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光に包まれて

 ハピアの言うことは正しい。

 いつだってオレを想って言ってくれる。オレは彼女を信頼している。しかしオレの心は弱く、彼女の期待を裏切り続ける。




 その日は野営をした。

 焼け跡の残る村だった場所から少し離れた水場。近くには木がいくつか生えている。


 彼らは焚き火を囲み、新しく仲間になったオレを歓迎してくれた。

 彼らはオレに語りかけ、オレが返事をする。言葉は通じないが、それはとても楽しかった。


 オレは彼らに魔法を披露した。

 恐らく魔法使いのものと比べたら拙い魔法だが、彼らは驚き喜んでくれた。

 治癒魔法も使える事がわかると更に驚いた。

 どうやら治癒魔法を使える者は少なく。彼らの仲間には神官や僧侶のような仲間がいなかったらしい。


 その事実にはオレも喜んだ。


 オレは彼らの役に立てる。きっと彼らとはこの先良い関係を築ける。

 そう思うと嬉しさで胸が一杯になった。


 ひとしきり盛り上がり、ご飯を食べた。

 彼らのご飯はあまり贅沢な物では無かったが、とても美味しかった。

 そして、彼らの笑い声が聞こえる中。疲れ切ったオレは眠りに就いた。




 物音が聞こえる。話し声。彼らだろうか。


 声が遠い。

 意識が目覚めてしまったオレは再び眠りに就こうとした。

 しかし会話の様子がおかしい。楽しげな様子ではない。何か口論をしている様に感じる。

 やがてそれは止み、静かに近付いてくる足音が聞こえる。


 オレが抱き抱えられる。何事かと目を開く。


 目前に迫る銀色の何か。熱を感じる。


 熱い。顔が熱い。


 遅れて来る痛み。それを感じるとオレは暴れた。


 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。

 何だ、何が起きている。顔が熱い。傷付けられた?顔?いや、コレは目か?


 オレは暴れ苦しみ、使い慣れた治癒魔法を施す。だがどんなに足掻こうとも、オレを縛る腕が緩まる事は無い。


 オレは目を開き状況を確認する。

 何かがおかしい。視界が狭い。痛みで目がぼやけているのだろうか?


 いや、これは……。視野が狭くなっている?何だコレは、血で目が塞がっているのだろうか?


 治癒魔法はオレの傷を塞ぐには至らず、今も血が流れているのを感じる。 そのせいなのか?


 やがて痛みは麻痺し始め、眠っていたオレの思考が徐々に鮮明になっていく。

 襲われている。何者かに攻撃を受けている。


 彼らは、オレを迎えてくれた彼らは無事なんだろうか。

 オレは焦り、拘束している腕から逃れようと更にもがくが抜け出すことは敵わない。


 徐々に視界が鮮明になっていく。灯りは少ないが夜目の利くオレになら見える。


 目の前にいるのは盗賊の男。

 魔法使いがオレを見つめ、後ろの方ではシーフの彼女が手で顔を覆っている。


 良かった。三人は無事か。


 だが戦士がいない。


 彼はどうした?無事なのか。


 そこまで考えて気付く。


 オレを襲った奴はどこにいる。もう倒してくれたのか?


 だがオレの拘束が無くなってはいない。


 まさかオレを人質にされて動けないのか?


 くそ!オレの事は良いから戦士を!おっさんを助けてやってくれ!

 仲間になったばかりのオレなんかの事は放っておいてくれ!


 盗賊の男は笑う。


「起きちまいやしたか。恨まないでくださいよ。あっしら明日の飯も決まってない身なんでさぁ」


 そうだ。それで良い。オレは恨まないから、オレごとで良い。後ろの奴を攻撃してくれ。


「ねぇ。早くやっておくれよ。その犬の宝石を抉り取るなんて見てられないからさぁ」


 その言葉を聞き戦慄する。


 何だ?何を言っている。


 こいつは今何て言った?


 犬の宝石を抉り取る?


 犬とは?


 オレの事か?


 宝石は瞳の事だろう。


 だが彼女は抉り取ると言った。


 それはつまり……?


 恨まないでください?アレは、誰に言ったんだ?


 やがて恐怖がオレの身体を支配し始める。


 そしてオレの思考は最も考えたくない事実に辿り着く。



 犬の宝石の目を抉り取って金にするけど恨むなよ。



 オレは恐怖し暴れもがく。


 オレの心を埋め尽くすもの。


 失望。怒り。恐怖。絶望。


 オレは一際暴れ、声の限り吠える。


 瞬間、男たちが悲鳴を上げる。

 途端に腕の拘束が緩みオレは地面へと叩きつけられる。鈍痛。

 未だに顔の出血は止まらない。


 狼狽える彼らの声が聞こえる。

 見ると盗賊の男は手首を抑え、その手から血に濡れた宝石を落とす。

 その手の平は血によって黒く染まっている。


 いや、違う。アレは……火傷なのか?


 オレを拘束していた者も呻き声をあげている。オレはそちらへと目を移す。オレを拘束していたのは戦士だった。彼も同じ様に腕を押さえている。

 いや、盗賊の男は手首を押さえていたが奴は腕全体を押さえている。


 その理由はすぐにわかった。男の腕が氷に包まれている。

 何故かはわからない。

 狼狽えるオレの心にもう一つの思考が生まれる。この隙に逃げろと。

 だがオレがそう思うより早く身体が地面に縛り付けられる。


 コレは……。魔法使いか。


 再び拘束されたオレはもがく。


「何やってんだいアンタら。ほら、私が抑えとくからもう片方の目もやっておくれ。両目の魔眼とぶら下げてる宝石で結構な金になるんだろう?」


 その言葉を聞きオレの心に更なる怒りが込み上げる。


 何故だ。


 何故オレばかりがこんな目に合う。


 どうして。


 どうして人間はこんなにも残酷なのか。


 オレは憤怒する。殺してやる。こいつらは全員ココで殺してやる。

 例え何があり、どんなに力の差があらうと。オレが死のうともこいつらを殺す。


 オレの心が黒く染まり闇と化す。


 その闇はオレの身体を包み込む。


 黒い輝きがオレを覆い尽くす。


 オレは咆哮する。


 殺す。その決意と共に。


 オレは彼らを憎む。オレは人間を憎む。この世界を憎む。


 オレを包む光が一際強く輝いた。

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