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真紅の瞳

 静寂と闇に覆われた街の中。


 オレは女性へと問いかける。オレの言葉が彼女に届くのかは判らない。


 だがそうせずには、いられない。


「わん(キャロなのか……?)」


 女性は答えない。死んだ目でオレを見つめたまま微動だにしない。


「その通りでごさいます! 御名答〜! いやぁ〜素晴らしい!」


 代わりとばかりにマッドハートが叫び小躍りをする。

 だがそれを聞いたオレの心には怒りの感情が広がっていく。


「わんわん!!(何が素晴らしい!? 彼女がキャロだと!? 何がどうなっている! 何故キャロがココにいる!!)」


 オレの叫びを聞いてキャロがビクリと動く。


 意識があるのか? 何故姿が変わっているんだ。


「まあまあ。質問はお一つずつですよぉ〜。感動の再会ではありませんか〜」


 たしかに彼女が元気な姿だったのならば感動の再会にもなったかも知れない。

 だが違う、彼女の目は虚ろにオレを見つめている。本当にキャロなのだろうか。


「彼女は正真正銘、紛れもなくキャロ本人ですよぉ〜。

 私が苦労して、ハートの手から救い出しましたからねぇ〜。貴方なら彼女がキャロだと、判断出来ると思っていたのですが」


 ハートの手から救い出しただと!? このふざけた態度の魔族がだと?

 仮にそれが真実だったとして、彼女の様子がおかしいのは何故だと言うのか。


「それはまだ彼女が、支配下から抜けていないからですねぇ。お可哀想に。肉体まで変えられてしまい、貴方にも認識されないとは。あぁ〜! 何という悲劇でしょう〜!」


 支配だと? キャロはまだハートの、シスターに洗脳されてると言うのか?


 オレは祈りを込めてキャロへと近付いて吠える。


 キャロ、目を覚ましてくれ。オレの事がわかるか? 本当にキャロなんだよな?


 オレは吠え続けるが反応が無い。


 いや、彼女の瞳に光が灯る。


 暗い光。


 彼女の顔に憎しみの表情が現れる。


 キャロ?


 瞬間、赤い光が迸る。


 オレはその気配を感じて後方へと飛び退く。


 キャロ!?


 オレは彼女を見つめる。


 すると先程まで緑だった瞳の片方が、オレの片目と同じく真紅に輝いている事に気付く。

 違う。オレの目と違い、彼女の目はドス黒い血の様な闇の輝きを放っている。


 彼女は左腕に瞳と同じ光を宿している。


 今オレは……、彼女に攻撃を受けたのか?


 キャロの腕に光が集まっていく。それはやがて剣の様な形状を作り始める。


「わん(キャロ……?)」


 言葉が通じない事は既にわかっている。それでも呼び掛けずにはいられない。


 彼女がオレに向かい走ってくる。その目に憎しみを称えながら。剣を構え近付いてくる。


 やめろ。やめてくれ。


 一閃。


 オレは彼女の剣に斬られ跳ね飛ばされる。


 地を滑るオレは立ち上がり再びキャロを見つめる。


「わんわん!(キャロ! 目を覚ませ!)」


 だがオレの叫びが彼女に届く事は無い。


「おやおやぁ? 感動の再会と言うのは私の勘違いだった様ですねぇ〜」


 くそ!! マッドハート! キャロの洗脳を解きやがれ! お前ならそれくらい出来るだろ!


「買い被りでございますよぉ〜。私に出来るのは貴方にお会いさせるところまでですねぇ」


 ふざけんな!! 喋り方もそうだが、お前はハートの仲間、もしくはハート本人だろうが!!


「おやおや、これはまた見当違いな事を仰いますねぇ。せっかく私が親切心で手助けしたと言うのにぃ〜!悲しいですねぇ」


 だったらキャロを元に戻しやがれ!!


 オレは吠える。怒りと驚愕の限り吠え続ける。


「ですから。私に彼女を戻す術はございませんよぉ〜。それよりよろしいのですか? 彼女の攻撃が迫っていますよぉ〜?」


 オレはその声に気付きキャロの方へと向き直る。


 だが彼女の姿が無い。


 そう思った刹那オレの体に走る衝撃。


 突然の事態に頭が混乱している。


 オレは再び地を転がる。


 痛え……。腹を蹴られたのか?


 どうして? 何故キャロがこんな事を。


 頭と心が剥離する。


 考えが纏まらず、咄嗟の防御を取る事も出来ない。


 キャロ、頼む。返事をしてくれ。オレがわからないのか?


 彼女の右腕に光が灯りオレを殴りつける。


 やめてくれ……。どうしてそんな目でオレを見る。


 オレはキャロに懇願する。だがやはり声は届かない。


 彼女がオレを攻撃する手を止めない。


 防御だ……。防御しなければ。


 だがオレが抵抗の意思を示すと彼女はより強く、血色の光を増しながら攻撃を鋭くしていく。


 キャロ、お前を見捨てた事を怒っているのか?


 オレのせいで村が焼かれた事を恨んでいるのか?


