そうなだけじゃ無かったんだな。さすが戦闘民族のリーダーさんってとこか。
「あなた本当に魔物さん?」
怪訝な目を向けて来る少女。
何だよ、何がご不満だ? まあ自分が魔物だという事実に、オレは常に不満を抱いている。オレは犬だ、てゆーか人だ。
「ねぇ、日本って知ってる?」
少女の口から出る予想外すぎる言葉に思考が詰まる。
は……? いや、知ってるけど。何だ、誰かに聞いたのか?
「私、そこにいたんだけど。あなたは?」
え……!? …………この子転生しちゃったタイプのエルフ!? は!? 転生ガチャ当たりかよ!! ズルいぞ!
「その喋り方、日本人だよねぇ……。私、当たりなのかなぁ……?」
いや大アタリだろ。オレなんて犬だぞ? しかも特別強いとかじゃねーし。まあ愛犬の見た目だから最強に可愛いけどな!
「あはは〜、面白いね〜。私エリス、あなたの名前は?」
いやー、そんなに面白い話じゃないんだが。世の中の理不尽を感じているんだが。
まあ良いか……、この体嫌いじゃないし。
「わんわん(オレはアリスだ、よろしくエリス。何か名前被ってるな?)」
「うんうん確かに〜! 男の子なのにアリスなの?」
あぁ、キャロが、オレと一緒にいた女の子がくれた名前だ。
「そうなんだ〜。私も色々あって、両親に貰った名前じゃ無いんだよね」
色々? 聞くのは野暮か。オレもここまで色々あったし、話したいもんでも無いな。
「あはは、ありがとう〜。ねぇねぇ、アリスの体触っても良い?」
ん、良いぞ? 存分にもふるが良い。
エリスが喜んでオレを抱き寄せる。おぉう、良い匂いがする。
いかんいかん、気を逸らそう。
エリスはココで何してたんだ?
「魔法の練習だよ〜。体を動かすのは前世から苦手だからね〜」
魔法か、そっちは得意なのか?
「ん〜、微妙〜。アリスは?」
オレ? オレかぁ。こっち来てから殆ど魔法で頑張って来たし割と得意……、得意だったんだけどなぁ。
「えぇ〜、じゃあ見せてよ〜」
そうなるよなぁ。失敗してもガッカリするなよ?
何を見せようか、せっかく泉にいるし……。水魔法でも挑戦してみるか。
エリスを見つめ、意識を集中させて魔力を込める。
頼むぞ、ばっちり決めろよオレ?
泉に向けて魔力を流すと、水が空中へと飛散する。水飛沫が一箇所に集まり、人型を形取る。出来上がった人形、手の平サイズのそれがエリスにお辞儀をする。
「これ私?」
あぁ、ミニチュアエリスだ。割と良い出来映えだと思うけど……、どうだ?
「すごい!! 魔法でこんな事出来るんだ!?」
おぉ! 良い反応だ、調子に乗ってしまうでは無いか!
再び魔力を泉へと流し、新たな人形を作り出す。
「ミニアリスだ!」
まだ行くぜ? 先ほどよりも大量の水飛沫を上げる。
剣を構えた少女、老婆とそれに寄り添う女の子、翼を広げる鳥、そしてドラゴン。
「すご〜い!!」
それがハピアで、そっちがキャロと彼女のお婆ちゃん、後はクーとメテオ。
この世界で出来たオレの友達だ。
はしゃいでて聞こえちゃいないか。もっと見せてやろう。
大地に魔力を流し、植物の成長を促す。一面に花が咲き乱れる。それらが自然と手折られ、オレの魔力に操られ、結び付いていく。
「お花の冠?」
あぁ、エリスにプレゼントだ。水は形に残しておけないからな。
「ふふ、ありがとう〜! アリスは凄いねぇ〜、流石勇者様」
勇者はやめてくれよ、別に好きでなったんじゃない。
それに、今のオレに勇者を名乗る資格なんて無いさ。機械の雑魚兵にすら負けて、攫われた友達一人救えないんだ。
「そんな事無いよ〜。アリスは凄い! けどちょっと太りすぎかも〜」
褒めてるのか貶してるのかどっちだよ。
「褒めてる褒めてる〜。私こっちに16年も居たのに、そんなに魔法使えないし!」
そっか、ありがとな。
「ねぇねぇ〜、もっと話そう!」
あぁ、良いぞ。オレも眠れなくて困ってたんだ。エリスといるのは楽しいしな。
オレたちは時間が経つのも忘れて、故郷の話に花を咲かせた。




