獣の決意
デイターの刃が貫く。
獣が苦痛にもがき、その動きを停止させ脱力する。
オレはその様を見て駆ける。
オレの身代わりとなったのは大理石で作ったバロウの分身。
だがその身はデイターの攻撃によって砕かれてしまった。
「おやおや、主人の為に命を張る石人形とは。素晴らしい魔法ですねぇ。ですがコレも私のデータに加えさせて頂きました。二度は通用しませんよ」
デイターが悠然と言い放ちオレへと襲いかかる。
オレはその剣撃を避けつつ逃げる。
ただ逃げている訳では無い。
逃げながらも大理石に、大気に魔力を流し獣の分身を作り続ける。
そしてその新たに創造した仲間もデイターの魔術によって次々と倒されていく。
くそ!デイターの奴、あんなに魔術使えんのかよ!いつぞやの魔術集団よりもよっぽど使いこなしてやがる!
オレの身体を衝撃が襲う。
オレの体は再び地面を転がる。
あのやろう……!可愛い愛犬ボディを容赦なく蹴り飛ばしてきやがる。
その上結界をぶち抜く程の攻撃。
防御した筈の体に痛みが走る。
つえぇ……。
「ちゅんちゅん!(アリス!諦めなよ!今ならまだ侯爵に尻尾振って許してもらえるって!お嬢ちゃんの為に命まで張る事無いよ!)」
馬鹿言え!そんな事死んでも出来るか!
『アリス!もう充分です!私が負けを認めます!それで終わりにしましょう!』
ふざけんな!全快のハピアならこんな卑怯者に負けねぇ!!オレは諦めねえぞ!!
オレはデイターを睨みつける。
「おや?まだ続けるつもりですか?やれやれ、賢いと思ったのは私の勘違いの様ですね」
デイターがそう告げるとオレの周囲を囲む様に魔法陣が展開される。
何だ!?まずい!防御を……!
瞬間、オレの体を炎が包み込む。
熱い。 燃える。 焼ける。
防御は間に合った。だがそれでも炎はジリジリと熱さを伝えてくる。
やがて炎が消えオレの視界が開く。
オレはデイターを睨む。
だが奴は意に介さず再び魔法陣を展開する。
何だ!?何が来る?防御をーー。
クソ!魔力が足りねえ!
オレは魔力を振り絞り最小限の範囲で結界を纏う。
だが魔術により生み出された稲妻は容赦なくオレの体を貫く。
防御を超えオレの体へと走る激痛がオレを地面へと倒れさせる。
「ちゅん!ちゅん!(どうして!なんでそんなボロボロになるまで諦めないのよ!良いじゃない!人間の誇りなんかよりアンタの命の方が大事でしょ!)」
あぁ。そうだ。死んじまったら元も子もねぇ。
オレにはキャロを救うって大事な使命があるんだ。
別にココで諦めたってハピアが死ぬわけじゃねえ。
けど……。
諦められる訳ねえだろ!!
死にかけだったオレを救ってくれたハピア。
オレが絶望した時、常に側で見守り、助けてくれたハピア!
その彼女が懸ける剣への、伯爵の誇りは本物だ!
ならそれを護るのが、忠実に従うのが!愛犬だろうがああぁぁ!!
オレは吠える。決意の咆哮。
だがそんな叫びも虚しくデイターの蹴りがオレを跳ね飛ばしていく。
痛み。衝撃。デイターの蹴りは一度で止まらずに何度もオレの身体を打ち上げる。
「ふぅ。なかなか楽しませてもらいましたが。そろそろ終わりにしましょう」
デイターが剣を構える。
瀕死のオレはそれを眺める事しか出来ない。
クソ。回復が追いつかねえ。体が動かねえ。
こんな奴に負けるのか?認めねえ。
どうする……!どうすれば……!
振り下ろされる刃。
稲妻の迸り。
横切る光の一閃。
静寂。
そして静寂を破る声。
「ちゅん!ちゅん!(見てられないわ!アンタみたいなバカ!ありえないわよ!)」
オレの目に映るもの。
翼を広げ羽ばたく雀が、オレを見て鳴いていた。




