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闘いの時

投稿して間もない初心者をブックマークして頂き!ありがとうございます!

 森の魔物たち、その全てがこの場所に集まっている。中にはオレの見たことの無い奴もいる。


 バロウはオレを背に乗せ走った。


 バロウは速かった。オレとは比べようもない程に速かった。


 今オレはリスの婆ちゃんに治癒魔法をかけて貰っている。流石オレの先生だ。オレなんかの拙い治癒魔法とは段違いで、みるみる傷が塞がり、折れた骨が治っていく。


「わん(ありがとう婆ちゃん、助かったよ)」


「キュイキュウ(無理しちゃいけないよ、横になりなさいな。可愛い毛並みがボロボロじゃないの)」


 そういう訳にはいかない、熊のオッちゃんが待っているんだ。例えオレの可愛さが失われようとも、そんな一時的な物の為にオッちゃんの命を見捨てるのは間違っている。


 遠くで火の手が上がっているのが見える。皆が過ごした森が。皆と住んでた居場所が侵略者たちに蹂躙されていく。


 もうオッちゃんは戦っているんだろうか?オレとオッちゃんが離れた場所からはまだ遠い。

 人間が戦いやすくする為に森を焼き払っているだけと信じたい。


「ガウ(皆、状況は理解したな。これより先は死を覚悟して向かう事になる)」


 バロウが吠え、その言葉に一同が緊張する。


 うそだろ……? 全員で生きて帰れねーのか?

 希望が見えたと思ったオレの心に再び絶望の闇が広がっていく。


「ガウア(ココにいる者はその全てが強者だ。森の弱肉強食を生き残った者たち)」


 そうだ。オレ達は強い強いっていつも言ってたじゃねーか。

 強いんなら負けねーだろ!


「キュイキュル(可愛いお嬢ちゃん。貴方とはここでお別れみたいね)」


 おい婆ちゃん! 何、縁起でもない事言ってんだ!? 大丈夫だよ! 怪我しても婆ちゃんが回復してくれるだろ!?


「ガウガウ(闘いに弱者は必要ない。お嬢さん、君とはここでお別れだ)」


 なんでバロウまでそんな事言うんだよ!! お前ら強いんだろーが!!


「ガウ(そうだ。私たちは強い)」


 なら良いじゃねーか! 何がダメなんだよ!


「ガウ(君は、弱い。共に連れようとも君を死なせてしまうだけだろう)


 ……は? そんなの!! 戦わない理由にならねーだろ!!


「ガウ(ハッキリ言わせてもらおう。君がいたら足手まといだ)」


 …………え?


「ガウ(君に戦う才能は無い。私たちを置いて逃げろ)」


 何を言っているんだ? 置いて逃げる? 皆を置いて逃げる……?


「ガウ(私たちは全滅するかもしれない。ならばせめて君の命だけでも救わせてほしい)」


 何だそれ? なら皆で逃げれば良いじゃんか! 意味わかんねーよ!!


「ガウガウ(私たちは皆この森で生まれ育って来た。それに何処へも行く場所など無い。死に場所もココと決めている。それに全員で逃げてしまえば人間に追われることになってしまう。)」


 どうして……、オレだけ……?


「ガウ(君はここで死んではいけない理由があるからだ。……それに、私は君が好きだ。私だけではない、この森の者全てが君を愛している)」


 そんなの……理由になるかよ。そんな白々しい言葉で納得できるかよ。

 それに、オレにそんな価値本当にあるのかよ。


「キュウキュウ(貴女は素晴らしいわ。見た目だけじゃないのよ?知的で努力家。少しだけ心が折れやすく、体も弱いけど。そこが可愛いの)」


 婆ちゃん……。そりゃ魔法なんてロマン溢れるもん頑張って覚えたくなるさ。

 それ以外の事だって、皆が一生懸命教えてくれてるんだ。応えたいと思うのが普通だろう。


「ガオォ(お嬢ちゃんってば、いっつも強がりな口調しちゃって! けどね、オバさんアンタが優しい子だって知ってるよ!)」


 虎のおばさんまで……。世話焼きのうるさいおばさんだ。オレは、おばさんがしてくれた事を返しただけだ。


「ガウァ(君はとても素直だ。嬉しい時は嬉しいと笑い。悲しい時は涙を流す。子供っぽいと言ってしまえばそれまでだが。そんな心の綺麗な君を、私たちは守りたいのだよ)」


 子供っぽい、か。笑っちまうな。もう前世含めて成人手前だぞ。そんな事を考える今も涙を流してしまう。


『皆さんの意を汲んでおやりなさい。貴方ではこの方たちの力にはなれません、足手まといです! ならばせめて逃げて、生き延びて差し上げなさい!』


 ハピアまでそんな事言うのか……?

