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王の言葉

 王の権限による宣告。


 王に仕える身の者には、決して避ける事の出来ない物。


 それが、イリシウス家に告げられた。


 瞬間、激しい魔力の流れ。力の奔流を感じる。

 ハピアとその両親から魔力が抜け出し、それが王の元へと集まっていく。


 増幅する王の力。そこから放たれる斬撃がオレに生えた翼を削り取る。


 激痛。オレは飛び退いて倒れ伏す。それと同時に自身の治癒を開始する。


 脱力し、動けなくなるハピアたち。


 何だ!? こいつさっきから何を……!?


「伯爵の地位から引きずり下ろしたのさ。イリシウス伯爵は確かに剣の達人だ。だがその力の一端は職による力。

それを剥奪し、頂戴したのさ。王の権限によってねぇ」


 馬鹿な……!? 地位の剥奪だと? それが王様には出来るってのか? 何だそれは、独裁者かよ! それじゃ誰も王に勝てねえじゃねーか!


「それよりアリス君。君は自分の心配をした方が良いんじゃ無いかな?」


 何だと? 何舐めた事言ってやがる!


『アリス! 何か私たちの体おかしいわよ!』


「君、さっきから回復魔法を使ってる様だけど……。羽、取れたままだよ?」


 な……!? 何故だ? 傷はとっくに塞がっている筈だ。現に痛みは引いている。


 驚きに絶句していると更に驚愕を目にしてしまう。


 オレが斬り奪われた筈の翼を、王が手にしている。


 いや、王の背中から翼が生え、飛び立ち。翼を我が物としている。


「どうやらこの力が、私の創生剣ジェネシスの力らしい」


 王が満足そうに自身を見回して口を開く。


「斬った者の力を、奪う斬撃ですか。下劣ですわね」


 ハピアが呻き声と共に告げる。地位剥奪の衝撃でダメージがあるのか、苦しげな表情を浮かべている。


 くそ! 斬った奴の力を奪うだと? そんな物があんのか!? そんなもん認めねえ!!


 オレは片翼で飛翔し、魔力を高めていく。


 稲妻を放出させ、それを眷属として操る雷狼召喚の魔法。


 全力で撃ち込む。くたばりやがれ!!


「アリス! いけません!」


 ハピアが叫ぶ。心配はありがたいが奴への攻撃を緩める訳にはいかない。

 オレは王に向け、雷獣を次々に放っていく。


 奴が凄まじいほどの雷の迸りに包まれる。立ち昇る煙がその激しさを物語る。


 いくら王とはいえ人間。その耐久力でこれだけの雷撃を防ぐ事は出来ないだろう。


 やがて煙が晴れ、人影が現れる。


 平然と佇む王の姿。


「アリス君。駄犬だとは思っていたが、まさかこれ程までに愚かとは」


 王が笑いを堪えずにオレを見据え、魔力を高めていく。

 そして全身に漲らせる雷は、さっきのオレの比では無いほどに強大だ。


「翼だけでなく、雷を操る力をも奪ったと言うのか……!?」


 驚愕に震えるメテオ。その目は恐怖に染まり、後退りを始めている。


「お返しだよ! アリス君!」


 王の放った雷がオレを取り囲み放電する。

 オレの放つ稲妻よりも鋭い衝撃。全身の神経が焼かれそうな程の痛み。


 オレの意識は擦り切れ、融合が解除される。倒れるクーの羽は奪われたままの片翼となっている。


 くそ……! 何だこれは? どうすりゃ良い……。


 王と伯爵の戦いだった筈が、奴による一方的な蹂躙と化している。

 数の有利も既に消え失せ、マトモに戦えるのはオレ一匹。


 いや、諦めるのはまだだ。


 来い! メテオ!! お前も疲れてるだろうが力を貸してくれ!


