復讐
様々な思いが交錯する。
シン王子がオレの森を焼き払った人間?
目の前にいるコイツがバロウ達を殺したのか?
それともバロウ達は生きているのか?
オレが復讐するべき相手?
だが魔物と人間は本来なら相容れない存在。
王子がやったのは人間として間違っている事ではない。
それでもオレにとってコイツは仲間の仇だ。
しかし同時に命の恩人でもある。
だが、だが……!
だが何よりも今許せない事。
ハピア、何故教えてくれなかったんだ。
もっと早くに知っていた筈だ。
思えばココに来る時も不自然だった。
デイター侯爵から情報を得たと思ったらすぐに王都行きを決めた。
そしてオレを置いて学園へと向かった。
何故? 王子に確かめる為だろう。
何故オレに教えなかった?
王子が仲間の仇と知ったオレが、彼に襲い掛かると思ったのか?
オレを、信用してなかったのか?
ハピア、どうして何も言わない。
何故、何も答えない。
『アリスや、ハピアちゃんにも考えがーー」
お婆ちゃんは黙っててよ!!
『アリス、私は不確定な情報で貴方に心配をかけまいとーー」
嘘だ!! そんな取ってつけた様な嘘なんて欲しくない!
お前はオレを信じていないんだ!
オレは以前に復讐として人間を殺している!
そんな魔物の、化け物のオレを信じてないんだ!!
お前は婚約者が殺されるのが嫌で黙ってたんだ!!
『私は……、そんな……』
ハピアの顔を見ると、彼女は今にも泣き出しそうだった。
だがオレの心は静まらない。
彼女の顔から目を背け、気付くと走り出していた。
どうして。 どうして。 どうして。
答えは出ない。いや、自分で出している。
オレは走り続ける。嫌な考えから目を背けるように走り続ける。
聞きたくなかった。
オレが復讐するべき相手が、誰なのか。
そんな物聞きたくは無かった。
復讐なんて馬鹿げている。救う為に戦うだけで良いと思っていた。
なのにその相手を聞いてしまった。
オレは王子に復讐するつもりなんて無い。
だがそれを、本人から聞かされるなんて思いもしなかった。
どうせ聞かされるなら、ハピアから聞きたかった。
オレは、オレは……!
行く当ても無く走り続ける。
周囲に人の気配は無く、既に日も落ちた街並みを走り続ける。
辺りが闇に包まれた頃、オレは足を止めた。
人の気配を感じたから。
ハピアが来てくれたと一瞬頭に浮かぶが、その考えを捨てる。
そんな筈が無い。オレは彼女を傷付けた。
そんなオレの元に彼女が来てくれる筈が無い。
初めて見る彼女の泣き顔が、オレにとって最後の物になってしまった。
気配が近付いてくる。
同時にそれが人の物では無いことに気付く。
そしてそれは二人いる。
「おやおやぁ? 随分と元気がありませんねぇ〜。まるで仲の良い御主人様と喧嘩でもしたような」
この人を小馬鹿にした様な喋り方。思い当たる奴がいる。だが声の主は男だ。
マシな方ではあるが、何故奴がココにいる。何故オレの経緯を知っている。
やがて声の主が近付き、その姿が月明かりに照らされる。目元を隠した仮面の魔族、マッドハート。
後ろにもう一人いる。だがその人物は俯き、フード付きのローブを被っている為に見ることが出来ない。
「何故、と問われれば……、そうですねぇ〜。私は貴方を見ていましたので」
「わん(見ていただと? 何の為に)」
オレが声を発すると後ろに控えるローブがピクリと動いた。
奴らへの警戒を強める。
以前会った時はオレが弱すぎて感じられなかったが、こいつから感知できる魔力は尋常じゃなく高い。
身体から冷や汗が出るのを感じる。
「そんなに怯えなくてもよろしいですよ〜。何の為に監視していたかはお答え出来かねますねぇ。ですが何故また姿を現したかは教えて差し上げても構いませんよ〜」
「わんわん(答えられないだと? 勿体ぶらずに言いやがれ)」
オレが吠えると再びローブの人物が反応する。奴は何者なんだろう。かすかに人の気配がする。
魔族では無いのか?
「私は貴方がダンジョンを抜けて来るのを待っていたというのに……、一向に来る気配がありませんでしたからねぇ。悲しみに打ちひしがれてしまいます〜」
マッドハートが大仰な仕草で悲しみを表現する。だが本当に悲しんでいるとは到底思えない。
「わん(あぁ、すまなかったな。それで今さら何の用だ)」
「ふふふ、せっかちなお方ですねぇ〜。私が苦労してプレゼントをお持ちしたというのに」
「わんわん(プレゼントだと? いいからさっさと答えろ)」
ローブがオレを凝視している。完全にオレを意識している様だ。何故?
薄明かりに照らされてローブの素顔が少しだけ露わになる。
女性だ。どこかで見た様な雰囲気だが、その人物に覚えは無い。
「おやぁ〜? お気付きにならない様ですねぇ〜。ではもう少しよくお見せしましょうかねぇ」
マッドハートはそう言うと同時に後ろに控える女性のフードを勢いよく脱がす。
オレの目に映る女性の顔。表情は抜け落ち瞳からは光が失われている。
だがその髪と瞳には見覚えがある。
ウェーブのかかった麦色の黄色い髪。緑色の瞳。
その特徴がオレの中である少女と結びつく。
だが、少女と女性では年齢が離れすぎている。
だがオレの心がその可能性を追い求めてしまう。
震える声でオレは女性に尋ねた。




