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新たなる力

 雷鳴が轟く。


 落雷の周辺は衝撃で焼け焦げる。


 周囲に煙が立ち込め、やがて少しずつ煙は晴れていく。


 オレはその中心に立っていた。


 全身に稲妻が迸る。


「わふっ(けほっ)」


 煙に咳き込んでしまう。


 デイターの顔に驚愕と焦りが浮かぶ。


「ば、ばかな……。私の計算に狂いは無いはず……!?なのに何故まだ立っている!跡形もなく消し飛ぶ筈だ!!」


 デイターが怒りに剣を振り回し空を切る。


 計算って何だ。取ったばっかのデータをどんだけアテにしてんだよ。頭良さそうでコイツさては馬鹿だな。


『恐らく何らかのスキルを持っている。そう考えるべきですわね』


 マジか。確率を計算できるスキルなんてあるのか?便利そうだな。

 統計予測ー約束された未来ーとかそんな感じか?バカみたいだな……。


『アンタ口数が少なくて変わってると思ったけど頭ん中でこんなゴチャゴチャ考えてた訳!?バカじゃないの?』


 うお!?頭の中に声が響く!?クーか?マジで合体しちゃったのかオレたち……。


『おやおや、格好良いねぇ。鳥さんの羽が生えているよ』


『え!?この人誰!?なんか透けてる!オバケ?怖い!アンタの見えてる物怖い!』


 オバケじゃない!オレのお婆ちゃんだ。


『オバケじゃん!何でこんなのに憑かれてんの!?もうやだ!合体解きたい!!』


 おい待て!せっかく体力も魔力も回復したんだぞ!!オレだって我慢して合体したんだ!それに戻れるかわかんないだろ!


 しかし、カッコ良いのか?自分の姿が見えない上に特別何か見た目が変わった様には思えない。


『それならアリスや。アッチに鏡があるから見てごらん』


 お婆ちゃんが指し示す方向には確かに鏡があった。そしてそこに映る物を確認する。


 鏡に映るオレの姿。


 あまり変化は無かった。背中に小ちゃい雀の羽が生えたくらいだ。耳も羽っぽくなってるか?

 あと何か電気が体中でバチバチしてる。


 だっさ。『だっさ』


 ダサかった。お婆ちゃんのセンスを疑う程度にダサかった。


 殺気。剣撃が空を切る。


 オレは一足先に跳躍し、それを躱す。


 まだ戦ってる最中だったな。


 デイターの顔を見据える。


 奴の目は血走りうわ言のように怒りを呟いている。


「私の、私の計算に間違いがある筈はない……!」


 もはや気品や優雅さは感じられない。

 まあ、最初から卑怯者のコイツに優雅さも気品もあったもんじゃ無いだろうが。


 しかしオレの身体。


 力が漲る。軽い跳躍でも恐ろしいほどのスピードで移動できる。


 負ける気がしないな。


 デイターが魔法陣を展開する。


 数は、三つか。大丈夫だ、躱せる。


『ほっほ、アリスたちに負けてられないねぇ』


 お婆ちゃん!負けてられないってどうする気だ?


『私は昔魔術師でねぇ。魔法陣ならお手のもんさね。あの形の魔法陣は……、炎を飛ばして来るから壁でも作れば簡単に防げるよ』


 そうか!サンキューお婆ちゃん!


 オレは即座に床へと魔力を流し壁を生成する。大理石の障壁なら炎を通すことも無いだろう。


 来やがれ!デイター!


 瞬間、オレの頭上に滝が現れる。


 は……?


 オレの体は水流に飲まれ流される。


 ちょ!溺れる!くそ!どうなってやがる!?


 お婆ちゃん!炎じゃないのか!?


『おや、おかしいねぇ。アリスや、次も上から水が来るよ』


 うお!もう次か?クソ!次はこうはいかねえ!


 オレは頭上に光の障壁を展開する。


 そして襲い掛かる風の刃。


 うおおおおおっ!!危ねええぇぇ!?


 オレはかろうじて瞬足を活かし紙一重で躱していく。


『アンタさっきから何やってんのよ!』


 ちょっとお婆ちゃん!話が違うじゃんか!


『最近歳のせいかのぅ、魔法陣の文字が細かくてねぇ……』


 お婆ちゃあぁぁぁん!!!!


『何をやっているんですの……』


 もー!!お婆ちゃんちょっと黙っててよ!!


『そうかい?すまないねぇ』


 オレたちの不甲斐なさにハピアも呆れてしまっている。

 オレは集中し、クーと心を一つにする。


 うしっ!行くぞクー!