 焼け付く様な熱さ。ハピアからの魔力の流れ。


 オレとメテオの体が融け合い、一つとなる。


「おやおやアリス君、色んな事をするねぇ」


 言ってろ! オレは語りかける王を無視して奴へと拳を振り上げる。

 その手には研ぎ澄ました炎爪を携える。


 奴の銃身による防御を跳ね除け、そして銃口を決してコチラへと向かせない。


『私の魔力が減っていますわ。あまり長くその形態を維持できませんよ!』


 あぁ、わかっている! メテオも疲労している。一瞬でケリを付ける!


 奴は強者の余裕のつもりかは知らないが、未だ瞬速の剣技を見せないでいる。使用に制限でもあるのかも知れない。


 だが理由なんてどうでも良い! 奴がこれ以上強くならない内に決着をつける!


 そしてキャロを救う!


 オレの体が燃えていく。四肢から胴体、全身が灼熱の炎に包まれていく。


『アリス、いかんぞ。やはり力が落ちているせいか炎の制御が不十分だ』


 関係ねえ! それでもオレは勝つ!!


「ははっ、頑張るじゃないかアリス君。やはりお友達を支配されて悔しいのかな?」


 うるせえ! 黙りやがれ!!


 怒りによるオレのミスでも誘うつもりか? もうそんな事くらいでオレは自分を見失ったりしない!


 オレは冷静に、戦術通りに体を動かす。


 銃を捌き、剣撃を躱し、魔法を織り交ぜながら奴の首を狙う。


「キャロと言ったかい? あの少女。辺境の村出身の割に彼女は中々の物だった」


 てめえが、キャロを語るんじゃねえ!


 奴の銃口がオレの頭を狙う。避けられねえ、だが弾く。

 水の弾丸を生み出し、銃身を跳ね飛ばし軌道を逸らす。


 外れたミスリルの軌跡がイリシウス邸の天井を打ち抜いていくが今はそんな事言ってられねえ。


「それとあの狼、凄い強さだったよ。支配する時だって苦労したんだよ? 竜巻を起こしたりするもんだから、ウチの兵が皆怖がっちゃったり」


 バロウを舐めんな! お前の様な下衆が誇り高いバロウの名を口にするな!!


 灼炎の聖爪が王の頬を切り裂く。


 当たった、このまま行けば勝てる。


「けど最後は自殺しちゃうなんて、つまらないよねぇ。あ、つまらないと言えば」


 黙れって言ってんのが聞こえねえのか!


 銃身を弾く手に魔力を蓄える。隙を見せた瞬間、特大の一撃を喰らわせてやる。


「君が戦ってた虎さん達も、二対一でしか君に勝てないつまらない魔物だったねえ」


 何の話だ、あの時オレを助けたから見逃して下さいってか?


 そんなもん認めねえ。オレは殴る拳に力を込め、奴の両手による防御を崩す。


 このまま蓄えた魔力を解放して終わりだ!


「あの虎さんも森から連れてきたんだけど、せっかく支配して闇の力を与えたのに。期待外れにも程があるよ」


 どくんと心臓が高鳴り、早鐘を打つ。


 何だ? 何を言っている? あの虎はコイツがけしかけたってのか?


 蓄えた魔力が空中に霧散していく。


「水や植物を操れる力を持ってたのに……。堕としたら闇の力も満足に使えない力自慢になっちゃってさ。つまらない魔物だったよ」


 水や植物を操る虎だと? そうは思いたくない答えがオレの考えに浮かんでしまう。


 バロウの森にいた虎の夫婦。あの二人も支配されていたのか? そして王の命令でオレを襲い、王の手によって命をも奪われた。


 馬鹿な……、そんな……!?


 オレの息は荒くなり、後退りをしてしまう。


 止まる事の無い汗が全身を伝い、冷え切っていく体が震える。


「君も彼らのところに行くと良い」


 そう言って王は笑い、銃口を向ける。


『アリス! しっかりせよ、意識を持て! このままでは死ぬぞ!』


 メテオの声で思考を取り戻し、急ぎ前を見るも既に銃声が鳴っている。


 撃たれた? あの弾速を避けることは出来ない。


 視界がスローになる。


 オレは迫り来る弾丸を見つめる。


 オレはただ目の前で起こる現象を、眺める事しか出来なかった。

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