前を向く少女
バロウを倒したハピアが、未だ眠るオレへと歩み寄る。
刹那、身体が飛び退く。
そして襲い掛かる闇の斬撃。
「やはりバロウさんは、強者の様ですわね」
ハピアが困惑しつつも笑みを浮かべる。
バロウはまだ倒れてはいなかった。
確実に倒したと思った、斬り裂いたバロウの体。だがその傷を黒い瘴気が塞いでいく。
オレを逃がす為の進化。風を纏い操る剣狼と化したバロウ。
だがその姿は更に変貌し、全身に闇と刃を携えた魔獣と化している。
ちくしょう……。もう殺さないとか正気を取り戻させるとか言ってる場合じゃないのか?
少女は怯まない。
大地を揺らし、水で縛り、幻影で惑わす。
そして闇刃狼の身体へと剣撃を刻んでいく。
だがすぐに瘴気がダメージを塞いでしまう。
次第にハピアにも疲れが見え始め、一撃、また一撃とバロウの斬撃を喰らってしまう。
雨が降り出し、少女と魔獣の身体を濡らしていく。降りしきる水が彼女から体温を奪い、その動きを鈍らせる。
そして凶器の重撃を受け、少女の体が吹き飛ばされる。
宙を舞う少女に魔獣は容赦しない。
突進による斬撃で、地に下ろす事なく切り続ける。
やがてそれが止み大地へと叩きつけられ、その衝撃が水飛沫を上げる。
重傷を負ったハピアが吐血し、視界が歪む。足に深手を負っているせいか、上手く立ち上がる事が出来ない。
魔獣は嗤う。悪天候をも味方につける邪悪なる狩人。
それが、今のバロウ。
無数の闇刃が飛翔する。
いくつかは剣で弾くが、それでも何発かは当たってしまう。
それが再び、少女の脚を切り裂いていく。
流れる血液と、彼女が感じる痛みが幻覚では無いことをオレに認識させる。
バロウが狩りを楽しむ畜生の笑みを浮かべている。
魔獣の体へと、漂う闇が凝縮されていく。
圧縮された闇は極大の刃となる。
刃はより大きく、より鋭く研ぎ澄まされていく。
破壊の刃がハピアへと迫る。
彼女は目を閉じない。
最後の瞬間まで諦めずに、真っ直ぐと前を見つめる。
彼女に出来ることは無い。彼女の持ついかなる防御も、強大な闇の力の前には無意味と化す。
だが、彼女は諦めない。
決して目を背ける事なく目の前の現実を見続ける。
自らへ放たれた暗黒の鋭刃。喰らってしまえば死を免れることは出来ない。
絶望の剣を見据える。
闇の刃を迎え撃つ為に躍り出た、オレの姿を見つめる。
咆哮。
オレは叫び、結界を体へと纏わせていく。
想像しろ。オレが信じた獣の姿を。
優しく、誇り高い、強き獣の姿を。
創造する。闇を祓う剣を従えし狼。
オレの魔法が新たな輝きを放つ。
極大の闇刃を獣の聖剣が迎え撃ち、弾き飛ばす。
聖獣化、剣刃狼。
この聖なる刃が、悪しき魔獣を浄化する。
これがオレの覚悟、諦めない力だ。