『アタシは最初から集中してるってば』


 一閃。


 雷光の閃きがデイターを貫き稲妻を走らせる。


 奴が苦痛の声を漏らしつつも腕に炎を纏わせ襲い掛かる。


 遅い。


 オレは再び奴へと雷を纏い突進を繰り返していく。


 二度。三度。四度。五度。


 やがて奴は立つ力を失い膝をつく。


 しかし奴は立ち上がる。


「クソオォォォ!!私がこんな獣風情に負ける筈が無い!!私の必殺の魔術で蹴りをつけてやる!!」


 必殺の魔術だと?良いぜ。お前の全力見せてみろよ卑怯者。


 奴の魔力が高まり大型の魔法陣を描いていく。


 何が来ようと無駄だ。


オレは宙を翔け上がり魔力を高め雷を周囲に展開させ漂わせる。


 やがてデイターの魔法陣は完成し魔術が形となる。


 炎で作られた……龍か?


 不細工だな?そんな程度でオレの芸術に勝てるつもりか?


 オレは想像する。


 疾き獣を。立ち塞がる敵をその身をもって焼き焦がす友の姿を。


 頼んだぜバロウ。お前に新しい命を吹き込んでやる。


 オレは咆哮し、創造する。


「ば、馬鹿な……!?奴の勝率が上がっていく……!加えて私の勝率が下がっていくだと!?何故だ!」


 もう良いって。いつまで確率に頼ってんだ?男なら確率が低くても諦めてんじゃねーよ。


 オレが放出する雷が獣の姿を形取っていく。


 一体だけでは無い。十数匹の巨大な剣狼。


 それら全てが雷の体を持って顕現する。


 剣狼が龍に襲い掛かる。


 龍が数匹の狼を喰らう。


 だが残された狼が龍の全身へと喰らい付く。


 龍がもがき、狼が吠える。


 それは見るもの全てを魅了させる炎と雷の舞踏。


 だがその幻想の時はすぐに終わりを告げる。


 狼が龍を喰らい尽くさんとする。


 そして龍の体内を食い破り雷狼が姿を現わす。


「わんわん(これで終わりだ。デイター侯爵)」


「馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!くそ!私は侯爵だぞ!?その私を上回る貴様らは一体何だ!?」


「わおん(クーリスだ)」


 だっさ……。『だっさ……』


 オレは狼達に命令する。


 デイターを喰らえと。


 その指示を受け奴に飛び掛かる狼達。


 デイターを襲う電流の嵐。


 喰らい付く雷狼の牙が奴の体を駆け巡っていく。


 雷狼の剣が奴を貫く。


 やがて魔力が尽き雷を保てなくなった狼が消滅していく。


 流石に不定形な物だと消耗が激しいか。


 …………。


 雷剣狼(ライトニング)最期の狂宴(クライマックス)


『だっさ』


 やかましい。


 しかし疲れたな。最後に大技出しすぎて魔力も限界だ。


 オレはその場で倒れこみ、その身体が光に包まれる。光はすぐに収まり目の前の景色が見えるようになる。


 倒れるオレの目の前には同じく地面に横たわるクーがいた。


 分離か……。魔力使い果たしたら合体解除出来るんだな……。

 良かった……。本当に良かった。

 こんなうるさい奴とずっと一緒では叶わん。


「ちゅんちゅん!(聞こえてるわよ!)」


 何?合体の影響か?コイツにまでオレの心の声がダダ漏れになってしまったのか……。


「その様ですわね」


 ハピアがオレに駆け寄り抱き抱える。


 ハピアか……。


 ハピアか!?なんで立って動けてんの!?痺れ薬は!?


「あぁ、それなら少し前に解けましたわ。侯爵もそれほど強い物を使うつもりは無かった様ですわね」


 そうか……、無事で良かった。てゆーか本当にこの世界の人間って丈夫だな!


「ぐぅぅ……!この私が敗れるとは……!」


 焦げて倒れたままのデイターが呻く。 ……マジでこの世界の人間丈夫だな。


「私の負けだ。薬を盛った事も認めよう。だが、こうするしかなかったんだ……」


 語り出しやがった……。よく見ると涙を流している。


「私は侯爵の身分でありながらそれほど戦いは得意では無かった」


 嘘付けメッチャ戦ってたろ。


「私は経理や実務能力を買われて侯爵の地位までのし上がった」


 やっぱそっち系だったのか。


『静かにお聞きなさい!』


 はい……。


「だがそれを良しとしない者も多かった。そんな時、パーティの招待客の中にハピア嬢。貴女の名前を見つけた。

イリシウス伯爵に出した招待状だがまさかご息女が単独で来るとは思わなかった」


 あぁ、確かに他の貴族たちは仲間内だったり家族で来てたりしてるな。ハピア友達いないのか?


