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亡くなった彼女

 火炎が舞い、大地が揺れる。


 水が揺蕩い、風が翔ける。


 地獄の様に荒々しくも天国の様に幻想的な光景だった。


 やがてそれは静寂する。


 立っている者はただ一人。


 オレはゆっくりとハピアの元へと近付いていく。


 終わったぞ、ハピア。


「思ったより掛かりましたわね」


 そんな事言うならお前も戦えば良かったじゃん!なんでいきなりオレ一人に任せて座り込んじゃうの!?


 そうだ、黒づくめ共が突攻を仕掛けた時。


 その余りのショボさにやる気を無くしたハピアは座ってしまった。


 走るのが遅いのは、まあ良いだろう。彼らは肉体派じゃ無いんだ。

 だがその後に続いた合体魔法とやらも微妙だった。


 発動は通常の魔法と同じく早かった。きっとかなりの練習を積んだんだろう。

 オレの渾身の体当たりを食らって倒れ込んだ奴らが語っている。


「そんな……!?あれほど練習し、息を合わせる為に同じ家に住み同じ釜の飯を食らい、同じ服を着て行動を共にしたと言うのに……!」


 バカなんじゃないか。バカと天才は紙一重と言うが、バカなんだろう。

 それで集団でウロついてたのか……。謎が一つ解けてしまった。


 だがそこまで努力して完成させた合体魔法は、微妙だった……。


 何故ならあいつら撃つ直前に火とか水とか掛け声で息合わせてんだもん。

 撃つタイミングも使ってくる物もバレてたら攻略してください、って言ってる様なものだ。

 しかも彼ら自体の魔法の適性が低いのかオレが使えるレベルのちょい下程度の効果しか無かった。

 まあ、そこそこ連打出来てたから人間にしては強いのかも知れないが……。


 結果として任せられたオレは彼らの魔法に魔法で対抗し、突進には突進で対抗して勝利を収めた。

 ハピア一人で良いと思ったが、それどころかオレだけで充分だった。


「君たち!何をしているんだ!」


 む?オレが勝利の余韻に浸っていると男の叫びが聞こえる。

 声の方を見ると屋敷の方から男が走って来ている。


 あれは……、トムさん?お姉さんが探していた人の特徴に当てはまっている。


「「「先生!?申し訳ございません!!敗北してしまいました……!!」」」


 トムさんの姿を見て黒づくめ達が声を揃えて平伏している。土下座か?

 ていうか先生って言ったか今?トムさんじゃないのか?


「トムさん!!」


 あれ?オレの背後、反対側から今度はお姉さんの声が聞こえ、振り返る。

 てゆー事はやっぱりアレがトムさんか。けどどーしてお姉さんがココに?


「あれだけ魔法を撃ち合って大騒ぎしたんですもの。街の人々だって気になりますわ」


 ハピアが立ち上がる。

 たしかにお姉さんの方を見ると後ろから人々が押し寄せて来ている。


 だが思わぬところでお姉さんにオレの勇姿を見せてしまった。これはお姉さんも惚れてしまうじゃないか。


 お姉さんがオレに向き駆け寄ってくる。


 オレもお姉さんに向かって駆け出す。


 オレたちは結ばれてしまった。ハピア、結婚式には招待してやるから式場の手配よろしくな。


 そしてお姉さんがオレの横を通り過ぎる。


 ……あれ?


 不思議に思い振り返る。


 そこにはトムさんと抱き合うお姉さんの姿。


 何やら心配だったとか、すまないとか愛の言葉を囁き合っている。


 え……?


 ハピアが声を吹き出して笑っている。


 何だコレは?どういう事だ?


「すまなかった。君に渡すプレゼントの為にお金が必要でね。彼ら魔術師たちの講師として賃金を貰っていたんだよ」


 え、何?どーゆー事?バイト?バイトしてたの?

 お姉さんにプレゼント渡す為にバイトって……。え、そーゆー関係?いつから!?


