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竜と獣

 獣の咆哮が大地を揺らす。


 竜の雄叫びが大気を震わせる。


 少女が剣舞する。


 雷鳴が轟き稲妻が翔ける。


 竜の巨躯は強靭な皮膚で覆われており、攻撃を意に介さない。


 だがオレは負けねえ。オレを救った少女たちに報いる為にも、負けられねえ。


 竜の鉤爪が聖獣の身体を引き裂いていく。


 つええ。まだ始まったばかりだってのに明らかな力の差を感じる。


『何故ここを通りたがる』


 火竜が巨躯で威圧し、問い掛ける。


「わんわん(この先で女の子がオレの助けを待ってるんだ。行くのが当然だろ)」


 オレは気圧されず、隙を探る。


『何故そうまでして人間に尽くす、犬の子よ。我と貴様らの力の差は歴然だ。勝ち目などあるまい』


 竜が問いかける。だがその間も攻撃が止むことは無い。


 鉤爪を振るい、尾が叩きつける。


 火竜を名乗るだけの事はある。その攻撃には触れただけで蒸発しそうな程の、熱気が込められている。


 オレとハピアはスピードを活かして避け続ける。


 何故だと? 火竜メテオ、自ら賢竜を名乗る割には随分と当たり前のことを聞くもんだな。


「わんわん!(大切だからに決まってんだろ!!)」


 オレは吠え、奴の攻撃を擦り抜ける。そして爪を振るい風の刃を撃ち込んでいく。


『わからんな。人の子よ、何故に其方は魔物に手を貸す』


 竜は決して移動する事なくダンジョンの出口を守り続ける。


「私もあの子と同じですわ。大切だからです、それ以上に何か必要ですの?」


 言うと同時にハピアが魔法陣を展開していく。


 それは竜を取り囲み、奴を縛る水の鎖となる。


 だが火竜の身体は熱を纏い、水の戒めを蒸発させていく。


 オレはその隙を逃しはしない。


 奴の顔面へと渾身の力で、聖爪の斬撃を喰らわせる。


『その程度では我を倒す事は出来ない。

 貴様らが例えそうまでしても、所詮人と魔物は相容れない存在。いずれは、別れの時が来る』


 奴が尾を振り抜きオレの体を跳ね飛ばしていく。


 激痛、気を失いそうな程の衝撃。だが倒れない。


 例えいつか別れるとしても。それは今じゃねえ!


 オレは恩義に報いる。彼女たちが好きだからだ!


 こんなとこで引き篭もってるドラゴンに、そんな事わからねえだろうがよ!


「わんわん!(クー、来い!!)」


「ちゅんちゅん!(言われなくてもわかってるわよ!このバカ竜にアンタの覚悟見せなさい!)」


 聖獣と雷鳥の姿が一つとなり、虎の背で大翼が羽撃く。


 来やがれ! オレの眷属、雷刃狼!!


