抗えない幸福
男がオレの首を掴む。
その力は荒々しくオレを幸せから引き剥がす。
「何やってんだ、おめーら。こんなとこにいる動物なんてどんな危険があるかもわからねーってのに」
男は不機嫌そうに言ってオレを抱き抱える。
その表情と声は不機嫌そうだが、オレを抱く姿勢を取ると優しく頭を撫でる。
あ、この人抱くの上手い。全然身体が痛くない。
ぶら下がる形にならない様、ちゃんと足下に腕を置いてくれている。
「そんな事言って、兄貴だって触りたかったんじゃないすか」
盗賊男が呆れた様に言うと女性陣が次々と不満を口にする。
やめて!オレの為に争わないで!!
……一体これは何だ?オレは、魔物は人間から疎まれる存在では無いのか?それともコイツらはオレが魔物だとわからない程度の冒険者なんだろうか……。
「兄貴も姉さんたちも見てくださいよ。コイツの目、普通じゃありえない宝石みたいな瞳。こりゃ魔物ですよ」
あ、気付いてたんですね。その上でこの対応か……?やはり納得が行かずオレは思案する。
「あ!ホントだ!私全然気が付かなかった!」
気付いてなかったのかよ!!
だがこの流れはまずい。魔物だと気付かれてしまった今では先ほどの様に可愛い可愛いとは言わず即座に殺処分されてしまう。
オレが恐怖に震えていると魔法使いのお姉さまが口を挟む。
「魔物ねぇ。けどこの子もの凄く弱いし平気じゃない?普通の犬と変わんないって」
ぐぁあああぁぁ!!
傷ついた! 今の言葉はとっても傷ついた!! オレは犬じゃない! 賢くて可愛いワンちゃんだ!! 魔法も使えるんだぞ! 筋力だってそこらの小型犬よりあって何日ぶっ通しでも走れるんだぞ!
オレはワンワンと吠えるが誰も気に止めない。
「しかしどうする?せっかくこんな辺境の地まで来たってのに成果がただの犬一匹じゃカッコが付かねえぞ」
うがああぁぁ!! ただの犬じゃねーって言ってるだろうがあぁぁ!! 伝わらないとわかりつつもオレは吠えるのを止めない。 しかも辺境の地とは何だ! ココはオレの第二の故郷なんだぞ!!
「ただのワンちゃんじゃないよー。見て見てこの子!首にペンダントぶら下げてる!きっと誰かの飼い犬なんだよ!」
オレはその言葉を聞いて絶句する。
飼い犬……。 ペンダント。 それをくれた彼女はオレを捨てたんだ。 もうオレに飼い主はいない。
「この村で飼われてたのかしらねぇ。それにしても随分と綺麗な宝石」
魔法使いの女性が小さく呟く。
それは、間違っていない。
「飼われてたって事は今は飼い主がいないんだろう?村の様子を見りゃわかる。こいつの飼い主は死んじまったのさ」
そう、お婆ちゃんは死んでしまった。そして残ったオレの親友は……。
「私たちで飼おう!皆でお世話しようよ!」
その言葉を聞いて息を飲む。
オレがずっと願っていた事。
オレを魔物と知りながら共にいてくれる存在。
「すっごく可愛いワンちゃんだし、こんなの貴族様だって飼ってないよー!」
「そうは言ってもなぁ……」
皆が困ったように声をあげる。
嬉しい申し出だが、それは叶わないだろう。この人たちは平気でも他の人間がどう思うかわからない。
「まあ、特に危険は無いしねぇ」
「あっしは特に言うこと無いですぜ」
「しゃーねえ。決まりだな」
馬鹿な。本気なのか? この人たちは本当にオレが怖くないのか? 今は大人しくしているがいつか寝首を掻くかも知れないんだぞ。 決定が早すぎる。 本当に良いのか!?
『アリス、気をつけなさい。心を許してはダメです』
ハピア。オレを心配しての忠告なんだろう。
わかっている。だが……。
「わん(よろしく、頼む)」
オレは、抗えなかった。
自分に対し心を許してくれる存在と共に出来る。そんな誘惑に耐えることは出来なかった。
愛していた親友に嫌われ、どうしようもなく寂しかった。
この先、後悔する事になるかも知れない。
それでもオレは、目の前の誘惑に縋ってしまったのだ。
アリス♀主人公
種族:犬(魔獣)……ジュエルビースト
瞳に宝石を宿した魔獣の希少種。通常の物より魔力が高い。瞳の色次第で能力が変わると言われている。
ステータス
耐久……犬よりも丈夫
体力……小型犬とは思えない
筋力……犬と変わらない
敏捷……犬よりも素早い
精神……ちょっと弱い
魔力……生後3年の魔物にしては高い
知能……人並み
スキル
『魔眼ラピスラズリ』
予知夢/聖属性強化
『脚力強化』
過酷な走り込みによって手に入れた健脚。
『以心伝心』
心を通わせた者との意思疎通が可能になる。強度は信頼関係に依存する。
魔法
風(弱)、水(微)、地(微)、木(微)
追い風を起こしたり生活用水を出したり畑を耕したり木の実を成長させて食べたり出来る。便利!
聖結界……大抵の攻撃を防げるバリア。剣で殴ったら砕ける!
治癒魔法……切り傷や擦り傷だけでなく筋肉痛も和らげる事が出来る。役に立つ!
焼肉魔法……狼型魔獣をコンガリジューシーに仕上げた魔法。一度だけ使えた奇跡であり、初めて使用した魔法。上手に焼けました!




