表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/104

二人の少女

 歩き続けた。


 どんなに醜く、見すぼらしくても、オレは歩き続けた。


 ボロボロになって擦り切れそうな時、彼女に出会った。


 明るく優しい笑顔。オレはその笑顔に救われた。


 彼女はオレに名前を与えてくれた。


 オレは、その名前を大切にしている。


 オレは彼女といられて幸せだった。


 彼女を守り続けると決意した。


 それなのに、オレは……。




 鳥の鳴き声が聞こえ、意識が目覚める。


 クッションの感触。暖かで柔らかなウールの肌触り。そのことでココがハピアの家で無い事に気付く。


 ハピアの姿は無い。


 オレは彼女に見捨てられたのだろうか。


 窓から差し込む朝日が眩しい。


 いっそ王都に来てからの全てが夢だったならばと、考えてしまう。


 いや、夢ではない。


 オレはハピアを傷付け、逃げ出した。


 そしてキャロに再会し、襲われたところをハピアに救われた。


 だがオレは、ハピアを裏切った。


 お婆ちゃんも怒鳴りつけて以来、姿を見せてくれない。


 せっかく……、キャロと再会できたのに……。オレが怒鳴ったから。


 その全てを記憶している。


「ちゅんちゅん(起きたんなら挨拶くらいしなさいよね)」


 この声は……、クー。こいつの声で目を覚ましたのか。

 オレは手短に挨拶をする。


「ちゅん(元気無いわね、アンタ三日も寝てたのよ? 私もハピアも心配してたんだから)」


 心配、してくれてたのか……。


 三日もオレは眠っていたのか……。悪いことをしたな。まだハピアにきちんと謝罪もしていないと言うのに。


 しかし、三日か。急がなければ。


 そう思いオレは外へ出ようと立ち上がる。


「ちゅん(ちょっとアンタ、何処行くつもり?)」


 オレは答えない。言っても意味は無いだろう。


 オレはキャロを救いに行く。


 マッドハートが言っていた。約束の地で待っていると。

 オレとあいつが約束した場所なんて一つしか浮かばない。

 奴と初めて会った時、ダンジョンを越えた先で待つと以前言った。


 オレはそこを目指す。


 どうすれば良いのかわからないが、行く以外の選択肢が見つからない。


 そうでなければオレはお婆ちゃんに顔向けする事が出来ない。


 オレが部屋の扉の前まで来ると、扉が独りでに開いた。


「あら、起きましたのね。ご機嫌はいかがかしら?」


 扉の先にいたのはハピアだった。表情は険しく。彼女が何を考えているか、読み取ることは出来ない。


 ハピア、すまない。オレのせいで危険な目に合わせてしまって。


「あら、良いんですのよ。貴方を救う為ですもの。危険なんて覚悟の上ですわ」


 すまない……。オレはお前を信じてやれなかった。お前が魔物のオレを遠ざけていると思い込んでいた。


 ハピアの目を見る。彼女の表情は険しいままだ。


「そうですわね。ですが私は貴方を助けました」


 あぁ……。こんなオレでもハピアは助けてくれた。ありがとう。


 オレは彼女の優しさに感謝する。


 だがオレは、そんなお前を裏切ってキャロを守った。すまない……。


「えぇ。その事でしたら感謝致しますわ。あのままでは私かキャロさん、どちらかが死ぬまで戦っていたでしょう」


 ハピア、オレはーー。


「いい加減になさい!!」


 叫び。突然の叫びにオレもクーも止まってしまう。


「アリス! 私は貴方と会う為に力を、技を磨いてきました! ならばその力を貴方の為に使うのは当然です!」


 ハピア……、だがオレは。お前の心を傷付けてしまった。そんなオレがお前に救われる資格なんてーー。


「まだそんな事を言うおつもりですか! 私は貴方を助けに行きました! 貴方が大切だからですわ! これ以上何を確かめる必要があると言うのです!」


 ハピア……。だがオレはーー!


「いい加減になさいと言った筈ですわよ!! 目が覚めたのならば早く朝食を食べて支度をなさい!」


 支度? 一体何の支度をすると言うんだ。


「ちゅんちゅん(アンタ鈍いわねー、わかんないの?)」


 静観を貫いていたクーが口を開く。


 二人とも何を言っている。オレはキャロを助けにーー。


「アリス。キャロさんを救いたいんでしょう?私が手を貸しますわ。ですから早く元気になりなさい」


そんな……、オレはハピアを裏切ったんだぞ。そんなオレがお前の力を借りるなんて……。


「言いましたよね、貴方の為に力を振るうと。何か問題でも?」


あぁ、ハピア……。この子は、なんて…………。


ハピア、ありがとう。


気付くとオレは涙を流していた。


 感謝と嬉しさで涙を止める事が出来ない。彼女はこんなにもオレを思ってくれていたのか……。

 彼女を傷付けたオレを許し、オレのために力を貸してくれる……。


「わん(ありがとう。本当にありがとう)」


「もうよろしいですわ。……あら?」


 ハピアの視線が窓へと移り、そちらへ近付いていく。

 そして窓を開けると一羽の鳩が部屋へと入ってきた。


「王子の眷属ですわね。手紙を持ってきたようですわ」


 王子、シン様か。

 少し苦い気持ちになるが、彼に特別恨みは無い。

 バロウも言っていた、殺し殺されるのは自然の摂理だと。人との争いで恨むのは良くないと。


 それにしても王子がわざわざ鳩に手紙を送らせて、何の用だと言うのか。


「どうやらシン様は王陛下になられた様ですわね。私に勝てたからでしょうか?随分と急ですわね」


 ハピアがオレの意を汲んで教えてくれる。

 たしかに急だ。だがそんな事をわざわざ教えてくるなど一体……?


「即位したから私との挙式を急ごう、と言う事ですわね」


 ハピアが何でもない事の様に告げる。だがオレの頭には疑問が浮かぶ。


 いや待て。じゃあオレと一緒に戦いになど行ってる場合じゃ無いだろう!

 次期王妃様であるハピアに何かあってはならない筈だ。


「えぇ、ですからお断りさせて頂きますわ。私にはやるべき事がありますもの」


 いや! そーゆー訳にいかないだろ!


「良いのです。それに彼がお目当てなのはイリシウスの宝剣ですもの。私には貴方の方が重要ですわ」


 ハピアの言葉を聞き、オレは再び涙を流しそうになる。

 だがその気持ちを堪えて強く前を向き吠える。


「わんわん!(ありがとうハピア。オレはキャロを救いにダンジョンへ行きたい! 手を貸してくれ!)」


「いえ、先に朝食ですわ。三日も寝ていたのですから体力をつけませんと」


 あっ、はい。


 オレは出鼻を挫かれた事で不安な気持ちになったが、オレを見て笑うハピアの顔を見て、その不安は消し飛んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