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森の魔物

 ふと目を覚ます。


 森にいる。近くには洞穴があり、泉がある。


 バロウ達と暮らした世界。


 オレはそこに帰ってきた。だが仲間たちの姿は無い。

 そこにあるのは焼けて焦げ付いた木々。そして獣を象った木偶人形たちがオレの側に控えるだけだ。


 だがそれ以外に気配を感じる。


 気配のする方に目をやる。


 そこには人影が一つ。


 何者だ。


 オレは獣たちを使役し、警戒する。


 影が近付く。


「そんなに脅えなくて大丈夫ですよ〜、可愛い魔物さん」


 影が笑う。男の声。


 何しに来たのだろうか。不用意に魔物に近付くなどロクな奴じゃ無いだろう。


「いえいえ〜、魔物が進化する気配を感じたものでして。残された魔力の気配を辿ってきたのですよ〜」


 男は両手を広げオレに礼をする。

 間延びした喋り方も相まってあのシスターを思い出しイライラする。

 敵なのか。ならば殺してやろう。


「おやおや、そう殺気立たないでください。私は貴方の味方です。わかっています、貴方のお気持ちは良〜くわかりますよぉ〜」


 男は更にオレへと近付きその表情を見せる。目元を道化の仮面で覆ったハーフマスクの男。

 そしてコイツの放つ気配は、……魔物か?


「その通りでございます!私は貴方と存在を近しくする者。少し訂正して頂くとしたら私めは魔族と呼ばれております〜。以後、お見知り置きを」


 魔族…。人と同じく知性を有し、文明を築く者たち。魔物と同じく人間から敵視されている存在と聞いたことがある。


「概ね、そのお考えであっておりますね〜」


 魔族だからだろうか、オレの考えてる事が読めるみたいだ。それともコイツ特有の能力なのか。


「会いに来たのは貴方にお話をしたいと思ったからです。貴方、人間が憎いのでしょう?復讐をしたくはありませんか?」


 たしかに、オレはこの世界の人間を憎んでいる。

 だがハピアが以前言っていた。人間と魔物、魔族は互いに不干渉なのが基本だと。

 そういった誓約があるらしい。時折その誓約を破った逸れ魔族、傲慢な人間、知性無き魔物がいるらしいが基本的には関わらない物だと。

 それを破れば敵からも同胞からも狙われ、死ぬ事になると。


「えぇ、えぇ。その通りでございます。ですが、それは力無き弱い者の話です。強き者ならこの世の秩序を破り、世界を崩壊させる事が出来ると思っております」


 その話がオレと何の関係がある。たしかにオレは以前と比べ進化した事で圧倒的な力を手にした。

 だがそれはあくまでも以前より、というだけだ。


 オレが秩序を破り周囲から狙われる様になれば無事では済まないだろう。

 オレが殺した冒険者たちは弱かった。連携も取れておらず動きはバラバラ、その攻撃力も弱く動きも遅い。

 そうで無ければオレは死んでいただろう。


「ですから〜!私が手助けをして差し上げようかとコチラに出向いたわけなんですよぉ〜!」


 道化仮面がクルクルと回る。

 馬鹿にしているのかコイツは?いちいち腹立たしい男だ。


「まあ、そう怒らずに。良いですか?こちらから歩いて少ししたところに強くなる為の場所があります。皆はダンジョン、と呼んでいます」


 その話なら知っている。

 ダンジョン、魔物が蔓延る迷宮だ。

 バロウたちに聞いた事がある。そこはとても危険で入ってはいけないと念を押されていた。

 前世でやったゲームとは違って中に宝箱も無いし入る者など殆どいないと言っていたな。


「入ってはいけない?何故?たしかに力無き者が入れば危険ですが貴方なら!貴方であればそこの魔物など殺し放題でしょうに」


 オレが危険を冒して魔物を殺して回って何のメリットがあると言うんだ。

 仮に魔物を倒し、強くなれたとしても全世界を敵に回す様なマネはゴメンだ。

 オレはもう何もしたくないし誰と関わるつもりも無い。

 わかったら消えてもらおう。


「メリットですか〜。時に……、こんな話を知っておいででしょうか?ある魔族がいました。その魔族は人の身に姿を変え、人の生活に紛れこんでいると」


 あぁ、そういう奴もいるだろうな。

 だがそれがどうした?


「まぁまぁ〜、焦らずに。どうやらその魔族は修道女として人の中に溶け込んでいるのです。そして孤児を守る優しい母として暮らしていると」


 その言葉を聞き、戦慄で胸が跳ね上がる。


「彼女は優しい母を気取っていますがね。喰らっているんですよ。人の魔力を、感情を。……おや。心当たりがある様ですね〜?」


 続けろ、喰らわれた人間はどうなる。

 それを聞くオレの身体から汗が流れ体温が下がるのを感じる。


「かしこまりました〜。喰らわれた人々ですね?彼女を崇拝する様になり、それ以外の者に対しての感情を失っていくんですよ。どうです?許せないでしょう〜。彼女は魔族の中でも特に嫌われていましたからね〜」


 何故誰もそいつを殺さない。不干渉を破った罪人じゃないか。

 オレの心臓が早鐘を打つ。


「そうしたいところなんですがね〜。彼女の力は強大でして、我々も手を焼いているんですよぉ〜」


 魔族ピエロが笑う。オレは激昂する。

 何がおかしい。手を焼くだと?お前が倒さないせいでーー。


「そこで貴方のお力が必要なのです!貴方ならきっと彼女を倒すほどに強くなれる!貴方が本当に憎いのは人間ではない。彼女なのでしょう?」


 なるほど……。どこまでもお見通しというわけか。

 良いだろう。話に乗ってやる。ダンジョンだったか?そこで強くなれば良いんだろう?


「えぇ、えぇ!正確にはダンジョンの奥にある魔族の世界への扉を目指して頂きます。そして魔界にて貴方の力を引き出して貰いましょう〜」


 奥にある扉?力を引き出す?何のことだ。


「おっと、詳しい話は貴方がダンジョンを抜けてからにしましょう。私も暇ではありませんので〜。ではでは失礼致します」


 そう言って男の姿が跡形も無く闇に消える。


 おい!詳しい話って何だ!


「そうそう、申し遅れました!私マッドハートと申します!どうぞ末永くよろしくお願いします〜!」


 何処からともなく声が聞こえ、それきり返事は無かった。

 くそ、一方的に話して勝手に消えやがった。

詳しい話はダンジョンを抜けてから?オレが中で死んじまうって言いたいのか?


 舐めやがって。


 マッドハートって言ったか。ふざけた奴だ。


 だが奴のおかげでオレは絶望の中で餓死せずに済んだ。


 今のオレにあるのは怒りだ。


 修道女の魔族に対する怒り。


 必ずや奴を始末する。


 そしてキャロを取り戻す。


 その為ならどんな努力も厭わない。


 オレは木偶を引き連れダンジョンへと駆け出した。

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