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王の力

 オレは走る。


 守る為、救う為。大切な者を助けたい。


 絶望を乗り越えた先にある物。


 希望という光を目指し、オレは走る。


 王を倒し、オレは生き残る。


 ハピアと共に、キャロと一緒に。


 オレは生きる。




 イリシウス邸内の大広間。夜の闇に覆われたその場所を照らすのは蝋燭の灯り。

 外は暗黒が包み、降り続ける豪雨が外界と屋敷を隔てるかの様。

 時折閃く稲光りが、邸内に怪しく光を落とす。


 オレは辿り着いた。


 王の元へと。


 コイツを倒し、不幸の連鎖を終わらせる。オレを弄ぶ不吉の運命を断ち切ってみせる。


 オレの登場で、静まる者たちを眺め呟く。


 ハピア。すまない、待たせたな。


 ハピアは王を正面に見据える目を、オレへと向ける。


「いえ。もう大丈夫ですの?」


 彼女が澄んだ黒目で真っ直ぐオレを見つめる。


 あぁ、心配かけたな。もう刺し違えようなんて考えていないさ。

 全力で王を倒し、キャロの笑顔を見るまで、オレは死なない。


「では、参りましょうか」


 ハピアが構える剣に力を込める。


 メテオとクーがハピアの母を守る為、警戒を強めていく。


 ハピアの父が全身に力を漲らせる。


 そしてオレは、剣を下ろし余裕の表情を浮かべる王を見つめる。


 負ける気がしないな。


 突如、王が笑い声を上げる。


 何だ? 何がおかしい。戦力差を前に諦めたか?


 ハピア、ハピアの父母、二体の使い魔、そしてオレ。


 六対一。多勢に無勢。


 いかに奴が強力な王、圧倒的な速さを持つとはいえ、オレたちの攻撃から逃れる事は出来ないだろう。


 だが奴は笑い続ける。


 突如、剣閃が煌めく。


 ハピアとパパさんによる一撃。だが王はそれを手に持つ銃と、剣によって受け止める。


 王の体躯は一見痩せ型だが精悍だ。とはいえ身長二メートルを誇るハピアの父が振るう両手剣の一撃。


 それを片手で受け止めるだと!?


「何がおかしいのでしょう? 王陛下」


 ハピアが冷たい眼差しを向ける。


「いやぁ、ハピア嬢。そこの仔犬くん、アリスと言ったかな? 彼の言うことが面白すぎて思わず笑ってしまったよ」


 王が体の軸を回転させ剣を振るう。


 鍔迫り合う二人が飛び退いて王のリーチから離れる。


 こいつ、シンはオレの言うことがわかるのか?


 だとしても何がおかしい。お前が数的不利なことに変わりないだろう。


「あぁ、わかるとも。私は王だからね、民の声に耳を傾けてこそ王だ! 例え君の様な愚民、いや駄犬でもね。

 たかが六人で私を倒せると思っている君が! 余りにも愚かすぎて笑ってしまったんだよ!」


 王が剣戟でイリシウス伯爵へと襲い掛かる。


 パパさんは応戦するが速さで優るシンの剣に、徐々に体を削られていく。


 これが、王と伯爵の力の差って事なのか?


 だがその程度で、良い気になってんじゃねえ!


 オレは聖剣狼の姿に身を包み、王へと斬りかかる。


 そこにハピアが加わる。


 三対一の剣戟の応酬。


 だが王は余裕の笑みを崩さない。


 そして銃声が響き渡る。


 銃弾はママさんを狙った者だが、メテオがそれを許さない。

 彼は人型へと変化し、竜鱗を持つ腕によって銃弾を弾き飛ばす。


 それでも王は銃を撃つ手を止めない。弾倉を装填し、撃ち続ける。


「王陛下、随分と卑怯な戦い方をするのですね。ですが銃弾如き、ここにいる誰にも届く事は無いでしょう」


 ハピアと伯爵の剣が交差し、王を穿つ。


 だが王は銃と剣、両手に持つ武器でそれを受け止める。


 オレはそこへ特攻を仕掛ける。


 だが突如、王の姿が消える。


 ちっ! また高速移動か!


