雷鳥の力
職業能力。
それは多種多様である。
そしてそれは時に常軌を逸する異能となる。
オレは息絶え絶えながら目の前で羽ばたく鳥に尋ねる。
助けてくれたのか?籠はどうした。
「ちゅん!(あんなのアタシが本気出せばいつだって出られるわ!)」
そうか。ありがとうな。けど良かったのか?アイツは一応主人なんだろ?
「ちゅんちゅん!(私の主人はもうMVPになったお嬢様よ!アンタお気に入りのね!)」
そうか。ハピア喜べ、仲間が増えたぞ。
「ちゅん(アンタがあんなに褒めるんだもの。私だって卑怯者の主人から解放されて感謝したいくらいだわ)」
おぉ、ハピアは良い奴だぞ。お前の事も気にいるさ。
『えぇ、貴方を救ってくれたんですもの。クーさん、でしたかしら?よろしくお願いしますわ』
ハピアからも認められたみたいだ。これからよろしくな。
「ちゅん!(そんなの良いから前を向きなさいよ!アイツすっごい切れてるわよ)」
オレはクーの向こう側に立つ男へと目を向ける。
トドメという場面で剣を弾かれたデイター侯爵。その表情には苛立ちと怒りが浮かんでいる。
「獣共が……!下等な存在でありながら主人である私に牙を向けるとは!許しません!」
デイターが怒りに任せ突進してくる。
やべえ。オレはまだ回復が終わってねえ!
「ちゅん!(大丈夫よ!)」
クーがオレを掴み羽ばたく。
うお!持ち上げるつもりか!?無理だろ!体積的に無理だろ!
「ちゅんちゅん!(大丈夫よ!アンタ小ちゃくて軽いもの)」
剣筋がオレを掠める。
いや!危ない!メッチャ危ないから!こんなギリギリで避けないで!!
「ちゅちゅん!(うるさいわね!文句言うんだったらアンタも魔法で反撃しなさいよ!)」
そうは言っても魔力はギリギリだ。せめて回復が終わるまでは待ってくれ!
うお!今度は火の玉が来やがった!!危ねぇ!
『アリス!私のテイマースキルを使いましょう!』
ハピア!テイマースキルって何だ!?合体攻撃か何かか?お前動けないだろ!
『最後まで聞くのです。良いですか?』
わかったから!何か手があるなら早く言ってくれ!!このままじゃいずれ当たっちまう!
そう言うとハピアが一拍間を置いて答える。
『アリス。私がテイマースキルを使いますのでクーさんと合体してください』
……はい?
何だ?今オレは聞き間違えたのか?
合体?何だそれは?
『アリス。クーさんと合体するのですわ』
あ、聞き間違えじゃなかった。合体って言ってる。
……いや、何ですかそれは?ロボットか?ロボットなのか?
それとも何だ?キメラかホムンクルスなのか?
だいたいこんな雀と小型犬が合体して何になると言うのだろう。
『融合ですわ。クーさんは雷鳥。雷を操る鳥の魔物。その稲妻の如き速さで空を翔ける雷の化身と言われてるんですの』
うそぉ!?この雀そんなに凄いの?たしかにデイターの攻撃をギリギリではあるが避けている。
『それに融合の際に私とクーさんの魔力も貴方に掛け合わさるので回復出来る筈ですわ!』
マジか……。悩んでる暇は無いか。他に手が無いまま逃げ続けるよりはマシだ!
合体しても戻れるんだろうな?
『さあ……、それはどうでしょう』
おいぃぃ!!ハピアさん!?
「ちゅちゅん!(アンタと合体なんて気持ち悪いけどやるわよ!)」
おい今、雀!何て言った!?かわいいパピヨンに向かって気持ち悪いと申したか!!
「追いかけっこはお終いです!獣共!仲良くあの世へ行き、地獄へ落ちる確率百パーセントです!」
うお!デイターの野郎!剣の先端から雷飛ばして来やがった!これじゃ剣を避けた意味がねぇ!!
雷鳥は平気なのかも知れないがオレはアウトだ!
てゆーかクー相手になんで雷撃ってんだ!バカなのか!?けど殺す確率百パーだから良いのか!?
走馬灯効果なのか、思考が加速する。どうでも良いことばかりが頭をよぎる。
「フュージョン!!」
待てええぇぇぇ!!
何ハピアの奴そこだけ元気良く叫んでんだ!オレの話を聞けええぇぇぇ!!
オレとクーを眩い光が包み込み、オレの魂の叫びが轟いた。