 喜び涙を流すお姉さんはオレへと向き直る。


「ありがとうアリスちゃん。貴方のおかげでトムの本当の気持ちが聞けたわ」


 お姉さんが涙ながらにオレに感謝の言葉を告げる。

 え、オレのおかげって……。ココに来てトムさんが告白してくれた的な?


「君があの光景を見せて僕に勇気をくれたのか。アリスくん、だったかな?ありがとう」


 あの光景って……。あぁ。

 太陽みたいな火の玉が出たり虹の柱が立ったりオレが魔法でドッカンドッカンしてるのは確かに幻想的で美しいとも言えるかもしれない。


 何だ?イルミネーション告白的な気分でも味わっているのか?別にそんな事微塵も考えておらず普通に必死だっただけなんだが。


 そんなことを考えるオレを気にせず二人はオレが幸運を運ぶ犬とか何とか呼んでいる。


 街の人々も新しいカップルの誕生を祝って口々にオレを褒めてくれている。


 街の皆がトムさんの事を話さなかったのは、彼がお姉さんの為にサプライズでプレゼントを用意している事を知っていたからだそうだ。


 そんな……、オレたちだけが知らなかったのか……。とんだピエロだ。


 だがショックを受けるオレの心情を知ってか知らずか領民たちがオレを胴上げし始めた。


 ちょ!危ない!危ないから!!

 小型犬そんなに投げたら危ないってば!怖い!絶対落とさないで!!


 お姉さんが幸せなら、こんな結末もアリか……。


『アリス、貴方……。体が光ってますわよ?』


 へ? え、進化? 今!? なんで!? 頑張って敵倒したらレベル上がっちゃった? それともオレが満足感味わって精神的に成長したから!?


 手を目の前にかざして見ると確かに光っている。


 人々が胴上げをやめてオレを地面へと降ろす。


 途端、オレの思考は加速する。


 元の見た目。元の見た目。元の見た目。元の見た目。


 可愛い姿。可愛い姿。可愛い姿。可愛い姿。


 呪文の様に念じる。


 もうこんな真っ黒介はおさらばじゃあ!


 闇とかじゃなくて清らかな心で人々を癒やすオレの姿を想像する。


 不吉な称号も叩き返してやる!


 オレは幸運を運ぶワンちゃんだ。


 そう自分に言い聞かせる。


 やがて光が収まり、人々が驚きの声をあげている。


 どうだ?成功か?頼む……!ケルベロス的なのは勘弁してくれ……!光は黒くなかった筈だ。大丈夫。自分を信じろ。


 オレは祈る。


 ハピアどうだ?ちょっと見てくれ!


『可愛らしいですわ!以前貴方が話してた姿に思えますわ!』


 マジか?本当なのか?


 オレがそう思うとハピアが鏡を向けてくれる。覗き込むオレ。


 顔の白い模様。茶色い眉毛。体にも白い模様が戻ってきている。

 瞳の宝石の色が片方変わってしまって赤色だが、怪我をしていたんだ。

 仕方あるまい。それにコレはコレで綺麗だ。


 …………。…………。…………。


 うおおおおおお!!戻れたああぁぁ!!


 ハピアが笑顔でオレを持ち上げ抱き締める。オレは感動で泣いてしまいそうだ。

 お姉さんに告白せず振られたのはショックだったけど……。おかげで可愛い姿に進化出来たよ!!ありがとおぉぉ!!


 周囲の人々も皆、より可愛くなったオレの姿を褒めてくれている。


『ほっほ、アリス。若いのう』


 ん、今なんか変な声聞こえたな。ハピアの声じゃないし、街の人かな?


『ふぁあぁぁ〜。よく寝たのう』


 あれ?この声……。お婆ちゃん!?


 オレは声のする方を振り向く。


『ようやく出て来れたわい。アリス、元気だったかい?』


 目の前に半透明の老婆が立っておりオレの頭を撫でている。その緑の瞳には優しげな色が見える。その姿は生前のキャロのお婆ちゃんその物だ。


 しばし思考が停止する。


 でえええええええええええ!?!?


 オレは予想外すぎる事態に絶叫した。

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