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決闘

 決闘。二人の人間が事前に決められた条件のもと、生命を賭して戦うこと。果たし合い。




 やめて! 婚約者同士で争うなんて間違ってるわ!

 それにハピアが本気を出してアルカンシエルを召喚したら、学園の校舎諸共に王子様が消し飛んじゃう!

 大丈夫。あの圧倒的な強さを持つ王子様なら耐えられる!

 次回、シン王子死す。


『何を意味不明なことを言ってらっしゃるのかしら』


 え? だってハピア、王子様と戦うんだろ? 盛り上げようかと思って。


『別に本気で殺し合ったりなんてしませんわ。久々に会ったから実力を確かめたいのでしょう』


 そう言いつつハピアさん、レイピア素振りしてヤル気満々に見えますけど大丈夫ですか?


「ハピア。この試合では愛銃クラウソラスは封印しよう。未来の花嫁を傷付ける訳にいかないからね」


 おぉ、シン王子ってばハピア相手に余裕だな。そして紳士的だ。

 長剣を片手に構える姿もスタイリッシュだ。


「よろしいのですか? では私もアルカンシエルの使用は控えましょう。これで対等ですわね」


 ハピア、なんて負けず嫌いな奴なんだ。まあその方も見てる分には助かる。衝撃で吹き飛ばされたり流れ弾に当たるなんてゴメンだからな。


 周囲にはオレが目を覚ました時以上にギャラリーがいる。

 学園で人気の王子様と入学したら学園最強を予想される伯爵令嬢の戦い、見逃す手はないぜ!とか言ってるが確かに字面は凄い。

 何故に王子様が女の子本人相手に決闘申し込んでるんだ。


 まあ本人同士が望んでるんだ。好きにやらせておこう。

 もちろんオレは休憩だ。二人の再会の勝負を邪魔する気は無い。疲れてるし。


 やがて騒めきが収まりハピアと王子が向かい合う。


 夕焼けをバックにするとか絵になるな、いかにも決闘って感じだ。

 場所も変えてスペースも十分。

 せっかくギャラリーもいるんだからポップコーンか何か欲しいところだ。


『おやおや、アリスったらテレビ気分かい?』


 え、お婆ちゃん起きてたの? てゆーかなんでテレビなんて言葉知ってるの!?


『いやねぇ、暇だったからアリスの頭の中を覗いてたんだよ。ところでアリスや、どうしてこの女の子達は海にいて泳がない癖に裸みたいなカッコしてるんだい?』


 お婆ちゃあぁぁん!!


 ちょっと人の記憶勝手に覗かないでよ!


『おや、すまんかったねぇ。私は他にやる事が無くて、つい。記憶の整理しといたから許しておくれよ』


 記憶の整理? あ、確かに昔の事とか覚えてた事がスッと思い出せる!

 じゃなくてえええええ!! もーホント勝手な事しないで!


『まぁまぁ。ホラ始まるみたいだよ、見逃しちゃダメなんだろ?』


 まったく……。だがお婆ちゃんの言う通りだ。


 辺りは静寂に包まれ、言葉を発する者は誰もいない。


 一陣の風が吹き、ハピアの美しい黒髪が揺れる。


 決闘が始まろうとしている。


「行きますわよ!」


 ハピアが突攻を仕掛ける。その速さの余り瞬風が巻き起こる。


 瞬間、二人の剣が火花を散らす。


「君が宝剣を使ってくれなくて残念だよ」


「貴方は宝物が見たいだけでしょう?」


 出た! 戦いの最中に軽口を交わす奴! オレはそんな事出来ないがコレが強者の余裕という奴か。


 王子が怒涛の攻めでハピアへと斬りかかる。


 だがハピアは一歩引いた態勢でその攻撃を受け流していく。


 あの構えはーー。


「出た! イリシウス剣術、蒼天の剣技! ゲイルテンペスト!」


「あれが噂の!? 空の様に広い心で敵を観察し、冷静に斬りつけるという……!」


「そう、その技はどれほど素早く動こうとも逃れる事は出来ない。鳥が空から離れる事が出来ない様に」


 え、うん。そうです。何だコイツら……?