 ……オレだって魔物だぞ! 他に行く当てなんて無いんだ! 皆がココで死ぬならオレだってココで死ぬ!!


「ガウガウ(君には行く所があるはずだ。ここにいる皆知っている。いつも言っていたじゃないか。親友との再会を夢見ている、とね」


「ガオ!(それに! お嬢ちゃんは可愛いからねぇ! アンタなら魔法が使えるとこさえ見せなければ、人間とも上手くやっていけるさね!)」


 いやだ……、いやだ……。オレは…………。


 嫌だ、理解したくない。


 例え弱くても頭数は多い方が良いはずだ。絶対そうだ。オレは間違ってないんだ。皆を見捨てて逃げるくらいだったら戦って死ぬ方が……。


「ガウ(君に魔法をかけてあげよう)」


 バロウ、魔法なんて使えないクセに何を……。


「ガウ(勇気が出る魔法さ。私たちが人間に決して負けないと。君が信じられる様になる魔法)」


 何を言っているんだ。そんな魔法なんて無い。


「ガウオオォオ!!(皆の者! 闘いの時だ!! 持てる力、その全てを燃やせ!!)」


 バロウが吼える。それに呼応する様にその場全ての魔物達が咆哮する。

 それと同時に皆の姿が光に包まれる。


 これは……、さっき見たばかりだ。進化の光?


 ココにいる全員が進化しているのか?


 勝利する為に。生き残る為に。

 その光は暖かく、優しい。そしてとても強い光だ。


 バロウを中心に風が吹き荒ぶ。


 おばさんの毛皮は淡い青色に染まり水が滴るかの様に艶やかだ。


 リスの婆ちゃんも。おばさんの番いの虎も。飛ぶ鳥も。この場にいるオレ以外の全てがその姿を変質させていく。


 強靭に、猛々しく、美しく。

 見た目こそ大きく変わらない者たちもその内に秘める気力、魔力が漲っているのを感じる。


 進化は並大抵の覚悟じゃ出来ない。強い意志、力を求める強い意志が必要って言ってたじゃないか。

 どうして皆して、簡単そうにこんな……。


『貴方の為ですわ。覚悟の出来ない貴方の為、皆が自分の覚悟を見せているのです』


 オレの為……? 覚悟なら出来てる! オレは死ぬことなんて恐れてない! 皆が死ぬかも知れないのに一人で逃げるなんて絶対に嫌だ!


『この状況で貴方だけ逃げるのは、死ぬより辛いでしょう。皆さんもそれを理解した上で、貴方に逃げろと言っているのです。 貴方はお友達に会うのでしょう?」


 そうだ。オレはこんな体でいきなり野生動物にされちまって、親友に会うことだけを生き甲斐に今まで頑張ってきたんだ。


 ここで死ぬことは前世含めて支え続けてくれた愛犬を裏切ることになる……。


 そんなオレをずっと支えてくれた森の仲間たち。彼らの願いはオレに生き延びてもらうこと……。


『成長の時です。貴方は大人へと成長するのです。大丈夫です。貴方が親友に会えるまで、私が貴方を支え続けます!』


 ハピア……。オレより年下の癖して。大人になれって? 笑っちまう。年下の女の子にこんなこと言われたら、そうせざるを得ないじゃないか。


 オレは、覚悟する。例え誰か見てる神さまや何かに卑怯者って言われても構わない。オレは皆の望みを叶える。


「ガウオ(これで、決心はついたかな? お嬢さん)」


 バロウがオレに近付き頭に触れる。進化した彼の足は以前より大きい。その前足でオレの頭を優しく撫でる。


『お逃げなさい。それが、彼らを信じるということです』


 あぁ。オレはもう迷わない。彼らを信じて逃げる。そして生き延びてみせる。


「ガウ(また君に会い結婚を申し込もう。だからそれまで、生きて待っていてくれ)


 最後の最後まで、なんてキザな奴だ。

 だいたい、そーゆーのは死亡フラグって言うんだぞ?だからオレはフラグを壊すため言ってやるんだ。


「わん!(絶対逃げ延びてやるから迎えに来やがれ!断ってやる!)」


 オレは涙を振り払い、満面の笑みを見せつけた。

誤字修正!

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