 放出させた雷が獣となって召喚される。


 顕現せし雷獣が竜へと駆け抜け、猛攻する。


『貴様らはまだ若い。故に当たり前の事がわからぬのだ。我も昔は人間を信じていた』


 竜は雷狼を意に介さず牙で、爪で、次々と蹴散らしていく。


 はっ、それがどーした? 昔は信じてただと? それで裏切られたから誰も来ない迷宮に、地下に閉じ篭ってるってのかよ。


 オレは雷刃狼を召喚し続ける。狼は尽きる事なく竜を襲い続ける。


『口を慎めよ若造。例えどんなに信じようとも、人間は残酷で薄情だ。お前も一度は捨てられたのだろう?』


 竜に疲れが見え始める。止む事の無い稲妻に苦戦しつつある様だ。


 オレは攻撃を加速させる。


「火竜メテオ、貴方が何を問おうと勝手ですわ。ですが、闘いに集中した方がよろしいかと」


 ハピアが虹の光剣を構え竜の背後から斬りかかる。


 勝った。


 そう確信した刹那。


 突如として竜の姿が消える。


『思い上がるなよ人間。だが、今のは少々焦ったぞ』


 舞う土煙の中から竜が姿を現わす。


 だがその大きさは最初に見た小さな姿に戻っている。


『さっきまでの姿を保てなくなったのかしら? それとも諦めた?』


 クーが挑発する。だがその通りだ。

 所詮は虚仮威しだったのだろうか。しかし小さくなったとはいえ、聖獣化したオレと同程度だ。


 更に奴を包む魔力は先ほどと変わらないどころか、小さくなった事で密度が上がり、魔力の質を上昇させている。


「別に戦わなくても結構ですのよ? 私たちはそこを通りたいだけですから」


 そう言うハピアだが気を緩める事無く、剣先を向け構えている。


『それは出来んな人の子よ。この扉を開ければ、この部屋は消滅してしまう。我は住処を守る為にやっているのだ』


 瞬間、奴の姿が消える。


 そしてオレの眼前へと現れ、宙を舞い尻尾を振り下ろす。


 オレは何の反応も取る事が出来ず、地面へと叩き伏せられてしまう。


 今まで微動だにしなかった火竜だがそのスピードは速く、一瞬でオレとの距離を詰めるほどに素早い。


 体勢を崩したオレへと火竜が猛攻を加える。


 痛え。止まらない衝撃。終わらない激痛。


 意識が吹っ飛びそうだ。


『我はここを出るつもりは無い。故に貴様らを先へと進ませるつもりも無い。立ち去るが良い』


 ハピアが駆け、動けないオレへの攻撃を宝剣で受け止める。


 一瞬の隙を突いて、オレはハピアを掴み飛び退いて距離を取る。


 火竜メテオ、お前が何を思おうとオレは先へ進む。


 オレはキャロを諦めない。例え何があっても、もうオレは彼女から離れない。


『人の子よ。お主もいずれはこの魔物を見限る時が来るだろう』


 再び竜の姿が消える。


 速え。避けられねえ。また猛攻を喰らっちまう。


 だったら、避けなきゃ良い!


 オレはありったけの魔力で聖雷の障壁を展開する。


 それでも竜の鉤爪は鋭く、結界を易々と貫いていく。


 火竜の攻撃が聖獣の身体を打ち砕く。


 だが、ただで殴られる訳じゃない。


 聖獣の身体全てがオレの結界だ。結界は形を変え、竜を縛る拘束具と化す。


 そして同時にクーとの融合が解ける。


「わん(満を持して大きさポンポン変えた割には、大したことねーじゃねーか火竜メテオ)」


 聖獣化の解けたオレは竜を見据える。


『我は過去に人間に捨てられた身だ。故に忠告をしてやっているのだ。魔物でありながら人と手を組む、かつて同じ夢を見た者としてな』


 拘束された隙だらけの敵をハピアは見逃さない。彼女が生み出した魔法陣から無数の氷塊が現れる。

 そしてそれが弾丸となって火竜を襲う。


『我は醜い進化を遂げた。故に奴は我を見放したのだ。もう戻る事は叶わぬ。我はここで生涯を終わらせる』


 そう告げると竜が咆哮し、聖獣の楔が解き放たれる。

 そして氷弾を一瞬の内に砕き割っていく。


 オレは飛び退きつつも竜から視線を外さない。


「わん(自分がダメだったからって先人ぶって偉そうに語ってんじゃねーよ)」


 何だ? 昔は優しかった主人がでっかく育ったお前を捨てちまったとかか?

 だからこんな所に引き篭もって、小さくなる練習してましたってか?

 お前が後悔してメソメソすんのは勝手だが、今闘ってるオレの邪魔するんじゃねえ!


『黙れ犬の子よ! 貴様に我の何がわかる! それほど言うならば我の全力の一撃、耐えてみせるが良い!!

