幸運を祈る
イリシウス剣術!
それはイリシウス家に代々受け継がれる最強の流派。その剣は七色の虹の如く変幻自在。
赤の秘剣!灼熱のカーディナルーー、……やめよう。
少し前に中二病を発症し、克服して悶えたばかりだ。自ら傷を広げる真似は避けた方が良いだろう。
オレは今イリシウス伯爵家のお屋敷、ハピアの家にいる。
ダンジョンを抜けた俺たちは休んだ。
そして朝になると、屋敷を目指して森を抜け馬に乗り、山を越え谷を越え、馬を乗り継ぎ山を越え谷を越え……。
ハピアのお屋敷は遠かった。まさか途中から自分で走るとは思わなかった。
戦いの時もそうだが彼女の体力はどうなっている。途中から疲れたオレは彼女に抱き抱えてもらったと言うのに……。
それにしても、オレを助ける時もこんな長い道のりを駆けてオレの元へ来てくれたのか……。
彼女には感謝してもしきれないな。
その彼女が言った言葉。ダンジョンを抜ける途中、スマホでオレを鑑定した結果。
魔物、デスペレイションビースト。
称号、不吉の象徴。
オレに不名誉な称号が張り付いてる事が判明した。
称号とは呼び名、二つ名。いずれにせよ他者から授けられる物。
この世界の生き物は呼び名が付き定着すると、称号となって現れる。
それはただの名称ではなく称号に因んだ効果をもたらしてしまう。
つまり……、村人たちが不吉だ何だ言うからオレがマジな不吉野郎になってしまったということか。
何だそれは!納得いかねええぇぇ!!
全部村人たちのせいか、そのせいでオレがあんな目やこんな目にあってこんな真っ黒な姿にいぃぃ!!
怒りに燃えるオレの思考に突如、怒号が襲いかかる。
「「「グッドラック!!!!」」」
うお!!ビックリした……。
オッさん共!さっきまでダラダラと長い話しておいていきなり大声を出すんじゃない!
『貴方が話を聞かずに自分の世界に入るのがいけないんですのよ?』
話を聞かないだと? 当然だ! 何が七つの秘剣を修めし七人のマスターだ! バカバカしい上に痛々しい!!
そんな奴らがオレを囲んで次々に長ったらしい話を始めやがって!
オレが魔物じゃなかったら貧血で倒れるところだ。いたろ?倒れる人。もしくは先生の話聞かないで妄想の世界にダイブしてるやつ。皆そうだった筈だ!
『何を言っているのでしょう……。とにかく、キャロの件を調査している間に、貴方はマスターの元で強くなっといてくださいね』
ん?今何て言った?強くなれ、マスターの元で?
待て待て待て。たしかにオレは強くならなければいけない。キャロを助けたいからな。
だがこんなスパルタマッチョなオーラのオッさん達に一体どんな特訓をさせられると言うのだ。
だいたいオッさんたちは剣の達人なんだろ?オレは犬だぞ!剣なんて使えないじゃないか!
だいたいオレは一刻も早くキャロを魔族の手から救わなきゃならないんだ!!
のんびりと修行なんてやってられるか!
『ですから最短コースで修行してもらいますわ。通常よりも厳しいですが貴方ならきっと大丈夫ですわ』
え、ちょっと待って。
「それでは魔物よ」
「これより修行を開始する」
「覚悟は良いか」
「この修行は辛く厳しい」
「だが我々は決してお前を見捨てない」
「必ずやり遂げさせよう」
「それでは行くぞ」
待て待て待て待て!!何にも覚悟してない!やりたくない!辛いのはやめてくれ!むしろお前たちが手を貸してくれれば良いだろう!
「「「グッドラック!!!!」」」
七つの声が揃いオレの祈りは虚しく掻き消された。