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王と魔王

 獣の身体が貫かれる。


 王が狂笑し、勝利の喜びに打ち震える。


 獣の額を撃ち抜いた弾丸が大広間の壁を破壊していく。


 もう誰も王を止める者はいない。


 そう、オレ以外は。


 獣の身体が霧散し、毛玉の塊となる。


 オレは王へと肉球を振るう。


 高笑いを続ける王の背後から、豪腕が襲い掛かる。


 地へと叩き付けられる王の体。


 王が吐血し、衝撃に絶句する。


「な……、何故だ……。何故貴様が生きている? これは……、一体……?」


「わからない様だから教えてやろう。そいつはオレのぬいぐるみだ」


 そう、オレが木を操る魔法で作った分身。媒介はイリシウス家の綿百パーセントのカーペットだ。


 王が静かに笑う。


 何だ? あまりにもマヌケすぎて笑っちまったか? 可愛かっただろ?


 王が立ち上がり、クーから奪った翼で飛翔する。


「どこまでも愚弄してくれるこの駄犬よ! 最早この怒りぶち撒けねば収まらん!!」


 そう言って王が天井を破壊して飛び立つ。


 え、いや、どこ行くねん。


 オレは王を追って跳んでいく。


 屋根よりも高く上空に浮遊する王。


 雨はすっかり収まり、静かな闇のみが存在している。


「この国ごとお前らを消し飛ばしてくれる! だが王は民を思って行動する。半分だけ残してやろう!!」


 何言ってんだ? 半分壊すのが精一杯ってか? それとも取り引きのつもりなのか?


 だが王が集める魔力は強大だ。以前黒づくめが使っていたエセ合体魔術とは比べ物にならない。


「王の全力を喰らうが良い!!


 漆黒の太陽よ!


 我が手に集い暗黒となれ!


 全てを燃やし、闇へと還せ!!」


 王が手を翳して蓄える魔力の塊。その様はまさしく黒い太陽だ。こいつ、マジでそれを放つ気でいるのか?


「何故半分残すのか不思議そうだな! さっきコケにしてくれた礼だ! 教えてやろう、俺様の放つ魔法は国を滅ぼすほどの一撃。だが全ての民は滅ぼさん」


「それが何だってんだ! それが王様のやる事なのかよ!」


 くそ、さっきまで作戦通り過ぎて気を抜いちまった。


 何だよコレ……。こんなもん防げる訳がねぇ。まだこんな力隠してやがったってのか?


「残った国民はどう思うだろうなぁ? 国をも滅ぼす一撃を放った俺様を見て、人々は俺様を魔王と崇め恐怖する!!

 その負のエネルギーが! 俺様を魔王へと昇華させる!!」


 おいおいおい! こいつ本気で言っているのか? 魔王と呼ばれたから魔王になるだなんて……。だが、思い当たる節が無いわけじゃない。


 呼ばれた名は称号となり、称号は持つ者に力を与える。


 もし本当に魔王になっちまったら、オレの進化も無駄になっちまう……!


 そもそもあんなもん直接ぶつけられただけでも耐えれるかわかんねえ。


 くそ! どうすりゃ良い……!


 クーがいない今、オレは空を飛べねえ。オレに打てる手段は遠距離魔法だけだがあんな魔法を使える王に、オレの魔法が届くのか?


 どうする……。どうすれば……!!


奇跡魔法(マギア)の出番ですわね」


 オレの背に持たれ掛かる感覚。


 ハピア? お前、動いて大丈夫なのか?