 我に貴様らの絆の力、証明して見せよ!!』


 竜が叫び魔力を滾らせていく。空気が音を立て唸りを上げる。

 この一撃で全てを消すつもりなのか。それほどにコイツは人間を憎んでいるのか。


 この一撃を喰らう訳にはいかない。オレは障壁を展開し、奴を囲む。


「ちゅん!(火竜メテオ、アンタがどれほどのもんか知らないけどアリスの覚悟は本物よ。だから私も覚悟を決めるわ)」


 クーの身体を光が包み込んでいく。


 進化の輝き。雷が迸り、その姿を変質させていく。


 小さかった身体は大きく。その翼は猛々しく。


 クー、オレの為に力を解放してくれるのか? 進化を遂げるほどに強い意志で。


「アリス。この方に奇跡を見せて差し上げましょう」


 ハピアがオレの横に立つ。


 だが火竜は本気だ、強いとはいえ人間のハピアが前に出たら危険すぎる。


「覚えていますか? 私たちの初めての魔法。二人が息を合わせて使った魔法を」


 ハピア? こんな時に何を。


「アレの研究が終わった様ですわよ。貴方が以前倒した魔術師団、彼らが解明してくれましたの」


 魔術師団、黒づくめの奴らか。

 彼らが研究していたのは魔術と魔術、魔法と魔法の融合技術だった筈だ。


 アレをやるつもりか?


「えぇ、私の魔術に貴方の魔法を込めなさい。

 イメージの補助は私がしますから。貴方はありったけの魔力と想いを込めるのです」


 魔術に魔法を……?


「そうですわ。私の初歩的な火の魔術が、貴方の想いによって魔物を焼き尽くし、美味しく仕上げたではありませんの。

 それこそまさしく、魔法の様な魔法ですわ」


 魔法の様な魔法、か。

 たしかに美味しく調理する炎攻撃なんて普通考えねーよな。


 思わず笑ってしまう。


 良いぜ、やろうじゃねーか。


 オレは集中し、意識を研ぎ澄まして、ハピアと精神を同調させる。


『アリス 我が呼びかけに呼応せよ』


 オレとハピアを囲む様、大地に魔法陣が展開される。


 あぁ、いつだって準備は出来てるさ。


『聖なる獣よ 願いを信じ 自らの道を切り開け』


 オレは信じてる。火竜メテオの妄想をぶっ壊して築く幸せな未来を。


 魔法陣が輝く。


『聖獣よ 神獣となりて敵を討て』


 神獣か、良いじゃねーか。クー! お前も来い!


 再び雷鳥が、進化した轟雷鳥が一体となる。


『全てを喰らう鋭牙 雄々しいたてがみ 大鷲の翼 何物をも切り裂く斬爪』


 そうだ。より強い力をイメージしろ。


 獣の種類なんてどうだって良い。最強の姿を。


 魔法陣が更に大きさを増していく。


『出でよ、神獣』


 なるんだ、強者に。


 オレとハピア、クーの声が揃う。


『『『聖雷神獣(ラグナライガー)!!!!』』』


 力が漲る。イメージを越え、持ち得る魔力を越えた力が全身に迸る。


 元々竜と張り合ってた肉体は更に大きく、迸る稲妻はより鋭く。


 そして爪牙は研ぎ澄まされ、姿は神々しく青の光を放つ。


『姿を変えるのは貴様も同じではないか! 大きさを変えて我を越えたつもりか!』


 あぁ、そうだ。


 オレたちはお前を超越した。奇跡魔法(マギア)がお前の全力を叩き潰す。


 だからお前も、本当にやりたい事諦めんなよ。


 竜が魔力を収束させていく。


 わざわざオレたちの準備を待ってたんだ。火竜メテオ、お前も本当は期待してたんだろ?


 人と魔族の友情を、信頼、絆を。


 だから見せてやるよ。オレたちの絆を。


 そして見届けろ。オレがキャロを救う姿を。


 オレたちは聖雷を滾らせ、その魔力を高めていく。


 火竜が咆哮と同時に魔力を解き放つ。

 光。灼熱の閃光。真紅の炎線が空気を燃やして迫る。


 この部屋の空気諸共、全てを燃やし尽くしそうな熱気。


 だがオレたちは逃げない。そして、退かない。


 聖雷神獣の咆哮が炎を散らす。


 聖なる雷を滾らせ、火竜へと翔ける。


 視線が交差する。


 信じられない、って顔してるな。


 だが今回はオレたちの勝ちだ。だからもう一度だけ、人間に希望を持てよ。


 オレがそうする様に。


 神獣の爪牙が竜を切り裂き、聖雷が襲う。


 部屋どころかダンジョン中を照らす程の、光の奔流。


 光と雷の中で、火竜が笑った。

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