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愛する彼女

 オレには愛する者がいる。


 恋心なんだろうか。彼女に会う為に行きていると言っても過言ではない。


 オレは今日も彼女の為、歩みを進める。




 朝ご飯を食べ終えたオレは、ハピアと共に腹ごなしがてら領内にある商店街に来ている。


 ハピアはオレの言った毎日の散歩を律儀に続けてくれている。

 彼女は貴族の御令嬢である忙しい身だというのにオレのために時間を割く。その事をとても嬉しく思う。


 もっとも七人の剣の師匠、七剣人との修行の毎日が耐え切れないオレの心身ケア、という名目もあるのだろうが。


 オレが歩いている商店街。

 ココには武器屋さんや魔法道具屋なんかもあり如何にもファンタジー世界って感じだ。

 だがオレが用があるのはそんな武器屋だなんだと厳つい場所ではない。


 もうすぐだ。もうすぐ着く。


 オレは待ち切れずにハピアを置いて駆け出す。


 走るオレの首元に光るのはハピアが首輪代わりにと買ってくれたカード型のアクセサリー。

 オレはそれを買った小物店へと走る。オレを待つ彼女の為に。


「あらアリスちゃん、今日も来てくれたのね。お姉さん嬉しいわ〜」


 オレはお姉さんに駆け寄ると彼女がオレの体を撫で回す。

 そう、オレはお姉さんに会う為に毎日ココを散歩コースとしている。

 優しげなタレ気味のヘーゼルアイにショートカットの栗毛、そんな彼女こそが辛い修行の毎日のオレに残された唯一の癒しなのだ。


 ひとしきりオレを撫でるとお姉さんは立ち上がる。

オレは彼女の顔を見上げるが、様子がおかしい。何かどことなく元気が無いような……。あっ!溜め息ついた!


 あれ?オレ今何かしちゃった!?

 ハッ!もしや男女間の何かだろうか!うおおおお!!気になる!気になるが!

 聞けない!実は彼氏と喧嘩しちゃって……。などと言われたらオレのガラスのハートが砕け散ってしまう!!


 しかし……。気になる……。どうする?どうすればいい……。


「あら、何か元気が無いようですが。どうかなさいました?」


 ハピアァァ!!そんなにあっさりと聞くんじゃない!デリケートな問題かも知れないだろ!

 オレはハピアの膝に両手をついて立ち上がり抗議する。


『よろしいでは無いですか。アリスも気になるのでしょう?』


 む。気になる、たしかに気になるが……。

 オレが思案しているとお姉さんが口を開く。


「ハピア様、お気を使わせてしまい申し訳ないです。その、実はいつもウチへ来る男性のお客様なのですが。最近、いらっしゃらなくて……」


 な!?もしや……、その客が気になる男だったりするのか!?


「その程度なら良くあることではなくて?他にお気に入りのお店が出来たとか。可能性としてはあるでしょう」


 ハピアよ、違うぞ。まだ子供のお前にはわからないだろうが彼女は今恋の悩みを相談しているのだ。


「それだけなら良いのですが。最近、悪い噂を聞くのです」


 悪い噂だと!さてはその男は裏で女の子を取っ替え引っ替えな最低野郎とかか!

 お姉さん!そんな奴に騙されちゃいけません!


『アリス。話は最後までお聞きなさいな』


 くっ。そうだな。冷静になろう。冷静に考えて男を排除するんだ。


「悪い噂とは、どの様な?良ければお話いただけますかしら」


「はい。その、実は最近その方、トムさんと言うんですが。彼が怪しい黒づくめの服を着た集団と行動を共にしていると……。そういう噂を耳にしたのです」


 え……。なんか急に変な話になったな。黒づくめの集団って……。トムさんは何か怪しい宗教にでもハマってしまったんだろうか。

 たしかに知り合いがそんな事にでもなったら気にもなるだろう。


「黒づくめの集団、聞いたことがありますわね」


 え!あんの!?まじか!黒づくめなのにそんな有名になっちゃってるんだ!!

 いや確かに黒づくめの奴らなんて怪しさマックスで目立つわ!


『お父様が話してましたの。最近街でそう言った人達が現れてから領民が怖がって困っていると』


 しかも街中にいるんだ!?

 それにしても……、お姉さんだけじゃなくて皆困ってるのか。人騒がせだな黒づくめ。

 しかし、どうしたものか。何とかしてあげたいがオレではハピア以外の人と話せないし……。


「話はわかりましたわ。この件は私にお任せを。必ずや黒づくめの正体を暴いて差し上げますわ!領民を守るのも貴族の務めですもの!」


 え!まじか!ホントに良いのか?ハピアがやる様な事じゃ無いだろうに。


『貴方は彼女を助けたいのでしょう?』


 そうだ、オレは彼女の力になってやりたい。けど、ハピアは良いのか?忙しい身なのにオレの手伝いだなんて。


『言ったではありませんの。領民を守るのは伯爵子女である私の役目ですわ!それに……、貴方の力になりたいですし……』


 なんてカッコいいんだハピア!!

 よっしゃあぁぁ!!オレもやってやるぜ!

 お姉さんを助けたら感激したお姉さんがオレにチュウしてくれるかも知れない!

 うおおおお!!メッチャやる気出てきたあぁーー!!


『……それと、この件とは別に。帰ったら修行はサボらずにキッチリ行なっていただきますから』


 ウソォ!? なんでなんで!? 良いじゃん! コレも仕事じゃん! 仕事なんだから今日一日くらい修行しなくても良いじゃん!!



 オレの懇願がハピアに受け入れられる事は無かった。

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