「えぇ。私は昔から怪我などには強いと言ったでしょう? 私には虹の加護がありますもの」


 虹の加護……。ハピアらしいな。


 オレは笑ってしまう。


 こんな状況。ハピアは令嬢でなくなって力は落ち、敵の魔法は強大。


 仲間は消え……、いや、オレの中で、生きてるよな……? きっと。


 ハピアがオレの顔を見つめて微笑む。


「どうするんだ? あんなの倒す魔法なんて」


「想像しましょう。黒い太陽を浄化する私たちを」


 魔法陣が展開される。


「あぁ、そうだな。折角だから王の洗脳も浄化してやろう」


「そうですわね。昔のシンはアレで中々素敵でしたのよ? アリスにも紹介したいくらいですわ」


 魔法陣が輝きを増す。


「あの独裁者が素敵、か。面白いな。たしかに見てみたい」


「えぇ、ですから浄化して差し上げましょう。未来を想像し、創造しましょう」


 魔法陣が巨大な魔力の源となる。


「愚民ども!! 何をしようとしている! 今更何をしようとも無駄だ! 大人しく跪け!!」


 王が絶叫し、黒炎に更なる魔力を注ぎ込んでいく。


「無駄ではありませんわ。これから貴方に、奇跡をお見せしますの」


「あぁ、そうだ。その心に焼き付けろ。オレたちの奇跡がお前を、この国を、キャロを救う」


 魔法陣が一際眩しく輝く。


「フンッ! 貴様ら、魔王に抗う勇者のつもりか? 良いだろう。この王である俺様を倒せたなら、貴様に勇者の名を授けてやる!!」


 オレたちに向けて放たれる邪悪な太陽。


 それを正面から見据える。


 決して逃げも諦めもしない。


 勇者の名? そんなもん要るかよ。オレにはキャロがくれた、アリスって名前があるんだ。


「白き光が世界を包みます。黒き炎を浄化し、邪を祓いましょう」


「オレたちは負けねえ。何が来たってハピアと一緒なら乗り越えられる」


 オレの口元に眩い程の光が収束していく。


「あら、照れますわね。では私もそう信じますわ」


「ありがとうなハピア。つけるぞ、決着を」


「黙れ黙れ黙れぇ!! 貴様ら愚民は、跪いていれば良いんだああぁぁ!!!!」


 聞き耳持たないって感じだな。


 だが良いさ。オレとハピアは集中する。


 オレとハピアの意識が同調し、魂の輝きが交差する。


 信じる気持ちが一つとなって新たな力を呼び覚ます。


「救済の咆哮。聖浄化魔滅弾(パピヨンストリーム)!!!!」


 オレたちの叫びと共に、口から放たれる光。それが夜の帳を照らしていく。


 照らし続ける。


 眩い輝きが闇の太陽を飲み込み、浄化する。


 それでも尚、聖なる咆哮が衰える事は無い。


 光が王の体を包み込む。


 破邪の光が、王に取り憑いた闇の力と歪んだ心を浄化していく。


 空の雲は晴れ渡る。


 黒雲は消え去り、周囲の空気が澄み切った物となり、辺りを静寂が包む。


 飛んでいた王の姿は消え去り、周囲には清々しいほどの聖気が溢れている。


「終わったのか……?」


 オレが静寂を破って呟き、座り込む。


「えぇ、終わりましたわ。頑張りましたわね」


 ハピアがオレの前足に寄りかかる。


「キャロは戻ったのかな?」


「王を探せば良いですわ」


 それもそうか。


「倒してからでアレだが……、王様ブチのめしちゃって良かったのかな?」


「きっと平気ですわ」


 そうなのか。


「クーとメテオ、オレの中で生きてるのかな?」


「えぇ、きっと」


 オレの頬を涙が伝う。


 だがハピアがそれを拭う。


「大丈夫ですわ。何があろうと、私が側にいますもの。それに、貴方にはキャロさんがいるではありませんか」


 あぁ……、そうだな。ありがとうハピア。


 突如オレの体が光り始める。


 これは……、進化の光? さっき進化したばかりなのに何故?


「王を倒したから……、いえ、きっと王に勇者と認められたからですわね。それに相応しいように、貴方の体も変化するのでしょう」


 そういうこと、か……。


 王に任命された勇者と魔族の勇者、どっち優先なんだろうな。


 それにしても進化か……。


 メテオとクー。戻ってくるかな。変な進化しないかな? 今だって巨大化しちゃったのに。


 不細工な進化したらどーしようか。


「大丈夫ですわ」


 え、なんでそんなキッパリと……?


「いつだって、何があっても、私が側にいますもの」


 ハピアがオレの前足を抱き締める。


 あぁ、そうだな。


 ハピア、お前と一緒なら。


 何があっても乗り越えられる。


 オレは没落してしまった伯爵令嬢の、幸せな笑顔を見つめて微笑んだ。

これにて第1部完です!!

ここまで読んで頂いた皆さんありがとうございます!!

楽しんで頂けましたか? 私は楽しかったです!!


現在シーズン2及びスピンオフを製作中です!

随時更新していきますので是非読んでください!

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