就職
ファンタジー世界における職業。
戦士、魔法使い、盗賊、僧侶。
代表的なそれらの他にも職業は千差万別。数多く存在する。
そんな職業はこの世界にも存在する。
しかし、この世界の職業はどこかおかしい。
魔物や魔族と違って普通の人間は進化などしない。
だが職業を変えた途端まるで進化の如く、その強さや能力が変わる。
そしてこの世界で最も強いとされる職業。
勇者。
ではその次に強い職業は何か?
様々な職業が頭に浮かぶ。魔剣士、聖騎士、竜騎兵などなど。
この世界で勇者の次に強い職。
王である。
オレとハピアはお婆ちゃんと共に街を行く。
もっともお婆ちゃんはオレから離れられない訳だが。
オレたちが今向かっているのはハピアが転職する為の冒険者ギルドだ。
オレが進化して強くなったからハピアもそれに合わせられる様パワーアップしたいらしい。
正直そんな必要無いように思えるが、本人がやりたいと言うならやってもらおう。
味方であるハピアが強くなる事に何の異論も無い。
それにしても転職か……。あまり転職ばかりだと信用を失うと前世では言われてたと思うがこの世界ではどうなんだろう。
そしてハピアの職業って何なんだろう。あれだけの強さだ。さぞや凄い職業なんだろうな。
『私ですか?伯爵令嬢ですわ。ご存知でしょう?』
え……。それ職業なのか?違うだろ?うん。伯爵令嬢は職業じゃないと思います。地位です。
『その通りですわ。私は自らの地位の強さに甘んじて就職をして来ませんでした』
地位の強さって……。
もしかして地位が高いほど強いってことは、伯爵令嬢ってだけでそこらの一般人より強いのか。メチャメチャずるいな。公式でチートじゃないか。
『ですがアリス。私は貴方の力となる為にも、より強くなる必要があるのです』
その為の転職、いや就職ってわけか。
伯爵令嬢且つ何かって感じだから副業とでも言うんだろうか。
『ほほ、私も昔は凄腕の冒険者として鳴らしたもんだよ。おや、あれじゃないかぇ?』
お婆ちゃんが指し示す方向を見る。
見るがオレにはどれがどれだか解らない。オレはこの世界の文字が読めないのだ。
『修行のメニューにお勉強も加えましょうか?』
お!アレが冒険者ギルドだな!
いやー楽しみだなぁー!ハピアは一体何の職業になるのかなぁー!気になるなぁー!
オレはそれらしき建物に全力ダッシュした。決して修行を増やされたい訳ではない。
『アリスや、あんまり走ると危ないよ』
『アリス……。中では大人しくしてくださいね』
オレは肉球のついた手足を巧みに使って扉を開き中を覗く。
中は広くて綺麗だった。どうやら酒場と一体型の様で昼時なのもあり人で賑わっている。
儲かってそうだな。
そしていかにも冒険者ですといった格好の人が沢山いる。
竜の鱗で作った様な鎧や服、カラフルなローブや様々な武器を持った人たち。
今まで見たことが無いわけじゃ無いけどこんなに沢山いると壮観だ。
それに、綺麗なお姉さんもいっぱいだ!
オレは喜んで中へと飛び込む。
オレを見て慌てる冒険者たち。そしてオレの可愛さに当てられて上がる黄色い歓声。
そして掴まれるオレの首筋。
うおっ!体が浮く!誰だオレを持ち上げるのは!そんな乱暴に扱っちゃダメだ!
オレは暴れるが全く逃れる事が出来ない。オレを掴む手の持ち主が顔を向けてくる。
「おい!いつからココはペット連れOKになったんだ?」
荒っぽい男の声。スキンヘッドの強面がオレを見たあと周囲を見回す。
飼い主を探しているのか。
「私の使い魔ですわ」
凛とした声が響く。
お、ハピア来たか。そうだ!もっと言ってやれ!乱暴な持ち方するな!ってな。
てゆーか使い魔って何だ?
「ほう?使い魔って事は嬢ちゃん魔女か何かなのか?」
あぁ、魔女が連れてる黒猫とかそーゆー感じか。……おい!オレはそんな不吉っぽい物じゃないぞ!くそ!吠えて脅かしてやる!!
「きゃんきゃん!(ガルルル!)」
おいおい、オッさん目を丸くしてチキっちまってるよ。やりすぎたか?
まあ?オレも二回の進化を遂げて逞しくなっちゃったからなー、つらいわー、コレが強者の孤独ってやつかー、つれーわー。
「おいおい、ずいぶんと頼りになる使い魔じゃねーか。魔法使いのお嬢ちゃん」
スキンヘッドの声を聞いて酒場全体が沸き上がる。
ふふん、そうだろう?オレの頼もしさが伝わった様で他の皆も笑顔を浮かべ爆笑している。
……違うな。コレは明らかにバカにしている。
オレは良いがコイツらハピアの事を知らないのか?
いや、町娘ファッション継続中な上に貴族令嬢とは無縁な場所にいるから気付かないのか。その上ハピアの外見は普通に子供だしな。お嬢ちゃん呼びも納得してしまう。
「いえ、私は魔女ではありませんわ。これからテイマーに就職するところですので」
なんだ、ハピアはテイマーになりたかったのか?ハピアなら魔剣士とか聖騎士とかもっと色々カッコ良いのがあるだろうに。
「お嬢ちゃん職に就いてないのにいきなりテイマーになんてなるつもりか?こんな弱そうなペットを使い魔にして?笑っちまうな!」
ハゲが声を上げて笑うと再び周囲が沸き上がる。
「貴方、先ほどから私のパートナーに文句がお有りで?」
そう言ってツカツカとハゲに歩み寄るハピアはとても様になっていた、あんな強面大男に屈しないご主人様!素敵です!
「当たり前だ!ココは飯屋も兼ねてるんだぞ!こんな犬っころ連れて、毛が散って飯に入っちまったらどうすーー」
突如響き渡る叩きつけられる様な音。
そして室内が静寂に包まれる。
言い終わる前にオッさんは地面にキスしてた。
早かった。
ハピアがオッさんを転がしたのだ。
多分、柔道か合気道的な何かの武術で倒したんだろうが小型犬には全くわからなかった。
そしてオッさん割と正論だった。マナー違反は確実にコチラだった。