『お黙りなさい!』


 はい……。オレは尻尾を丸める。


「チャンスだと思った。ご息女とはいえイリシウスの家の者を倒せば……。私は周囲から認められると思った。だがそれでも戦っているハピア嬢を見て思った。勝てないと……」


「それで卑怯な手段に走ってしまった、という訳ですのね」


 デイターが近寄るハピアの手を握る。


 おい!何やってんだ!お前みたいなオッさんが気安くハピアの手に触れるんじゃない!


「そうだ。私は怖かった。ハピア嬢に完膚無きまでにやられる自分の姿を想像し、恐ろしかったんだ。だから、だから……仕方なかったんだ……!」


 マジか。仕方なかったのか。戦わないで誤魔化す方法は無かったんだろうか。


『仕方ありませんわ。その場で最も強い者と主賓が戦うのが作法ですもの』


 そんな作法あったのか……。けど薬盛っといて仕方ないは無いだろう。こいつハピアのこと普通に殺すつもりだったぞ。


「良いんですのよデイター侯爵。貴方は確かに間違いを犯した。ですがそれを省みる心を持っているならば大丈夫です。私は貴方を恨んだりしませんわ」


 天使かよ。優しすぎるぞ。絶対後悔する。反省したからオッケーなんて言ってたらいつか後悔するぞ。 


 …………けど今オレが前を向いていられるのもハピアが許してくれたおかげか。


 仕方ない……。


 本当は嫌だが仕方ない。今回はハピアの優しさに免じてデイターを許してやろう。


「ありがとう。ハピア嬢。仔犬くんも、痛め付けてしまいすまなかったな」


「がぅぅ!(アリスだ!)」


 デイターが怯える。そんなにビビらなくても良いじゃないか。ちょっと脅かしただけだぞ。


「アリスと呼んで欲しいみたいですわ。この子も貴方を許してくれています。ですからデイター侯爵。前を向きましょう」


「私を……、こんな卑怯者の私を許してくれるのか……」


 やがて会場が拍手に包まれ、感極まって涙を流す者もいる。

 デイターのハピアを握る手がより一層強くなる。


 そしてその腕にオレは噛み付く。


 いい加減にその手を離しやがれ!いつまで握っている気だ!気持ち悪いんだよロリコン!!


 デイターが腕を押さえ呻く。だがすぐにデイターが体を起こしハピアに向き直る。


 この野郎!まだ懲りないか!


「ハピア嬢。私は敗れた。約束通り君が知りたがっている情報を渡そう」


 ん?思っていた事と違うこと言いやがった。何の情報だ?ハピアの奴いつの間にそんな約束を?


『戦っている最中ですわ。貴方がバロウさん達と暮らしていた森を襲った犯人の情報。デイター侯爵なら詳しく記録していると思いましたのよ』


 何!?それが本当にわかるなら気になる!てゆーかわざわざコイツに聞くって事は元々当たりがついてたのか。


『えぇ。まあ、それは後ほど』


「後日書類にまとめて使用人たちに送らせよう。それと、クーも君に譲らせてもらうが問題無いね?」


「ちゅん!ちゅん!(もちろんよ!私は既にアリスと一つになった仲だもの!)」


 何か誤解を生みそうな発言だな……。まあ良いだろう。これからよろしくな!


「えぇ。クーさんもアリスととっても仲良くなったみたいですもの。本当に仲がよろしいこと……!」


 何故だ。何故オレを睨むハピア。


『強くなったみたいですし帰ったら修業にしましょう』


 おい待てハピア!約束が違うぞ!今日も明日も修業は無しだった筈だ!


『何の事やら?大丈夫でしょう、貴方にはクーさんが付いてますから』


 トボけるんじゃない! それにオレの修業にクーは何の手助けにもならないだろ! なぁオレもう瀕死なんだよ? 帰って可愛いメイドさん達にブラッシングして貰って暖かいハウスで寝たいんだよ。


『そうそう。クーさんが付いてる分いつもより修業をキツくしてもらう事にしましょう』


 ハピアさぁぁぁん!!


『ほっほ、若いってのは良いのぅ』


 オレはその場でガックリと項垂れるのだった。


 頑張ったのに……、死ぬほど頑張ったのに……。

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