「ハピア嬢、随分な事を言うじゃないか。銃弾如き? そんなに言うなら我が王家の愛銃の威力、試すが良い」


 王が遠く離れた位置で笑い声を上げ、銃口をハピアへと向ける。


 長距離からの狙撃か? だがそんな程度、ハピアなら銃弾を切ることだって出来る。

 オレの障壁なら避けるまでも無く防ぐことが出来るだろう。


 銃声が鳴り、緑光が閃く。同時にオレは王へと駆け出す。


 だがそれよりも早く、伯爵が動いた。

 彼はハピアへと突進し、彼女を突き飛ばしていた。


 オレはそれを気にせず王へと剣撃を仕掛けていく。


 しかしハピアは違った。


 今のオレには自分の視界とハピアの視界。二つを同時に見て処理出来るだけの能力がある。

 瞳にいるお婆ちゃんの力か、魔女に引き出して貰った力のせいかはわからない。だが問題はそこでは無い。


 ハピアは自分を突き飛ばした伯爵を見ている。


 彼の胸には巨大な風穴。一目で致命傷とわかる傷跡。血液を噴出させて彼が倒れる。

 彼の手から剣が離れ、彼の体が地面へと崩れ落ちる。


 イリシウス夫人が伯爵の元へ駆け寄り、メテオが追従する。

 彼女は治癒の魔術を施すが、伯爵が目覚める様子は無い。


「おや。銃弾如きと言った割に、随分な大騒ぎじゃないか」


 くそ! 何をしやがった!?


 オレは聖剣の斬撃を緩めない。だが突然、奴の姿が消失し、オレの背後へと現れる。

 倒れ伏す伯爵の側で、奴は伯爵の持っていた剣を手にする。


「あぁ……。やっと手に入れた……。伝説の一振り、創生剣ジェネシス。素晴らしい……」


 その場にいる誰もが、狂笑する王を見て微動だにしない。いや、出来ない。


 奴の手にした剣の刀身が砕け、新たな刃を出現させる。


 ドス黒い瘴気を宿した黒剣。

 歪んだ刃は不自然な尖りを見せ、まるで相手に重傷を負わせる為のようなデザイン。


 これが、持つ者の心に応じて姿を変える剣。


「アリス君。私が何をしたか、知りたがっていたね。今教えてあげよう」


 王がオレに銃口を向ける。


 良いぜ、来いよ。お前と同じで速えだけの弾丸なら、聖獣化したオレの防御を貫けはしない。


 オレは王を見据える。


 王の左手の引き金が引かれる。


 だが聖獣の体ごと、オレが何かに投げ飛ばされる。


 そして一瞬だけ閃く緑光の軌跡。


「ちゅんちゅん!(アンタわかんないの!? ハピアのお父さんが防げなかったんだよ!?)」


 クー!? 何故!


 だが問うよりも早く王が口を開く。


「ははっ、アリス君。君よりもそこの鳥の方がどうやら野生の勘が強いらしい。避けて正解だよ」


 何だ? どういう事だ!


「私が銃に込めてるのは特殊な魔術式を幾重にも施したミスリルの弾丸。威力も速さも極大魔術並さ、それを何の詠唱も無しで撃てるんだ。

 これでも銃如きだなんて口を聞けるかな?」


 ミスリルの弾丸だと!? そんなもんがオレの魔法より強えって言いたいのか?


 いや、恐らく、間違いなくオレの魔法よりも遥かに強大な威力だ。だがそれを認める事は敗北を認める事になる。オレは屈しない。


「やれやれ。やはり庶民には到底理解出来ないか。この弾丸は高級品だからね……。おっと、君たちは伯爵家だったか。丁度いい、折角だから君たちには庶民になって貰おう」


 何わけのわからねえ事言ってやがる!


 来い! クー!!


 オレはクーと融合し雷を纏い、王へと飛翔する。


 鋭く伸ばした雷爪を振るうが、王は易々と銃と新たに手に入れた黒剣、二つの宝具で攻撃を防いでいく。


「イリシウス伯爵、並びにイリシウス伯爵夫人、ハピア伯爵令嬢」


 剣戟を交えつつ王が口を開く。


 何だ? 今度は何しようってんだ!


「以下三名より、伯爵の身分を、地位を剥奪する!!」


 王の宣告が、雷鳴轟くイリシウス邸に響き渡った。

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