 どっから沸いて出たバトルオタクだよ。いや、決闘わざわざ見に来るくらいだしココにいるのは全員バトルオタクか。


 ハピアの剣筋が王子を捉え彼の右目へと迫る。


 だが王子は魔術で易々と剣撃を受け止める。


 オレと同じ光の障壁を使えるのか。親近感湧くな。


 攻撃を弾かれたハピアだが、彼女は怯まない。そして先ほどとは打って変わって攻勢に移る。


 あの動きはーー。


「剣に炎を纏わせるあの動きは!?」


「あぁ! あれこそが灼熱の剣技! カーディナルレッド!」


「一気呵成、怒涛の攻めで敵を焼き尽くすと言われる噂の……!こちらまで熱気が伝わってくる……」


 あ、うん。そうだね。君たちの盛り上がりが暑すぎてコッチまで熱気が伝わってくるよ。

 もう良い、オレは大人しくボーッと見ていよう。


 しかし王子の奴余裕の表情だ。ハピアの攻撃を紙一重で躱し、剣でいなす。


 さっきのハピアとは立場が逆転している。


『ハピアちゃん動きが鈍くないかぇ?』


 え、突然何を……? また毒が盛られてるとか? いやー、王子様はそんな事しないでしょう。ましてやオレが見たシン王子の強さは圧倒的だ。ハピアでも勝てるか怪しい。


 王子の剣が水と冷気を帯びハピアの炎剣を受け止める。


「強くなられましたわね」


「君に勝利する事がイリシウス家の婚約条件であり宝剣の継承条件だからね。努力したのさ」


「あら、やはり宝物が目的ですの?」


 途端、王子の立つ地面が隆起する。


 大地の魔法陣。ハピアの奴、足場を崩してそのまま決めるつもりか。


 だが王子は揺らぐ事無く素早く飛び退く。


 大地は人ほどの高さの杭になり、ハピアがそれを剣で刻む。


 土塊が投石となって王子を襲う。


 あんな物は王子には効かないだろう。


 そう思った瞬間、ハピアが王子の背後へと回り込み剣を振りかぶる。


 いつの間に……!? 投石を囮にして身を隠したのか!?


 だがこれでハピアの勝ちだ。

 しかし婚約条件がハピアに勝つ事って厳しいな。相手は王子様だしワザと負けても良かったんじゃなかろうか。


 甲高い音が響く。少し後に軽い音が鳴る。


 それは弾き飛ばされた剣の音。


 攻撃を仕掛けた筈のハピアの剣が地面を転がる。


 周囲が湧き上がる。オレは予想外の結果にそれを呆然と見ている。


 これはオレが見た、いや見ることが出来なかった瞬速の剣だ。


『今ハピアちゃんの動きが止まった気がするんじゃがのぅ』


 それくらいシン王子の剣が素早かったという事だろう。

 それにしてもオレはともかく、お婆ちゃんやギャラリーは今の戦いが見えていたんだろうか?

 それともやはりこの世界の貴族は化け物揃いと言うことか。


 王子様が飛ばした剣を拾って笑顔でハピアに投げかける。


「随分とお変わりになられましたのね。昔は粗暴だった貴方が今ではすっかり紳士ですわ」


 おいハピア。王子様に対して仏頂面で何て事を。


「王になる自覚をしたのさ。これで君は正式に次期王妃となった。もちろん君が知りたがっていた事も話すよ」


「お待ちください、ここでそのお話はーー」


 ん? 知りたがってた事って何だ? どうしたハピア、そんなに慌てて。まさか愛の告白か? 貴方が私を愛してるか知りたい! そんな感じか!?


 王子が笑顔でハピアへと語りかける。


「君がご執心の、森へ侵攻した兵隊。それを率いていたのは私だよ」


 え…………?


 オレの心が騒めき、思考に無が広がっていった。

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