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王の世界

 オレは傲慢な王を見据える。


 進化の輝きが収まっていく。


 視界は高く、王を見下ろす程にまで巨大化した。


 わかる。体で感じる。オレは望んだ通りの力を手に入れた。


 オレの考えが正しければ、これでオレの勝利だ!


 メテオ、クー。お前たちは消えちまったのか…….?


 だが、考えるのは後だ!!


「何だ? その姿は? 大きくなった程度で、王冠を被った程度で俺様と対等になったつもりか?」


「来いよ、傲慢な愚王。オレが救済してやるよ」


 え? オレ!? 喋れたああぁぁあ!?


 違う! 今はそんな事に驚いてる場合じゃない。


 オレはしっかりと前を向く。


「獣の分際で、俺様を見下すんじゃあ無い!!」


 王の剣がオレの体へと襲い掛かる。


 一閃。剣撃が振り抜かれ、オレの体毛がパラパラと舞う。


 ……それだけだった。


 毛が数本切られただけだった。


「は? あぁ、ミスリルのコートを糧にしたから毛皮の防御高いんだな」


 オレは納得した様に呟く。


「ミスリルわんちゃんとでも名付けましょうか?」


「それも良い名前だな。ハピア、息があるなら休んでてくれ」


 オレは剣を弾かれ、方針している王を見つめる。


 剣を弾かれたショックなのか、ワナワナと震えている。


「どうした寒いのか? モフモフで包んでやろうか?」


「巫山戯るなよ……! 貴様の様な畜生風情が……!」


 王が魔力を込め、刀身に雷と炎を纏わせ斬りかかる。


 だが、遅い!


 うおおぉおおおお!!


「肉球スタンプ!!」


 オレの巨大化した前足が王の頭を地へと叩き伏せる。ダイナミックお手が、そのまま奴を抑え付ける。


「馬鹿に……するなぁ! 愚民がぁ!!」


 王が力ずくでオレの前足を跳ね除けて立ち上がる。


「例えどんなに硬くとも、王の世界に入門出来ない貴様では! 俺様に勝つ事は出来ない!!」


「はんっ、何が王の世界だ。時間止めてるだけだろーが」


 王の頬がピクリと動く。


 図星の様だな。


 王が高笑いを上げ剣を掲げる。


「わかったところで何だと言うのだ! 貴様に名誉の死をくれてやろう! 王の世界の中で死ぬが良い!!」


 瞬間、世界が静止する。


 ハピアも、ハピアの母も。


 王がオレへと斬りかかる。奴の刃はクーとメテオから奪った魔法を纏っている。


 お婆ちゃん、見えるか?


『あぁ、王様がこっちに向かってくるねぇ』


 なら間違いねえ!


「ダイナミックお手!!」


 王の表情が驚愕に染まる。


 隙だらけの王の頭上からオレの前足が襲い掛かる。


『アリス!? これは、一体……?』


 止まった時が動き出した様だ。


 突如として再びオレの前足に潰される王を見て困惑している。


「何故……、何故だ。何故俺様の王の世界に貴様が入門している!! 畜生風情が何故!?」


 地に伏した王が震え、地を這って声を出す。


 王の能力。王の時間は恐らく、王以外の生物の時間を止める能力。


 いや、それだと王子の時に使えた説明にならないな。正しくは王族以外の生物だろうな。


 故に奴が王子の時にも超速で動けた。そして既に死んでいるお婆ちゃんにだけは止まっているオレたちが見えた。


 そして魔法を躱さないのは、生物ではない魔法の動きを止められないからだ!


 そろそろ引導を渡す時だ。


「畜生風情じゃ無いさ」


 静かに呟く。淡々と事実を告げていく。


「なら貴様は何だ!? 王に答えろ!!」


 今のオレの姿は。


「キングパピヨンだ!!」


 静寂が訪れる。誰も音を立てず、声を出す者もいない。


「あぁ……。それで頭に王冠被ってますのね……」


 ハピアが静寂を破り呟く。


「さあ王野郎。いや、シン・リュミエール。お前の洗脳を浄化してやる。とっとと降伏しやがれ」


 そう、オレの推測が正しければコイツもハートに何らかの形で洗脳されている。それさえ解ければキャロの支配も快く、解いてくれるだろう。


 だが王は再び立ち上がる。


「愚民が……。例え王の世界に入門しようとも、我が愛銃クラウソラスの一撃には太刀打ち出来まい」


 王が嗤う。


 だがそんな事を聞いて黙っているオレでは無い。


 素早く王へと襲い掛かる。


 しかし奴も全力を出した様でオレのスピードに喰らい付く。


 いや、銃を撃つだけで良い奴の方が有利だろうか。


 オレは広さを活かして縦横無尽に駆け抜け、隙を探る。


「いくら逃げ隠れようとも、そんなものは無駄だ!」


 銃がオレを捉える。だがそれを魔法で弾く。


 進化して回復した魔力がオレの体で漲っている。


 最早オレに敗北は無い。


 影に潜み、王を襲い続ける。


 あとは奴の体力が無くなるのを待つだけだ。


 銃口が向けられる。


 だがハピアの魔術がそれを弾いてくれる。


「ハピア嬢、まだそんな力が! 俺様に逆らうつもりかぁぁ!!」


 王の叫び。静止する時の流れ。


「王の世界を発動した!! これで邪魔者は入らない。死ぬが良い!!」


 銃口が獣の姿を捉える。


「はんっ。そんな事言っといて、さっきから全然撃たねえな? ハッタリなんじゃねえか? もう弾切れなんだろ。ミスリルなんて高級品だもんなぁ。貧乏国家の弱小王が!」


「貴様……!! 王である俺様を侮辱するだと……!? ハッタリかどうか、その身で試すが良い!!」


 放たれる銃弾、鳴る銃声。


 ミスリルの弾丸は獣の毛皮を容易く撃ち破り、その命を散らしていく。


 終わったか……。


 最後の抵抗も無駄だった様だ。


 オレは静かに、息を吐いた。

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