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伯爵令嬢の飼い犬

 一閃。


 銀の刃が宙に舞う。


 驚愕に歪む顔。


 それを正面から見つめるオレ。


 オレはハピアに剣が振り下ろされる瞬間、彼女の前へと駆け光の障壁を展開した。

 その結果予想外の防御にデイター侯爵の剣は跳ね飛ばされた。


「ちゅんちゅん!(やるじゃんアンタ!)」


『おやおやアリス。格好良いねぇ』


 クソ……。四の五の言ってられねぇ。ハピアがやられそうなのを黙って見てられるか。


「アリス……。貴方が守ってくれると信じていましたわ……」


 ハピアがオレを撫でる為にしゃがみ、そのまま崩れ落ちる。


 ハピア、無理すんな!後はオレに任せてお前は休んでろ。


「おやおやぁ?こちらのワンちゃんは一体どこの迷い犬でしょうか?」


 デイターが剣を拾いつつオレを見据える。


「私……、ハピア・イリシウスの、使い魔ですわ」


 ハピアが息も絶え絶えに告げる。

 痺れ薬で喋るのも辛いのか?

 怪我と違って治癒魔法も効かないみたいだ。とっとと医者に見せないとな。


 ハピア。こっから先はオレがやるけど良いよな?


「デイター侯爵。失礼ですが私体調が優れませんのでコチラの使い魔、アリスに貴方のお相手を任せますわ」


 ハピア。随分と素直だな。てっきり一人でやるとか言い出すと思ったが。


『えぇ、使い魔である貴方と私は一心同体。貴方の力は私の力。貴方の勝利は私の勝利ですから』


 一心同体か。どんなガキ大将かと思ったが……、良いじゃないか!!やってやる!!


「ほほほ!この仔犬が!私の相手ですか?見くびられたものですね。この様な仔犬が私に勝てる確率など零パーセントです!」


「わんわん!(お前みたいな卑怯者に毎日辛い特訓してるオレが負けるワケねーだろ!!)」


「うるさい仔犬くんですねぇ。伯爵家のペットだと言うのに躾もなっていない様だ。どれ、私が躾けて差し上げましょう」


 デイターとオレの視線が交差する。


 場は再び静寂に閉ざされている。


 デイターが剣を構える。


 オレは魔力を体に漲らせる。


「ほう、素晴らしい魔力の迸り。ただの仔犬くんでは無いようですねぇ」


 言ってろ!


 先手必勝だ。オレは大理石の床へと魔力を流す。


 来い!バロウ!卑怯者に誇り高き牙を突き立てろ!


 オレは咆哮しデイターの背後から剣を纏った狼を召喚する。その身体は大理石製だ。剣なんかじゃ太刀打ち出来まい。


 だがデイターは華麗に跳躍し、その牙を避ける。


「おやおや、可愛い見た目とは裏腹に卑怯なワンちゃんだ。背後からの不意打ちとは」


 くそ!避けられた。


 だが狼の牙は、刃は一度避けられた程度で攻撃を中断する事は無い。


 何度避けられようと敵を追い続ける。


 そしてオレはその間にも魔力を高め数え切れないほどに風の刃を放つ。


 幾重もの剣閃が飛ぶ。


 風を切り進む不可視の刃がデイターの剣に弾かれる。


 そして奴の刃がオレに向けられる。


 鋭く、そして速い。


 だが避けられない速さじゃない。


 オレは素早く前進し奴の剣から身を躱す。


 そして奴の背後から再び風の刃を放ち、同時にバロウが襲い掛かる。


 勝った。オレの心に喜びが広がる。


 しかしデイターは素早く風刃を弾きバロウの牙を受け止める。


「なるほど。素晴らしい魔力だけでなく恐ろしい程の速さをお持ちのようだ。その上とても賢い」


 デイターが余裕の表情で語る。


 だがそんな事をのんびりと聞いているオレではない。


 オレはデイターの頭上から精一杯の水を降らせる。


 あたかも突然滝が出現したかの様な水の奔流。

 それは奴の体を押し潰す。そしてそれだけでは終わらない。

 水はそのままデイターの体を包み拘束する。


 デイターが身動き一つ取れず苦悶の表情を浮かべる。


 進化した事で上昇した魔力は、水を硬化させデイターの動きを完璧に封じる。


「ちゅんちゅん!(アリス凄い!やるじゃん!)」


 オレは勝利を確信しハピアへと振り返る。


『アリス!まだ終わっていませんわ!』


 いや、奴はもう動けないさ。


 そう告げようとした刹那。殺気。


 オレは急ぎ結界を纏う。


 瞬間、オレの横っ腹へと衝撃が襲いかかる。


 オレの体は跳ね飛ばされ床を転がり、立ち上がる。


 防御が間に合ったから無傷だが予想外の衝撃にオレは混乱する。


 くそ!なんだ!?何が起きやがった。


 オレが周囲を見回すとコチラへ悠々と近付いてくるデイターが見える。


「仔犬くん。人の話は最後まで聞くものですよ?」


 何故!?何故あいつが水の外に出ている!


 オレが水の檻に目をやると其処には水だけが宙に浮かんでいる。


「おやおや、不思議そうですねぇ。そんなに幻惑の魔術が珍しかったですか?」


 幻惑だと!?いつだ。いつそんな物を使いやがった!


『アリスが水魔法を使う前だねぇ。あの時アンタ油断したじゃろ?』


 お婆ちゃん!?そうか……。あの時に勝利を確信して心の隙が生まれたって訳か。


 くそ!もう引っ掛からねえ!サンキューお婆ちゃん。


「ふふふ。アリス君と言ったかな?君は私の想像以上に優秀な魔物の様だ。どうだい?私の物になる気はないかね?ハピア伯爵令嬢よりも侯爵である私に飼われるつもりは」


「わんわんわん!(ある訳ねーだろ!この卑怯者!!どんだけ好待遇でもお前に飼われるのなんて願い下げだ!!)」


『まあアリスったら。そんなに私の事が好きだなんて照れますわ』


 ちげーよ!違わないけど今はそうじゃねーよ!


 オレはハピアへ目線をやり、再びデイターを見つめ吠える。


「どうやら良い返事は聞けない様だ。残念だよ、君とはココでお別れだ。既にデータは揃った。

 君の速さでは私の全力を躱す事は出来ず、君の纏う防御魔法で私の次の攻撃を防ぐ事は出来ない。

 君が私に勝てる確率は……。やはり零パーセントだ!!」


 そう言い放ち雷を纏ったデイターの剣が閃いた。

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