ボロボロの身体
オレは駆け抜ける。
小型犬の見た目とはいえ二年間魔物として過ごしてきた。そのスピードはそこらの獣や魔物なんかよりもずっと速い。
だが既に息は切れ、足もガクガクと震える。
それでも伝えなければ。窮地を。
助けを呼ばなければならない。
バロウの名を呼び、吠える。吠える。吠える。
オレは叫びながら走り続ける。
木々が次々と通り過ぎていく。
使える力は全て使う。風の魔法で追い風を起こし少しでもプラスの力に変える。
オレが扱える様になった中でも得意な魔法。突風を起こすのが精々で攻撃には使えない。
それでも無いよりはマシだ。
大丈夫だ。今のオレなら魔法も使える。
必ず助けを呼べる。間に合う。
全員で一緒に戦えば撃退出来るはずだ。
人間なんかよりも徒党を組んだオレたちの方がずっと強い。
そうやって自分を鼓舞し、走る。
オレその物が風になったかの様に感じる。オレが走る事による突風が木の葉をなびかせ、木々を揺らす。
バロウ。バロウ。バロウ。
何処にいる。誰でも良い。誰か居ないのか。
一瞬、意識が飛ぶ。
鼻先に地面が見える。肺と胸が激しく鼓動し、呼吸は嵐の様に荒々しい。
転んだ……のか……? こんな事をしている場合じゃないのに。
転んだ時に傷付けたのか脚から血が流れているのを感じる。マズイ、傷が深い。走れる……のか?
治癒魔法で傷を塞ぎつつ立ち上がる。
これも風魔法と同じく得意な魔法だ。得意と言っても擦り傷程度なら一瞬で治るがこの傷はそう簡単に塞がらないだろう。
立ち上がったオレは、再び地面へと崩れ落ちる。
前脚の骨が片方折れている。
もう……、無理なのか? オレがここで止まったら、オッちゃんは……。オレを信じて送り出したと言うのに。
急ぎすぎて、転んで、挫折して、お使いも満足に出来やしない。
そんなこと、許される筈もない。
再び立ち上がり歩き出す。
崩れ落ちる。
諦めない。諦めちゃいけないんだ。
オレはもう、後悔したくないんだ。
オレは、立ち上がる。
「ガウ(お嬢さん、そんなにボロボロの身体で何処へ行くんだ?)」
その声を聞き振り返る。声の主は優しい眼差しでオレを見ていた。
「ガウァ(良かったらご一緒しても良いかな)」
泣かねーぞ。嘘だ、オレは今にも泣きそうな顔でソイツを見る。
「ガウ!(このバロウ!森の民を従え、いついかなる時も君の力になろう!)」