 すまない。キャロ……。オレのせいで。オレのせいでお婆ちゃんを死なせてしまった。


 キャロ、許してくれ……。


 彼女の蹴りがオレを吹き飛ばす。


 ダメだ……。こんな調子じゃ防御もまともに出来ない。


 だがどうする? オレは彼女と戦うつもりなのか? 彼女も手に掛けるのか?


 彼女がこちらに近付いてくる。赤い光の、いや闇の剣が輝きを増していく。


 マッドハートを倒せたら元に戻るのだろうか。それとも奴の言う通りハートとは別人なのだろうか。

 仮に本人だったとしてマッドハートを倒す事が出来るのだろうか。


 違う、こんな事を考えている場合では無い。


 だが、どうすれば……。


 キャロの振るう凶刃がオレへと襲い掛かる。


 身体が切り裂かれる。


 飛び退いて致命傷を免れたが、このままではマズイ。


「これはこれは。どうやら私の見込み違いだった様ですねぇ〜。

 せっかく強くなりかけた貴方が落ち込んでいるから、元気を出して欲しかったのですが。とても残念です」


 何を寝ぼけたこと言ってやがる……。


 オレは傷を癒しながらもキャロから離れない。

 逃げる事だって可能だが、オレにそんな事は出来ない。


 もうオレは彼女から逃げない。キャロから離れて後悔なんて嫌だ。


 だが彼女を戻す手段が浮かばない。


 出来るのは語りかける事だけ。


 彼女は攻撃の手を止めない。


 オレは吠え続ける。


 彼女に声は届かない。


 彼女の攻撃がオレを痛めつける。


 これは……、罰なのか?


 一度死んだ身でありながら、幸せを追い求めてしまったオレへの罰。


 彼女といて幸せだったのに、彼女を不幸にしてしまった事への罰。


 やがてオレの魔力が尽き、防御も回復も覚束なくなる。


 だがキャロの闇の力は収まらない。


 キャロが持つオレへの怒りは、オレが彼女に持つ気持ちよりも大きいのだろうか。


 オレの身体を傷付ける斬撃。


 それはオレの体だけでなく、心まで切り刻まれそうな攻撃。


 オレの体から血が流れ、徐々に体温を失っていく。


 ごめんな、キャロ……。


 オレを殺す事でキャロの気が晴れるのなら……。


 ハピア、ごめんな。


 さっきの泣き顔が本当に最後になっちまった。最後に辛い思いさせてごめんな。


 お婆ちゃんごめん。


 キャロの事救えなかったよ。さっきは怒鳴って本当にごめん。


 ダメだ……。オレはココで死ぬ……。


 キャロがオレを睨み刃を振りかぶる。


 最後にもう一度だけ、キャロの笑顔が見たかった。


 オレは目を閉じる。


 キャロとの思い出を夢見て。


 強くなったと思ったが、彼女を救うには到底足りなかったな……。


 さようなら、キャロ。

破の章、ここまでです!読んで頂いた皆さんありがとうございます!次回からラスト、急の章始まります!


アリス♀

種族:犬(魔獣)…デスペレイションビースト→フォーチュンビースト

運命の運び手である魔獣の総称。瞳に二種類の宝石を持つユニークモンスター。

だが見た目は可愛らしいパピヨンである。愛玩犬の小型犬である。


ステータス

 耐久……一般成人男性よりも丈夫

 体力……走れメロス並み

 筋力……大型犬と同じくらい

 敏捷……Bランク暗殺者並み

 精神……豆腐並み

 魔力……Aランク魔術師並み※ハピアよりも強い!!


スキル

・『魔眼ラピスラズリ』予知夢/聖属性強化


・『魔眼ブラッドルビー』生命強化/邪気祓い

 お婆ちゃんの魂が宿っているぞ!


『脚力強化』

 過酷な走り込みによって手に入れた健脚。がんばったね!


『以心伝心』 

 心を通わせた者との意思疎通が可能になる。強度は信頼関係に依存する。


魔法(風/水/大地/木/聖)


・障壁……各属性で作り出す防御魔法。聖属性がお気に入りだ!


・拘束……水や地面を操って敵の動きを抑制する。禍々しい敵には聖属性も使うぞ!

 風は目に見えないからイメージ的に使うのが苦手みたいだ!


・人形創造……主の命令を聞く魔法人形。

 様々な物質で作り出し、魔法で操作が出来る。

 クー(雷鳥)との融合時には雷で作った狼を使役した。

 物質によっては本体よりも頑丈だぞ!


・聖獣化……人形創造の応用。

 自身に聖結界を多重に纏わせ、それを手足の如く操る。カッコイイ!


・治癒魔法……瀕死の重傷でも魔力さえあれば治すことが出来る。凄い!


・焼肉魔法……狼型魔獣をコンガリジューシーに仕上げた魔法。

 一度だけ使えた奇跡であり、初めて使用した魔法。美味しかった!



 ステータスは低めだが知能の高さと使える魔法の多彩さで補う。

 またハピアの使い魔クーとの融合により更なる力を発揮する。

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