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勝利を信じて

 走る。 走る。 走る。

 森を抜けるまで。走り続けるオレの背後には火の手が上がっている。

 進化した鳥の魔物達が雨を降らせ火の手を遅らせているが鎮火までには至らない。


 あの炎の中、皆が戦っているんだろうか。

 皆の声が聞こえる。それぞれが力の限り戦い、咆哮している。


 オレは逃げる。 尻尾を巻く訳ではない。 胸を張って逃げる。


 皆を信じているから。


 たとえ今は助けられ、護られるだけでも。 必ず強くなる。 いつか皆を助けられる様に。


 だから、それまで、どうか。


 誰一人死なないでくれ。


 オレは祈りながら走る。 雨の降る森を駆け抜ける。 バロウが指し示した方向。森を抜け、村が見えるまで走る。


 リスの婆ちゃんが治してくれた脚。

 同じ過ちは繰り返さない。加減して、しかし全力で走る。


 叫びたい衝動を抑えて走る。

 叫んでしまえば森を焼く人間たちに見つかってしまうかも知れないから。


 声を殺して走る。


 空はすっかり夜の帳が落ちる。

 夜は獣の時間、これで少しでも皆が有利になれば。しかし森を焼く炎が大地を明るく照らしている。


 皆の咆哮が止むことは無い。 それはきっと、オレを安心させる為。 逃げるオレの足が止まらぬ様、勇気付ける為。


 咆哮が続く間は安心していられる。まだ勝敗が着かず、皆が生きていると思えるから。


 オレは止まらない。勝利を信じているから。


 必ず再会できる。そう信じて走る。


 雨に雷が混ざり、旋風が巻き起こる。アレもきっと誰かの魔法だ。遠く離れたオレでも見える様に派手に暴れているんだ。きっと、そうなんだ。


 オレは夜通し走る。


 もはや雨は止み、火の手も進行を止めている。


 しかしオレは止まらない。


 まだ皆の叫びが聞こえるから。


 オレは諦めない。


 皆が勝つ可能性を諦めない。


 違う、勝つ。勝つんだ。バロウたちが負ける筈がない。


 だから、走る。ただひたすらに。途中、何度も転んだ。それでも、走り続けた。




 やがて、咆哮が止んだ。


 オレは走り続けた。


 夜が明けて空が白み始めた頃、森を抜けた。


 オレは咆哮した。


 何度となく叫んだ。声が枯れ、意識が途絶えるまで。


 オレは、泣き叫んだ。

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